勇者の章で友奈の御記を読み終わった後の東郷さんが覚悟完了して5~6人くらい殺してそうな目付きになるのすき。
実際園子が止めなかったら大赦の人、何人か頭ぶち抜かれてたと思う。 うちの1053なら間違いなく殺る。
「…………いや、面目無い。」
「ふふ、良いのよ。 紅葉くん」
住宅街を歩く、二つの影。
先人紅葉と東郷美森は、買い物帰りに並んで歩いていた。
もっとも、大きい荷物を持っているのは美森で、紅葉は小さい方だが。
「昔は片手で大人持ち上げるくらいはイケたんだがなぁ……頑丈さと回復力にかまけて筋トレしてなかったし仕方ないか。」
「今から始めるとか?」
「やーだめんどい。 あのクソ脳筋野武士から逃げられたのにまたやるなんてぜってえやだ。」
げっそりとした顔で否定する。 勇者としての過酷な訓練を知っている美森は、何かを察した。
「そのっちの祖先……乃木若葉さん……よね? そんなに厳しかったの?」
「鍛練の時間になると夏凜よりストイックで、歌野より制御できねえ。 『10キロ走って成果が無いなら20キロ走ればいい』とかシラフで言うからな。 片腕しか使えないやつになに期待してんだか。」
「えぇ…………。」
どこか遠い目をして紅葉は続ける。
「それに付き合わされる俺の身にもなって欲しいもんだぜ。」
「大変だったのね……お疲れ様。」
しみじみと呟き、空いた手で紅葉の肩を撫でる。 快晴の空が、二人を照らしていた。
暫く無言が続くと、美森が会話を再開した。
「……私、あんなことをしたのにどうして大赦から何も言われないのかしら。」
「さあねぇ。」
「紅葉くん、昔の立場を利用して大赦の上層部に滑り込んだんでしょう? 何か言ってたりしなかった?」
「なーーーんも。」
しれっと嘘をつく紅葉。
紅葉は園子と一緒に大赦本部に乗り込み、上層部の人間の大半をボコボコにして、『勇者にこれ以上の嘘はナシ』と
過去の大赦の事を知っている紅葉がいるせいで、最悪潰されかねないのだ。 逆らう方がマヌケなのである。
―――――紅葉自身が全てが終わってまだ世界が続いていたら、纏めて切り捨てるつもりな事を誰も知らないのは、幸か不幸か。
「お前はこの先、誰からも『お前のしたことは悪だ』と言われることはない。」
「……ええ、そうね。」
「美森はただの『悪い大人に騙された被害者』で終わる。 ただ、それだけ。 」
美森のしたことは、悪ではない。 しかし世間や大赦からすれば、世界を壊そうとしたことは大罪だろう。
だがそれは、世界の真実を隠し、満開の後遺症を隠し、終わらない戦いに強制参加させた大赦が悪いのだ。
中学三年生という多感な時期の少女にリーダーを任せ、結果強すぎた妹への想いと大赦への不満が重なって爆発した。
障害者となった『リサイクル可能』な勇者を他の勇者と引き合わせた
せめてどれか一つでも明かしていれば、何かが違ったことだろう。 せめて一人でも勇者に寄り添える大人が居れば、何かが違ったことだろう。
紅葉の大赦への憤りは、そういった
「私は……償いをしたい。」
「勇者部の活動の段階で無償ボランティアなんだから十分じゃないの。」
「そうだけど、こう……少しでも善行を積みたいの。」
「かめやでバイト……は無理か、年齢確認とかされるし。 じゃあ覆面して謎のご当地ヒーローでもやれば?」
「―――――それだわ。」
「冗談だ…………なんて?」
善意からの提案。 だが、紅葉は
◆
東郷宅に着いた二人は、荷物を片付け、美森の部屋に訪れていた。
紅葉は何故か、部屋の前で待たされている。
「入っていーかー?」
「良いわよ、どうぞ。」
「うい。」
許可が降りた以上遠慮なく紅葉は襖を開くと、そこには―――――
「…………何やってんの、美森。」
「フッ―――私は美森ではないわ。」
「はあ。」
―――軍服を着た美森が、マントを翻して軍刀を抜き放つ。
「そう、私は憂国の戦士―――国防仮面ッ!!」
「……………………おう。」
ビシッとポーズを決めた美森…………国防仮面を見て、ああこれ面倒臭いわ。 と紅葉は適当に答えた。 正解である。
「どう? 元々はそのっちが見た夢に出てきた私がモデルなのだけど。」
「逆に聞くけどなんでそれでOK出ると思ったのか、これがわからない。」
「こうやって顔を隠せばバレないわ!」
「色々危ういと思うけどなぁ~」
園子のリボンを外していない事もあり、声を作っても勇者部部員にはバレるだろう。 加えて軍服に押さえ付けられ窮屈そうな胸元と、オブラートに包み『色々危うい』と表現したことは最適解か。
「……で、東郷仮面は何する人なの。」
「国防仮面よ紅葉くん。 この格好で夕方から夜の間、困った人の前に出来るだけ現れ問題を解決するつもりよ。」
「出来るだけ。 なるほど。 …………良いんじゃないかな。」
「やっぱり! 紅葉くんならそう言ってくれると思った。」
にこにこと笑みを浮かべる国防仮面は、紅葉が死んだ魚のような目をして思考を停止させている事に気付いていない。
「…………国防活動は程々にな。」
「ええ、無茶はしないわ。」
「ほんとかよ。」
不満そうに頬を膨らませるが、前科持ちを信用してはならない。 美森もまた、誰かに自分の抱える不平不満や心配事を相談するべきだったのだから、文句は言えないのだ。
「……無茶しないで、は紅葉くんにも言えることよ? もう当人同士で解決してるでしょうけど、勇者に変身した風先輩と戦うなんて無茶の極みじゃない。」
「歌野と夏凜より、俺が適任だと判断しただけだ。 対勇者の技術まで忘れた訳じゃないし。」
そこまで言うと、紅葉の頬を美森が包む。
「それでも、よ。 紅葉くんに何かあったら皆が悲しむし、傷付けた本人の風先輩はもっと自己嫌悪に陥るの。」
「…………わかってる。」
「本当にわかってる?」
「んー、わかったってば。」
するりと拘束から抜け、国防仮面もとい美森の被っていた帽子を奪うと、美森から顔を背けて呟く。
「ひなたみたいな叱り方しやがって……逆らいづれえ。」
「? ……何か言った?」
「(何処とは言わないが似てるところもあるしなぁ)……いやなんも。」
帽子を被り振り返る紅葉。 が、一瞬の目線に気づいた美森に顔面を鷲掴みされた。
「今どこ見たの。」
「さぁねぇ。」
「…………えっち」
「ぐえぇ……!!」
車椅子生活で鍛えられた腕力による制裁を受けた紅葉は、東郷宅の玄関の前で立ち往生していた。
「土砂降りねぇ。」
「土砂降りだなぁ。」
ザアザアと分かりやすい程に大雨で、紅葉は唐突なそれに対応するための傘を持っていない。
「私の傘じゃ小さいし、両親は今日は帰ってこないから車で送れない。 困ったわね……。」
「俺バイクと車運転できるけど。」
「今の歳を考えなさい。」
「うーっす。」
私服に戻った美森に腰を小突かれる。 顔を合わせる度に頬を染めて胸元を腕で隠すのを見て、紅葉は少数民族のフェイスペイントのような形で刻まれた美森の手の形の赤い線が痛むのを感じた。
「…………めんどくせーけど三好の坊主でも呼ぶかぁ。」
「三好……確か夏凜ちゃんのお兄さん? 駄目よ、こんなことで呼ぶなんて。」
「じゃあどうしろっつーのよ、俺風邪は引かないが、濡れるの嫌だぜ。」
スマホ防水じゃないんだよねぇ、とぼやく紅葉を見て、美森はあっけらかんと答える。
「泊まっていけばいいじゃない。」
「……お前は嫌だろ。」
「いえ、別に? だって紅葉くん位なら簡単に制圧できるし……」
「説得力凄いじゃないですかやだー。 …………いや、西暦の時も似たような理由であいつらの子供任されてた気がするぞ…………?」
ちらり、と美森を見る。
花のようにふんわりとした笑みを向けられて、紅葉は目をそらした。
「…………今日は負けが続くな。」
「ふふふ、今度何かお願いするわね?」
「…………はーい。」
エピローグシリーズは東郷さんで終わり。 先人紅葉の章も終わり。 このあとは若葉様とみーちゃんの誕生日回とか短編とか番外とか書いてから勇者の章に行く予定だから暫く掛かるかも。
あと資料の為に勇者の章見返さなきゃ。