若葉様とみーちゃんの誕生日回以外の話がスランプしてるから意外とすぐ勇者の章に入るかも。
あとなつ×もみ番外書き直しました。 眠かったせいでなんか前より短くなったけど。
※花結い編に置いてあったのを編集しただけなんでもう見れます。
「おはよう、紅葉くん。」
「おう、おはようさん。 東郷。」
「―――――え゛っ?」
面と向かって、それが常識であるかのように、紅葉から苗字で呼ばれる。 東郷美森の一日は、そんな地獄のようなスタートで始まった。
その日は違和感を覚えるほどの快晴で、陽射しが暑い位だった。
いつものように友奈と共に登校し、いつものように夏凜と歌野に絡まれている紅葉と教室で合流し、いつものように挨拶を交わす。
ただそれだけだったと言うのに、美森の意識は一瞬で天地が逆さまになったかのように急降下する。 眩暈まで発生していた。
「えっ、え…………え゛っ?」
「どうした? 何時もよりおかしいぞ東郷。」
「いや―――――えっ?」
「電池切れかな?」
首を傾げる紅葉を余所に、美森の思考は完全にショートしていた。 ひらひらと友奈が眼前で手を振ると、ようやく反応する。
「どうしたの? 東郷さーん?」
「ッ……! も、紅葉くん!?」
「なんすか。」
「どうして……私を苗字で呼ぶの?」
「…………すげえ今さらだな、お前から言い出したんじゃん。 『苗字で呼んでください』って。」
ひゅっ、と喉が鳴る。 確かにそうだ。
美森はちょくちょく、紅葉の名前呼びを訂正してきた。
……が、勇者としての戦いなどで忙しくなってからは訂正することもなく、ずるずると先延ばしにしてきた。 今こうなっているのは律儀に言われたことを紅葉が守っただけ。
その結果がこれだとすれば、それはきっと美森の自業自得だろう。
「あ、ぅ……ぁ……」
息が詰まる。
眩暈がする。
吐き気までして、自分が立っているのか座っているのかも分からなくなり―――――
「おい、東郷? 東郷!?」
「東郷さん!?」
美森は、意識を手放した。
「――――うわああああああ!!!??」
ガバッと起き上がった美森は、必死に荒い呼吸を整える。
「ハア……ハア…………ぜぇ……はぁ……う、おえっ…………ゆ、夢……?」
バクバクうるさい心臓を手で押さえる。 悲鳴を聞いて親が来ないことから既に仕事で家に居ないと悟り、水瓶から水を移して飲む。
「………………ふう、酷い悪夢だったわ…………夢で良かった……本当に良かった…………。」
息を整え、寝汗を拭いてそう呟いた。 ふと、疑問が浮かぶ。
「…………良かった……? どうして……?」
ただ、苗字で呼ばれただけ。 ただそれだけで、美森は心臓が止まったかのように痛み、心が締め付けられた。
「どうして私……夢で良かったって、安心したの……?」
不思議に思うも、答えが出てこない。 ちらりと時計を見ると、登校の時間が迫っているのが分かる。
「いけない、友奈ちゃんを起こして学校に行かなきゃ……!」
美森は自分の感情に気付けないまま、何時も通りに友奈を起こす為に着替えを始めた。
そうして胸の奥にしこりを残したまま夢と同じように、美森と友奈は登校する。
「~~~~~……それでね、紅葉くんが歌野ちゃんにコブラツイストされててね~」
「へ、へぇ……?」
どういう状況なんだそれは、と言う真っ当な意見が脳裏を過る。
「そのあと夏凜ちゃんに三角絞めされたんだけど……あれ、紅葉くん! 歌野ちゃん! 夏凜ちゃん!」
「おん?」
「あら友奈。」
「……おはようさん、二人とも。」
前を歩いていた三人―――厳密には二人。 歌野と夏凜が、紅葉の両腕を組むように掴まえて引き摺って歩いていた。
「……紅葉くん、今度は何したの?」
友奈にそう聞かれて、紅葉は少しだけ顔をしかめる。
「俺が何かした前提で話すのはやめタマえ、いやまあ、夏凜の煮干しを間違えて出汁に使ったり歌野の農具勝手に研いだりはしたけど。」
「紅葉、放課後覚えときなさいよ。」
「他人の研いだ農具ってどうも違和感あるから嫌なのよね。」
「だって錆びてたんだもん気になるじゃん。」
したんじゃん……と言う友奈の声が小さく響く。
ボケッとしながら引き摺られる紅葉に着いて行く友奈と美森に、紅葉は声をかける。
「んで、そっちはなに黙ってんのさ。」
「…………え?」
「風邪か? 頭良いのに。」
「頭が良いから風邪引かないとかじゃないし、『馬鹿は風邪引かない』が適応されるのはあんただけよ。」
紅葉の天然かボケか分からない言葉にツッコミを入れる夏凜。 歌野は何かを察して、傍観に徹していた。
「あぅ…………その……」
「どうした、ゆっくりでいいぞ。」
「うん……。」
流石に何かあると理解した夏凜が、歌野に目配せして紅葉を引き摺るのをやめる。 急にやめられて紅葉は後頭部を打ち付けた。
「ぐえーーーっ」
「だっ、大丈夫!?」
「……へーき…………それで、どうしたんだ? なんか変だぞ。」
起き上がった紅葉は美森の前に立つ。 友奈が心配そうにしていたが、歌野に引っ張られて夏凜との三人で距離を取る。
「あんた空気読めるのね」
「紅葉ほどじゃないけど少しね。」
と言う後ろの会話はさておき、紅葉は美森がもじもじしているのを見ながら待っていた。
「その、紅葉くん……」
「なんだよ。」
「…………私のこと、どう思ってる?」
「やべーやつ。」
「う゛っ」
正解だがもう少し言葉を選ぶべきである。 後ろで歌野がうずくまったのは腹の調子が悪いからであって、ツボに入ってしまい笑うのを我慢しているからではない。
「まあF1カーみたいだなぁとは思うけど、それだけ色んな事に全力なら良いじゃないの? 子供は風の子って言うじゃん。」
「それ、褒めてる……?」
「褒めてる褒めてる。」
じとっとした目を向けるが、美森は、自分の胸の奥の違和感が消えていることに気付いた。
「(あれ……もやもやした感覚が無い、紅葉くんと会話したから……?)」
そこまで考えると、美森は一つの結論に至る。
「(それってもしかして、私……紅葉くんが…………!?)」
ボンッと顔を真っ赤に染め、紅葉を見る。 紅葉は、美森の百面相を面白そうに見ていた。
寝起きの高鳴りとは別の感覚で心臓がうるさく鳴る。 美森は意を決して紅葉に一歩近寄ると、耳元で囁くように言った。
「ねえ、紅葉くん―――――」
―――――『私の名前を呼んで』
東郷さん回でタイトルが英語とかいう皮肉。
まあ基本的にタイトル考えてからストーリー考えてるし、仕方ないね。