【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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勇者の章開幕。

あぁ^~地獄の釜が開かれる音^~



勇者の章
一終目 忘却


 

 

秋深まり、枯葉散るこの季節。

 

 

冬ももうじき。 そんな景色が視界の端で揺らめいていた。

『紅葉』が名前になってはいるが、俺は正直紅葉とか楓とかよりは桜の方が好きである。

 

ただし毛虫、お前だけはダメだ。

 

 

勇者部部室、その中で文字を書く音がしていた。 赤い髪を揺らして、楽しそうに紙に鉛筆を走らせる少女、結城友奈。

 

どうやら完成したようで、上機嫌で読み上げる。

 

 

「―――――……『今日も勇者部しゅっぱ~つ!!』 どうかな? 自信作だよ!」

 

感想としては……まあ……うん……。

 

 

「ガキみてえ。」

「馬鹿っぽい。」

 

俺と歌野にバッサリ切り捨てられ、友奈は樹に目を向けるが、気まずそうに目を逸らされる。

 

 

「そ、そこまで言わなくても…………うぅ……」

 

「―――おーっす……って、なにやってんの」

 

 

そう言いながら部室の扉を開けたのは、夏凜だった。 ボロクソ言われて、逃げ場を求めて友奈は入ってきた夏凜に飛び付く。

 

「うおっ、どうした?」

「夏凜ちゃ~ん! 紅葉くんと歌野ちゃんがいじめ゛て゛く゛る゛よ゛ぉ゛~~~!」

「分かった分かった、あと私で顔拭くな。」

「ズビーーーーー……」

「あ゛ーーー!!?」

 

半泣きの友奈は、夏凜の制服で鼻をかむ。 やめてやれよ。

 

一瞬滅茶苦茶嫌そうな顔をしたが、それをぐっと飲み込んで友奈の頭を撫でる夏凜は人間の鑑だと思う。

 

「ったく、あんま友奈をいじめないの。」

「おい友奈~パパにチクるのは反則だろー」

「誰がパパだ。」

「ごめんなさーい、煮干しパパー。」

「歌野まで乗るな。」

 

 

そんな感じでやいのやいの言ってると、今のところ我らが部室のデジタル担当をしている樹が届いたメールに歓声をあげた。

 

「み、皆さん! この間幼稚園でやった劇のお礼のメールがたくさん届いてますよ!」

「おー、凄いわねぇ。」

「あれは成功だったっけ……?」

「せ、成功だよ……!」

「あんなアドリブ祭りで成功とか嘘でしょ。」

 

前みたいに台をうっかり倒すとかはなかったけど、セリフ忘れて人形同士で殴り合わせてたの俺ちゃんと見たからな。

 

俺以外の4人がメールの確認でパソコンの前を陣取っていると、再度扉を開く音。 代表して確認するとそこには、金寄りの茶髪と薄い金髪が。 来年には卒業する風と、新入部員の園子だ。

 

 

「お待たせー。」

「もう始まってる~?」

「風と園子とはまた変な組み合わせだな。」

「そこで丁度出くわしてネ」

「すぐ行こうと思ったんだけど、掃除中に寝てしまったんよ~。」

 

えへへ~とか言いながら頭を掻く園子に、呆れたように夏凜がため息をつく。

 

「なんだってあんたは昔となんも変わらないのよ。」

「凄いでしょ~?」

「まあ、凄いわね。 うん。」

「おおー! にぼっしーに褒められたぜ~!」

「凄いね園ちゃん! 夏凜ちゃん滅多に褒めないんだよ!」

 

それは褒めてるとは言わないと思うけど、楽しそうなら良いんじゃない?

 

園子と友奈が騒いでいると、風が手を叩いてそれを止める。

 

 

「はいはい、全員集まったんだから、そろそろ部活始めるわよ。」

「うーい」

 

それぞれが黒板の前に集まって行くのを見て、ふと思う。

 

 

「なーんか…………」

 

 

足りない…………気がする。

 

なんとなく、何かが欠けている気がする。

 

 

「どうしたの?」

「―――あん?」

 

俺が来ないことを不審に思ったのか、歌野が俺の顔を覗いていた。 近いよ。

 

 

「五連勤終わったあとに休日出勤まで命じられたサラリーマンみたいな顔してるけど。」

「死にかけじゃねえか」

 

どんな顔だよ鏡見たくないよ。

 

 

「なんか忘れてるような気がしてさぁ、でも何を忘れてるのかを忘れてるんだよねぇ。」

「あるあるね。 まあそのうち思い出すでしょ、ほら行くわよ。」

「うーい。」

「その返事気に入ってるの?」

 

 

……わりと。

 

 

黒板に貼られている写真には、撮影した俺を除いた友奈・夏凜・歌野・風・樹・園子の6人が揃っていた。

 

全員居るな。 ……なんで『足りない』なんて思ったんだか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日曜の夕方、バットとグローブを担いだ俺は夏凜と友奈との三人でかめやに集まっていた。

 

 

「いやー試合の後のうどんは格別だねぇ……」

「全くだ。」

「あんた何もしてないでしょ」

 

失礼な、荷物持ちはしてるでしょ。

 

 

「あれ、歌野たちは?」

「歌野宅で風の勉強会with園子先生。」

「ああ。」

 

これでわかる辺り夏凜もかなりのツーカーが身に付いてきたな。 おじさんは嬉しいよ。

 

うどんの汁を飲み干した友奈は、影の差した顔付きで俺に聞いてくる。

 

 

「……ねえ紅葉くん、なんか、もやもやしない?」

「俺はいつも晩飯の内容考えてもやもやしてるけど。」

「いやそうじゃなくて……なんだろう、何かを……忘れてる、ような…………そんな感じ。」

 

その言葉に、俺の漬物をつついてた箸が止まる。

 

「お前もか。」

「……紅葉くんも、あるの?」

「なんの話してんのあんたら」

 

友奈の横でちょうどうどんを食べ終えた夏凜がごもっともな質問をしてくる。 俺と友奈は顔を見合わせ、夏凜に説明した。

 

 

 

「―――なにかを忘れてるような気がする、ねぇ。」

「ここまで露骨だと気になって仕方なくてなぁ」

「夏凜ちゃんは、どう?」

「私は別に―――――あー、でも、妙な胸騒ぎはあるわ。」

 

多分夏凜の場合は虫の知らせとか獣の第六感とかそんな感じ。 それか、勇者システムと同調した際の銀の記憶から来てるのか。

 

「無理に思い出そうとしたって無理なんだから、暫くほっとけば?」

「そうだな。 友奈も考えすぎるなよ?」

「…………うん。」

 

 

勘定を終えた帰り道、友奈と夏凜の後ろで、俺はボーッとしていた。 考えすぎるなよとは言ったが、つい考えてしまう。

 

 

俺たちが忘れているのが、『何』か『誰』かで話が違ってくるからだ。

 

部室でなんかの部品でも無くした、とかなら良いんだが。

 

 

『誰か』を忘れてる、となればそれは人知を越えてしまっている。 また大赦か面倒だなぁってなっちゃう。

 

 

―――――ふと、俺たちの横を、親に押されてる車椅子に座った少女が横切った。

 

 

「―――――。」

 

 

ノイズと言うか、テレビの砂嵐みたいな雑音が、脳裏を流れた。

 

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん!」

「なにそれ、ケーキ?」

「どこで密輸したの~?」

 

後日、部室に集まった樹が家庭科の授業で作ったらしいケーキを持ってきていた。

 

猫の顔を模しているみたいだが、所々が溶けてて夏凜が前に描いた猫みたいな感じになってる。

 

 

「……妖怪?」

「猫です!」

 

俺の呟きに反応した樹が飛び付いてきて叩いてくる。 あんま痛くないけど。

 

「悪い悪い。 んじゃ切るかぁ」

「あたしがやるわ。」

「そう? よろしく。」

 

棚の奥に厳重に保管されてる包丁を一本出して、風はケーキをカットする。 小皿に移したそれを一口食べた。

 

 

『―――むっ』

 

「ど、どうですか……?」

 

「おー、旨いじゃん。 やっとレシピ通りに作るって事を覚えたな。」

「一言余計ですよぉ!」

 

膨れっ面の樹に睨まれる。

 

他の連中も旨い旨いとケーキを食いきり、最後の一切れに手を伸ばした。

 

 

「いや、なんで八つに切ったし。」

「風さん……貴女まさか……」

「これは自分の分を確保しようとしたな、間違いない。 なんて卑劣な手口なのだ……!」

 

「違うわい!! なんか、こう……癖よ癖。」

 

違うのか。 食い意地と言うか俺より食うからそう言うことかと………………?

 

「俺たち固定メンバーなのにそんな癖なんてあるか?」

「うーん、言われてみればそうねぇ。 なんでかしら。」

 

首を傾げる風。 その隙に俺は、最後の一切れを掠め取る。

 

 

「じゃ、いただきー。」

「あーズルい!」

「もふぉふぁふぁ」

「ぶっ飛ばされたいかコラァ!!」

 

胸ぐらを掴まれてガクガク揺すられながら、ケーキを咀嚼して飲み込む。 隙を見せる方が悪いんだよなぁ。

 

「漫才やってないで落ち着いたら?」

「んぐ、今度マカロンでも作ってやるよ。」

「嫌がらせに近いのやめろ」

 

歌野と夏凜に窘められ、ようやく解放される。 まあマカロンってあれ糖分の塊だからな。 全員に二、三個ずつとかでいいだろ。

 

樹が園子に店開く提案されている横で、ボケッとしながら見ていた友奈がぽつりと呟いた。

 

 

「…………ぼた餅」

「なに?」

「ぼた餅、前に食べなかったかなーって。」

 

その言葉に夏凜が返す。

 

「前に友奈が作ったやつでしょ、紅葉は作れないじゃない。」

「俺が作らなくても部室いけば食えるしな。」

「そう、かな。」

 

 

ぼた餅、ぼた餅ねぇ。

 

…………友奈って、料理、得意でもないよな。

 

 

 

「―――――ん。」

 

不意に手を見ると、灰が付いていた。 俺はバレないように、力強くその手を握り締める。

 

 

 

 

 

……今度、気分転換に丸亀城でも見に行くか。

 

 




みーちゃんの誕生日までにあと一、二話イケるかも。
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