ものすごい今さらだけど、この作品ってゆゆゆ風に略すと『さもい』になるんですがなんか………………微妙ですね。
東郷美森が消失している事が発覚してから一日、部室に紅葉と園子以外が集まり話を纏めていた。
「写真からも、新聞からも、東郷だけが消えてるみたいね。」
「学校の在校記録にも東郷の名前が無かった……まるで質の悪いいじめみたいだわ。」
「兄貴に聞いてもそんな人は知らないってさ。」
「何度占っても場所が割り出せません…………。」
ぼーっとしている友奈の後ろに回り、歌野が背中を強く叩く。 バシンと音がして、友奈の体は一瞬浮かんだ。
「いい゛っ!?」
「シャキッとしなさい、そろそろ紅葉と園子が戻ってくるわ。」
「大赦、ねぇ。 あいつら……また何か隠し事でもしてるの……?」
「二人が戻ってくれば分かることよ。」
手持ち無沙汰の五人。 ウノでもする? と歌野がカードの入った箱を取り出すが、当然そんな気分にはなれず。
「(…………あー、面倒臭い。 前まで覚と一緒だったからかなんとなく感情の揺れが分かるけど、空気読んで馬鹿をやるのは紅葉の役目でしょうに…………。)」
そんな事を考えて、歌野は目と目の間を指で揉む。 そうしていると、ふと部室の扉の奥に人の気配を感じ取った。
「お待たせぇい。」
無遠慮に扉を開け放ったのは、先人紅葉だった。 最近はよく疲れた顔をしていて、その後ろから園子が追従して部室に入る。
紅葉の手には大きなジュラルミンケースが握られていた。
「大赦の人、なにも知らないみたい。」
「知ってそうなやつトイレに引きずり込んでちょっと話してみたが、どいつもこいつも知らないの一点張りでなぁ。」
「こっちも今の私が話せる地位の人に聞いても、震えながら知らないって。」
「……まあ、緊急事態だし何やったのかは聞かないでおくわ。」
風の言葉は、切実だった。
今は一分一秒も惜しいのだ、紅葉と園子がどう
「で、残るはこれだけと。」
『―――――!』
紅葉が無造作に机に置いたケースから、見慣れたスマホが五つ現れる。 そのケースの端に一つあった筈のスマホだけが抜かれていた。
「勇者システム―――。」
「ぷんぷん怒って『出して』って言ったら出してくれたんよ~」
「アレは『ぷんぷん』で良いのか。」
紅葉は脳裏に大赦の技術部の職員を威圧していた園子を思い浮かべる。 記憶の中の自分の横にあったガラスに亀裂が走っていたのは見なかったことにしておく。
「見て、わっしーの端末だけが無いの。 私の端末で居場所を探っても、見つからない。 多分わっしーはびっくりする所に居るんじゃないかな。」
「もしかして……壁の外!?」
友奈の言葉に、園子は頷いて返す。
その通り。 と言い、指を鳴らして自分の精霊である烏天狗を出現させる。 烏天狗は園子の頭から紅葉の頭に移動した。
「精霊……!」
「お前もか……。」
紅葉は頭に乗った烏天狗を手で払って退かそうとするも、それをかわされお返しとばかりに脳天を嘴でどつかれる。
「いてぇーーーーーっ!!?」
「セバスチャンも、もーみんが好きなんだよね~。」
「絶対違う……うごごごご……」
再度指を鳴らして、烏天狗を消す。
紅葉は頭を擦って園子を睨んだ。
「…………はぁ……難しく考えてたのがアホらしくなってきた。」
夏凜がそう言い、端末を取る。 それに習って歌野が取り、友奈が取ろうとした所で風が止めた。
「待って。」
「風先輩……?」
「あの時は選択肢なんて無かった。 でも今は違う、東郷を助けたいのは分かるけど、勢いだけで戦おうなんて思わないで。」
「そ、それに、また力の代償があるんじゃ…………。」
不安気に、樹が呟く。
その言葉に全員が押し黙った。 満開と散華、力と代償。 またあの苦しみを味わうことになるのか、と、そう言いたかった。
紅葉が樹の頭をがしがし掻くと、答える。
「大丈夫だ。 大赦はもう嘘はつかないし、バージョンアップで散華するシステムも撤廃されてる。
なにより俺と夏凜の兄ちゃんが定期的に見張りに行ってたからな、お墨付きだぜ?」
えぇ……という夏凜の声を無視して、それならと樹も端末を取った。
そして、友奈が端末を掴む。
「私、考えました。 私は私の意思で、東郷さんを助けたい。」
「…………そっか。 じゃ、あたしもやりますかねぇ。」
呆れたような、どこかほっとしたような様子で、最後に風が勇者端末を持った。
そうして全員が、アプリを起動する。
部室が光に包まれ、紅葉が目を細めた。
変身しながら園子が新しいバージョンの勇者システムの説明をし、六人は変身を終わらせる。
「…………ん、私の服、こんな色暗かったっけ」
「ああ、お前のは要望に答えた結果なんかそうなった。」
夏凜の勇者服は、以前のものと色合いが変わっていた。 鮮やかに赤い部分は深い紅に、黒い部分はより漆黒に。 肩の満開ゲージはサツキツツジと牡丹がずれて重なり、合計で二つ分ある。
「精霊バリアと防御性能を可能な限り削って、満開の持続時間と威力を底上げした。 要するに攻撃に当たるなよって事だ。」
「シンプルで分かりやすいわね、私好みよ。」
「そりゃよかった。」
満足した顔で、手首の調子を確かめる。 そんな夏凜を横目に歌野が紅葉に聞いた。
「勇者システムってそんなことが出来るの?」
「夏凜の場合は銀との二人分のデータが詰まってるからな、こいつしか出来ないと思う。 まあ戦歴が長い美森も可能かもしれないが。」
変身時の花びらが頭に付いていたらしく、それを取り除きながら答えると、勇者端末が光り精霊が飛び出す。
「んぶっ!? い、犬神!」
「木霊も…………!」
「牛鬼……久しぶり!」
「あんたも、久しぶりね。」
『諸行無常』
「変わんないわね……義輝。」
「覚は相変わらずね、帰ったら漬物食べる?」
各々が精霊と触れあっていると、犬神と牛鬼、烏天狗が標的を変えたかのように紅葉に飛び付いた。
犬神が顔面に張り付き牛鬼が頭を占領し、烏天狗が後頭部を突く。
「ぐえーーーっ!!」
やたらと強い力でへばりつく犬神を、なんとか両手で引っこ抜く。 口に毛が入り紅葉は眉を潜める。
「くっそ生意気な精霊共ぉ……!」
「懐かしい絡みも見られたところで、ほら行くわよ。」
歌野がパンパンと手を叩き、纏める。 屋上から跳んで行こうと提案して部室から出て行く全員を見て、紅葉は慌てて声をかけようとした。
「あー待て、俺もい……く……」
段々声が小さくなり、胸を押さえると片手を机に突いて体を支える。 呼吸の度に全身に激痛が走り、視界がボヤけて制服の袖から灰がこぼれた。
「が、あ…………耐えろ、我慢、しろ……!」
必死に呼吸を整えて、バレないように表情を取り繕って部室から出る。
「誰か俺の事抱える仕事やんない?」
『やんない』
「…………ちょっと酷くない……?」
渋々歌野が名乗り出て、事なきを得た。
◆
道なき道を越え、船を足場にして、七人は結界を形成している壁に着地する。
「ここから先は、ずごごごご~って感じだから気を付けてね。」
「語彙力よ。」
「ま、大丈夫よ。 何時もと同じで私と歌野が前衛、後は流れで。」
「それが手っ取り早いしねぇ。」
腰の固定するパーツに刀を挿す夏凜と首の関節を鳴らす歌野。 どこのヤクザだよ、という紅葉の言葉は幸運にも聞かれなかった。
「しっかし、邪魔ねこれ。」
「お前人の善意を……」
「無くても『視』えるっつーの。」
そう言って夏凜は、右目の眼帯の上から覆うように装着された右目代わりの補助パーツを引き千切って捨てる。
夏凜にとっては、見えなくなったことに慣れ始めたのにそれを補助されても邪魔でしかないのだ。
「それじゃ行くわよ皆」
「……あのー……」
「ん、どうしたの? 樹。」
「紅葉さん、どうやって帰るんですか?」
『あ。』
六人は一斉に紅葉を見る。
ぼーっとしていた紅葉は、思い出したように答えた。
「だいじょぶだいじょぶ、タクシー呼んであるから。」
「…………なら良いけど、なに、大赦の人でも呼んだの?」
「まあそんな感じ。」
ふぅん、と言い、歌野は踵を返して壁の外に向かった。 それを追って五人が壁の外に赴くのを見て、紅葉は最後に結界を越えようとした友奈に言う。
「友奈」
「なに?」
「―――美森を頼む。 俺じゃ止められなかった。」
「……止められなかった……?」
「美森が壁の外に行く話を大赦としたとき、その場に俺も居た。 だけどあいつの覚悟に圧されて駄目だったんだよ。」
「……そっか、わかった。 絶対に東郷さんを連れて帰るよ!」
「ああ、信じてるぞ。」
疲れたような顔で、結界を越えた友奈を見送ると、紅葉は膝を突いてうずくまる。
「…………っ、ふぅーーー。」
脂汗が滲み出し、そのまま仰向けに倒れた。
「あと、どれだけだ……? 中学卒業には……間に合わないよな…………。」
壁の根っ子のように盛り上がった部分を枕に、紅葉は手を太陽に向ける。 血潮は真っ赤に燃えちゃいないな、とぼやいた。
―――――それどころか、さらさらと手からこぼれた灰が風に煽られ、虚空に消える。
「なんか見慣れてきたな。」
そう言っている紅葉の耳に、聞き慣れた羽ばたく音が入る。 それに合わせて起き上がると、丁度横に蒼いカラスとその足が鷲掴みにしている黒猫が降り立った。
「へい、タクシー。」
「誰がタクシーだ。」
「……相変わらず、この運び方は背中に響くわね……。」
いつもの青い勇者服の若葉と、背中を擦っている深紅の勇者服の千景を見て、紅葉は心を落ち着ける。
「(古馴染みの顔見ただけで精神が落ち着くんだから、俺って現金だよなぁ。)」
「お前は私をなんだと思ってるんだ? 誰がタクシーだ、誰が監視カメラだ。」
「……流石の若葉さんもカンカンね。」
額に青筋を浮かべ、分かりやすく怒っている若葉。 うわめんどくせぇと言いたそうな顔を隠して、紅葉は咳払いを一つして切り出した。
「いやいや、信頼してるからこうしてお前を頼ってるんだぜ? もっと自信持ちな、ついでに俺も持ってって。」
「…………はぁ、嫌だが、仕方ない。 嫌だが。 嫌だがな。」
「どんだけ嫌なんだよ。」
小さくため息をついた若葉は、紅葉を抱き上げようと近付く。 が、それを千景が腕で制した。
「なんだ、千景?」
「そんなに嫌なら私が運ぶわよ。」
「……なに?」
一瞬ニヤリと、それでも若葉に見えるように微笑む。
「嫌そうに運ばれたって紅葉くんは安心できないでしょう? 私は嫌でも何でもないもの、貴女の代わりに私がやるだけよ。」
「待て千景、私が頼まれた事だ。 頼まれたからには応える、それが乃木の流儀なのは知っているだろう。」
そんなに嫌なら私が、と言う千景。
嫌だが頼まれたんだ、と言う若葉。
そんな売り言葉に買い言葉の押収を見せる二人の後ろで、紅葉は暇そうにアクビをした。
「(こいつらなんで犬猿の時とそうじゃない時で0か100なんだ。 あーもーめんどくせーなーもー。)」
痛む頭を押さえて、仕方なく紅葉は二人の軽い言い争いを眺めることにした。
嘘はつかない(本当のことを言うわけではない)
よくよく考えたら、大赦が『満開ゲージは最初から満タン、でも使いきったら後がないよ』って仕様にしたのは神樹にまた貯めさせる余裕すら無かったからなんだよね。 Blu-ray見返してたらようやく理解できた(アホ)