【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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コヨミが仮にゆゆゆい時空に来たりしたら波乱しか起きないので流石にやらないです(絶対押すなよ的なアレ)

あとタグに『上里ひなた』と『クトゥルフ神話』を追加しました。




九終目 傷痕

 

 

 

友奈、美森、夏凜の三人は大赦の運営する、勇者として度々利用している病院に駆けつけていた。

 

樹と園子からの連絡から数分、三人の服装が着の身着のまま上に学校指定のコートを羽織っているだけな事から、相当焦っていることが見て取れる。

 

 

「そのっち!」

「樹ちゃん!」

 

廊下の椅子に並んで座っている二人に、率先して美森と友奈が駆け寄り、遅れて夏凜が歩いてくる。

 

 

「わっしー、ゆーゆ……!」

「皆さん……来てくれたんですね……っ」

「当然でしょーが。」

 

両手を合わせて指を組み俯いている樹と顔を上げた園子の横に座り、二人は事情を聴く。 そして夏凜が横で壁に寄りかかり、傍観を決める。

 

樹と園子は、それぞれ声色を震わせながらも、ぽつぽつと何があったかを話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、事が……」

 

話を全て終えた時、最初に声を出せたのは、青い顔をした美森だった。

 

 

車に轢かれた紅葉と風、かめやのガス爆発で吹き飛ばされた歌野。

 

勇者として超常を逸脱した戦いを行ってきた二人に加えて、紅葉まで巻き込まれたとすれば、これはもうただの事故では済まされない。

 

 

「それにしても、殺しても死ななそうな奴等がピンポイントで事故なんて世も末なものね。」

 

「――――その筆頭が自分のこと棚に上げないでくれる?」

 

「…………あ?」

 

 

不意に、廊下に響く声。

 

聞こえた方に五人が顔を向けると、廊下の奥から体のあちこちに包帯を巻いている歌野が現れた。 その首と右の頬にだけ、大きなガーゼが貼られている。

 

 

「う、うたのん!?」

「うわ生きてる。」

「あの程度で私が死ぬか、あんなん諏訪のバーテックスの集中砲火より温いわ。」

 

病衣に身を包みながらも、何時もの顔色の歌野はあっけらかんとした態度で五人に近付く。

 

包帯とガーゼで体のあちこちを隠している以外はまるで無傷であるかのように平然と振る舞う歌野に、夏凜は肩を指でつつきながら聞いた。

 

 

「というかなんで爆発に巻き込まれておきながら怪我の重さが軽いのよおかしいでしょ。」

「あー、爆発の直前にコート着込んで、お冷やで体濡らして、テーブルを盾にしたからよ。 まあ爆発の衝撃で外まで吹っ飛ばされたんだけど。」

 

どかっと長椅子に座った園子の隣に座り、ガリガリと頭を掻く。

 

当然のように爆発の被害を最小限に留めている歌野に、夏凜は呆れたような安堵したような複雑な顔をする。

 

 

「じゃあ、顔のガーゼは?」

「…………頭から被るべきだったんだけど咄嗟過ぎて焦っててね、腕で防げば良いかと思っても熱が貫通してきて焼けた。」

 

塞がってはいるのよ、と言って歌野はガーゼを剥がす。 首と頬のそれが取れ――――中の凄惨な傷痕が見えると、夏凜が眉を潜め、残りの四人が息を呑んだ。

 

 

その傷痕は、皮膚を焦がしたような火傷として残っていた。

 

 

首の右半分辺りから右頬までを、揺らめいた炎が直接刻まれているかのように、歌野の顔に呪いみたく存在している。

 

精霊バリアを貫いてのソレは、もう塞がってしまっている。 つまり歌野の火傷痕は、もう消せない。

 

 

「なんか葬式ムードだけど、私より重症なのが一人居るのよね。」

「…………そうだ、紅葉くんと風先輩の容態は!?」

「おあ゛ー゛! 落ち着きなさい東郷、離しなさいこら! 離しなさいったら!!」

「落ち着け。」

 

 

歌野の胸ぐらを掴み上げる勢いで飛び掛かってきた美森をなんとか引き剥がし、落ち着かせる。

 

夏凜に首根っこを掴まれ、猫のように大人しくなった美森に軽く睨みを効かせてから、歌野は話した。

 

 

「勇者特権で色々聞いた限り、風さんは全身の打撲と左足の骨にヒビで済んでるみたい。 多分後で樹君は入院手続きで呼ばれると思うわ。」

「打撲とヒビ……良かった……いや、良くないんだけど……」

 

「それで、紅葉くんの方は…………!?」

「あーもー、愛しの紅葉くんが大事なのは分かったから落ち着けっつーの。 …………でも、そうね、落ち着いて聞きなさい。」

 

 

一旦間を置いてから、歌野は苦々しい表情で言った。

 

 

「―――――骨折に筋肉の断裂、神経の損傷で、生きてるのが不思議なレベルな状態らしい。 完治するのは正月を終える頃って言ってた。」

 

それを聞いた美森は、目の前が暗くなったような感覚と共に膝から崩れ落ち、なんとか掴んでいた夏凜が支える。

 

樹は恐怖と衝撃が混ざった顔で涙を浮かべ、園子はかつての友人の最期を想起して呼吸を荒げた。

 

 

友奈に至っては、顔面蒼白で震えている。 友奈だけが、こんなことになった原因を知っているから。

 

友奈が、原因だから。

 

 

 

 

「――――――。」

 

そんな瞳を揺らして口許を押さえている友奈の異常な顔色を、夏凜だけが確認していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――私が黙っていれば、それで良いんだ。

 

私が何も言わなければ、これ以上の事故は起きたりしない。

 

 

私が、我慢をすれば…………ただ、それだけで良いんだ。

 

 

 

風先輩――――――。

 

歌野ちゃん――――。

 

紅葉くん―――――。

 

 

 

―――傷付けて、ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の入院芸も様になってきたな。」

 

全身の鈍くも重い激痛と倦怠感に苛まれながらも起きた俺は、呼吸器を外して起きようとする。

 

 

「……あ、無理だ。」

 

腕に力が入らないせいで起き上がれず、枕に後頭部をぼふっと打ち付ける。

 

 

「んむむむむむ。」

 

なんとか手元のスイッチを手繰り寄せ、リクライニングを上げる。 座るようにベッドの上半分を上げた所で、病室の扉を開ける音がした。

 

 

「紅葉ー、まだ寝てるよネ…………って起きてる!?」

「風か……おっはー。」

 

扉の方を見れば、そこには車椅子を動かして器用に扉を閉める風の姿があった。 良く見ると左足だけをギプスで固めている。

 

うーん、多分打撲と……骨折、もしくはヒビか、想定より軽症で良かった。 下手したら俺みたいになってた訳だからな。

 

 

「まあ、アンタが死ぬとは思ってなかったけどさぁ……」

「…………さあねぇ、案外あっさり、死ぬときゃ死ぬもんだ。」

 

今の俺ならそうなる可能性はある。

 

話を聞いた限りでは、俺は数日寝続けていたようで――――それしては、()()()()()()()()()()()()

 

…………少し、寿命を削りすぎたか。

 

 

「んで、あいつらはどうしてんの。」

「ああ、それなんだけど……実は歌野が―――――」

 

 

 

 

 

 

―――――爆発に巻き込まれて生きてるとかなんなのあいつ。 異能生存体かなんか?

 

「しかし、そうか、なるほど。 …………そうか。」

「…………どうかした?」

「風、今あいつ何処に居る? 爆発に巻き込まれたんなら歌野もまだ入院中だろ。」

 

 

そう言った俺に、風は気まずい雰囲気で口を閉じる。 おい冗談だろまさか――――。

 

 

「歌野なら………………昨日退院したわ。」

「……うそーん…………。」

 

それズルい……ズルくない? 俺なんて最悪どこかしらに後遺症残るんですけど。

 

 

「あの野菜野郎にお前も含めて緊急で話があるからって大至急来るように言え、畑に農薬ぶちまけるって脅してでも来させろ。」

 

「……もしかして怒ってる?」

 

「いやキレてないっすよ。」

 

 

園子を守った結果、顔に火傷痕を残す大怪我を負った歌野だが、園子は満開をしていて身を守る手段が無かったのだ。 歌野の立場が俺だったとしても躊躇い無く庇っただろうさ。

 

「良くやった」と言うべきなのは分かっているし、あと別にキレてないです。

 

人が寝てる間にしれっと退院してることに理不尽にキレてる訳じゃないです。

 

 

風が膝に置いていたスマホで連絡を取っているのを横目に、窓の向こうの木の枝に停まって俺を見ている蒼いカラスと黒猫を見やる。

 

「(あいつら…………どうせ『こいつまた怪我してるよ』とか思ってるんだろ)」

 

 

動物の無機質な瞳にしては妙に理性を感じる、その目から発せられた責めるような雰囲気を浴びながら、俺は歌野が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風の連絡から数十分。

 

無遠慮に病室の扉を開け放つ音と共に、コンビニのビニール袋を手首にぶら下げた歌野が室内に入ってきた。

 

その口許には、アメリカンドッグが刺さっている。

 

 

「ほあふぁ(お待たせ)ふぇ」

「お前この短時間でなにアメリカンドッグ堪能してんだよゴルァ」

「小腹が空いてて……紅葉もいる?」

 

食べ掛けじゃない方を袋から出した歌野に、俺は断りを入れた。

 

 

「今内臓の修復中で点滴以外入れたら吐くから無理。」

「貴方ほんと、よくそれで生きてられるわね。」

「自分でも不思議だよ。」

「じゃあこれは風さんにあげるわ。」

 

「もがーーーっ!!」

 

 

ケチャップとマスタードを塗りたくったそれを風の口に突っ込み、風は辛さで悶える。

 

崩れた緊張を戻すようにわざとらしく咳払いをして、二人の注目を集めてから俺は切り出した。

 

 

 

 

「そろそろ真面目な話をするぞ。 俺とお前ら――――いや、風と歌野の事故に遭った二人と、美森を助けに行った後の共通点と辻褄合わせをな。」

 

 

あとさっさとそれ食い終われ。

 

 






次が説明回になるから短いけど一区切り。

火傷といい右目の喪失といい、世紀末組顔に消えない傷作りすぎでは?(犯人)

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