『天』の神の祟りによる『災』害、と言う意味では間違いではないので言葉の違和は気にしてはいけない。
「詳細を省いて簡潔に言うと、こうなった原因とその犯人は友奈だ。」
俺の言葉に、アメリカンドッグの棒にこびりついた生地を齧っている歌野と、大量のマスタードが付いたアメリカンドッグに苦戦している風が俺を見てくる。
なんだよ、嘘じゃねえぞ。
「……歌野、お前は風が友奈と話をしに行った時、二人の後を
「え゛っ、そうなの!?」
「こっそり話を聞いてこいって言われたのよ。 ああでも、やっぱりそう言う意味だったわけね。」
棒を折ってから袋に入れると、合点の行った顔で頷く。 でも風はまだ半分も食ってなかった、もうそれ一回袋に戻しとけ。
「ほら、友奈が東郷を救助してから暫くして、何かを言おうとしたら渋ったり妙に表情が暗かったりしたでしょ。 それを怪しんだの。」
「あ、あー……なるほど。 確かにあたしに相談持ちかけた時も何かを渋ってたわ。」
「その話を裏でこっそり聞いてたけど、ただそれだけでこうなるんだから困ったもんね。 紅葉、貴方の検証はこれで終わり?」
火傷痕の目立つ顔で、歌野は俺を見る。 なんかヤのつく人っぽさが増したな。
「少し考えたら分かる事だったんだよ、天の神から生贄を奪い返しに行ったんだからな。 」
「どういう意味よ。」
「――――友奈は美森を奪い返しに行った時に天の神から何かされたんだよ。 呪い…………は人が人にすることか、言うなれば――――そう、祟りか。」
そう言うと、二人は動きを止める。 思い当たる節はあるらしい、そりゃ俺と現況以外が何かしらの厄介事に巻き込まれていたのだから、一度関連付ければ後は楽で良い。
「…………誰かにその事を伝えようとすれば、祟りが伝播して災いになる。」
「友奈があたし達にこの事を言おうとしても黙ったのは、あたし達が災いに巻き込まれる前兆か何かを見たから……?」
「だろうな。」
友奈の視線は度々こいつらの鎖骨辺りに向いていた。 前兆……例えばマークでも刻まれているのだろう、言おうとすると伝播した祟りが進行し、度合いによって災いが発生する。
事情を話そうとした風と間接的に聞いた歌野は他の連中より祟りが進行してしまい、結果風への災いに俺と樹が。
そして歌野の災いに園子が巻き込まれた。
「俺が車の接近に気付けたのはほとんど奇跡だった。 勇者のお前や樹が気付けなかった辺り、確実に人知を超えている。
下手したら死んでいたそれが天の神の仕業だと思えば、全てに納得できるんだよ。」
二人が俺の3割くらい
風に関しては俺が壁になったからまだいいが、歌野の方はガス爆発なんだよな。 なんかこいつだけ殺し方が本気過ぎる気がするんですけど。 まあ元諏訪の勇者だしそりゃそうか。
四国よりスペックの低いシステムで単身諏訪を三年防衛した奴なんだし、ぶっちゃけガス爆発程度じゃ殺せねえだろ。
野性動物より生存本能に忠実な奴だぞ。
「…………はあ、それで、私たちは友奈をどうすれば良いわけよ。」
「―――いや、もう二人は過剰に首を突っ込むな。 祟りの進行度合いで降りかかる災いの重さが変わるなら、これ以上の進行は二人ですらどうにもできなくなる。」
「それじゃなんの解決にもならないでしょ、何か良い考えとかないの?」
二人はそう言って何かを期待しているが、俺は少し考え、頭を振って否定する。
「友奈は俺たちがこうなっていることに対して罪悪感を覚えている筈だ。 これで誰かが一人でも死んでみろ、あいつに消えない傷を負わせることになるんだぞ。」
「う……そう、ね。」
「安心しろ、プランBはある。」
「そんなもん無さそう。」
「あるから言ってんだろうがこの野菜馬鹿野郎、キュウリ用の味噌没収させるぞ。」
「こ、この野郎……!」
不思議そうにする風と、俺が怪我人だから殴り倒せなくて悔しそうに額に青筋を浮かべる歌野。
そんな二人を見ながら、俺は脳裏に『殺しても死ななそうな奴ランキング』のトップを常に記録し続けるにぼしの姿を思い描いていた。
『自分では何も出来ないからと勇者に危険なことをさせるのは大赦の人間と変わらないのでは』
…………とも、思った。
◆
世間はクリスマスである。 入院患者には関係ない話だけど。 なんだどうした、笑えよ。
しかしクリスマスか。 酔った杏が球子をジャイアントスイングして池に投げ飛ばした事件がまだ記憶に新しいな。
「人がこんな苦労してるときに世間様は受かれてるもんだぜ…………おん?」
窓の向こうできらびやかに飾られた街並みを眺めていると、ふと蒼いカラスこと若葉が窓ガラスを透過して病室に入ってきた。 霊体だからってやりたい放題だなお前。
カラスは見慣れた勇者服の少女に姿を変えるが、その顔は激怒一色に染まっていた。
「…………冗談でもなんでもなくマジで怒ってるのは分かってるし言いたいことがあるのも分かってるが、取り敢えず結果だけ教えてくれ。
「――――。」
「そうか、出来るのか。」
こいつが――――あの真面目な若葉がこういう時に黙り込むのは、『事実だから言いたくない』と思っているからだ。
「膨大な霊力を持つ神器とその所有者、祟られた本人、そして祟りを移してもなんの問題もない人物。 因果なものだよなぁ?」
「――――お前、は…………。」
ぎり、と拳を握る若葉。
歯が軋むほど噛みしめ、言いたい言葉が纏まらないのか、口を開いては閉じて。
感情の爆発を抑え込むためだろう、まぶたをも深く閉じると若葉は重苦しくため息をついた。
「――――頼むから、死ぬな。」
「…………そりゃそうさ、死にたくなんかねえ。」
月並みな言葉で濁す俺の体は、灰となり、吐血があり、もう限界だ。 ならばこの先まだ未来のある若者の為に、大人が体を張るのは当然だろう。
カッコつけて
「でも俺の体の再生力は神樹からの供給で行われている。 体の再生が遅いというのは、神樹からの供給量が少ないことを意味している。 つまり……もう限界なんだろ?」
「…………ああ、そうだ。 神樹は今死にかけている。 根本的に限界なんだ、来年の夏までもつことすらない。」
悔しそうに、若葉は項垂れた。 無意識に左腰に差していた生大刀を握る手に力が入り、柄に手のひらが食い込む。
若葉も分かっているんだろう、生大刀で祟りを友奈から切り離し、俺に移し代え、この死に行く体と一緒に消滅させるのが一番の最善手であることを。
体の再生力に回せるほど神樹の力に余裕がない以上、俺がさっさと死ぬべきだと言うことを。
『理解はできるが納得できない』と言う奴だ。 ここで無情になれないからこそ、若葉は勇者なのだろうが――――。
「お前のその優しさが今は怨めしいよ。 若葉――――お前が居ないと生大刀で祟りを取り除けない、だから早いところ決めておいてくれ。」
黙ったままの若葉にそれだけ言うと、丁度その直後に扉の奥から物音がした。
「今は帰れ、人が来た。」
「………………ああ。」
暗い表情のままで、若葉は姿を戻すと窓を越えて雪の降る夜空へと消え失せる。 病室から若葉が消えたのと扉が開くのは同時だった。
「おーーーっす。」
「よう夏凜、丁度良い、話したい、こと、が………………。」
歌野と言い無遠慮かつ大胆に入ってくるが、なんだろう、流行りなのかな?
難しいことは後回しに、そんな事を考えながら窓から扉に夏凜の方へと視線を向けると、俺の思考は一瞬停止した。
そこには友奈と園子を除いた五人が居たのだが、格好がおかしい。
美森と風と樹は冬のくせに寒そうなミニスカートのサンタ衣装なのだが、夏凜と歌野は全身茶色で頭に角を刺した鹿のコスプレをしていたのだ。
「……悪夢か。」
「現実よ。」
すかさず歌野に否定され、俺は頭痛がした気がして額を指で押さえる。 寝たとき夢に出てきそうな歌野と夏凜のえげつない格好から目をそらすと、美森が頬を赤くして聞いてきた。
「ど、どうかな、紅葉くん。 正直あまり西洋の文化は得意ではないのだけど…………。」
「……うん、可愛い可愛い。 あとスカートの丈は膝より下の方が好みです。」
「これは……歌野ちゃんに無理やり履かされたの!」
「そうでもしないと紅葉を悩殺できないわよ。」
「し、ま、せ、ん!!」
頬どころか顔までサンタ服みたいに真っ赤の美森をからかう歌野。 あっこいつ…………俺を張り倒せないからって美森にターゲット切り替えたな?
「えー、しないの?」
「どうして紅葉くんがちょっと期待してるんですか!!」
そりゃ俺も男だし。
「それ以前に美森とかは良いんだよ、普通に似合うし可愛いし。 問題は後ろの不審者だよ。」
「あら、見て分からない?」
一目瞭然だから現実逃避したいんだよクソッタレ。
「……罰ゲームかなんか?」
「サンタならトナカイも居ないと駄目じゃない、だからサンタは見栄えが良い方に任せたってだけ。」
「これ私完全に歌野のとばっちりよね。」
…………歌野の何が恐ろしいって、汚れ役を自分から買いに来る事だよな。
話を聞くと、どうやら二人で三人をソリに乗せて走ってきたらしい。 ははぁん、さては馬鹿だな。
「良く職質されなかったな。」
「されたけど?」
「……なんて?」
「二回されたわ。」
そして三回目の職質でアウト食らう前に全力で逃げてきたとか。 人がシリアスな話してるときにこいつらは雪景色をバックにソリを引いて警察と鬼ごっこしてきたのか。
そろそろ訴えたら勝てそう。
「……そう言えば、友奈はまだ来てないの?」
「あら……確かに、もう来てると思ったのだけど。」
『―――――。』
俺が入院してから、友奈は一度も見舞いに来ていない。 気まずいのだろう、自分が元凶の癖に見舞いなんて虫のいい話だとでも思ってるのか。
「…………ま、仕方ないわ。 このトナカイスーツ3号は園子にでも着せるから。」
「そのっちならノリノリで着そうではあるけど、三回目の職務質問は流石に不味いわよ?」
「三人でソリ引けばパトカーより早いから平気平気。」
「えぇ…………。」
当然のようにパトカーより早い速度でソリを引くのはやめろ。
「勇者の力の無駄遣いの極みですね……」
「黙ってるあたし達も同罪なのヨ、樹。」
ケラケラ笑って美森をからかう歌野に、相手にするのも面倒そうにする夏凜。
恥と怒りから火傷痕の件すら忘れてる勢いで顔面を鷲掴みにする美森と、傍観を決め込んで半歩下がる風と樹。
病人の前と言うのに騒ぎ立てるそれを、俺は不快とは思わない。
きっと、これを『楽しい』と言うのかもしれない――――いや、言うのだろう。
ああ、そうだな。 楽しいな。
…………ああ、楽しいなぁ。
――――死にたくねえなぁ。
連載五ヶ月目なんで第一話と同じ時間に投稿してみた。
体を再生してくれてる=神樹の力で、西暦の魂を肉体に固定してる=みーちゃんの巫女パワー。 どっちかが一つでも掛けたら紅葉は死にます。
※あとソリは軽車両です。 良い子も悪い子も道路でソリを引いて爆走するのは……やめようね!