先人紅葉の章・十六話ラストの回想で千景が故郷で村人に斬りかかった時、割り込んだ紅葉がそのまま千景に殺されてしまったら? のifなのでわりとエグいし不快になる可能性あります。
お気をつけて。
※この話は後に書くであろうのわゆ編に影響を及ぼしません、あくまで『もしも』ですので。
鈍い赤色の腹に生えた、銀色の刃。 黒い柄を握り、遠心力を加えた横凪ぎの一撃。
その刃の動きを見届けていた場合、まず間違いなく、へたり込んだ少女の首から上は胴体と別れを告げる事になるだろう。
故に、村の中央まで走ってきていた男はその間に割り込む。 銀色の刃と、その軌道上の少女との間に割り込んだ男を見て、彼岸花は驚愕の表情を浮かばせる。
しかし、止まれない。
振り抜かれた刃は防御に使われた、防刃ベストの中身を抜き出して巻き付けた籠手に突き刺さり――――――。
「あ、が…………っ」
ぶち、と。 真剣程度ならば止められたであろう籠手ごと、刃は男の左腕を切断し、腕だったモノは宙に舞った。
切断された本人と、その様子を後ろで見ていた少女よりも、彼岸花が一番驚いたのだろう。
彼岸花のぐちゃぐちゃになった心情をキチンとした文字列に直すのだとしたら――――。
『こんなことになるなんて』
だろうか。
されども、彼岸花が冷静になれたのはその一瞬だけだあり――――穢れに汚染された思考回路は、破滅・破壊の願望を生み出していた。
彼岸花の頭は村人への復讐心に支配されており、最早それを邪魔した眼前の、大事な筈であった男すら彼岸花からすれば敵となる。 敵と、扱われてしまう。
「ぐ、が、あ……!」
男のつい先程まで左腕が繋がっていた場所から、垂れ流しの蛇口から流れる水のように赤く、紅い液体が垂れ流される。 それに反して男の顔色は、青を通り越し白くなり始めていた。
小学生に軽く叩かれるだけでそのまま死ぬであろう瀕死の男は、息を荒げて柄を握り締める彼岸花に目を向けたが、彼岸花を視界に捉えてはいない。
「はっ、はっ…………! わ、たしは……! 私、は…………!!」
黒い艶のある髪を振り乱して、彼岸花は目の前の事実から目を背けようとする。
自分は悪くない。 村のせい。 村人のせい。 私を虐めたせい。 報復をして何が悪い。 悪くない。 悪くない。 分からない。 分からない。 分からない。
今の彼岸花の心情は、とても分かりやすい。
ドロドロの復讐心と、男への重苦しい罪悪感が天秤に掛けられているのだ。
――――さて、どちらの方が、
彼岸花は、目元で悲しんで、同時に穢れによる精神汚染から口許を喜色に歪ませる。
そんな、化物のような彼岸花の気配を感じ取って、男は咄嗟に
「っ――――う…………ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
ほぼ同時に、男は左肩から右腰に掛けてを袈裟懸けに切り裂かれた。
「………………ごぼっ」
心臓も肺も纏めて切り裂かれ、返す刀で煌めいた
遅れて赤黒く鉄錆の臭いがする液体が噴き出し、更に一拍遅れて、どろりと紐状のピンク色がこぼれ落ちた。
「かっ――――ひゅー……っ」
吸った空気は、斬られた肺から抜け出して胸の傷から漏れ出す。
元々光が無いかのように暗かった瞳は虚空を写し、とうとう男の膝が崩れる。
腕を切断され、袈裟斬りに胸を切り裂かれ、腹部を切開され。
生きている方が不思議な程の重症の前に、男が生きていられる筈が無く。
膝立ちのまま項垂れた男はピクリとも動くことは無い。 誰がどう見ても、死んでいた。
「――――■■……?」
「…………■■さん。」
凄まじく長い時間の間に起きた出来事のように見えて、実際は10秒にも満たない刹那の時の中で起こった出来事だった男と彼岸花の行動。
青色の勇者は、不幸にも間に合わなかった。
「■■ぇ…………っ!」
「■■、■■ぁ……!」
精神を汚染されている彼岸花からすれば、敵がもう一匹現れたようなもので。
精神を汚染されていた勇者からすれば、目の前の彼岸花は仲間を殺した存在で。
この後何が起こったのかは、きっと、想像に難くないのかもしれない。
逆に言うと、本来はこの時点でこうなってないとおかしいんですよね。
なんで生きてたんですかね?(すっとぼけ)