迷宮にて弓兵召喚   作:フォフォフォ

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FGOサービス開始からやってるのに、エミヤが出ない………
書けば出る、という噂を信じて今日も書く、が出ない!


第四階層

「よお、久しぶりだな。アーチャー」

「久しぶり?貴様と私は初対面の筈だがな。ランサー」

 

 ニヤリ、と青き槍兵は笑う。二つ名に相応しい獰猛な笑みだとアーチャーは感じ、自身もそれに答えるように笑っているのに気付く。元々、自分は因縁や私怨を好まない。生前は感情的な要素は極力排除して生きてきた。無論、それは自身に向けられた感情、即ち愛情や敵意も同じ。

 

 生前はそうだった。しかし、死後は?

 

 第四階層の番人であろうランサーを、アーチャーは観察する。未だ相手は自身の武器を見せない。所持している武器でクラスを推測するのが基本であるサーヴァント相手だが、ランサーである事を本能的にアーチャーは理解していた。生前の因縁ではなく、死後の因縁。サーヴァントのシステムか、それとも聖杯戦争の歪な組み合わせによるバグか。奇妙な縁が強固に結ばれ、解けない。

 

 ある聖杯戦争では自身の死因となり、またある聖杯戦争ではその槍を防いだ事もある。更に同じ陣営の味方同士ともなった。異なる時代、異なる価値観、全く共通点が無い両者はしかし、聖杯戦争という枠組のみ繋がる。アイルランドの光の御子クーフーリン。クランの猛犬とも言われた男が立ち塞がるのは、ある意味で道理と感じる程に。

 

「何だよ覚えてるじゃねえか。何でテメエの記憶だけ覚えてるんだか。クラスで呼び合う意味がねえな全く」

「貴様もよくよく聖杯戦争に呼ばれるものだ。槍兵(ランサー)魔術師(キャスター)、果ては狂戦士(バーサーカー)。そして今はソレか。まさか、そんな姿もあるとは思わなかったがな。アルスターの大英雄となると若き姿まで喚ばれるのかね?」

「それだけ俺が有名な英雄って事だよ。てめえと違ってな」

 

 アルスターの大英雄たるクーフーリンの人生は短いが、常人の数倍はある激動の人生を送ってきた。そういう意味で、今の姿は全体的に『若い』。果たしてこの姿の彼と戦った事はあるのか。アーチャー自身にそこまでの記憶は無い。それは向こうも同じだろう。初見ではない因縁の相手だが、お互いはまだ相手の事を『知らない』のだから。

 

「で、ここまで来たって事は、テメエも聖杯目当てだろ?」

「ほう、同列に扱われるのは遺憾だが、貴様はここの番人ではないと?」

 

 第四の階層の番人がいる場所で陣取るランサーは「違うが当たりだ」と矛盾した言葉を放った。

 

馬みたいな魔獣(ケルピー)に、蟲の集まり(インセクト・スクール)、そして竜の模造品(ドラゴンゴーレム)。お前がやった番人は違うだろうが、元々いたここの番人を倒して来たのは俺だ」

「ここに来るまで一切のサーヴァントに会っていないと?」

「ああ、ココ(第四階層)まではな。ここにいた二番煎じの竜種をぶっ殺して、さあ聖杯、と思ったらあえなく敗退って奴だ」

 

 アーチャーは双剣を瞬時に投影した。ランサーは未だに何もしていないが、向けられた殺気が一段階上になった時点で戦闘は必須。

 

「はええな。まだ話している途中だぜ?」

「貴様には遅いくらいだ。その話を聞けば、大凡の予想はつく。君達の郷では、敗者は悪足掻きせず勝者に従うのだったな」

「悪足掻きはするぜ。ま、戦いに負けちゃあ仕方ねえわな。敢えなく臨時雇用って事よ」

 

 そう言ってランサーは槍を出現させた。アーチャーは眉を潜ませ、その槍を見る。

 

「どうした。自慢の槍はお預けかね」

 

 ランサーの構える槍は、よく知る赤き呪いの槍ではない。宝具でも何でも無いただの灰色の槍だ。呪詛が刻まれている訳でもなく、特殊な能力を持っているようにも見えない。精々やや堅いぐらいの特性しか持っていない、大英雄が担うには余りにも不足した武器。だが、それだけでアーチャーは油断する程楽観主義ではない。

 

 獰猛な笑みを貼り付かせたまま、殺気が充満し、噴出する。アーチャーは双剣を己の心臓を防御するように置いた。

 

「敵にわざわざ言う必要あるか?精々作戦とでも思っておきな!」

 

 瞬間、ランサーが踏み込む。アーチャーは双剣を瞬時に己の懐を突き刺す槍に向けて薙ぎ払った。剣と槍が衝突し、大気が激震する。双剣から感じる槍の威力に驚嘆しながらも、アーチャーは迎撃の斬撃を放った。槍の長所はその長いリーチと威力を持った突き。しかしそれは同時に再度の攻撃には槍を引き戻さなければならないという致命的弱点も備わっている。

 

 が、槍の英霊(ランサー)がその程度の弱点を突かれて敗退する等あり得ない。

 

「はっ、甘えよっ!」

 

 ランサーは瞬時に槍を引き戻し、迫る双剣を防ぎ、再び攻勢に移った。アーチャーは目を見開く。槍の弱点である攻撃後の隙を、この槍兵は完全に熟知している。それは『知っていた』が、果たしてどのような修練を積めばこれほどの練度へと至るのか。その槍捌きは武器の変更程度では一切衰える事はなく、むしろもう一段階上回ったかと錯覚するほどに。

 

 苛烈に攻めるランサーは正しく猛犬となってアーチャーの防御を様々な角度で攻め入り、その肉を喰い千切らんと牙を向く。それでありながら攻め過ぎず、少しでも双剣の間合いに入れば即座に防御し反撃に移る。

 

 手強い相手だ。だが、アーチャーはただジッと防御に徹している訳ではない。この槍兵相手に防御は定石だが、悪手でもある。相手のミスを待って防御していればその間に三度ほど蘇生が必要になるだろう。

 

 故に、無理矢理にでも好機を作り出す。アーチャーはランサーの槍を弾き、あえてランサーではなく鉄の槍へと攻撃を繰り出した。当然それは槍に防がれ、反撃が来る。それを防御し、更に槍へ攻撃。武器の構造把握など投影魔術を行うアーチャーにとっては呼吸のように行える。本当にランサーの持っている槍はただの頑丈なだけの槍で、その取り柄も無限ではない事も。

 

 五撃目にて、鉄槍は砕け散った。赤と青のサーヴァントはそれに一切の動揺を見せない。当然の過程だからだ。問題は、これで相手がどういう手段を使うか。

 

 アーチャーはあえて双剣をランサーへと投げ棄て、弓矢を投影した。流れ矢の加護を持つランサーに、遠距離攻撃は通じない。通常のアーチャーのサーヴァントならば、このランサーを倒すのは至難の技だっただろう。

 

 アーチャーは瞬時に投影した矢を数射放つ。赤い燐光を放つソレは、瞬時に回避したランサーを物理法則を無視した動きで追走した。

 

「けっ、無駄に多いな!キャスターみたいな魔術を使いやがる!」

「これだけが取り柄でね。そら、もう二射だ」

 

 更に二射撃ち込む。投影した矢は北欧の大英雄であるベオウルフの持っていた剣、『赤原猟犬(フルンディング)』。敵を追跡する魔剣を、アーチャーは矢へと改造した。即ち、自動追跡型の矢。目標を穿たない限り、どれだけ回避しても追跡する猟犬の矢。

 

「弓兵みたいな事をしやがって」

「アーチャーだからな。近接戦闘は得意なだけだ。君も槍一辺倒では辛いだろう。他の武器でも使ってみてはどうかね?」

「はっ、言うじゃねえか。じゃあ俺も、魔術師紛いな事をしようかねえ!」

 

 ランサーは赤き軌跡を描く矢を掻い潜りながら、迷宮に転がった石ころを数個拾い上げ、地面へと叩きつけた。瞬間、ランサーを守るように結界が展開し、猟犬の追走を阻む。

 

「ルーン魔術か」

 

 物質を一から練り上げる投影魔術とは違い、ルーン魔術は物質に付与する魔術方式だ。師であるスカサハから伝授されたルーン文字は、クーフーリンの第二の攻撃手段と取ってもいい。しかしキャスターならばともかく、ランサーで行うルーン魔術は大幅な制約が課せられている。贋作と言えど、複数の宝具を守護する盾にはなり得ない。一瞬の停滞の後、結界を喰い破った猟犬は猛犬へと牙を剝く。

 

 しかし、時間は稼がれた。一秒後にはランサーを喰らう筈だった赤原猟犬は、数舜の後には迷宮の壁面へと衝突し、破砕する。

 

「魔術師紛いか。詐欺師の方が性に合うのではないかね?」

「ほざけアーチャー。詐欺ならテメエの方が上だろうが」

 

 ランサーは再び槍を構えなおす。一瞬の時間で、ランサーは槍を出現させていた。ランサーの足元から唐突に出現したソレは、先程アーチャーが破壊した鉄槍そのもの。サーヴァントの宝具でもない只の武器を造作もなく出現させたことに、アーチャーは周囲を軽く見まわした。

 

「分からねえだろ?」

 

 ランサーはアーチャーの行動に予測がついたのか、問を投げかける。大人しくアーチャーは肩を竦め、返答の代わりとした。

 

「さあね。私は魔術師の才は専門に特化していていたからな。隠蔽の類は殆ど門外漢だ」

「バカかお前。スカサハより教わったルーン魔術が、そう簡単に見破られてたまるかよ」

 

 トン、とランサーは槍で地面を軽く突いた。瞬間、アーチャーの足元に隠蔽されたルーン術式が展開される。どんな効果なのかアーチャーは推測する暇なく跳躍した。さっきまで自身のいた場所に展開されるのは炎の塔。魔術師の大魔術に匹敵する火柱に驚愕しながらも、着地する地面に全く同じ模様が刻まれているのを見てアーチャーは弓を棄てた。

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!」

 

 投影した槍を突き刺し、ルーン魔術を展開させる魔力をかき消す。かろうじて作られた安全地帯に身を置いたアーチャーは、続けて双剣を投影し迫るランサーを迎え撃とうとした。

 

 しかし、速い。先程までの速度を光速とするならば、それは神速。アーチャーの防御を掻い潜り、容易に懐へと侵入した槍の穂先は、心臓をやや逸れながらも致命的な個所へ突き刺さる。

 

「チイッ!」

 

 アーチャーは己の筋力を総動員し、突き刺さった槍を抜かせる事無くランサーへと蹴りを放った。槍の突撃と引き換えにするには小さ過ぎるダメージだが、蹴りの衝撃をバネに後方へと飛び下がる。ランサーは惜しむ事無く鉄槍を放し、アーチャーと距離を取った。

 

「おうおう、やるねえ。正直これで取ったと思ってたぜ、俺は」

「高名な英雄様には少し汚い手段ではないか、ランサー?」

 

 皮肉で返しながら、アーチャーは己の状態を見る。突き去った槍は抜くべきではない。サーヴァントと言えど人の身体を模している以上、開いた傷から零れる血は魔力となって流出する。しかし、人の身の丈はある槍が突き刺さった状態で戦闘を行うのも不利だ。マスターの治癒があればふさがるが、残念ながら今はいない。これからも。

 

「田舎の騎士様じゃねえんだ。ケルトの戦士は全力で戦う。騙し討ちはしねえが、奇襲や攪乱、包囲殲滅はうちらでは日常茶飯事だぜ。ああ、メイヴの所は裏切りもあったか」

「成程、自身の工房で戦う事も厭わない、と言う訳だな。フン、英雄の誇りなどほざいていた割には、随分と戦術らしいことをする」

「テメエにだけは言われたくないぜ。それとも何か、負けそうだから言い訳してんのか?」

「それこそ阿呆だな」

「それに、これは工房じゃねえ」

 

 ランサーは再度槍で地面を叩く。瞬間、周囲に展開されていたルーンの術式が一斉に戦場へと浮き上がった。ルーン魔術は元々一工程で行える基本的かつ戦闘では効率的ともいえる魔術だ。それなりの場所と魔力さえあれば複数のルーンを使い、サーヴァントであっても視認できぬ仕掛けだらけの戦場を作り出す事は不可能ではない。しかしそれをランサーのクラスで行うのはクーフーリン本人がキャスタークラスにも相当する英霊を証明している。

 

 アーチャーは己の付近に展開されていくルーンの術式を見た。硬化、強化、相乗、加速。アーチャー自身の魔術知識では全体の三割程しか理解しえない。これら一つ一つが目的を成すための陣故に、一部を破壊しても全体の効果は変わりない。魔術師の工房というよりこれは。

 

「俺の城だ」

 

 展開されたルーンの術式を一瞥し、アーチャーは破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の投影を悔いた。その性質は魔力の波を一時的に絶つ事。あの槍を引き抜けば再度ルーンの術式は復活するだろう。そうならない術破りの魔剣(ルールブレイカー)も、アーチャーは知っていた。しかし今更それで自身の足場を確保しようとすれば最後、ランサーがその致命的な隙を穿つだろう。

 

 かといって放置する訳にもいかない。ランサーと地面に突き刺さる破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の距離は近い。ただの槍ですら心臓を奪われそうになったのだ。模造品といえど宝具を手にすれば勝機そのものが大きく遠のく。いや、今ですら遥か彼方だ。

 

「ならば貴様は城主か王か。どちらにせよ似合わぬ仕事だ」

「だろうな。柄じゃねえよ俺は」

 

 ランサーはひゅう、と口笛を吹いた。それが何らかの合図であるように、ルーンの文字に展開された術式が反応を示す。サーヴァントの召還とは違うルーンの術式から飛び出してきたのはランサーの使役する使い魔だ。アーチャーの表情にランサーは使い魔と同じ表情で笑う。これで更に勝機は遠のく。相手の工房で、複数の使い魔とランサーを同時に相手取り、更に致命的な傷をどうにかする。『手強い』相手だ。

 

 手強い。生前でもよく言っていた。一対一ではどうしようも無く強い敵や、強力な護衛に守られている目標を倒す時、自身が求めたのは戦い方ではなく、殺し方だった。それはサーヴァントとなっても変わらない。絶望的状況下で、アーチャーは既に勝機を見出しつつあった。本当に相手がその気ならば、一切の躊躇もプライドも無ければ自身は瞬殺されていたのだ。それをしないのはこの槍兵の性格であり、若さ故の致命的な隙でもある。

 

「そういえば、テメエにはまだ返せてない借りがあったよな。英雄の誇りを笑われた時だ」

 

 ランサーの言葉で瞬時に相手の意思を理解したアーチャーは、皮肉げに笑った。

 

「生憎記憶にないな。サーヴァントは聖杯戦争の記憶を覚えていないのでね。仮に何らかのバグがあったとしても・・・・・・そんな昔の事を覚えているのか?全く君は、現代人のように執念深い」

「そりゃあそうさ。大抵の事は笑って許すがよ、俺はコイツ等を馬鹿にされるのは許したくねえさ」

 

 ランサーは駆け寄る使い魔を見る。それは主が部下に接するソレではなく、同じ戦士としての視線。アーチャーは思わず肩をすくめる。使い魔はうなり声を上げて、アーチャーへ剥き出しの敵意の眼差しを向けた。

 

「貸し借り等、勝敗には不要な物だろうに。君はどうやら、この工房で私を殺すつもりはないようだ」

「そういうつまらねえ勝負は嫌いなんでね。俺はどうしても、お前のあの言葉が許せねえのさ。あえて言うぜ」

 

 ランサーは鉄槍をアーチャーへと見せつけるように向けた。アーチャーは周囲の敵と、展開するルーンの術式を見、己の武器庫から最適な存在を求める。勝てる宝具ではなく、この英霊を、この城を徹底的に『殺す』宝具を。

 

「お前の剣には、決定的に誇りが欠けている」

 

 それは、いつぞやの戦いの最中で行われた問答だった。アーチャーと、ランサーの価値観を決定づけるような言葉だ。曰く、誇り無きものは王道ではない。義理や人情で剣を担ぐのが英雄であり、裏切りや、成果のみで刃を誰にでも向けるのは英雄などではないと。

 

 時代故の価値観云々ではない。個人の信条、信念の相違だ。サーヴァントとして僅かな変化があった両者でも、その根本は変わらない。故に、問われて返す言葉はいつぞやと同じ。

 

「ああ、生憎誇りなど無い。それがどうした?過程ばかり重視して結果がおざなりなら、貴様の言う英霊の誇り等何の価値も無い。つまりだな」

 

 アーチャーは自身に向けられた殺意を、使い魔を、否、ランサーの使役するクランの猛犬達を見、皮肉げに笑った。

 

「そんなもの、そこらの犬にでも喰わせてしまえ」

 

 瞬間、短い問答は終わり、戦闘の時間へと戻る。牙を剥き出して迫るクランの猛犬達を、端からアーチャーは問題視していない。それは油断や慢心ではなく、正当な判断から来る行動基準だ。ランサーが自負する通り、犬の身でありながら幻想種に匹敵する能力を備えた複数の個体を相手に戦っていれば、自殺行為だ。ランサーの工房で、更に数的不利まで取られたが、これらは全てランサーの魔術によって成り立っている。詰まるところ一対一の条件は何ら変わりない。この犬も、武器も、ルーンもランサーが所持している道具と割り切れば良いのだ。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 瞬間、ランサーの近くに突き刺さる破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)が爆発した。勿論これでランサーが倒されるのはあり得ない。精々二秒ほどランサーが向かってくるのが遅れるだけだろう。

 

 しかしアーチャーはその二秒を有効に扱えた。即ち、双剣を前方へと投げつける時間を。必殺と必中を兼ね備えた剣はしかし、ランサー自らが育てた犬には遊戯すらなり得ない。あざ笑うように吼えると、横へ数十センチずれただけで躱される。二足と違い四足の獣、更に神話の色がある獣相手には妥当な攻撃ではない。しかしアーチャーの命を刈る猟犬達は、頭上から飛来する剣には対応できなかった。

 

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)!」

 

 上空に投影された剣こそ真の狙い。相手が幻想種だろうが神域の獣だろうが関係ない。巨人が使うものかと錯覚してしまうほど圧倒的な巨大さと神気に覆われながら、それは重力に従いクランの猛犬達の頭上へと振り下ろされる。いかな領域に届いていようが、獣であり、肉があり、命がある。躱そうにもその圧倒的質量差に半数が下敷きになり、迷宮の階層すらも揺るがす一撃となって周囲を混沌と化す。

 

 だが、まだだ、まだ終わらない。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 再度の爆発。たった二秒の猶予時間が、それ以上の時間を生み出した。相手の罠が見えないのなら、相手の施設諸共吹き飛ばす。生前に得た知識で状況をこじ開けたアーチャーはだめ押しとばかりに投影したハリボテの宝具を破壊した。この影響で地表に描かれたルーン文字諸共術式を破壊し、敵の殲滅と分断に成功する。

 

あの爆発から逃れた猛犬も少数ながら存在するが、階層ごと包み込む爆炎と粉塵、そして同族の血の匂いで一時的な混乱状態へと巻き込まれている。無論、アーチャーとてそれはただでは済まされない。あれほどの規模の投影、爆発はかなりの無茶と無謀だったのだ。舞い散る噴煙のせいで如何に鷹の眼を持つとされる視力も機能しない。

 

 だがアーチャーは更に投影を重ねた。目視は不能だが、血の匂いは人間ですら感じ取れる程濃厚だ。ならば、自身もまた猟犬を出す。

 

「匂いは覚えたな・・・・・・行け!」

 

 赤原猟犬を投影し、粉塵の中へと撃ち込む。番犬を狩る為の猟犬は赤い軌跡を描きながらも、漂う匂いの中から血の通ったモノを選定し、喰い破る。短い悲鳴が木霊する中、アーチャーは粉塵の晴れる数十秒後まで油断なく弓を構えていた。

 

 粉塵が晴れる。そこに立つランサーは自身の育てた猛犬の一匹を、恐らくは最後に命を絶ったであろう犬の背に突き刺さった矢を引き抜くと、真っ二つにへし折った。自身の育てた戦士と、城がものの数十秒であっけなく壊滅したのだ。動揺はしないが、その感情は表情を見れば直ぐにわかる。

 

「もう少し芸を覚えさせるべきだったな」

 

 ほう、乗ってこないか。アーチャーは動かないランサーを見て少しばかりの驚きを示す。クーフーリンの若き姿がどんな価値観を持っているかは分からないが、成熟した本人よりも前傾的な戦い方は、戦場を知らない現れと思っていたからだ。

 

たった数回の状況変化で、生物はあっという間に死ぬ。それは戦場の流れ弾だけではなく、日常にも潜んでいるのだ。殺し合いの最中となれば殺されるリスクなど例え有利な状況であっても呆気なく死ぬ。そして、アーチャーは相手を呆気なく殺す事に長けたサーヴァントでもあった。愛犬を殺されて逆上し、向かってくれば早急に片が付く戦いだったが、どうやらやはりこの青き槍兵はそう簡単には倒されない。

 

「テメエ、何者だ」

 

 ランサーは短い黙祷の後、アーチャーへと向き直り、問いを投げかけた。アーチャーは眉を潜める。奇妙な問いかけだった。今更お互いの名前を交換する必要はないし、既に問いかけ等する時間ではない。精々この英霊ならば軽口か、牙を向ける筈だ。

 

「まさか、記憶喪失かね?私も経験があるが、あれは殆ど嘘のようなものだ」

「けっ、まさか俺の正気を確認されるとはな。じゃあ質問を変えるぜ。お前、何か混ざってるだろ」

 

 ランサーの質問が、やや明瞭になった。しかし、アーチャーは分からないとばかりに肩をすくめた。それが真実をぼかそうとする仕草である事を、ランサーは既に知っている。そして、アーチャーの行動がより歪になったのも。

 

「この聖杯戦争がおかしいのはこの下にいる奴のせいだったが・・・・・お前は違う。そもそも聖杯に召喚されたサーヴァントじゃねえな。あのレベルの魔術を、マスターの魔力供給も無しにできる筈が無い」

 

 ランサーは戦ってからずっと、アーチャーの投影に違和感を感じていた。それも戦いの悦びでかき消していたが、こうもはっきりと示されれば嫌でも視認してしまう。アーチャー本人の投影魔術は確かにずば抜けているが、それは万能の魔術ではない。宝具の投影にかかる時間や魔力量は尋常ではない。如何にアーチャーが投影魔術の使い手であろうとも、クランの猛犬達を押し潰した神造兵装を、模造品とはいえ瞬時に投影するのは不可能だ。

 

「迷宮の魔術礼装じゃ無理だぜ。俺が見てきた中でも、どれもこれも悪趣味なシロモンだ。それとも俺が見ていない所まで隅々探したのか?それにしてはここに来るのが速いようだが」

「・・・・・・存外に頭が回るようだな。なら、隠す必要もないか」

 

 アーチャーは構えていた弓を放すと、自身に突き刺さる鉄槍を引き抜いた。勢い良く血が魔力となって噴出するも、まるで時間を巻き戻すように穿たれた箇所が修復していく。アーチャーの持つ魔術でも、迷宮の魔術礼装でも、マスターによる治癒でもない。

 

「まあ良い。余計な憶測は不要だ。今までずっとサーヴァントとして戦っていたが、もうそれに意味もない。早急に貴様を殺し、そして後始末を済ませば終わりだ」

「言うじゃねえか。テメエは元から嫌いだったが、どうやら外道にすらなり得ない存在になっちまったみてえだな」

 

 再び、殺気が充満する。残ったルーンの術式からクランの猛犬達が再度出現し、アーチャーを取り囲んだ。しかしアーチャーの眼には諦観も、絶望も希望も無かった。摩耗したその精神を再現するように、瞳の奥が濁った金に染まる。いつの間にか赤き外套は焼き焦げ、投影した武器も先程の双剣ではない。武器の製造者を冒涜するような、効率性を突き詰めた二挺の改造された銃剣が、今のアーチャー、エミヤの武器だった。

 

「俺の城は終わっちゃあいねえ。テメエの得体の知れない力と、俺の城がどっちが強いのか、決着を着けようじゃねえか」

「はっ!いいじゃないか。皆殺しだ」

 

 




プロトランサーとランサーの違いがかなり難しい………
違ってたらごめんなさい
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