「姉がいるんです」
第二階層の小屋の中で、他愛のない話をしていた頃の記憶だ。お互いの話をしている時に、彼女はそんな事を言っていた。
ゴルゴーン三姉妹の中でメドゥーサは末妹だというのはノーマは知っていた。しかし身内であり、数少ないメドゥーサの理解者でもある二人の姉を、ノーマはよく知らない。魔術師の中では勤勉でも優秀でもないノーマだが、そもそも魔眼を持った怪物として知られるメドゥーサとは違い彼女達は名前こそ有名だが、具体的に何をなしたかまでは不明なのだ。
「確か、ステンノとエエウリュアレだったっけ?」
「そうです。私はいつも上姉様と下姉様と言っていましたが」
「姉妹かあ。魔術師となると兄弟や姉妹柄は相続関係でギスギスするらしいけど、仲は良かったの?」
「ええ。追放されても付いてきてくれましたから、私にとって島での生活はそれほど苦ではありませんでした。むしろ大好きな姉様達と三人だったので、とても楽しいくらいに」
「・・・・・・そうだったんだ」
果たして、どう答えるべきか。ノーマは少し迷った。メドゥーサの最後を考えると、その二人の姉達も無事では無いだろう。果たして島に来た大英雄に殺されたか、もしくはメドゥーサ自らか。そう考えてしまえば不用意に質問できず、二人の間で初めての沈黙が訪れる。
天気の話でもして紛らわそうかとノーマが口を開いた瞬間、メドゥーサが「私の目的は」と呟くように言った。
「この迷宮にいるであろう姉様の所に行くことです」
「姉様って、もしかしてステンノとエウリュアレの事?」
「はい。両方いるのか、それともどちらかだけになっているのかは分かりません。ですが、感じるのです。姉様の気配を」
「もしかして、番人なの?」
つまり、ここより先、もしくは下層にメドゥーサの家族がいるのだ。第一階層で戦ったランサーを考えると、よしんば番人として邂逅する可能性もあるが、メドゥーサは小さな顔を横に振って否定した。
「いいえ。元々、上姉様も下姉様も戦闘能力はありません。純粋な神性を召喚するのは困難ですし、サーヴァントとして召還される可能性は殆ど無いと言って良いでしょう。ですが、姉様の気配は確かにこの迷宮から感じます」
姉を探す健気な妹、と言えば聞こえは良い。しかしメドゥーサが自分の覚悟を友人に聞かせた訳ではない事は理解していた。別の意味があるのだ。
「召還される筈の無い、サーヴァント?」
「はい。今回の聖杯戦争は、何かおかしい」
ノーマは覚醒して最初にした事は、両手に握られた血の塊を地面へと落とす事だった。次いで、己の口の中にあるモノを吐き出す。異形の生命体を捕食しようとしてしていた自分を忌避しながらも、戻ってきたことを実感できた。
「ゲホッ、ゲホッ。ここは・・・・・・ええと、何だっけ」
多くの事を忘れているのは変わらない。恐らく一生戻ってこないだろう。分かるのは迷宮での記憶と、自身の名前程度。それすらも穴が開いた記憶で不明瞭だ。
しかし、忘れてはいないモノもある。ノーマは己の両腕を見た。大きさは殆ど変わらないが、鱗のような硬質さを持った異形の腕は血に染まり、ついさっきまで何らかの捕食活動を行っていた形跡が残っている。常人ならば発狂する光景だが、ノーマは己の両腕をかき抱くように自身の胸へと触れさせる。静かに脈動する己の心臓は、今も自分を生かそうとしていた。
「ありがとう。メドゥーサ」
彼女は未だに自分の胸の中にいる。それが分かるのならば、記憶の喪失なんて微々たるモノだ。記憶があろうが無かろうが、やる事は一つ。迷宮の最深層へと行くこと。
ノーマは周囲を見回す。それだけで今の自分がいかに人間離れした存在か分かった。殆ど光の無い空間だが、それでも視界は良好に保てている。まるで夜行性の動物になったかのように、壁面にこびりついた発光性のカビによる僅かな光源でも、十分に視界を確保する事ができた。自分の周囲にできた血だまりは、恐らくまだ自分が夢の中にいた時のモノだろう。自分の身体を守ってくれたのはありがたいが、変なモノを食べようとするのは止めてほしい。
夢の中の記憶も、残っている。ノーマはもう二度と忘れまいと記憶に刻みながら、やるべき事を再確認した。
「先ずは下に降りなきゃね。あわよくばアーチャーを探して」
「ここがもう下の底よ。深層とでも言うべきかしらね」
耳元でされた声に、ノーマは大きく飛び退いた。その両腕はサーヴァントの腕力に匹敵するが、ノーマは攻撃よりも先に距離を取ることを選ぶ。元々の小心さもあったが、もしここにいるのがゴルゴーンやメドゥーサであっても、同じ事をしていただろう。
『何て愚かな妹でしょう・・・・・・いいえ、何て愚かな■■■」
『じゃあね。さようなら、可愛いメドゥーサ。最後だから口を滑らしてしまうけど、憧れていたのは■■■』
ノイズ混じりの記憶は、確かに目の前に佇む相手と同じ声を発している。これは、私の記憶じゃない。メドゥーサの記憶。つまり、彼女こそがメドゥーサの言っていた、
「初めまして、それとも久しぶりと言った方が良いのかしら。いいえ、せめてこう言いましょう。お帰りなさい、メドゥーサ」
『にんげん』『にんげんじゃない』『にんげんみたい』『おなじ』『かいぶつ』『こわい』
そう言いながらも、舞い散る光を発する妖精達はせわしなく動き、ノーマの身体へとナニカを塗りたくっていた。奇妙な色ではあるものの、毒ではない事をノーマは皮膚で感じた。塗り薬か何かなのだろう。如何に常人を超える再生能力を得たとしても、無尽蔵なエネルギーで動いている訳ではない。もしもあのまま数時間放浪していれば、体力が底をつき行き倒れていた。
とはいえ、魔の濃い存在が周囲にうろついているのは視界衛生上よろしくは無い。人間の頃ならば周囲に浮遊する妖精達の燐光に魅了されているだろうが、今はどちらかというと『食欲』による魅了が大きい。そのせいか、妖精達も何処かよそよそしい。
「全く、こんなに汚れて・・・・・・手のかかる駄妹ね」
「す、すみません」
この状況に招き入れた張本人は、呆れるように眉を潜める。その仕草すらも洗練されており、美しい。人間ではどう足掻いてもその領域には踏み込めず、返って己の醜さを増長させるだろう。自然にその表情ができると言うのは彼女の存在が本当に女神という証拠でもある。
「ええと、ステンノ、様ですよね。実は私はメドゥーサじゃなくて」
「様はいらないわ。と言っても呼び捨てはダメよ。その姿を見れば分かるし。ウチの駄妹が随分と迷惑と世話をかけたわね」
ゴルゴーン三姉妹、その長女であるステンノは、溜息と共に妖精達が作ったであろう石造りの椅子へと腰かける。殺伐とした迷宮内であってもそれだけの所作に美しさと可憐さが醸し出されているのだからどれほどの脅威かは分からない。何せ魅了を扱う妖精達ですらも魅了されているのだ。その顔をまじまじと視ればノーマ自身も魅了されかねない。
「全く、遅すぎるわ。苦情の一つでも言おうと思ったけど、貴方に言うのは酷ね。巻き込まれた可哀相な探索者さん。いいえ、ここまで来れたならば勇者様とでも言っておこうかしら」
「まさか。私一人ではここまで来れなかったです。妹さんが、いいえメドゥーサ達が助けてくれたから、こうして命を拾いました。感謝しています」
嘘偽りない本音に、ステンノの表情に笑みが浮かぶ。口では煩わしく言っているが、やはり身内には優しいようだ。少しだけ、そういう所はメドゥーサと似ている。
「それはどうもご丁寧に。その様子だと貴方が駄妹を殺して心臓を奪い取った訳ではないようね。よくよく死体を道具にされるから、せめて『遺体』でも拾おうかと思ったのだけれど」
さらりと恐ろしい事を言うのは、神特有の気まぐれという奴か。笑いながら怒るという二面性を持った神は人間の尺度では測り切れない感情でもある。
「まあ良いわ。その感じだと駄妹もまんざらでもない様子だし。特別に上の層へ案内してあげる」
「上の層?」
「さっきも言ったけど、ここはゴール地点も通り越した最底辺。迷宮の幻想種を補給する為の倉庫、つまりは罠にかかった哀れな人間を怪物に変貌させる所、と言ってもいいかしら」
深層、と言ったのは正しくここが底と言う事らしい。補給庫と言えば聞こえは良いが、
「ステンノさんは、サーヴァントなんですか?」
「ええ。クラスは
アサシン。ノーマはファラオの言っていたクラスを思い出す。確か
ノーマは己の右手を見た。多くの状況変化があり気付くのが致命的なまでに遅れた己を呪いながら、刻まれている筈のソレが無いのを確認した。
「どうしたの?」
「・・・・・・一つ尋ねたいんですけど」
口を開いた瞬間、ノーマは足に力を込めた。地面が揺れている。地震等という天変地異ではない。階層諸共揺れている所を視れば明らかに人為的だ。ステンノがワンテンポ遅れて身を揺らせるも、流石はサーヴァントと言うべきか、一切の動揺なく目を細める。
「へえ。やっと動き始めたのね」
「この揺れは?」
「廃棄物よ。ここの階層に落とされた、かつての栄光にすがる哀れな怪物」
反射的に質問してしまったが、ノーマは己の身でひしひしと感じる喪失感と、疑念にそれどころではなかった。不思議ではあった。真名がないサーヴァント。卓越した近接戦闘を持った、存在する筈の無い
この聖杯戦争は何かがおかしい、それは殆どのサーヴァントが言っていた。しかし、あのアーチャーはどうだろうか。誰も疑問に思わなかった。いや、アーチャーが疑問に抱かせないように行動していた?
「一体何者なの・・・・・・?」
「何者だよ、テメエ。ここまで粘られると面倒だぜ」
「俺もそう思っていた所だ。どれほど倒しても出てくる無尽蔵の番犬。だが」
一瞬の静寂は、一発の銃声によってかき消される。クランの猛犬を召還していたルーンの術式は、ランサーの作り出した『城』はこれで完全に破壊された。ランサーはそれを止めなかった。無理に介入しようと仕掛ければ、ルーンの代わりに破壊される事になっていたからだ。
「これで終わりだ。戦闘向きのルーン魔術を扱う魔術師は多くいたが、故に対策を取りやすい」
「けっ。そこらの魔術師と同じ戦法で対処されちまったら溜まらねえ」
アーチャーが変わったのは、何も外見と武器だけではない。投影魔術を基本としていた無数の手数を誇っていた戦法はしかし、究極の一を持ったランサーとは相性が悪い。ただの投影では数度の撃ち合いで破壊され、切り札とも言える宝具の投影はある程度の時間を要する。アーチャー自身の神懸かりな投影魔術のせいで、それは隙と言うには短すぎる猶予だが、それでも今の自分ならば、展開するルーンの術式を上手く使い、投影しようとするその隙を穿つ事は不可能ではない。
だが、反転したアーチャーは己の両手に握られた二挺の銃剣をもって、それらを突破した。遠距離武器へと切り替えた事で戦闘距離を変化させ、猛犬には近接戦闘を、ランサーには遠距離での射撃で対処し一瞬の隙を突いて弾丸をルーンの術式へと撃ち込む。
投影魔術の隙を消え去っても、ランサーの『城』を崩すのは容易ではない。普通のサーヴァントならば、アーチャーはおろかトップサーヴァントであっても無事では済まされない状況。しかしアーチャーは無傷だった。それは一切の傷を負っていないという訳ではなく、傷が無くなったという意味での無傷だが。
「クラスが変化した訳でもねえのに、随分とふざけた再生機能を持ちやがる。俺みたいに若い頃って訳でもねえようだな。どんな仕掛けをした」
「敵にわざわざ教える程、君のように若くはないな。」
「は!そうかよ」
ランサーは己の持つ槍に、属性を付与させる。自身の最も得意とするルーン。ルーンを施した鉄槍は蒼白い炎を纏いながらも、槍そのものを溶解させる事は無い。火の中でも特殊な傾向を持った、『浄化』に特化した火。本来ならばドルイド系統の魔術だが、クーフーリンは迷宮の魔術礼装を使う事で疑似的に再現していた。
「ならよ、こいつはどうだ!」
一穿。神速の踏み込みから繰り出す槍は、容易にアーチャーの心臓を穿つ。浄化作用を持った特殊な炎がその身体を這い回り、刻まれる呪詛や魔の性質を焼き払おうとし、消えた。
「無駄だ」
近距離からの斬撃。それを寸前で回避したランサーに向け、アーチャーは至近距離の銃撃を見舞う。流れ矢の加護が機能しない距離。これも元のアーチャーはしなかった行動だ。
「やるじゃねえか」
しかしランサーはそれすら回避する。ケルト最速の戦士は加護で戦いに勝った訳ではなく、自身の戦闘能力で生き残ったのだ。ランサーは突き刺さった槍を引き抜かずギリギリの回避で躱す。自身の得物に固執していれば勝負は決していたが、恐れを知らぬケルトの戦士はそのまま距離を取るのではなく、相手の側面、背後へと瞬時に移動しその背へと手を置いた。
「アンサス」
ルーンの魔術が起動するのと、アーチャーの銃剣から弾丸が発射されるのは同時。速度では数段階の遅れを取るアーチャーは、未だに前方へと銃を向けている。処理の遅れた機械のように反射的に行った無駄な動きか?否だ。
人間では扱えきれない程の火薬を使った二丁の銃剣は、発砲の反動をもろに反映させる。サーヴァントであっても容易には扱えない銃の反動を、アーチャーは方向転換のエネルギーとして扱う。一時的にランサー並の速度で背後へ振り返りながら、飛び下がろうとしたランサーを追撃した。
瞬時にランサーは自分の行動を決定していた。回避をするが、遅い。故に己の右手で斬撃の矛先を微調整し、致命的な損傷を回避する。それと同時に左手で鉄槍を引き抜く。
後方へ下がろうとしたランサーを狙い撃とうとアーチャーは引き金に指をかけたが、起動したルーンの術式によってそれを阻まれる。『浄化』等の生易しいモノではなく、純粋な高熱を纏った炎は、既に背中から身体へと燃え移っている。防弾加工された銃剣すらも溶かす温度を持った炎に燃やされながら、アーチャーは機能停止した機械のように立ち往生した。
「忙しいな。全く」
まるで自身の状態を意に介さないような声音で呟き、再度投影を試みる。威力を犠牲に強度を固めた銃剣を投影し、己の胸の先、背中にあるルーンの術式へと狙いを付け、迷うことなく引き金を引いた。
ランサーは舌打ちし、次の打開策を練る。異常な戦い方だった。果たして自身の戦っているのはサーヴァントか、化け物か。異常が正常であるこの迷宮内でも、アーチャーは異端と言っていい。どんな仕掛けかは全く不明だったが、少なくとも迷宮の影響でこうなった訳ではないだろう。
「気色悪い。怪物退治は結構やってたが・・・・・・お前みたいな奴は初めてだ」
「そうだろうな。アルスターの大英雄、日の光を浴びた英雄様は、薄汚い小間使いなどとは出合わなかっただろう」
「・・・・・・てめえ、まさか」
ランサーが相手の正体を思い当たった瞬間、迷宮自体が大きく振動した。アーチャーが作った罠か?それは違うと瞬時に断定する。目の前にいるアーチャーも予想外の『攻撃』に対応していたからだ。
二人は殆ど同時に跳躍し、壁面に槍と銃剣を突き刺す。さっきまで平面だった番人の決戦場は、足場諸共音を立てて瓦解していく。ぽっかりと作られた穴は、底が見えない暗黒に染まっていた。
「貴様の仕業か」
「知らねえよ。俺の仕業でもねえし、ウチの仕業でもねえ。一体何だあの穴は?」
アーチャーの言葉にランサーは首を振って否定した。ある程度迷宮の構造を理解している彼にとって、この下がどうなっているかは理解している。迷宮の主、管理者のいる最後の関門。しかし今見える下層は深淵とも言うべき底。まさに深層と言うべき有様になっていた。
「まさか・・・・・・師匠の言っていたアイツか?」
「その通り。私だよ」
直ぐ耳元で囁かれた言葉に、本能的にランサーは槍を振り抜こうとした。しかしその行動をする前に、既にランサーの身体は奈落へと落下していた。
「く、てめえ!」
突き刺さった鉄槍を引き抜く暇も無い。身一つで墜落するランサーは、咄嗟にルーン魔術を行使して重力に抗おうとした。だが自身の身体を落とそうとしているのは重力だけではない事に気付く。穴の中は魔術によって重力操作を施されており、下手に抵抗すれば自分の身体が真っ二つに裂ける可能性があった。
故にランサーは抗うのを止め、少しでも落下姿勢を改善するべく空中で身を捻る。サーヴァントの身で高低差による落下死は本来あり得ないが、果たして落ちた先がどうなっているかは分からない。
「掴まれ」
殆ど霞がかった声は、上からだった。ランサーは上から一本の線が迫ってくるのを見た。攻撃ではない。ランサーの身体の直ぐ横を通過していった線は地表へと突き刺さる。さながら罪人を救う蜘蛛の糸を、ランサーは落下しながら握りしめ勢いを殺す。
地表へと殆ど墜落するように着地したランサーは、瞬時にルーンの術式を展開し己の安全圏を確保した。もしも身一つで落下していれば、サーヴァントであっても重傷を負うよう魔術的に仕掛けられていた。重傷の身を追撃するべく作動する罠が無いとも限らない。その予感は的中し、着地した物体に向けて自動的に攻撃するよう施されたゴーレムが起動し始める。
しかしそれらは上空からの銃撃までは想定していなかった。魔力に反応して燃焼する火薬を用いた特殊な弾丸は、鋼鉄以上の強度を持つゴーレムの身体を容易く破壊する。ろくな行動ができぬまま土塊へと戻ったゴーレムを尻目に、ランサーは上空からゆっくりとセーブワイヤーを伝って下ってくるアーチャーを見た。
「助けた、何て思うなよ。俺一人でも何とかはなったぜ。で、まだやるか」
「生憎狂犬と違って流動的な状況には慣れている。まだやると言うなら相手になるが、双方に利益があるとはおもえんがな」
「はっ。人を犬呼ばわりする輩に取ってはそう見えるだろうよ・・・・・・ああ?」
ランサーは、己の耳に手を当てる。そんな仕草をしなくてもマスターとの『会話』はできるが、思わぬ命令に思わず耳を疑ってしまった。
「本気かよ。俺は番人だぜ。よりにもよってこいつと・・・・・・ああ、分かった分かった。ったく人使いが荒いねえ」
吐き捨てるようにランサーは言ったが、その顔に嫌悪や恐怖は無く、むしろ笑みを浮かべていた。門番の仕事は性に合わない。むしろ獲物を追いかける猟犬か、劣性を覆す戦士の方が適している。そういう意味で、ランサーはむしろ心躍らせていた。
「聞いて驚け。ウチの主からの命令だ。お前と協力して、こんな事をした輩をぶちのめしてこいだとさ」
「貴様と違って、話の分かるマスターだな。とはいえ人選は少々傷がある。人手不足か」
「言ってろ。とにかく休戦だ。業腹だがお前の目的も、ある程度重なっってるんだろ」
「まあ、そうだな。俺の雇い主の命令には重なる所もある」
ランサーはそれについて詳しく問いつめたかったが、瞬時に思考を戦闘へと切り替えた。ゴーレムの破壊を関知したのか、階層にいた幻想種が集まってきている。その中にはただの雑魚だけではなく、強大な存在を発しているのも少なくはない。
「全く何でコイツなんだ・・・・・・おい、何でも良いから槍を出せよ。このままじゃつまらねえ魔術一つで戦わなきゃならねえ」
「そのつまらない魔術とやらで槍を出さないのかランサー」
「あのルーンは槍を出してるんじゃなくて、予め隠してた槍を出してただけだ。俺の自作も、あれで打ち止めって事だよ」
「成る程。道理で雑な作りと言うわけだ」
そう言うと、アーチャーは手をかざし投影を行った。作り上げられた槍を、そのままランサーへと投げつける。常人ならば容易に刺し貫く槍の速度だが、ランサーにとってはただできた槍を投げてよこしたに過ぎない。簡単にそれを掴みまじまじと見る。
「偽物でも良いから俺の槍にしてほしかったんだが・・・・・・こりゃあまた」
「一時的共闘だ。自分の作った槍に刺されるのも困る」
「マックールの小僧の・・・・・あいつか。女難とかけてんのか」
投影された
「イヤなら返してもらおう。何も無償提供すると言ってもいない」
「誰が返すって言ったよ?まあ『本物』は良い槍だろうさ」
ランサーは軽く槍を振り回し、手応えを確かめる。既に近付いてくる殺気は十分に多い。無駄話はもうできないだろう。
「俺が前衛。お前が後衛。それで良いな?」
「ああ。つまる所俺は、目の前にいる奴を撃てばいいと言うことだろう」
「抜かせ。お前の弾なんざ当たるかよ!」
最後の皮肉を返すと、ランサーは一息に踏み込む。青と黒の軌跡が、幻想種達を殲滅せんと牙を剥いた。