アルカトラスの第七迷宮、その深層には多くの幻想種が存在している。
各層に幻想種を補給するという名目上、その数と種類は無数におり、踏破するには例えサーヴァントであっても困難を極める。足を踏み入れた者をモノへと『加工』するための補給庫、深層に足を踏み入れた時点で、その命に平穏な生も、残酷な死も訪れる事は無い。
そういう意味で、ファウストゥスは正に深層の有様を体現していた。足を引きずりながら歩く様に迷宮の管理者としての威厳は一切なく、頬は痩せこけ高貴な衣服は引き裂けグロテスクな内臓を曝け出していた。胸にぽっかりと空いた穴は、己の召喚したサーヴァントに裏切られた結果だ。
自身の死を否定し、己の全力を代償に勝ち取ったのは無味な生だった。あった筈の霊核は三個とも奪い取られ、敗者は深層へと逃げ込んだ。それはあのサーヴァントにとっては逃亡にすらなり得ない行動だったが、しかし追手は来なかった。当たり前だ。彼女、スカサハの狙いはあくまで自身の霊核であり、ファウストゥスの命ではない。今の彼はそこらの幻想種と同じ程度、スカサハにとって羽虫同然の存在にまで成り下がった。放逐ではなく、無関心なのだ。今の自分は。
残った物は何もない。しかし、ファウストゥスは歩む。深層内の幻想種と戦いできた傷から血が滴り、通った道に血の絨毯を造り上げていく。それはファウストゥス本人のモノだけではない。彼の両手で握り潰され、事切れた幻想種、食人妖精達の亡骸から流れる血でもある。
「まだだ、動け」
ファウストゥスは簡潔に言った。今まさに生命を終えようとしている自身に向けた言葉だった。身体は最早満身創痍を通り越した傷だったが、彼の瞳は爛々と輝き、獰猛な肉食獣のように瞳孔が収縮している。
「このまま終わるつもりは無い」
食人妖精の血を啜れば、ある程度生き長らえるだろう。しかしファウストゥスはそれを良しとしなかった。この血は生きる為の血ではなく、勝つための血なのだ。
「仮にここで倒れるならば、私は真に不要な存在だったのだろう」
自分は舞台にすら上がれない半端者と言う訳だ。だが、それが間違いだとファウストゥスは否定する。自分は明確な脅威で、畏怖されるべき存在なのだ。自分を生かしていたことが、あの女傑の敗因とならなければならない。
ゴルゴダの丘へ向かう救世主のように緩慢な動きで、ファウストゥスは目的の場所へと辿り着く。少しだけ開けた場所には、石を積み重ねただけの『祭壇』があった。その周囲に食人妖精達の血を塗りたくっていく。それは魔法陣の中でもかなり簡易的な降霊儀式であり、今のファウストゥスにできるギリギリの魔術だった。
「あの女傑の読みは正しい。仮に私が深層に潜伏し、次の聖杯戦争でサーヴァントを召喚しようとしても敗北は必至だ」
サーヴァントの召喚はできる。しかし、今のファウストゥスには高位の英霊を招き寄せる為の触媒が存在しない。神霊たるスカサハはおろか、この迷宮を生き残るには相当の戦闘力を備えたサーヴァントでなければならないからだ。だからと言って触媒無しの召喚は論外。マスターの相性などどうでも良い。己の命令を果たせるだけの強力な木偶人形で良い。自分が召喚したいのはソレだけだ。協力的な無能も、規格外の反逆者も必要無い。
もしこの場に魔術師がいればそれを聞いて呆れただろう。満身創痍の幻想種もどきが、殆ど死に体で言っているのだ。それが遺言となってもおかしくはない。
「だが、『彼女』の存在までは予想外だっただろう。私も認識の外だった。まさか、深層に人が潜伏していたとは。私の探知野も穴だらけのようだ」
石造りの祭壇で、横たえる彼女を見てファウストゥスは目を細める。顔を隠す為のフードは取り払われ、素顔が露わとなった少女。彼にとっての不運がスカサハだとするのならば、幸運は彼女だ。深層内でお互い疲弊していたとはいえ、会えたのは幸運、勝てたのは奇跡、相手の素性を知れたのは文字通り
「これほどの『聖遺物』がこの地球上に存在する、その運命を祝福しよう」
血の気の通らない皮膚を僅かに紅潮させながらも、ファウストゥスは儀式を開始する。ここまで来て体力切れで力尽きる失敗。そんな結果になれば運命に対する冒涜だ。妖精を殺したとなれば群れとなって報復される恐れもある。迅速に事を起こさなければならない。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
魔法陣から僅かな燐光が漏れる。それは成功へと近付いている証。ファウストゥスは口角を吊り上げるも、耳朶から送られた音に顔を凍り付かせた。
『みつけた』『みつけた』『みつけた』『ちをながしてる』『しにそう』『よわそう』
振り返るまでもない。食人妖精達だ。仲間思いでもないくせに執拗にファウストゥスをつけ狙うのは、弱肉強食たる自然の倫理を現しているかもしれない。
「
ファウストゥスに取れる手段はただ一つ、詠唱を続ける事のみ。仮に詠唱を中断し、食人妖精達を排除しようとした所で、この身は食人妖精達の見立て通り瀕死。勝てる見込みはない。
久方振りに感じる恐怖を背後に感じながらも、ファウストゥスは決して詠唱の速度を上げたりしなかった。詠唱とは即ち精神の高揚によって魔術を完遂させる為の手段。ここで精神に揺らぎがあればどんなイレギュラーが起こるか分かり得ない。
「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従、うならば!応えよ、誓いッツ、を此処にッ!」
『たべる』『おいしい』『ころす』『ころす』『しね』
背後に纏わりついた食人妖精がその牙をファウストゥスへと突き立てる。命が文字通り削り取られる感覚を全身で味わいながら、ファウストゥスは歯を食いしばり耐える。まだだ。まだ終われないのだ。こんな所で終わる筈ではないのだと。
「我は、常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷くっ、者・・・・・・汝、三大の言霊を・・・・・・ま、とう七天」
しかし視界が赤く染まり、ファウストゥスは冷たい地面へと倒れた。痛みが消える。霞がかった視界で喰い千切られた足を弄ぶ食人妖精も、闇へと染まっていく。
燃え上がるような熱を、ファウストゥスは感じた。それは崇高な理想や己の野望からはかけ離れた本能。ただ己の生存のみを望む感情が、爆発的に自身の体から噴き上がる。
ふざけるな。自身の結末が、こんな所?こんな所で死ぬ?そんな筈はない。終われないのだ。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
殆ど絶叫に近い声で、ファウストゥスは叫ぶ。
瞬間、空気すらも沈む深層で、暴風が吹き荒れる。神秘の具現。魔法陣が成功した証。そしてファウストゥスの切り札。英霊の中で、彼の、いや彼女の名を知らぬ者はいないだろう。それほど高位の存在なのだから。
「問おう。貴方が、私のマスターか」
その日、迷宮で運命と出会う。
「この深層で、私は召喚された。まさかサーヴァントとして顕現するとは思わなかったわ。ま、聖杯なんて興味は無いしやる事も無かったからここで貴方を待っていたのだけれど」
ステンノと共に移動しながら深層について説明を聞いている際、ノーマは己の核となる部位が高鳴っているのを感じた。彼女の望みである、姉との再会が果たされたからだろう。しかし、これはどちらだろう。
「聞いてるのかしら?」
「あ、すいません。ちょっと考え事を」
「・・・・・・へえ」
ギラリ、とステンノの眼が妖しい光を帯びる。メドゥーサの記憶がフラッシュバックして蘇り、思わずノーマは背筋を凍らせた。姉に逆らえばどうなるか、分かっているからだ。何とか満身創痍からは遠のいたが、それでも余談を許さない状態。ここで吸血なんてされたら再び瀕死がちらつく。
「考え事、ねえ?人の話、いいえ女神の話はちゃんと聞くっていうのを教えてもらわなかったのかしら。それともメドゥーサがそういう風にしているのかしら?」
「い、いいえ!そういう意味じゃありません!あまりの美貌に見とれていました」
「あら、そう?それなら仕方ないわね」
危なかった・・・・・・と胸中でホッと一息つく暇もなく「じゃあ対策が必要ね」とステンノは言葉を繋げた。
「これでもしておきなさい。女神の身体は常人には毒よ。見続けたら目、潰れるから」
差し出されたのは、夢の中でメドゥーサがライダーの時にしていた眼帯だった。強力な魔眼すらも抑制する作用を持つ魔眼殺しは、ノーマのような低位の魔眼を持つ者には不要な代物。
「いいえ、私には」
「良いわね?」
「あ、はい」
しかし
「すみません。やっぱり自分には」
「大丈夫よ。メドゥーサが教えてくれるわ」
断言するステンノの声は、やや強制的だった。ここで押し問答をしていても始まらないので、ノーマは足を一歩踏み出す。深層の中で、小さな足音が断続的に響く。
目を瞑って歩けと言われれば、常人ならば数歩進む内に何らかの障害物にぶつかるだろう。しかしノーマの歩みは最初こそ安定していなかったが、視界があった時と顕色無い段階にまであっという間に到達した。歩きながら、何故こうもはっきりと視えているのか、ノーマは首を傾げる。真っ暗な視界では、耳朶に触れる音と微弱な匂い、そして肌に触れる空気の流れが鮮明に『視えて』いる。
「どうかしら?これならよく視えるでしょう」
「不思議、ですね。これが彼女の見ていた視界なんでしょうか」
「私には分からないわ。ただ妹と同じように、貴方もソレができる。という事はやっぱりメドゥーサは貴方を特別に思っているみたいね」
「妹さんとは、仲が良かったんですね」
「そうね。愚かでノロマで要領が悪くて背だけが伸びた頭の悪い大きな妹だっただけど、まあ召使いくらいにはなったわ」
思わずノーマは閉口する。本当に仲が良かったのだろうか。考えたくは無いが、メドゥーサがそう思っていただけで、ステンノは妹の事を召使い程度にしか思っていなかった可能性もある。親友を召使呼ばわりされるのは、温厚なノーマであっても許し難い。
「でも、駄妹がここに来ていれば私は殺されていたでしょうね」
「え?」
「メドゥーサの最後を見た者として、どうだった?」
「それは・・・・・・」
最後、と言うのが肉体としてか、それとも精神としてか。どちらにせよ全うな死に方でもなく生き方でもない。ゴルゴーンとして堕ちた彼女は、姉に会うという目的すらも忘れ、迷宮ごと取り込む魔物と化していた。万が一そんな状態で姉と会ったとしても、自身の縄張りに侵入してきた異物程度の認識だろう。
「
「生前って、まさか」
「逸話に残っているのは妹の最後だけかしら?まあ無理はないわね。私達は、妹に取り込まれたの」
言葉が出なかった。少なくとも第二階層の小屋で話したメドゥーサは、姉との再会だけを望んでいた筈だ。果たしてゴルゴーンへと至った彼女が何を望んだかは分からないが、少なくとも姉達を憎んでそんな事をした訳ではない。
しかし同時に、納得してしまう部分もある。ノーマはステンノを眼帯越しに見る。心の中にある彼女は再会の喜びと同時に、抗いがたい悦びも備えている。それが食欲だと考えれば納得せざる終えない。何故なら自分の中にいるのは
「だから貴方がしていた考え事も、別段おかしな事ではないわ」
心の内を見透かされたように、ステンノは言う。果たして身内に殺された本人は、妹と再会して喜ぶのだろうか。自身の死因ともなった妹から命を提供して貰った自分を、直視出来得るのか。ノーマには分からなかった。ゴルゴーン三姉妹と言うのだから単純に仲が良いとしか思っていなかった。こうまで複雑に絡み合った関係とは。
「安心なさい。少なくとも私がどうかする事は無いわ。貴方が何かしてこない限りね」
「私が?」
「あら、気付かないの?妹は貴方の中でまだ生きている。どんな和解をしたかは知らないけど、神代の生命体に現代の理屈は通じないわよ。精々乗っ取られないよう注意しなさい」
そろそろ目的地よ。とステンノが次いで言った事で、この話は終わった。しかしノーマの中では更に複雑な問題が入り乱れる。メドゥーサは自分の中で生きているのは知っていたが、ゴルゴーンとなって暴走する?夢の中で和解していたと思っていた。未だに、彼女の影は自身の内に残っているのか。乗っ取られば最後、今度こそノーマの意思は消えるだろう。
そんなノーマの思考を知ってか知らずか、ステンノはそれ以上何も言わなかった。果たして、それが彼女の優しさなのか、それとももがき苦しむ人間を見物しているのかは、今のノーマには分からない。少なくとも、危害を加えるつもりが無いだけはありがたかった。
「さあ、ここが上へと続く道。私が案内できるのはここまでよ」
ステンノの誘導の元、ノーマは最終的に一本の道へと辿り着いた。ここまで左や右とまさに迷宮のような小道が乱立しており、単独で歩き回っていたならそれだけで命が幾つあっても足らないだろう。道中の幻想種はステンノの支配下にあると言ってよく、見つかったとしても『魅了』されて動かない幻想種の横をステンノと共に通り過ぎるというのが多かった。
「ステンノさんは、上には行かないんですか?」
「別に?前にも言ったけど聖杯に興味は無いし。わざわざ外に出てもやる事も無いわ。聖杯戦争が終わるまで気楽に過ごすつもり」
何処か突き放すように、彼女は言った。そうまで言われてしまえば、ノーマに言うことは無い。果たしてメドゥーサはここにたどり着いて何をするつもりだったのか、彼女を守るのか、それとも取り込むつもりだったのか。だが仮にここにメドゥーサが来たとしても、ステンノは同じ事を言うような予感めいたモノを感じた。姉妹や兄弟がいないどころか身内の記憶すらないノーマにとって、複雑な姉妹仲に首を突っ込むべきではないと感じ、それではと一歩ステンノから離れようとし。
反転しステンノへと飛び掛かった。
少女ほどの身長と体重を持ったステンノは反応すらできず、硬い地面に後頭部を打ち付ける。苦情の一つでも言おうとステンノは覆い被さる
「惜しい惜しい。もう少しで苦しみなくその命を刈り取れたモノを」
「貴方は・・・・・・」
「邪魔だ、不純物」
まるで手についた泥を叩き落とすように、男は手で貫いたノーマを横へ振り落とした。手についた異形の血液をハンカチで丹念に拭き取り、呆然としたステンノへと恭しく頭を下げる。まるで芝居がかった仕草は、相手に礼節と品位を思わせる行為だがステンノの眼には別の意味を抱かせた。毅然とした振る舞いで力量差を分からせるような、相手に絶望感を抱かせるような、生前の下卑た貴族によく似た仕草。
勿論、女神はその程度で眉を潜ませる事すらない。微笑を持って相手を見れば男は己の命すら質に出し、女ならば女神と人の差を嫌にでも思い起こさせる。
「女神ステンノよ。此度の聖杯戦争で
「『献上』?女神に対しての口の聞き方がなっていないわ。随分と大きく出たわね。食人妖精達に恐れ、逃げ回っていた哀れな男」
ステンノはパチンと指を鳴らす。それだけで周囲から燐光を発する妖精達が現れた。本来、ステンノは女神という高位の存在だが戦闘能力は無い。ただ『美しい』というだけに造られた女神は、人々に蹂躙されるだけの存在で、サーヴァントとなってもその本質は変わらない。だが他ならぬ『魅了』によって、ステンノはこの深層に君臨している。彼女の意思に沿って、深層の幻想種達はどんな命令でも実行する手足となるからだ。
歴然とした数的不利にも、男は、ファウストゥスは一切の動揺を示さなかった。ステンノはそれに対して眉を潜ませる。この男が破れかぶれの特攻に来たのなら、捨て身の必死さを滲ませるだろう。しかし彼は不敵な笑みを貼り付かせたままステンノを『見ている』。魅了される事無く。
「流石は女神。幻想種であっても貴方の美貌には目を奪われるでしょう。ですが、世界は広いモノです。美というのは何も一種類ではありません。その本質は多岐に渡る。人の臓物を好む快楽殺人者もいれば、人の苦悩を愉悦とする破綻者もいるでしょう」
「つまり、貴方がそれと?」
「いいえ、いいえ。モノの例えという奴ですよ。ただ私には、もう貴方の『魅了』は効きはしない、それだけの存在になったという事です」
大袈裟な仕草で、ファウストゥスは手を挙げた。周囲の壁面が変形し、擬態していたゴーレムがゆっくりと起動する。数は妖精達よりも少ないが、その一つ一つが下級サーヴァントに匹敵する実力を備えた存在だ。
「そしてこの土くれにも、貴方の美しさを理解できない。貴方相手には相応しい人選だ」
無機質の塊であるゴーレムには、神代の美貌は通じえない。ここでステンノは理解した。前までの妥協と生存のみで動いていたこの男は、今は不気味なまでに懐の深い男になったのだと。これまでの態度はこちらを油断させる罠ではあるまい。何等かの幸運が、彼をここまでさせたのだ。
だからと言って、ステンノはここで肯いて首を与えるような女ではなかった。
「そう。女神の美しさも理解できないような存在なら、消えてしまっても構わないわね?」
微笑のまま、食人妖精達に指示を出す。あの男を殺せと。その命令に全ての命を捧げんと妖精達が特攻し、それをゴーレムが踏みつぶす。阿鼻叫喚の地獄絵図は、無音だった深層を戦場へと一変させた。
「デカいな」
「ああ、大きい」
ランサーの呟きに同意するように、アーチャーは肯いた。戦闘から数時間。数分ごとの小休止はあるものの、戦場は膠着状態だった。ランサーとアーチャーの布陣は、即席の協力関係とは思えない程幻想種の軍団と拮抗している。迷宮の番人に匹敵する戦闘力を備えた幻想種達を前に一歩も譲らないランサーの苛烈な攻めと、アーチャーの身体の損傷を無視した銃撃はトップサーヴァントの宝具にも匹敵する攻撃性を備えている。それでも尚『拮抗』していたのは立ち塞がる幻想種が『壊滅』を目的に攻めるのではなく、二騎のサーヴァントを『拘束』させる為に戦っていたからだ。無味で単調な戦いにランサーが嫌気をさしはじめた頃、『ソレ』の覇気を感じ取る。
「ここまで防御に徹してたのは、本命登場までの時間稼ぎってやつか。味な真似するじゃねえか」
「此方とは別に動いている所があるな。敵は二勢力以上と戦闘を行っているらしい。戦力を分散させて各個撃破ができる程、向こうは戦力的に潤っているようだ。何処かの誰かと違ってな」
「言ってな。雑魚をどれだけ集めても意味ねえだろうが」
「その通り。どれだけ傀儡を出した所でサーヴァントに対処できるのはサーヴァントしかいない」
瞬間、ランサーは横っ飛びに跳躍した。前方から魔力の塊が通過しさっきまでいた地面が音を立てて崩壊していく。削り取られたように一直線に刻まれた地表は、まるで限定的な嵐が通った跡のようだった。
「風の魔術か。不意打ちとは随分と余裕のない事をするヤツだ。おい、出て来いよ。大方
「その程度のサーヴァントならば一撃で粉砕するつもりでしたが・・・・・・良いでしょう。
闇から進み出たそのサーヴァントを前にして、ランサーは口角を吊り上げる。殺意が鎧を着れば、このような敵が訪れるかもしれない。漆黒の鎧を身にまとったサーヴァントは、異形な気配を滲ませる馬へと跨り槍を地面へと向けている。敵の目の前だというのに構えずに馬上越しに二騎の敵を見下げるのは、相手に実力差と恐怖を抱かせる上等手段か。
悪くない。少なくとも実力は申し分なし。化物退治は得意だが、趣味ではないランサーには、迷宮では機会に恵まれないサーヴァント戦にありつけたのだから。
「そちらは
「おお、野蛮なのも認めるしこいつが卑劣なのも事実だけどよ。余裕は十分にあるぜ。一つ階層を占領しただけで粋がるそっちのマスターを殺す程度にはな」
「そうか?それにしてはそこの弓使いはさっきから先手を撃とうと狙っているが」
兜越しに光る目が、アーチャーを視る。それに肩を竦めたアーチャーは、瞬時に三発その頭へ叩き込んだ。槍を動かす事も避ける事もせず、そのサーヴァントは槍を『起動』させる。魔力の渦が練り上がり、纏う波紋だけで弾丸を弾き飛ばし、迷宮を振動させるその武器を、アーチャーは解析した。
「神造兵装か。厄介な代物を」
「そういう貴様は火薬を用いた砲か。品が無いな」
「生憎品性の欠片も無くてね。こちらは王や貴族には疎い下劣で野蛮な集団と思ってくれれば良い」
「おい、ちゃっかり俺を加えるな」
「おっとすまない。そう言えば貴様は神の血を引いているのだったな。人間味がありすぎて忘れていたよ」
アーチャーはそう言いつつも、最小の損害で勝てる勝機を探し出す。負ける事は事実上アーチャーはあり得ないが、それは『勝利』を約束されている訳ではない。サーヴァントのスペックとしては破格のプラスが働いているが、その程度で勝てているならばさっきの不意打ちで殺せていた。間違いなく目の前のサーヴァントはトップクラス。世界そのものを背負う王の覇気を纏っている。
「我が名は、アーサー・ペンドラゴン。嵐の王、ワイルドハントとして、そしてこの聖杯戦争ではランサーのクラスで召喚に応じた者」
視界に一瞬だけノイズが混じり、アーチャーは眉を潜める。アーサー・ペンドラゴン。西洋にて知らぬ者などいないという騎士の中の王、通称『騎士王』。アーサー王と言えば伝説の名剣エクスカリバーが有名だが、馬上での戦いにおいては両手剣よりも槍が重宝されていた時代だ。故に、アーサー王の名槍とも言える存在は勿論存在する。ランサー適正は十分に備えている。ブラフの可能性は低く、真実このサーヴァントが騎士王ならばさっきの名乗りも信憑性が高い。
問題は、そういった情報よりも先にノイズが走った事だ。肉体の限界が早くも来たか?いや、まだ『依頼』は終えていない。雇用主の依頼は絶対。それまでは絶対にアーチャーは死なない。肉体のコンディションは
「どうでも良いな。そんな事は」
「強気に出たなアーチャー。俺もまあ名乗ってくれたことは有難てえが、別段応えるつもりもねえ。高潔な騎士様には悪いがな」
「構わん。これから死んでいくモノに、せめて打ち取った者の名を刻んだまでの事。そちらの真名を聞く必要もあるまい」
「そうか・・・・・・なら、おっぱじめるとするかあ!」
■ロウ。貴方を■■■■。
再度視界を遮るノイズを振り払い、アーチャーはランサーに続いた。
ファウ何とかさんの出番はまだ終わらんさ!
グレイファンの人はごめんなさい。作者は事件簿を知らないんだ。本当にすまない。
残念だがグレイさんの出番は極限に抑えて代わりに乳上オルタにしてみた。
バストサイズは・・・・・・宿主基準です。