「クソっ、おい、粗悪品じゃねえのかこれ?直ぐ折れるぞ」
「持ち主の技量が知れるな」
「造り手の力量もな!」
悪態を吐きながら、ランサーは折れた槍を放り投げた。瞬時に後ろに手を回し、飛んで来る新造の槍を掴んで止める。
既にこのやり取りは五度に渡って行われていた。お互い口では相手を罵るが、嫌というほど知り尽くしている故に疑念は存在しない。ある意味で、二人は技量において双方に絶対の信頼を置いていた。ランサー、クーフーリンが使い慣れていない槍に四苦八苦している訳でも、投影するアーチャーがわざと脆い武器を投影している訳でもない。相手の問題だった。
ランサーは
「どうした。ランサー。逃げてばかりでは槍兵の名も泣こう。馬上からではその身も小さく見えるぞ」
黒き鎧を纏った槍兵は、跳び回る槍兵を馬上から見下ろす。放つ言葉に嘲笑の色は無い。殺意だけが込められ、その思いが魔力となってランサーを襲う。
「抜かせよ。ランサー・・・・・・ああ、言いにくい。騎士王で良いか?」
「クラス名で呼ばないのか。余程槍兵としての誇りがあると見える」
「うるせえ。ランサーランサー言ってたら誰の事か分からねえだろうが」
図星を突かれ、ランサーは内心ヒヤリとするモノを感じていた。同じ
相手は、強大だ。
「貴方もだ。アーチャー。火薬を用いて音を鳴らすだけならば取り柄ならば、道化の方がマシだろう。最も、私は道楽を好みませんが」
「フン。言ってくれるな」
ランサーの後方、弾丸を再装填していたアーチャーは自嘲気味に笑い。引き金を引く。魔力に反応し燃焼を施す火薬が爆発し、射出された弾丸は寸分の狂いなく黒き鎧を貫かんと殺到し、魔力の波で軌道を狂わされ明後日の方向に穴を作った。
「同じ事を何度も試す。貴方のソレは努力ではなく、怠惰だ」
「生憎鉛玉を撃つ事しか才が無いものでね。そういう君は、同じ技を連発しているようだが?」
「相手の技量を見て判断しているだけです。貴方の技量では聖槍を起動させるだけで事足りる」
アーサー王が所有する槍。聖槍ロンゴミニアドはサーヴァントの武器ならば最強に類する宝具だ。未だに相手は『起動』のみ、その余波だけでアーチャーとランサーに拮抗するだけの余裕がある。それどころか相手はその場から動いてすらいないのだ。
真面目に返答する騎士王にアーチャーは苦笑しながらも、更にもう二発撃ち込む。突然の攻撃で倒される相手でもなく、またもや弾丸は弾かれ迷宮の壁へめり込んだ。
「同じ事を何度も」
「
瞬間、騎士王の周囲、弾丸がめり込んだ壁、床、天井が爆発した。アーチャーの投影魔術の奥の手、投影品の爆発は弾丸であっても適用される。刀剣のように面積の大きい物質では無いので攻撃には不十分だが、土埃は相手の視界不良を誘うには十分だ。
合図するまでもなくランサーが踏み込む。作戦など事前に話す時間は無いが、青き槍兵はできた隙をみすみす見逃すはずもない。神速の速さで粉塵舞い散るその向こうへと駆け出している。
「甘い」
粉塵が吹き飛んだ。ロンゴミニアドが唸りを上げて前方のランサーを撃墜するべく起動する。魔力が収縮し、砲弾のように放たれた。ランサーは跳躍し、それを何とか躱す。
「無駄な事を」
しかし、それは悪手だった。冑の中で騎士王は不服に眉を潜める。空中へと跳び上るランサーは隙だらけで、如何に人外のサーヴァントであっても物理法則には逆らえない。嵐を生み出す聖槍を上へ向ければそのままランサーは消し炭になるだろう。その身を守る紅槍は既になく・・・・・・。
「ッ!?」
初めて騎士王は手綱を握った。愛馬ラムレイは地面スレスレで飛来する紅槍を回避し、着地するランサーへと迫る。魔力放出に潜り込ませる形で槍を投擲したランサーは不敵な笑みで騎士王を見た。
「やっと動いたな。ありがてえ」
ラムレイの脚が止まる。その身体に纏わりつくのはルーン魔術による拘束。騎士王の攻撃から逃れながら造っていたランサーの罠だった。無論それは間に合わせの拘束で、騎士王の馬であるラムレイの動きを一時的に拘束したに過ぎない。しかし、それだけで十分。
「貰ったぞ。アーサー王」
「舐めるな!」
騎士王は動きの止まった数瞬に撃ち込まれた弾丸を、槍を振るう事で弾き飛ばす。不愉快だった。攻撃を受ける事に対してではなく、意味のない攻撃を受ける事に対してだ。一瞬の隙で動揺する相手だとでも思っているのか、その程度の策で勝てる相手だと思われている事に不快だった。
ラムレイが身震いし、展開していたルーンの拘束を振りほどく。ランサーはその場を動かない。アーチャーは、騎士王へと銃撃しながら駆ける。弓兵が接近戦を仕掛けるという無謀。しかし騎士王は、アーサー王はそれを笑わない。この弓兵は、この英霊はそんな無意味な事をしない。そんな保障も無い確信を抱いている。どちらにせよ何を仕掛けてこようが、真正面から粉砕するのみ。
「来なさい。アーチャー」
アーチャーはの返答は斬撃だった。銃の先端に取り付けられた剣という奇抜な武器だが、英霊の武器には相応しい威力を持つ。無論、その程度の異才で攻撃を受ける騎士王ではない。絶大な力を誇る神造兵装が、歪な投影品に劣る等あり得ない。槍と剣が衝突し、剣にヒビが入り、銃身が歪む。数度打ち合えば砕ける脆い武器だ。
「
だが、アーチャーは退かなかった。至近距離からの銃撃、斬撃を放ち武器が壊れれば再投影を瞬時に行うい騎士王へ食い下がる。騎士王も一切の手加減なく応じた。銃弾と嵐が荒れ狂い、迷宮が歪む程の力が縦横無尽に駆け巡る。
騎士王は相手の戦闘能力を見直していた。自分の推測ならば、アーチャーは自分を数秒抑える程度にしかならない。五秒もあればアーチャーの身体は砕けると見積もっていた。しかしそれは数十秒続いている。戦闘能力を見誤っていた訳ではなく、アーチャーの『主』まで推測していなかっただけだ。
「抑止力・・・・・・守護者か。成程、サーヴァントを相手にしていると思っていましたが。どうやら貴方は違うようだ」
霊長の守護者。生前に世界と契約を交わし、死後の自身を売り渡した人間であり、無辜の人々が生み出した顔の無い代表者、そして代行者。世界の守護と言えば聞こえは良いが、その実は世界に使役される奴隷に等しく、殺戮機械と言っても過言ではない。
「流石は聖槍の担い手。こちらの役割をよく理解してくれている。どうかね。世界と幻想を繋ぐ柱を持った騎士王。できればこちらの仕事を手伝ってほしいのだが」
「生憎、私は聖槍を『使う』モノではなく、聖槍を『担う』モノだ。嵐の王として、そして今はマスターを持つサーヴァント。貴方のような存在に理解はするが、協調はしない。職務を遂行したいのならのなら、力を以て示すが良い」
「ハッ!真面目な所は変わらずか」
何を言っている?ノイズだらけの思考で、一瞬浮かび上がった映像をかき消し、アーチャー次の手を打っていた。二挺の銃剣を連結させ、両刃の長刀を作り出し戦法を変える。連撃から一撃へとシフトチェンジした戦法は、どう見ても悪手。力勝負でアーチャーに軍配が上がる事は無い。騎士王の一撃と撃ち合えば、砕けるのは必至だ。
「チィッ」
砕かれる寸前の長刀を騎士王に向けて投擲し、アーチャーは初めて距離を取った。投影で武器を造る為の猶予時間は短い。しかし、騎士王には長い。ラムレイが嘶き、取られた距離を一気に縮める。アーチャーの投影が完了する頃にはその心臓を砕いている。遠目から伺っていたランサーが全速力でこちらに向かっているが自分はそれよりも速い。
「終わりだ。アーチャー」
「どうかな」
それがアーチャーの遺言だった。聖槍はその身を貫き、霊核を砕く。アーチャーは投影した銃剣を握ったまま、その最後を。
「終わりなのは君かもしれんぞ?」
アーチャーの遺体が声を発する。引き金が引かれ、至近距離からの銃撃が騎士王の冑へと突き刺さった。頭を覆う冑が無ければ即死していた傷を、落馬せずに騎士王は耐える。今も自分の槍で、アーチャーの身体は霊核諸共貫いている筈だ。彼に戦闘続行のスキルがあるのか、それとも単に往生際が悪いのか。
「姑息な真似を!」
槍を引き抜き、地面に落ちたアーチャーの身体をラムレイが踏みつける。落馬死の原因を身にもってその身に受けるアーチャーはしかし、引き金を引き続けていた。マトモに銃撃を浴びせられ、溜まらずラムレイが跳び下がろうとする。
「姑息ねえ。まあ小奇麗な騎士王様には似合わない戦法だったか?」
無手のランサーがラムレイへと飛び移り、馬上の騎士王へと拳を握った。槍の間合いではない超至近距離では、武器を持たないランサーの方に分がある。だからといってここでラムレイから降りれば最後、ランサーはラムレイを殺すだろう。騎士王はラムレイを駆け抜けさせながら、槍を持たない片手でランサーに応戦する。
「そらそら、どうした!?」
ラムレイの機動と、魔力放出で加速する馬上で、ランサーは横薙ぎに蹴りを放った。少しでもバランスを崩せば落馬死するような不安定な足場で、尚もこのサーヴァントは戦いの手を緩めない。防御する鎧越しでも骨が軋む音が聞こえ、騎士王は振り落とさんとラムレイに拍車をかける。如何にランサーと言えど、この状態で戦いを仕掛ければいつ落ちても不思議ではない。
「取りに行かせてもらうぜ」
「それはこちらの台詞だ。ランサー」
瞬間、騎士王が跳びあがる。跨る姿勢から、ラムレイの上へ足を乗せるランサーと同じ立ち位置を選んだのだ。思わずランサーは口笛を吹き口角を吊り上げる。
「良いぜ。流石は騎士王。こうでなくちゃあ面白くねえ」
鎧の防御など意味は無い。互いに一撃でも拳を直撃させられれば馬から振り落とされトドメを刺される運命だ。拳打が交錯し、紙一重の回避を繰り返しながら、両者は一歩も譲らず繰り返す。だが足場であるラムレイを操作できる騎士王に軍配は傾きつつあった。ランサーの攻撃には足場が揺れ、騎士王の攻撃にはピタリと収まる。後数秒で騎士王を倒さなければ形成は逆転し、落馬して踏みつぶされて死ぬだろう。馬上で危険な前傾姿勢を取ったランサーは、全体重を乗せる一撃を放った。
「チィッ!バレたか」
ランサーの焦りを汲み取った騎士王が、一呼吸早く回避し、反撃を放つ。顔面に直撃したランサーが、馬から離れた。慌てて手を伸ばしラムレイの背中を掴むも、即座に反応したラムレイが後ろ蹴りを放ち、数メートル先の地面へ吹き飛ばす。
「潰せ、ラムレイ」
地面へ転がるランサーへ、騎士王は無慈悲にラムレイに命令を促す。嘶きによる返答で、ラムレイがぐんぐんと疾走し、態勢を立て直そうとするランサーに接近していく。起き上がったランサーが騎士王を見る頃にはその距離は数歩分の距離しかない。だが、ランサーの目は獲物を喰らう番犬の如き形相で、騎士王を見ていた。
その違和感が致命的だと騎士王は気付き、ラムレイから飛び降りる。地面にランサーと同じように転がりながら、背後でラムレイの悲鳴を聞いた。
ラムレイの身体に刻まれた炎のルーンが術式を展開し、その身体を焼き尽くさんと燃え広がる。騎士王との拳打では、ルーンを刻む余裕等無かった。ただ一点、足場へ復帰しようとランサーがラムレイに手をかけた時のみは。
「・・・・・・迂闊。そもそも狙いは私ではなく、ラムレイか」
「ああ、良い馬だったな。足も速えし、ビビらねえ。ちと狂暴だったな。まさか蹴り落とされるとは思わなかったぜ。あんな暴れ馬にどんなのが乗っているかと思ったら、まさか女とはな」
激しい戦闘で半壊した兜を脱ぎ捨てれば、そこには年相応の女性の顔があった。アーサー王が女だったという常人ならば衝撃の真実を目撃しながらも、ランサーは動じない。英雄とは古い時代にいればいるほど、その輪郭が朧げになり、抽象化していく。アーサー王の時代に女戦士がいたかは知らないが、少なくとも英霊として召喚された実力は既に体感済みだ。
「だが、お前もちょっと召喚方法がおかしいな。どんな手を使ったかは知らねえが」
ランサーの皮肉を無視し、騎士王は聖槍を構える。魔力を練り上げ、対象に放出する遠距離攻撃はランサーではなく、今も燃え悶えるラムレイに向けての攻撃だった。身体に直接刻み込まれたルーンは、皮膚を引き裂かない限り効果を発揮し続ける。炎ともなれば数秒の効果で手遅れともなる傷で、事実ラムレイはそうなった。
「これで君の機動力は落ちた。戦場では先ず兵士の足を撃ち抜くのが常道でね。戦力的には半減以上の損失だ」
アーチャーがゆっくりと起き上がり、埃を払うかのように自身の血にまみれた服の汚れを落とす。自身の血で赤褐色だった衣服は元通りの黒へと戻っていた。聖槍で貫かれ、ラムレイに踏みつぶされた身体も同じように。
「・・・・・・不死、ですか。抑止力と言えど、それほどまでに世界からのバックアップを供給できるとは」
「ただ人使いが荒いだけだよ。途中離脱が許されない所でね。命が無くなればさっさと命を継ぎ足すし、足りない力は飽きもせず供給してくれる。まあでもこの形は特例だな。事例に合わせてこんな強化を施すのは初めてだ」
「貴方にとっては、いつも初めてなのでは?」
「・・・・・・クク、ハハハハハハハハッ!」
突如声をあげて笑い始めるアーチャーに、怪訝な表情でランサーは訝しむ。
「おい、大丈夫か?もしかしてアーチャーじゃなくてバーサーカーだったのかお前」
「ククク。ああ、すまない。確かに狂っている。まあどちらかと言えば壊れている、の方が正しいか。成程、腑に落ちたよ。どうにも私は、生前騎士王に会った事があるらしい」
「はあっ?何言ってんだお前」
今度こそ狂ったのかとランサーは眉を潜めるも、アーチャーの事を良く知る人物である彼は直ぐに思考を切り替えた。アーチャーの生前など、自分は『知らない』が、アーチャーの正体は知っている。アーサー王の時代と、アーチャーのいた時代は一致し得ない。ならば、どうやってこの二者は邂逅したのか。
「・・・・・・ああ、そういう事かよ。で、お前さんは思い出したのか?」
「いいや、知らないな」
アーチャーは即答した。ひっきりなしに視界を覆うノイズは、過去の記憶だろう。そこには自分と、彼女の記憶があるのかもしれない。もしかしたらそれは『自分』にとって重大な過去で、忘れてはいけない約束でも交わしているかもしれない。
だが、それがどうした?今の自分は何だ?抑止力の手足、守護者だ。知ってるような人がいる、それだけで銃を降ろせる甘い装置ではない。ならば結局、思い出そうが思い出さまいが、結果は変わらない。
アーチャーが銃を構えるのと同時に、騎士王が槍を構える。短い再会は、ただの無意味な時間に終わった。騎士王が眼を細め、何処か昔を見るような視線でアーチャーを視る。
「哀れですね」
「お互い、何となく相手を知っている程度、だろう。その程度の関係だよ私達は。恋の相手でもあるまいし、葛藤で槍が鈍るかね」
英霊にまで上り詰め、サーヴァントとして召喚されて尚残っている記憶を、何となく知っている程度、とアーチャーはわざと表現した。人を殺すのに決意も覚悟もいらない。必要なのは最適解な戦闘方法と、ほんの僅かな弾丸があれば事足りる。
「・・・・・・いいえ。私も、そして貴方もやるべき事がある。その為に障害となるのであれば、槍を取るだけです」
「それは良かった。無抵抗の敵を撃つのは躊躇いがあってね」
「嘘は結構ですよ。今の貴方ならば、友でも引き金を引くでしょう」
「ククク。気遣いは無用という事だな」
『■■ウは、私と似ています。だからあ■■の■■いも判る。このまますす■■ばどう■って■まうかも』
アーチャーが二挺拳銃を連結させ、長刀を造り駆ける。それに応じるように、騎士王も槍を構えて駆けた。ラムレイが消えた事で、その機動力は落ちたが攻撃に使う魔力放出を推進力に、ラムレイ以上の瞬発力を会得している。お互いの思考に無数の戦闘方法が羅列し、その中の最優手を導き出す。その陰で、記憶が疼くような感覚を覚えながら。
「ハアッ!」
「フンッ!」
お互いの声が、数センチ先で聞こえたと同時に振り下ろす。交差した剣はしかし、勝者も敗者も、更なる戦闘も造りださなかった。
「・・・・・・何?」
「消えた、逃げやがったのか?」
遠巻きに静観していたランサーが周囲を見回す。アーチャーと騎士王の剣がぶつかり合う刹那。忽然と騎士王の姿が消えた。まさか姿隠しの宝具か?騎士の王ともなる英雄が、そんな卑怯な戦法をするとは思えない。
「令呪による強制転移だろう。騎馬を失った事を、マスターが不利と判断したのか。それともマスター側が不利だったのか、どちらでも構わんが追撃には絶好の機会だ」
長刀の連結を解き、アーチャーは冷静に判断した。その姿勢に、ランサーは大きく溜息を吐く。
「はあ、なんだかなあ」
「どうしたランサー。追撃は番犬にはお似合いの仕事じゃないのかね」
「茶化されたくないからって犬を引き合いに出すなよ。殺すぞテメエ・・・・・・・まあ良いや。俺が言うのも何だが、お前さん女運に恵まれてねえな」
「さっきの話か?記憶にないのは事実だ。そもそもあったとしても、生前と死後は全く違う価値観で」
「硬い硬い。俺だって戦いに恋人が出たからって手加減はしねえけどよ。なんだあの会話は!?別れた後に出会ったみたいな話しやがって。見てるこっちがむずがゆいぜ。どうせなら勝って押し倒すくらいの気概を見せろってんだ馬鹿が」
「・・・・・・時代錯誤も甚だしいな」
ランサーの痴話に付き合うつもりのないアーチャーは、追撃を開始した。後方から舌打ちしながらもランサーが付いてくる。消え失せた筈の痛覚が、何らかの情報を伝え、視界にノイズが埋め尽くされる。それが何であるか考えないようにし、そしてその痛みを置き去るようにアーチャーは駆けていた。
『貴方には、償うべき物などないのです』
はっきりと聞こえた声も、意識の外に追いやりながら。