「どうやってここへ・・・・・・は余計か。貴様の横槍を想定してここに来たのだが。どうやら無意味だったらしい。随分と足の速い事だ」
「足を速くさせられた、と言った方が適切だがな。随分と好き勝手してくれたものだ。己の城に引きこもっていれば良いものを」
自身を守るように立ち塞がった男を、ノーマは視る。黒い肌に、刈り込んだ白い髪。身に纏う服は焼け焦げたようにくすみ、手に持っているのは二挺の銃。身に纏う雰囲気は、騎士王と同色であるがこちらはそれ以上だ。まるで死人のような虚ろさが滲み出ている。
迷宮にいたサーヴァント?外見から推測すると、アーチャーだろうか。いや、そもそもこれはサーヴァントなのか?放つ魔力はサーヴァントと同じぐらい濃密であるが、過去の英雄とは思えない程近代的な武器を装備している。マスケット銃等の木製のライフルならばともかく、何で構成されているのかも分からない。更に銃身には異様な程存在感を放つ銃剣を装着し、近代の技術では不可能であろう完成度を備えている。
迷宮に、自分以外のサーヴァントがいたとするならば。ノーマの脳裏に、一つの名前が浮かび上がる。
「貴方が、騎士王の言っていたシロウ、なの?」
騎士王が言っていた、黒き弓兵。迷宮内の存在を全て殺戮する為に来た狂気の存在。だがこうして目にすれば、狂気などは感じられない。しかし何故かその姿を見て反射的に身構えてしまう。異様なまでに研ぎ澄まされた、機械と会話しているような不気味さを感じるからだ。
「知らん。人違いだ。さっさと消えろ」
断固とした声と同時に男は引き金を引いた。静寂に包まれた影の国、その城門前で一発の銃声が響き、続いて歪な反射音が響き渡る。
「随分と無下に扱うものだ。そこまで私は世界にとって邪魔か?」
「俺はただ仕事を果たすだけだ。今から殺す相手と長々と話をするつもりもない」
「ふむ。セタンタが嫌悪し、執着する訳だ」
スカサハは弾丸を弾き飛ばした槍を地面へと突き刺す。いつの間にか描かれたルーンの術式が展開され、スカサハの魔力密度が再び増す。
「弟子の不始末だ。私がその心臓、貰い受けよう!」
瞬間、スカサハとアーチャーの姿が消える。広大な影の大地を、金属同士の衝突と火花、発砲音が木霊する。あっという間にその場に置き去りにされたノーマは、場違いに立ち尽くし、遅れて身震いした。すっかり自分が全裸である事を失念していた。この場に留まっていれば決着がつく前に凍死するだろう。
「早く安全な場所に・・・・・・これは?」
素足から感じた雪以外の感触に、ノーマはふと地面を見る。紅き外套が打ち捨てられたようにそこに置かれていた。自身の直ぐそばにあった所から、恐らくスカサハに向かって行った彼が置いたに違い無い。だが、何故彼がこれを。迷宮で消滅したであろうサーヴァントの装備を持っている。
まさか、アーチャーが消滅した原因は。
恐る恐るその外套に触れようとした時だった。外套の下、雪で覆われた地面からナニカが飛び出し、ノーマの眼前に躍り出た。
「おひっさしぶりでええええす!マスタああああ!」
大した事では驚かなくなった、と浅はかにも思っていたノーマは、場違いに悲鳴を上げて跳び上がる。無論影の国の城門前なのだから、門番や番兵がいても何らおかしくはないし、外見も相手を恐怖に陥れるような外見をしていても全く問題ではない。だがそれでも飛び出してきたのがピエロとなれば驚く。幾ら城主が自殺願望を持った人物としても、城を守る存在にこんなふざけた格好のピエロを適用しているなら、本当に趣味を疑う。
が、影の国の冷たさが頭を冷やしてくれたのか。ノーマは数秒で目の前の存在が何であるか認識した。迷宮でも異端と思える道化師の服装で、悪魔を自称し、深層へとノーマを投げ込んだ張本人。
「・・・・・・キャスター?」
「おお、覚えてくれていましたか!いやあ感激ですぞマスター!深層に放り込まれ、怪物に喰われ喰わされ九死に一生を得た貴女を心配しておりました!」
変わらぬ嗤いを向けているキャスターは、己の身体を恥じるように纏わりついた雪を払い落とす。道化染みた大袈裟な仕草は変わっていない。思わず懐かしさまでこみあげてきたが、彼がここにいるという異常を思い出し、ノーマは思考を切り替えた。
「どうして貴方がここに?何で雪の中にいたの?」
「そりゃあもう、驚かせる為ですよ!考えたのです。爆弾を仕掛けても起爆しても悲鳴一つ上げなかったものですから、逆に幼稚ながらも古典的な脅かし方をすれば良いとね。ヒヒヒ!」
「・・・・・・」
もしかして幻覚でも見てるのかもしれない。実は既に生死の境で頭は走馬燈のようになっているとか?現実逃避したい気持ちをノーマは何とか抑える。目の前の道化姿は自身の想像よりも明確に姿を持っている。間違いなく彼はここにいるのだ。
「悪魔はヒトがいる限り何処にいても現れる、って話は聞いたことがあるけれど。こんな所まで来るの?」
「その通りです!具体的に言うならば、あの部屋に放置されてたルーンの術式を使えば誰でも来れますけれどね!」
「ってことは、戻る事もできるの?」
「ええ。勿論です!ですがその前に」
キャスターはマジマジとノーマを眺めた。第三階層での風呂場での記憶が蘇り、ノーマは思わず後退りする。
慌てて地面に落ちた赤い外套を手にとって身体に巻き付ける。所々焼け焦げてはいるものの、小柄な少女が身に纏うには十分なサイズとなっていた。
「そんなぼろ雑巾よりも、このケープの方がよろしいのでは?悪魔毛百パーセント素材、抗菌防臭の」
「この場から逃げるわ。いつ流れ弾が飛んでくるか分からない。ここまでの説明も、逃げながら話して」
「懐かしい無視ですなあ。ですが畏まりましたマスター!」
そう言ってキャスターは付いてくるように面妖な手招きをしながら歩き出す。意外にもノーマの歩調に合わせるようなゆっくりとした速度だ。ノーマはそれについて行く前に、一度後方を振り返る。随分と離れた所まで行ってしまったが、サーヴァントの戦闘は一目で分かる程激化していた。
シロウと聞いた時。一瞬だが雰囲気が和らいだ。嘘を吐いているというより、自分で自分の反応に驚き、否定したような仕草だった。シロウ、という名前は極東の人名だ。ノーマもよく知らないが、恐らくはそれに関する英雄なのだろう。だが、自分は何故か分からないがあのサーヴァントを見ると懐かしさがこみ上げてくる。
「・・・・・・あのサーヴァントは一体?」
「酷いモノだなアーチャー。感動の再会を当人が台無しにするとは」
「特にこれと言った意味は無い。ただ時間が押していているのでね。死にたがりに引導を渡す事が先決だ」
皮肉を返し、弾丸を撃ち込む。発砲と同時に拡散する散弾を、スカサハは駆けながら槍を振り回し弾き飛ばす。
影の国、その外周を駆け回りながらも、戦いは続く。既にサーヴァントの規格を逸脱したアーチャーによって、徐々にスカサハは追いつめられていた。先程のゴルゴーンとの戦いで貰った傷は大きい。再臨した霊器ならば、何て意味のない後悔を彼女はしない。足りないモノは他のモノで賄う他無いのだ。
「いい加減諦めたらどうだ?今の貴様なら死ぬ。己の死が望みと言うのなら足を止めろ。一撃で頭を吹き飛ばしてやる」
「生憎だが。私は勇士によって殺されるのを望む。貴様のような外道に殺されるのでは戦士の名折れだ」
槍が宙空に召還され、アーチャーめがけて飛来する。しかしそれはアーチャーの身体に触れる事なく飛来した剣によって砕けた。投影された剣、槍、矢はそのままスカサハ本体を喰らう猟犬のようにその後ろを追尾する。
駆けるスカサハは、一段己の踏み込む強さを強め空中へと跳躍した。空中となれば翼の無い人間には不毛の場。上昇、落下という二つの方向でしか動けない。投影した武器がその牙を向ける。
だがその程度ではとても神殺しは殺せない。空中にいながらも槍を全方位に振り回すその武技は、アーチャーの投影したそれらの武器を容易に砕く。
「だが、これならばどうだ?」
スカサハの頭上に二振りの剣が投影され落下する。人間には使用不可能の、超巨大な双剣。贋作であろうと投影する事は不可能な剣を、身体の崩壊を前提に投影させる。崩壊しようとした身体はしかし、世界の修正によって強制的に繋ぎ合わされる。
「
断頭台よろしく落下するそれを、スカサハは一方の槍で受け止める。いかに神殺しといえど、空中で自身より重いモノを留まらせる事はできない。弾き凌ごうとするも、剣の重みで片方の槍が手から零れ落ちる。
真下には複数の投影が飛来し、上空には巨大なもう一振りの剣が落下している。どれほどの武術、知恵があろうと、物量で圧倒してしまえば問題は無い。しかしアーチャーは見た。こちらを視るスカサハの姿を。本来ならば彼女は下か上、そのどちらかを見ている必要がある。自分を眺める余裕など無いのだ。声も届かない距離で、スカサハの口が動く。
「なめるなよ。
瞬間、空中で身を捻ったスカサハは、取り落とした槍を蹴り飛ばした。変則的な体勢で撃ち出された槍はしかし、寸分の狂い無くアーチャーの方向へ飛来する。
「チイッ!」
アーチャーは危険を感じ躱そうとした。しかし槍はアーチャーの回避を読んだのか、生長する木々のように分岐し、枝分かれしていく。必中を兼ねるゲイ・ボルグのもう一つの攻撃手段。突きではなく、投擲でもなく。相手は蹴りによって放ってきた。
「
回避は不可能だと切り捨てたアーチャーは、己の手に魔力を集中させる。七つの城壁を築く投影はしかし、無数を誇る槍の前には砂上の楼閣でしかない。魔力の制限は無い。注げる魔力は無限と言って良い。だが真紅の槍はその壁を一つずつ喰い破りアーチャーへと牙を向ける。
数秒で七つの内六つが破壊され、アーチャーは歯をくいしばり耐える。心臓を貫かれようが、身体を微塵に消し飛ばされようが、世界はその仕事が終わるまで何度でも蘇らせる。普通の槍ならばここまで必死の防御はしない。だが相手は神を殺し、亡霊を殺し、殺しきれないモノまで殺す存在だ。強制的に契約を結ばれた経験もあり、守護者といえど消滅させられる可能性がある。
展開される花弁にヒビが入る。アーチャーは盾の向こう側を見て、瞬時にその場を離れた。
槍が花弁を突き破り、トドメに直ぐ目前まで迫っていたスカサハが完膚無きまでに破壊する。もし盾の展開ばかり目を取られていれば、容易に心臓を穿たれていただろう。
「弱い弱い。守護者が達者なのは口だけか?」
「・・・・・・これほどか」
アーチャーはスカサハの後ろで、真っ二つに裂けた剣を見る。投影品とはいえ、あれほどの質量を空中で破壊したのだ。先程まで戦っていたランサー。クーフーリンの師範とはいえ、相手は多くの枷を持って戦っている。その枷を持った状態でこれだ。
「自慢の贋作が破られた感想はどうだ?この程度でセタンタを討ち取ったとなると、もう一度あやつを召還して鍛え直さなければならぬな」
「それは杞憂だろう。逆に貴様が、ランサーと同じ場所に行けばよいのだからな」
更に一周。二騎のサーヴァントは影の城を廻りながら駆け巡り、衝突する。アーチャーは先程のスカサハの技術を見て、戦術を変えた。先程の攻撃を突破できなかったのは、恐らくスカサハにとっても大きな痛手での筈。永久に戦えるアーチャーとは違い、霊器が大きく低下したスカサハは底がある。その底が、どれくらいあるのかは分からないが、長く見積もって数年単位程度。いつか終わるモノならば、わざわざ積極的に殺す必要は無い。
持久戦に特化し、できうる限り隙を消した攻撃で延々と時間を消費していく。だがスカサハはそんな消極的な戦法をいつまでも許す存在ではない。
「大人しくなったモノだ。ケルトの女でもそんな殊勝な事はせんぞ?」
「血の気が多いモノばかりだと、貴様が証明しているからな」
「ハハッ、私もか弱き乙女、そうそういつまでも付き合ってはおれん」
守りに入ったアーチャーを、スカサハが攻め立てる。ランサーと生き写しのように似た槍筋だが、やはり一段上に行く。いつの間にか平行するように駆けた両者は、逃げるアーチャーをスカサハが追い立てる場面へと移り変わっている。
もしもサーヴァント同士であれば、数秒の交錯の果てに穿たれていた。世界から無限に魔力を供給され、投影魔術に制限が無い故の防戦。銃を撃ち、できた隙を投影した剣が守り、隙あらば背後から刺し貫く。それら全て処理するスカサハは正しく化け物染みた戦闘力を持っており。
「I am the bone of my sword」
だからこそ、持久戦のフリをすべきなのだ。切り札を切らねばならない。忘れ果てた記憶の中で唯一残る効率的な殺人手段。その大半は人質や不意打ちといった殺し方だ。敵と真正面から殴り合うような戦術は少ない。だが持っていない訳ではない。その中から最もサーヴァントに有効な攻撃、それを使う。
魔力の高鳴りをスカサハが察知し、ルーン魔術を展開、しない。逆に速度を上げて宝具の発動を妨害しようと槍を召還し、アーチャーのいる空間諸共殺到させる。
投影した剣と、召還した槍が衝突する。砕けたのは剣の方だ。それでも回避の時間は造り上げた。アーチャーは跳躍し、スカサハの頭上に躍り出る。二挺の銃の内、一方の構成を変化、銃本体まるごど高密度の魔力に変化させ、もう一方の銃に装填する。
「So as I pray、
撃ち放った銃身が、衝撃で歪む。取り付けた銃剣は弾丸の余波だけで砕かれ、衝撃だけでアーチャーは後方へ吹き飛んだ。音速を越える速さで、衝撃と共に轟音が遅れて木霊する。単純で明快、それでいて確実。相手が避けるならば近づいて撃てば良い。相手が槍を振るうならば、それよりも近い位置で撃てば良い。
狙いは胸の中心。斜め上からの弾丸は、吸い込まれるようにスカサハへと近付き、当然の摂理のようにスカサハを避けて通った。
ルーン魔術による弾丸回避、もしくはクーフーリンと同じような加護か?どちらにせよしぶとい。と胸中で悪態を吐き地面へと着地する。瞬間、地面から飛び出した鎖がアーチャーの身体を拘束した。
「頭の回転は中々だ。思い切りも良い。だが選択がやや強引だ。正道外道依然の問題だな」
大の字でその場に固定されたアーチャーは、地面に隠蔽されたルーン魔術を見る。影の国を何周も駆け回っていれば、罠など幾らでも仕掛けられる。自分はまんまとそれに引っかかった。
「たとえばこれだ」
スカサハが近付こうと一歩踏み出す・・・・・・寸前に槍で地面を一閃した。地面の中から弾き出された弾丸は、離れた所で地面と衝突し爆発した。
「私と同じ戦法を取ったのは良い。それなりの策士であればこの地面を見れば罠を仕掛けようと思う。だがその数が多すぎる。多ければ当たりやすいが、それだけ気付かれるリスクは倍増する。やたら見当違いの方向に撃てば私でなくとも気付くさ」
「ご高説傷み入る。まさしく身に染みたよ」
作戦は、策同士を掛け合わせて作る。持久戦と思わせ宝具を放ち、躱されたのなら地面に埋め込んだ衝撃式の弾丸で隙を作り、殺す。アーチャーの作戦とは対照的に、相手は罠を一点だけに張りそこに自分を追いこんだ。アーチャーに追い込まれた自覚は無かったが、それが自分と相手の差と言うわけか。
「罠の張り方も戦術も平凡を出ない。取り柄が無いな貴様は」
「その通り。技も能力も無い身でね。できる事と言えば偽物づくりと人殺し程度だ。だが」
中空へと投影されたありとあらゆる武器が投影され、スカサハへと殺到する。通常の英霊ならばその弾幕だけで事足りるが、目の前の相手は不機嫌そのものと言った顔で槍を一本持ち、全てを打ち払う。
「解せんな。セタンタがこの程度の男に倒された筈が無い」
足止めは数秒で突破された。これまでの戦いで、アーチャーはスカサハの力量を正確に計測する。策を労した所で突破され、単純な包囲殲滅では倒せない。持久戦となれば打ち崩される。ありとあらゆる手段が潰される。
投影された弾幕はアーチャーへと駆けるスカサハを追うも、神速の脚は飛来する剣よりも早い。だが、投影された剣はスカサハだけに的を絞っているのではない。
飛来する剣を、アーチャーは受け止める。己の周囲に降る剣の雨は、例え投影した本人も例外なくその標的へと定めた。いかにスカサハと言えど、自分以外の存在に降りかかる武器の雨を止める事はできない。
「小賢しい事をするモノだ」
スカサハを足止めする苦肉の策はしかし、彼女はその雨が止むのをただ見ている事などしない。一回りして展開されたルーンの術式が、その周辺を囲う。剣の山がぞくぞくと降り積もり、己の身に集まっていく剣の中、アーチャーは笑う。常軌を逸した行動だが、スカサハの攻撃を避ける為にはこれしかない。相手の攻撃を受ければ間違いなく致命傷だが、自分の攻撃ならば致命傷になり得ないからだ。狂っていると感じるならばまだ序の口、この次はまさしく狂気の沙汰だ。
「
瞬間、範囲よりも密度を重視した剣が一斉に起爆する。スカサハは舌打ちした。自身のルーン魔術は完璧だ。例え超高密度に圧縮された爆発によってでも、耐える事ができる。できてしまう。即ち起爆した破壊力はこの結界内を駆け巡る。
展開を止めるか、否か。どちらが相手の狙いか。結界を解除し、距離を取って振り出しに戻らせるか、それとも己の首を取りに来るか。裏を読んで展開させたまま密閉空間で爆殺する気か。常人ならば思考するだけでも錯乱するような状況を、数コンマで解答を導き出したスカサハは、上空へと槍を投げつける。
予め投影された剣、不可視の剣が弾かれ彼方へと転がる。次いで自身の目の前にルーン魔術を展開。サーヴァントの宝具をも防ぐルーンが、爆風を防ぐ。だがスカサハはそれに隠れず、負傷を承知でルーンに守られた範囲から飛び出した。
視界ゼロ、聴覚ゼロの状況から撃ち込まれた弾丸が、ルーンの盾を破壊する。ああも簡単に崩す所を見るとどうやら魔術破りの特性を持った弾丸らしい。爆発が終わったその空白の時間に、徒手空拳のスカサハが爆発の中心地へと躍り出る。
身体を修復しきったアーチャーが、二丁の銃剣を投影し応戦する。銃だろうが剣だろうがそれよりも近い範囲の中で、スカサハは手を伸ばす。アーチャーは引き金を引いた。
発砲音と共にアーチャーの片腕が、スカサハがルーン魔術を刻もうとした手を吹き飛ばす。続けて第二射を放とうとしたが、その頃にはスカサハは超人的な速度で距離を取っていた。追い打ちに引き金に指をかけたが、相手はこの距離で当たってくれるような存在ではない事を認識し止める。
「女に触れられるのは苦手か?恋愛には奥手と見えるな」
「ケルトの郷に比べられれば、どれも奥手だろうがな」
再生しきった腕を再び銃剣を持たせる。既に技の応酬も、皮肉も終わりだ、決着を着ける。アーチャーの思惑に答えるように、スカサハは槍を二本召還した。
「そろそろ終わりにしよう」
「同感だ」
そのまま銃剣と槍がぶつかり合う。一撃でも相手に傷を負わせれば、それで終わりだ。既に満身創痍であるスカサハと、守護者であるアーチャー。本来ならば釣り合わぬ戦力差は、奇妙な展開によって平行線を辿り。
唐突に、しかし当然のように。終わりを告げた。
「ガッ・・・・・・クッ」
零れる血が、雪の大地を汚す。血など出ない筈だ。出たとしても治る。それでも尚この身から零れるのは命。即ち、アーチャーの血。
「セタンタと戦わせた時の応用だ。貴様に命を宿し、それを殺す。流石に大がかりな結界となると準備も時間も必要だが、こうも身近ならばできよう」
槍が紅く呼応する。本来の持ち主を追憶するように。そして復讐を果たせたと歓喜するように。己の心臓に突き刺さる槍を、アーチャーはまじまじと眺める。命が、消える。そのぞっとした感覚は、自分がこれまでやってきた行為からすれば当然の報いでもある。
「クッ」
無様な姿に嗤おうとしたが、残念ながらせき込み不発に終わる。人生終了。無論これで守護者の楔が解かれる訳ではない。精々次までの仕事がやや長くなるだけだ。自分が消滅しようとも、守護者そのものが消える訳ではない。
呪縛は終わらず、救われる事など無い。救われたいとも思わない。己の手に取れた命は少なく、失われた血は遙かに多い。殺す事で人を救うのが英雄ならば、自分は殺す事で悪を終わらせてきた。救う事などした事は無い。やったのは殺すことのみ。自分すらも救えぬ身で、誰かを守るなど。
『貴方も多くの者も、きっとそれを非難するでしょう。ですが、私は尊いと思う』
あれほどあったノイズが、消える。はっきりと聞こえたその声は、しかし霞み、消えた記憶を呼び起こす事も無い。どこかで聞いた、誰かの声程度だ。無視しても良いだろう。
だが。アーチャーは銃を握っていた。
「ッツ!」
スカサハは紙一重で顔面を抉る筈だった弾丸を回避する。そのまま槍を引き抜き身構えた。否、身構えようとした。その時には既に。
「
その身体に穴が穿たれている。顔面と同時に、撃たれた弾丸。消音に特化し、命中率も威力も削られた弾丸はしかし、確実に殺すためにスカサハの体内へ埋め込まれた。
「So as I pray、
久々過ぎるメッフィー再登場!
ちなみにエミヤオルタの宝具なのですが、ルビが無限に斜線引きなのでとりあえずそのまま書きました。無の剣製なのか無限の剣製なのかは永遠の謎になりそう。