迷宮にて弓兵召喚   作:フォフォフォ

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後で原作読み直したら、ノーマって十代中ごろらしいですね。
十代続いてる魔術師で十代中ごろで一人前。

あれ?こんなスペック高かったっけ?


第二階層①

 ノーマは、夢を見ていた。夢の中でこれが夢だと認識できる夢。ようは覚醒夢。夢の舞台は自分が最も恐ろしいと感じた、あの遺跡での出来事。

 

 エジプトに秘匿された、古い王の遺跡。遺跡と言えば廃墟を連想させる人間は多いが、ノーマが踏み入れたのは都市だった。遺跡の結界がまだ生きているのか、都市にはこれと言った劣化が見えない。人がいないという点を除けば機能している。事前情報ではある程度秘匿された遺跡だがそれ以上の脅威はない、同業者から言えば『安全』な場所。しかしいざ踏み入れれば事前情報とは全く違う光景が広がっている。

 

 あの時、間違えた。少し小綺麗な箇所でつい、ノーマは探索者から観光者へと変わってしまったのだ。現代の都会と比較しても、この都市はその上を行く。大通りをキョロキョロ歩く様は、初めての遊園地ではしゃぐ子供のソレだ。そんな間抜け姿を見逃す筈も無く、都市の機能があっという間に検知し、『防衛装置』が飛んできた。

 

 ズシン、ズシン。地響きと共に悠然と迫るそれは、古代エジプトで一般的な守り神たるスフィンクスにそっくり・・・・・・いやこれは。

 

 ここでノーマは夢である、と言うのが理解できた。目の前にそびえ立つソレは、自分が現実で見た物よりも数段階上。神獣、スフィンクス。紛い物のゴーレム等ではない。現実以上の迫力を持った本物が目の前に存在している。

 

「フハハハハハハ!太陽をかすめ取ろうという不届き者、かと思えば!どうやらファラオの威光に言葉も出ないようだな小娘よ!」

 

 スフィンクスの頭の上に、乗っかっているのは一人の男。ファラオらしい。夢の中で探索してたら、ファラオとスフィンクスに会う。最近自分は何かストレスにある状況に身を置いただろうか?

 

「良いぞ。それで良し!盗賊紛いの罪を許す。何よりその目。悪くない。絶望に飲まれながらもその眼は開かれている。希望に縋る訳でもなく、その目は『迷宮』へと向けられている!」

 

 そうだ。自分は確か。そう考えた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。今の現実が現実ではない事を理解したのだ。

 

「む?ここで終わりか、つまらん。拝謁の許可をやろう小娘。迷い人に太陽を見せるのもファラオたる余の役目よ。また来るが良い」

 

 そこで視界が暗転した。ノーマは目を瞬時に開き、飛び起きる。目を数度しばたたせ、先程の夢が夢である事を再認識し、そして目の前の情景が現実である事を理解した。

 

 天井が見える。木を切り倒して積み重ねたであろう天井。となると壁も同じ。半身を起こせば自分がログハウスの中身のような場所にいるのが分かった。山小屋程度の大きさしかないが、不思議と安心するような設計をしている。部屋の壁面に備えられたベッドから完全に起きあがったノーマは、状況を読み込もうと周囲を見渡す。部屋には暖炉があり、今も炎が陽炎のように部屋内を暖かく包んでいる。

 

 全て夢物語でした、何て虫の良い話をノーマは信じない。迷宮探索、サーヴァント、アーチャー。人智を超越した状況を長く留まったせいで、嫌でも精神が鍛えられつつあるのだ。

 

 自分達はランサーに勝利し、第二層へと下った。そう考えればここは第二層で、アーチャーが気絶した自分をここへ置いて周囲の探索を行っているのが分かった。自分の意識を集中すれば、アーチャーがこちらの覚醒に気付いて近づいてくるのが分かる。

 

 部屋と外を繋ぐ唯一の扉が開き、アーチャーが顔を出す。なぜか赤い外套を着ておらず、黒いボディアーマーだけだ。

 

「起きたか、マスター。大丈夫か?」

「ええ。大丈夫」

「そうか。だがまだ動かない方が良い。魔力も体力も回復しきっていない。かなり消費したからな。一日は必要になるだろう。休む時に休める事を幸運に思っておいた方が良い」

 

 それもその通り。休める時には休む。数分後には休めるような状況ではなくなるかもしれないのだから、せめてその時までは休みたい。だがそれにしても、アーチャーは何処か上機嫌のような気がする。

 

「何かあったの?」

「ああ。横になってでも聞いてくれ。この第二階層を調べていた。と言っても、精密な測定は無理だったが」

 

 それからアーチャーは、第二階層について話し始めた。第二階層は、第一階層とは違い開放された空間らしい。迷宮と言えば閉鎖的な、鬱屈とした洞窟を思わせるが、より高位な迷宮では空間圧縮、展開、そして地形改竄により洞窟には思わせない物もある。この迷宮でもその工夫が行われており、第一階層であった通路は存在しないと言う。

 

「あるのは広大なまでの森林地帯だ。現実の外にいるような錯覚すら覚える。高低差が無いせいで見通す事もできん。魔法の領域に差し掛かった大規模魔術。この迷宮の制作者は、どうやら挑戦者を求めているようだな」

「挑戦者を?」

「そうだ。わざわざ迷宮をこしらえ、罠を張り巡らせる。そんな物は普通必要では無い。本当に誰にも寄り付かせたくないなら、誰にも発見されないように隠匿すれば良いし、殺すつもりなら爆弾でも仕掛ければ良い。そもそも魔術師ならば、自分の研究成果をわざわざ他人に見せびらかす必要はあるまい?」

 

 それはそうだ。魔術師の目的は根源の到達。この迷宮の制作者たるコーバック・アルトカラズは最も魔法使いに近いと言われた魔術師だ。わざわざそれまでの研究成果とも言える迷宮を、余人に開放させあまつさえ攻略させる等。

 

「何か目的があるのだろうな。亜種聖杯も、どうせその囮だ。とはいえ相手の術中にはまろうがやる事は変わらない。ひとまずは休息、いや。食糧補給だ」

 

 何故か後半の言葉に、アーチャーはかなりの強調を行った。そう言えばアーチャーはこの部屋に入った時、何か大きな壺のような物を持っていた。その壺は今部屋の端でビタビタビタと音を立てながら揺れている。

 

「待っていろ、マスター。丁度食料を補給してきた」

「もしかして、アレ?」

「ああ。森林の中に川があって助かった。幻想種で調理なんて、生前ではできなかったからな。楽しみで仕方ない」

 

 少し待っていてくれ、とアーチャーは壺を持って調理する為に外へ向かう。このログハウス内に炊事場が無くて本当に良かった。あれば壁面を貫通してきこえるキーキー言う悲鳴と、精密機械のように断続的に聞こえるアーチャーの剣さばきを見ていた事だろう。というかこの音だけでもダメだ。アーチャーには悪いがきっと食べれない。

 

「さあ、召し上がれ」

 

 食べれた。おいしかった。アーチャーの調理スキルの高さが初めて憎らしいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分な休息後、アーチャーと共に休息所から出る。彼の言葉通り、第二階層は森林地帯だ。暑苦しい生命力が満ち溢れた樹海等ではなく、西洋の鬱蒼とした森をイメージする木々。生い茂った木々のせいで差し込まれている光も少なく・・・・・・光!?

 

「日の光!?」

「違う。さっきも言った通り、ここは迷宮の中だ。太陽の恩恵は得られまい。あるとするなら多くの魔術的に仕組まれた『偽物』だけだ」

 

 アーチャーの指摘で我に返る。そう思えば、この森林地帯はおかしい事だらけだ。木々は生い茂っているが草や茂みが無く、地面は高低差は勿論微小な凹凸すらない。そして、そんな所でも所々で『川』を見つける。普通、川は高い所から低い所に流れていく物。それなのにこの川は水流すらなく停滞している。そして何より何も無いのだ。

 

「アーチャー。この階層で怪物はいた?」

「いや、見ていない。今も気配を感じれない。キメラ、ゴーレム、ラミア。ありとあらゆる怪物、いや幻想種がいない。いたのは川にいる魚程度だ。それらすら襲ってくる力も気配も無い」

 

 ただ静かなのではなく、無音。この森の中では木々が風で揺れる音すらしない。そもそも風が無い。強烈な違和感で精神がおかしくなりそうだ。 

 

「動き回るしかないな。第一階層のように道なりに進んでいれば良いという訳でも無いが、何もしないよりはマシだろう」

「ちょっと待って」

 

 ノーマはアーチャーへと静止の声をかけ、探索鞄から出した礼装を地面へと置く。天秤型のソレの片方に魔力を込めた岩塩を。もう片方には何も無いが、天秤は未だに傾いていない。ノーマは目を閉じ、精神を集中させた。

 

「・・・・・・天秤(スケール)よ、示せ(スケール)示せ(スケール)、示せ(スケール)

 

 呪文魔術。ノーマができる数少ない魔術の一つだ。それは雑で、他の魔術師が見れば矮小の一言で切り捨てられる。呪文の形式は単調で、精神を統一、高揚させる呪文魔術においては繰り返し述べなければ所定の効果を発揮できない。魔術師の技量を見れば一目瞭然だ。ノーマの場合、調子が良ければ一分、悪ければ五分もかかってしまう。

 

示せ(スケール)示せ(スケール)、示せ(スケール)・・・・・・」

「マスター、もうできているのではないか?」

示せ(スケール)・・・・・・え?」

 

 ノーマは目を見開く。ゆっくりと魔術回路を開いていき、そしてその魔力を天秤に流し込まなければならないのだ。だと言うのに、一割程開いた魔術回路で天秤に置かれた岩塩は淡く発光している。既に魔術が発動しているのだ。本来ならば全開状態でなければ起動できない物が。ノーマは慌ててその岩塩に息を吹きかける。吹き飛ばされた粉が、青白い道標となって道を教えてくれるのが、この魔術の特徴だ。

 

「ふむ、どうやら君が思っているよりも、君は成長してきているのかもしれないな」

「そんな、私はまだまだ」

「サーヴァントを従え、幻想種の闊歩する迷宮内を歩き回り、あまつさえサーヴァント戦まであったのだ。これで成長していないと言うのなら、君は元々これが出来た、という事になる。それほど自惚れていたのか?」

 

 そう問われれば、反論ができない。本当に自分の魔術回路が、自分が成長したのだ。喜びよりも驚きの方が大きい。それを、アーチャーは何処か嬉しそうに眺めていた。

 

 探索の魔術は、ただ行きたいところの道を教えてくれる訳ではない。道中にある罠、生命体、その他危険物を感知し、迂回させるような道を造り上げる。だが岩塩が示す道は一直線だ。詰まるところ危険は無く、ただ目的地へと辿り着くだけとなる。もしも迷宮内の幻想種が、探索の魔術やアーチャーにも感知できないような気配遮断技術を持っていればそこで終わり。しかし歩いていても何も起こらない。景色も変わる事なく木々が立っているだけ。

 

「不気味な所ではあるが、それ以前に不自然だな。恐怖を煽るのならもっと効率良く造る事もできただろうに」

「さっきから周囲を見ているのだけれど、全然変わってない。もしかして同じところをぐるぐる歩いてるんじゃ・・・・・・」

 

 そういう結界もある。ノーマが知るある城では、階段で上っていたらいつの間にか『降りて』いる物もある。仕掛けは階段にあり、何者かが踏めば自動的に一番下の段に戻されてしまうような魔術が仕掛けられていた。その時は起動するより早く、更に殆ど階段を踏まないようにジャンプしながら駆け上がる必要があったが。

 

「いや、一応は進んでいる。見ろ、木々の立ち方が一定ではない。それに等間隔に傷を付けておいたから、何かあったら即座に分かる・・・・・・だがその前に」

 

 アーチャーは立ち止まり、上を見た。

 

「わざわざ隠蔽を解いたのだ、何か話す事でもあるのかね?」

 

 突然の発言。傍にいるノーマは思わず頭上に疑問符がつく。アーチャーの視線を追ってもそこにあるのは大樹が緑を付けているだけで……

 

「ヒヒヒヒヒヒ!さっすがアーチャーのサーヴァント!視力は10くらいあるようですね!」

 

 途端に虚空から声が響いた。その声を聞いただけて心の底から恐怖を想起させる。ノーマは殆ど無意識に木の枝葉を視た。妖精眼が自動的に秘匿された神秘を抽出して、対象に焦点が当てられる。

 

「おやおや?もしかしてそちらのマスターさんも視えているのですかぁ?これは恥ずかしい!透明人間になれたつもりで観察していたと言うのに、そのトリックを見破られては元も子もありません!」

「最後だ。出て来い」

「ええ、ええ!出て来ますとも!さぁ皆様ご覧アレェ!驚きのあまり臓物がその口から飛び出さないようご注意を!」

 

 演劇くさい口振りと共に、ノーマの数メートル先にその人物は着地した。アーチャーがその間に立ち塞がる。妖精眼で感じた通り、その人物はサーヴァントだった。身隠しの宝具でも解除したのか、その禍々しい姿を曝け出している。

 

 ノーマはそのサーヴァントを見た瞬間、子供の頃に見たホラー映画を思い出した。ピエロが子供を排水溝へ引きずりこむ映画だ。大多数の子供同様、ノーマもそのピエロは怖かったが、これはその比ではない。顔に塗りたくられた化粧は大衆を笑いの渦に引き込む道化ではなく、絶望と恐怖に陥れる悪魔の顔だ。

 

「どうもご機嫌麗しゅうございます!私、キャスター、メフィストフェレスと申します。以後お見知り置きをマスター!」

 

 道化のように大袈裟な身振り手振りでキャスターは自己紹介をした。メフィストフェレス。かの有名な大悪魔の名前。英雄とは程遠い、邪悪の化身と言っても過言ではない者が、サーヴァント?それにキャスター?

 

「本日は、私もそちらの仲間に加えて貰えないかと交渉に来たのでございます」

 

 ノーマの混乱を愉しむようにキャスターは三日月状に笑みを浮かべながら、仲間になりたいと伝えた。確かに戦力が増えるのは有難いし、わざわざ戦意の無いサーヴァントにアーチャーをけしかけるつもりも、ノーマには無い。だが、何処ぞの英雄にあるような観察眼スキルも無い自分ですら分かる。

 

 あれは危険だ。

 

「マスター。どうする?あの道化のような男を信用してみるかね?」

 

 答えなど分かりきっているだろうに、アーチャーはあえてノーマへと尋ねた。

 

「・・・・・・無理よ」

 

 毅然とした態度で突き放す、というイメージで、実際は恐れおののきながらもノーマは言葉を紡ぐ。相手はあの大悪魔だ。握手を求めながら片手でナイフを握っていてもおかしくない。戦力は欲しいものの、その為に危険を冒しては元も子も無いのだ。

 

 キャスターはそれを聞いても少しも気落ちするどころか、ますます笑みを深くする。アーチャーは既に両手に双剣を持って臨戦態勢を整えていた。

 

「なーんということでしょう!断られてしまいました!私ほど主人に忠誠を誓えるサーヴァントなど存在しないでしょうに!不採用の理由をお聞かせ頂きたいですねぇ」

「そこまでだ道化役者。生憎見世物に足を止めてる暇は無いし、害虫をわざわざ駆除するほど退屈でも無い。だがどうしてもと言うなら相手になろう」

「ヒヒヒヒヒヒ!これは怖い!私、平和主義を貫いているのです!剣を向けられたなら逃げるのみ!まぁ仕方ありません。気が変わる事もあるかもしれないので、今回は顔見せと、情報共有といきましょう」

「情報だと?それはどんな甘言だ。水があると言って沼にでも誘うか?それとも食料があると言って毒でも盛るのか?」

「番人の情報」

 

 今までと打って変わり、キャスターの声は静かに告げた。この階層を守る番人の情報、ある意味で食料や水よりも貴重な物を眼前にぶら下げる。

 

「居場所はここから東へ十キロ程。この森を貫通している川が合流する箇所の直ぐ近くでございます。そこだけはこの忌々しい木も存在しない」

「そこにお前の仕掛けた罠がある、と?」

「実際罠があります。何せそこは結界の内部ですから。私、キャスターですがあの結界は破れそうに無い。更にその結界内部から感じるサーヴァントの気配。私、これはサーヴァントが番人なのかと推測しました!それも私よりも高位な魔術師と」

「貴様は三流のキャスターと言うことか」

「貴方も同じような者では?三流以下の、たった一つしか履修していない魔術師(アーチャー)殿」

 

 アーチャーの殺気が高まる。相手はある程度こちらの情報を知っている。先程現れた時も自分の存在を隠蔽させていた。ここでこのサーヴァントを放置して後で寝首をかかれる恐れを、今摘むべきか否か。

 

「まぁそんな殺気立たなくとも。信用されないのは仕方ありませんが、取って食うつもりはありませんよ私は?少なくとも今はね。ならば続けて情報開示と行きましょう」

 

 そう言ってキャスターは右手を掲げる。右手にはマジシャンがマジックを披露する時に使うような、真っ黒な布が握られていた。

 

「この階層で拾った物です。中々の魔術礼装で、結構出歩くのに重宝しているです」

「身隠しの布か」

「その通り!ただ姿が見えないだけではありません、何とアサシンの気配遮断と、透明になる魔術が組み込まれているのです。見えないだけの布とは訳が違う、何と素晴らしいアイテム!時限制で、どれくらいで消えるのか全く分からないし、先に気配遮断が消えるという欠点はありますがそれはそれ!この礼装をそこのマスター様にストーキングのお詫びとして渡しましょう」

「大方それで追跡して、気配遮断が先に切れたからこうやって現れたのだろう。ならばその礼装はただの透明になれるだけの布だ。この迷宮にいる怪物相手には不足だな」

 

 迷宮に闊歩している幻想種は視覚は勿論、嗅覚聴覚そして魔術を駆使して外敵を探している。その前ではこの布は丸裸に等しい。先に気配遮断が消えるというのも製作者の嫌らしい性格が疑われる。

 

「なんと!これもダメですか?何という碧眼、お目が高い!私の協力も、施しも受け取らないとは。それとも全て一人でできると思っているのですかね?」

「少なくとも貴様の助けはいらん。番人がサーヴァント、と言うのも何のメリットがある?」

「分かりません。私、探偵ではないので。どちらにせよ無策で突っ込むのはやめておいた方が賢明でしょう。幸運なことに、もう一人私以外のサーヴァントが彷徨いていますしね」

「サーヴァント?」

 

 ノーマの質問に答える事なく、キャスターは大きく跳躍した。木の上に立ち、大袈裟な動作で一礼をする。道化役者は悪魔の微笑みで自分を見た。

 

「ではこれにて退散させて頂きます!また再会する事を望んで。どうか殺されないように、アーチャーのマスター。お別れは私の目の前、そして私の手で!ヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

 

 その言葉を最後に、キャスターは離れて行く。鬱蒼とした森林が、奇抜な服装を隠すのは数秒もかからない。キャスターの姿と気配が完全に消え、改めてノーマはアーチャーを見た。

 

「どう思う?」

「全く信用できんな。あの手の輩にとって嘘は呼吸と同じだ。更にそれに対して見せるこちらの苦悩も本人の蜜となる。そもそもあれが悪魔とも思えん」

「そうなの?メフィストフェレスって確か」

「確かに『創作』上はメフィストフェレスは悪魔、それもかなりの高位に位置する存在だった。そんな物を紛い物の劣化品で呼び出せるとは思えない。仮にあれがメフィストフェレスなら、悪魔ではない近しい存在がメフィストフェレスの枠に入った、若しくはメフィストフェレスと呼ばれた男がキャスターとしての枠に入ったかだ。

 

「メフィストフェレスに近い、英雄?」

「反英雄、負の歴史の影法師だ。恐らくあの道化役者はそんな所だろう。生前悪魔のような所行をしてきた人物が協力を持ちかけてくる。その意味は単純だ。だがある意味でああいう手合いは分かりやすい。つまり信用するなと言うことだ」

 

 ノーマは考える。確かにあのキャスターは絶対に友好的でも無いし分かりあえない。だが彼の言った情報全てが間違いかどうかまでは分からない。勿論全てが真実ではないので吟味が必要だが、問題はどれが正しいのかという点だ。

 

 不意に、アーチャーが笑った。ノーマはキョトンと彼を見上げる。

 

「いや、すまない。初めに会った時を思い出した」

「え?」

「大蛇に襲われていた時、と言えば分かるか。あの時は自分の召喚したサーヴァントですら恐怖していた君が、今ではこれからの動向を考える探検家の表情をしている」

「それは・・・・・・アーチャーがいたから」

 

 頼りになる仲間がいる、いやこの場合は縋り付ける対象がいるか。仮にアーチャー以外のサーヴァントならばこうはならなかった。どこぞの王様なんて呼び出されていたらと思うとゾッとする。

 

 しかしアーチャーは「それは違う」と否定した。

 

「君は臆病な性格ではない。探索を生業としているせいで慎重なだけだ。あの状況で大蛇を前に何も出来なかったのも、効果的な判断が自分に下せないと感じただけだ。年頃の娘にありがちな夢見がちが無い。現実主義だ。ある意味で君は既に晩成していると言って良い」

「買い被り過ぎよ。ランサーとの戦いも、殆ど何も出来なかった」

「ただ一つ、できていた。自分のサーヴァントを信用する。それだけで十分なんだ。たった一つの物事を突き通す、それは容易では無い。だからこそ、現状を把握してより最適な道を探せ。知識や技術は周囲に頼ると良い。だが最後に決定するのは君自身だマスター」

 

 アーチャーが何を言いたいか、ノーマは即座に理解できた。マスターとしての采配を求めているのだ。今までは殆どアーチャーが、ノーマを先導していた。二人で協力しながらもノーマは一歩引いてアーチャーの意見に全面的に賛成していたのだ。

 

 だから今回も、キャスターの話は全て切り捨てようとした。そうした方が良いと、アーチャーの意見に賛成して。しかし、もうその必要は無い。アーチャー自身がそう言ったからではなく、ノーマの判断がそれに至った。

 

「分かった、やるわ。マスターとして」

「ならばマスター。指示を頼む。これからどうする?」

 

 ノーマは深く息を整え、マスターとして口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はノーマがまだ夢の中にいる頃。

 

アーチャーは外套を脱ぎ、折り畳んで地面に置いた。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

詠唱を開始。魔術回路に光が灯る。

 

想像するのは、最強の自分。誰よりも速く、誰よりも力強く。無数の数を行ってきた、呼吸の仕方と同じくらい自然と出来る行為。しかしアーチャーの顔に油断はない。

 

この投影は、マスターの命と同一だ。失敗すれば召喚主の死即ち自分の消滅を意味する。死にたくない、という考えはアーチャーは無い。だがマスターを絶望と共に死なせる事などできない。

 

体は剣。血は鉄。ならば心は?

 

自嘲地味た笑みが思わず溢れる。きっと、マスターは自分が鉄のような心を持っていると思っているだろう。

 

鉄心など嗤わせる。だがこの身は剣。彼女の剣。ならばやる事は一つ。

 

投影は、完了した。アーチャーはその手に握られた物を満足げに眺める。

 

「ああ、マスター。君がマスターで良かった。おかげで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想種の魚を釣れるぞフィィィィィィィィィィィッシュ!」

數十分後、ノーマが目覚めるまでのアーチャーは投影した釣竿でルアーフィッシングを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メッフィーの着てた礼装は、オリジナル礼装です。原作では殆ど使われていなかった(愛歌がわざわざ使う必要が無かった)ので自分なりに考えてみるものの、迷宮自体が罠だらけなので礼装も罠っぽい奴にしようと思って作りました。
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