迷宮にて弓兵召喚   作:フォフォフォ

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グレイどうしよう・・・・・・実は作者事件簿読んでないから彼女の詳細設定知らないんだよね。

そんな先行きの不安が残るものの書ける所は書くつもり。


第二階層②

勝てない、と思った。

 

この身に余る怪異の数々、それらは人間はおろか英雄にすら届きうる。何度か英雄殺しを実践してきて経験も、『最後』も知っている。それらを全て駆使して尚、相手は二の足で大地に立っていた。

 

「ハッハッハッ!良いぞ、滾ってきた。先程幼子と呼んだことを詫びよう。実に立派な戦士だ!」

 

 戦う前、『番人』は自分の姿を見て何処か後ろめたい気持ちがあったようだ。曰く、幼子に剣を向けたくない。それが女なら尚更、と。

 

 嗤わせる。古今東西女子供は人々の希望であると同時に、人がどれだけ残酷になれるかを体現してくれる秤ともなった。生前、どれだけの英雄が私達姉妹を手にかけようとしたか。それらを守る度に私の身体が変遷していったか。

 

 憎い。自分にとって英雄は憎むべき敵だ。それらの憎悪もまた、自分を『怪物』へと変えていく。しかし、この身は不完全。怪物の姿を嫌う自分にとっては好ましいが、今この状況には恨めしい足枷となっている。

 

「ああ、だからこそ。俺も本気で行かせてもらう」

 

 真正面から全てを受け、そして全てを叩き潰す。この英雄の戦闘方法自体に変わりはないが、撃ち込まれていく剣撃に重みが増す。それだけでかろうじて拮抗していた実力は脆くも崩れた。

 

「戦士とは道半ばで消えるもの。悪いがここらで終わらせてもらう」

 

 まだだ。自分の手足にそう命じれば、必然的に力が湧いてくる。気合や根性ではない純粋な能力(スキル)。疑似的な戦闘続行は繰り出される攻撃の数々を回避し、受け止め、持ちこたえる。

 

 そうだ。自分はこんな所では死ねないのだ。今回の紛い物の聖杯戦争、願いが叶うかどうか分からない粗悪品に興味は無い。ただ自分は下へ。下に行かなければいけないのだ。

 

「私は・・・・・・負けません!」

「その意気や好し。俺好みだ!もう少し成長すればとても良かったんだが、そう言う訳にもいくまい。女の柔肌を味わえぬなら武を削りあうのみよ!」

 

 番人はそう言うと巨大な剣を大気を切り裂かんばかりに振り回す。その一撃一撃が掠めただけでも甚大な傷を与える物と感じ、殆ど転がりまわるように回避する。急変していく視界の中で、天地が逆転し、天空が廻り、そして死の螺旋が見えた。距離を取り、態勢を立て直そうとすると、番人は即座に剣を地面へと突き刺す。普通の剣ならば何気ない動作となる。しかし直観スキルの無い自分でも察知できた。この男がわざわざ大振りな攻撃で距離を取らせようする意図を。 

 

「では真の虹霓をご覧に入れよう」

 

 はめられた。慌てて距離を詰めようとするも、遅い。相手は既に宝具を発動させていた。突き刺さった剣が回転し、螺旋を描いていく。単純な威力攻撃ではない。敵ではなく地形そのものに攻撃をぶつけ、地表もろとも対象を破壊する宝具。周囲の地面が裂け、堪え切れない魔力が逆流して地表を剥ぎ取っていく。

 

虹霓剣 (カラドボルグ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨人が地面を掴んで死に物狂いで振り回している。ノーマがそう錯覚させる程の地震が迷宮を轟かせた。岩塩が指し示すルートとキャスターの行っていた場所は同じで、ある程度キャスターの情報に信憑性が出た瞬間にこれだ。キャスターの罠か?それとも本当に只の地震?それとも『番人』?

 

込み上げてくるありとあらゆる思考と恐怖を放り投げ、ノーマは反射的に地面に伏せた。探索者としての行動だ。迷宮以外の、普通の遺跡でも人は死ぬ。何の仕掛けもない、ただの偶然で猛獣が通りかかった、遺跡が倒壊した、雪崩が来た、同業者から襲撃された。状況は違えど共通点は、人間の制御が及ばない事象の前には、立ち向かうよりも先に隠れてジッとするのが一番という点。

 

素早く伏せたおかげで無様に転倒する事こそ無かったが、単純な地震ではない事は即座に理解できた。周辺の木々が吹き飛び、地面が割れる。割れた地面から目視できる程の濃密な魔力が放出されていた。

 

「マスター、下がるぞ!」

 

 留まっては危険と判断したアーチャーが、ノーマを抱えサーヴァントの脚力を活かして倒壊していく木々を躱していく。天変地異のような地割れに、迷宮全体が震撼し、上にある紛い物の『空』にヒビが入る。

 

 生憎この森には木しかなく、自分達のセーフハウス代わりの小屋は幸か不幸か離れている。アーチャーは地面を縫うように走っていたが、地面から噴火するように零れる魔力を警戒して不安定な木へと飛び移った。その判断が即座に正しいと理解する。地面から噴出する魔力は弱まるどころか徐々にその勢いを増しているのだ。地表をどれだけ高速で走った所で不規則に放出される魔力に巻き込まれればサーヴァントすらも一溜りも無い。しかしそれすらも時間稼ぎ。このままでは自分達はおろか、迷宮そのものが崩壊してしまう。

 

「マスター!魔力を使わせてもらう」

「お願い!」

 

 返答した瞬間、ノーマは浮遊感と共に上空へ放り投げられていた。箒があっても飛行するのは難しいノーマに、重力操作や軽量化等できはしない。せいぜいぐるぐる回る視界の中でアーチャーを捕捉するぐらいが精一杯だ。

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捩れ狂う)

 

 魔力が吸い上げられる。同じく宙にいるアーチャーは空中で姿勢を正し、今も噴き出し続ける地表へと投影した弓矢を向けていた。通常の矢ではなく、螺旋を描いた奇異な形をした矢。まるでドリルのような剣を、アーチャーは無理矢理弓へとつがえる。恐ろしい程不安定な射撃姿勢だが、それには一片の歪みが無い。まるで弓矢を射る為だけに作られた人形のように、アーチャーは正確に弦を引く。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

 瞬間、もう一つの噴火が発生した。アーチャーの放った矢が、噴出し続ける魔力と矢がぶつかり合い、お互いの魔力をぶつけ合う。目の前で核ミサイルでも撃ち込まれたかと思うような爆発で、一瞬にしてノーマは聴覚を失う。それでも意識だけは保っている。アーチャーの投影から着弾まで数秒しか経っていない。矢を放ったアーチャーは即座に落下していくノーマを抱え、地面へ着地した。

 

「大丈夫か、マスター」

 

何とか復旧してきた聴覚に、アーチャーの声が響く。頭がクラクラするも、外傷はない。

 

「え、ええ。今のは」

「投影だ。どうやら紛い物でも真作を減衰させる程度はできたらしい」

 

 地表から噴出し続けた魔力は、既に残滓すらない。だがその傷跡は凄まじく、周辺の木々が吹き飛んでいるのは勿論、迷宮の地表がその惨たらしい惨状を証明している。鬱蒼とした森等どこにもない。あるのはただ剥がされ、その中身を剥き出した大地だけだ。

 

「これって、番人の宝具?」

「そうだろう。私達を狙ったものではないのは幸いか。余波だけでもこの威力。流石は大英雄のなせる業だ」

 

 こんな天変地異を具現化させたような宝具を持った相手が、この階層の番人。ノーマは心底震え、無かった。余りにも威力が高過ぎて、実感が持てない。恐怖を抱く段階を大きく逸脱した存在だ。やや現実逃避気味だが、それがノーマ本人に冷静な判断をさせていた。

 

「アーチャー。番人はこっちに気付いてる?」

「恐らくな。こうも見晴らしが良くなったのだ。番人がいる地点は分かる。隠蔽と不可視の魔術が施されているせいか目視はできんが、『視えない』部分にいるのだろう。出てこない、という事は番人としての矜持か、それともあの一撃とサーヴァント戦で消耗したのか、どちらかだ」

「キャスターの言っていた、もう一人のサーヴァント?」

「瀕死だが、こちらは視えている。どうするマスター。接触してみるか」

 

戦力は欲しい。しかしキャスターのように危険を伴う人格は御免被りたい。ノーマは悩んだものの、可能性にかけるべきだと判断した。最悪サーヴァント戦に突入するが、あの惨撃の中心点にいるサーヴァントが無事な筈は無い。酷い話だが万が一襲われても対処する事はできる。

 

「お願い。連れて行って」

「了解した。少し揺れるぞ」

 

そう言ってアーチャーの腕に抱えられ、数十秒。周囲の風景は更に苛烈となり、爆心地となった地点では数メートル地面が抉れていた。そのクレーターの中心に、仰向けに倒れたサーヴァントがいる。

 

「凄まじいな。あの一撃を耐えるとは。強力な防衛宝具を持っていたのか、それとも蘇生の類か」

 

アーチャーはそう言うものの、ノーマの眼からでは瀕死の数歩先へと踏み込んだように見えた。小柄なフードを被った少女、だろうか。服はズタズタに引き裂かれ、肉体を構成するエーテルは霧のように消えかかっている。よく『視れば』サーヴァントの命とも言える霊核にも傷が入っているのが分かる。

 

「ック、ハァ、ハァ」

 

近づいて来る気配に反応したのか、そのサーヴァントは立ち上がろうと身体を動かす。結果バランスを崩して頭を地面に叩きつける結果となったが、それすらも目に入っていないのか少女は再度同じ行動をしようとした。

 

「待って、敵じゃない」

 

ノーマはアーチャーに下がらせ、クレーターの中心へと歩き出す。少女の姿で瀕死であっても相手はサーヴァント。近付くに連れて殺気が膨らんでいく。ノーマはそれに思わずたじろぐも、何とか足を動かすことに成功した。

 

思ったよりも少女は幼い。十代中ごろの自分よりも幼さが残る顔には、警戒の二文字が刻まれている。更にその瞳。ノーマはそれを見た瞬間このサーヴァントの目に魔力がこめられているのを理解した。魔眼、それも自分よりも高位の。発動状態でなくとも感じられたのは、同じ魔眼保持者故か。

 

ノーマは数歩進めば少女に接触できるほど近付くと立ち止まり、しゃがみこむ。

 

「私は、ノーマ。ノーマ・グッドフェロー」

 

想像以上に自分が落ち着いているのが分かった。相手の瞳を見て、この子に敵意が無いことが分かったのだ。目を見れば分かるという言葉をノーマは信じないものの相手の眼を視れば、双方が危害を加える存在で無いことが分かる。

 

「貴方は?」

「私・・・・・・は。ランサー、のサーヴァントです。貴方は、迷宮に落ちた人間・・・・・・ですか?」

 

傷のせいで途切れ途切れになりながら、そう少女は言った。ノーマは大きく頷き、少女へ更に近付きか細い身体に触れる。治癒魔術をかけるものの、焼け石に水だ。どう足掻いても自分の技量ではこのサーヴァントの損傷を修復する事はできない。

 

「ランサー。貴方の力が必要なの。力を貸してほしい」

 

 ノーマは瀕死のサーヴァントに向けて共闘を持ちかけた。やろうと思えば無理矢理このサーヴァントを脅す事もできた。生かしてやるから指示に従えと言う事もできた。それをしなかったのはノーマがまだ魔術師の思想を自分の思想として定着させていない事と、同じ魔眼保持者としての同情が込められているからだ。

 

 ランサーは、ノーマと、後方で警戒を解いていないアーチャーを交互に見比べる。その瞳に敵意は無いものの、ノーマに分かるのはそれだけ。ある意味でノーマ自身も目の前の少女と同じ綱渡りを行なっている。

 

それでも、この子なら分かってくれる。そんなノーマの思いを受け取ったのか、ランサーはコクリと頷く。

 

「・・・・・・ええ。良いでしょう」 

 

 こうして、ノーマに仲間(サーヴァント)が加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況を整理しよう」

「そうね。色々と複雑になってきたし」

 

 アーチャーとノーマは歩きながら言葉を交わす。アーチャーは周囲の索敵を怠らないように、ノーマは背中で気絶しているランサーに負担がかからないように気遣いながら。消滅寸前のランサーは、あの後即座に意識を失った。サーヴァントたる彼女に、体力と言うのは存在しない。突き詰めれば魔力さえあれば現界できるのだ。だが、その肝心の魔力が無い。ノーマと契約すれば解消できるが、アーチャーだけで魔術回路が悲鳴を上げているノーマでは三人諸共魔力切れで動けなくなる可能性が高い。ならばと迷宮の怪物から徴収しようにも怪物がいない現状、その線も無い。

 

 故に手段は一つ。

 

「この階層内の魔術礼装を使うという点では、私に異論は無い。マスター自身の魔力を考えれば、妥当な判断だ」

 

 第二階層に徘徊する怪物がいないせいで、設置された魔術礼装達は即座に見つかった。世の魔術師達が目を見張るような代物が多く存在していた。詠唱すれば自動的に火炎を放出する魔杖、持っているだけで危機を回避させる大盾、放てば敵の心臓めがけて飛んでいく弓矢。ことごとくをノーマは放置した。理由は簡単だ。それらは意図的とすら思うぐらいに『大きく』設計されていた。ようはかさばるのだ。

 

確かにこれらの魔術礼装は一級品で、ノーマのような底辺でも扱う事はできる。しかし欲深さに目を眩ませ、あれやこれやと持っていればそれだけで荷物となる。それに、ノーマの目的は迷宮の脱出で、探索ではないのだ。探索任務は迷宮入口で自身を除く探索隊が全滅した時点で終了した。生きて帰る事だけが目標のノーマには不要な代物だった。

 

 とはいえ、それらの中で癒しの魔杖を放置したことだけは悔やまれる。実際傷を癒す効果のあるソレにノーマは持っていこうか悩んだが、そもそもこれが必要になった時、自分がどんな状態になっているか、そしてその状態で礼装を起動できるが考えて止めたのだ。

 

「上手く行けば新たな戦力が保有できるし、何よりリスクが小さい」

「厳しいのね、アーチャーは」

 

 人助けにリスクリターンを言い始めるアーチャーに、少々の嫌悪感をノーマは感じた。確かにそれはノーマ自身思ってはいたものの、こう正面から言われると非難したくもなる。アーチャーはそんなノーマの反応に肩を竦めるだけだった。

 

「お人好しの救世主にでも見えたのかね、私を?あくまで君自身が行った選択を、改めて言ったに過ぎない。どちらにせよこの状況下でそのサーヴァントを助ける、と言うのなら最善の策だ。だが、何かおかしいとは思わないか」

「ランサーの事を?」

「そうだ。『ランサー』だ。第一階層で戦ったサーヴァント、ディルムッドもランサーだった」

 

 通常の聖杯戦争で、呼び出されるサーヴァントは七騎。

 

剣士(セイバー)槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎乗兵(ライダー)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)魔術師(キャスター)。それら以外にも通常とは異なる召喚方式によって特異なサーヴァントが生まれると言うが、それでもクラスが被るのは考えにくい。

 

「第一階層で戦ったランサーは間違いない。ディルムッドには他にも伝承はあるが、二対の槍を同時に使う技巧は間違いなくランサーでなければ使えん」

「つまり、この子がランサーと言うのは嘘だと?」

「そうとも思えん。真名ならともかく、クラスは嘘を付いてまで隠す必要は無い。クラスを言えば即座に真名が露見するようなサーヴァント、と言う線も考えにくい。そもそも、この第二階層まででサーヴァントの数は五騎も存在している。キャスターのような怨霊に近い性質の物が呼び出され、かと思えばこのランサーを倒したサーヴァントのように規格外の宝具を所有するサーヴァントまでいる」

 

 まるで、本物の聖杯戦争のようだ。とアーチャーは言った。ノーマは極東で行われる真の聖杯戦争がこちらとどれほど違うのかは分からないが、亜種聖杯そのものは、不安定でどれほど危険な物かは知っている。アインツべルンの秘匿された技術が拡散されたものの、未だに真作と肩を並べる聖杯を作り出した魔術師はいない。亜種聖杯戦争が始まる、と言う噂が出れば最後には、アレは失敗だった。というオチが付く。だがこの迷宮内にある神秘、そしてサーヴァントと接していれば嫌でも今回の亜種聖杯がどれだけの奇跡を内包しているか推測できてしまう。

 

「この亜種聖杯は、何かがおかしい。私が注意してほしい点はそこだ。別にそのランサーを疑え、とは言っていない。だがこの迷宮には、単なる亜種聖杯探索ではなくなった」

「・・・・・・とにかく、今は魔術礼装を見つけましょう」

 

 番人の宝具の爆心地から大分離れていくと、森林地帯が再び戻ってきた。表面上は緑が復活したように見える物の、木々は傾いている物が多く、流れる川は魔力の暴走で茶色く濁りきっている。鬱蒼とした森が更に一段階怪異性を帯びてしまっていた。

 

 それでも、原型は保たれている。ノーマは自身の記憶と照らし合わせながら、礼装があった場所まで辿り着いた。宝具の発動前から倒れていた大樹、その内側だ。腐り切った木の中心に、丁度人が入れるような穴が作られている。その中に厳重そうな宝箱が。

 

「・・・・・・ない?」

「その通り!実際無いのです。何故ならあぁ?」

 

 アーチャーは瞬時に行動していた。投影した双剣が振るわれ、金属同士がぶつかり合う硬い音が響く。ノーマはアーチャーの背中へと回り、彼の戦闘に邪魔にならぬよう立ち回った。襲ってきたのが誰かは直ぐに分かった。こんな不意打ちじみた行為と、人を心底嘲笑しているような声を出す者は一人しかいない。

 

「私が持ってますから!ヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 

 アーチャーの数メートル先で、キャスターは大型のハサミを開いたり閉じたりしながら笑みを浮かべた。もう一方の手にはその身長と大差ない杖が握られている。あるべき宝箱の中身、癒しを施す魔杖だ。

 

「また会いましたねえ、ノーマさん!いえ、ミセス・ノーマ?それともノーマ様の方が好みでしょうか?」

「今回はどうやら死にに来たようだな、キャスター。それが遺言で構わないかね」

「御冗談を!私、まだ生きていたいのです。だからこれを持っている」

 

 よく見れば、キャスターの身体には多くの傷が存在していた。さっきの宝具の余波は、どうやらこのサーヴァントにもダメージを負わせたらしい。ランサーよりも傷は浅いものの、マスターがいないサーヴァントにとってはどんな傷も魔力を消費してしまう脅威だ。

 

「私、このまま消えるのは怖い!とても怖い!何せ誰も殺していないし、騙してもいないのです!これでは地獄へ落ちて恥をかく事になってしまう」

「そうか、ならここで地獄へ落ちて貰おう。安心したまえ、貴様のような外道が逝く所に、恥も大義もありはしまい」

「溜息ものの碧眼ですねえ!経験がおありで?」

 

 一触即発の雰囲気に、ノーマは前へと踏み出していた。アーチャーは少しだけ目を見開いたモノの、何も言わずにそのままキャスターを警戒する。自分のやりたい事を会話無しで理解してくれたアーチャーに感謝しつつ、ノーマはキャスターへと向かい合った。

 

「キャスター」

「はいはい、こちらにィ!何か御用ですかなお嬢さん」

 

 一気にキャスターが近付く。片手に持ったハサミは依然向けられたまま。会話する距離感を大きく踏み込んできたキャスターを、ノーマは背中から感じる少女の温度で自らを奮い立たせる。ランサーは既に限界だ。キャスターと戦闘し、魔杖を奪い、ランサーへ治癒をかける頃には彼女が消えている可能性まである。それが嫌だから、こうやって悪魔と対面しているのだ。

 

「取引しましょう」

 

 これは悪魔との取引だ。この取引に公平性は無く、あるのはどれだけ相手を出し抜けるかの策謀のみ。キャスターの顔が笑みを浮かべ「どんな取引で?」と尋ねる。キャスター、メフィストフェレスと名乗った自分に取引を持ち掛けるのだ。それがどんな無謀な策かこの悪魔は知っていて嗤っている。

 

「魔杖を渡して欲しい」

「おや、私に死ねと?」

「見ての通り、もう一人サーヴァントを抱えてるの。この子にまず魔杖を使って、それから貴方に渡す。わざわざ貴方と戦って奪うつもりは無いの。一通り治癒が済んだら返すわ」

「フーム、正に素人の口車ですなあ。そもそも私には何のメリットも無い。これでは取引ではなく要求です」

 

 流石は悪魔。簡単に首を縦に振らない。だがノーマも伊達に魔術遺跡探索者をやっているのではない。模造品のスフィンクスの問いかけに何とか生還したあの時の度量、そしてランサーを助けたいという気持ち。その二つがノーマへ一歩先へと向かわせる。

 

「貴方にできるの?治癒が」

 

ノーマはワザと煽るような口調で言った。勿論キャスターはその程度で感情を乱したりしない。大きく溜息を吐いて、失望したような目でノーマを見る。

 

「あのですねぇ、私これでもキャスターですよ?それに、この迷宮の魔術礼装はとても親切です。貴方のように脳味噌の軽い人間でも理解できるように作られている」

「そうなんだ。なら、消えかけてるキャスターでもできるのね?」

 

一気にキャスターの表情から笑顔が消える。鎌をかけた自分の発言は、どうやら功を奏したようだ。確かにこの迷宮内の魔術礼装は一級品というだけでなく、キチンと扱い方が分かるように施されている。嫌らしい罠こそあれど、用いる手段はとても分かりやすく親切だ。

 

だが、使用には魔力が必要だ。魔術礼装なのだから。それは魔術師ならば当然だが、サーヴァントとなれば話は違う。サーヴァントは魔力で出来ており、魔力を消費して現界している。仮にキャスターがこの魔杖を使用したとする。その場合キャスターの魔力から魔杖の起動、術式の展開が行われ、キャスターの傷は治癒される。だが消費した魔力は元へと戻らない。それはつまり、表面上だけの回復だ。サーヴァントの魔力は元へと戻らず、傷だけは消える。結局事態は先延ばしにすらされない。

 

「本当に切羽詰まっているのは貴方。私達に襲いかかったのも、魔力を補給してから魔杖を使おうとしたんでしょう。殆ど効果の無い身隠しの布まで使って」

「成る程、成る程成る程!いやぁ私、勘違いしていました。人を見る目は結構な心得があったのですが。どうやら私の見込み違いのようですね!」

「で、どうするの?私を殺して魔力でも奪う?アーチャーが許さないだろうけど。全員が死ぬか、全員生き残るかの二択よ」

 

ここが正念場だった。目で人を脅す眼力を持たないノーマは、ただ淡々と事実を述べる。キャスターはハサミを放し、杖を持ったまま両手を挙げた。

 

「降参です!一本取られました。交渉の余地が無い要求には辟易しますが、後学の為の手痛い授業料としましょう」

「そう、なら」

「ですが一つだけ、お願いが」

 

キャスターは魔杖を差し出す手を一時的に止めた。まだ何か残しているというのか。もしも会話を長引かせるような要求ならアーチャーへキャスターを狙撃しろと指示を飛ばす事を考えながら「何かしら?」とノーマは尋ねる。

 

「私もそちら側に協力させて頂きたいのです。知っての通りこの階層の番人はデタラメな宝具を持った大英雄。正直な話、私単独では勝ち得ない相手でしょう。東洋には四人寄れば天才に匹敵する知恵を発揮できるという諺もある事でしょうに」

 

東洋の諺は三人だった気がする。ノーマはそう思いつつもキャスターの言葉に一定の合理性があるのも理解していた。最初から戦力は欲しい分だけ欲しいのだが、相手がこんな宝具を持っているとなれば二騎でも懸念が残る。

 

だが最も怖いのは後ろからの攻撃であるのも事実。ノーマは数秒考え、首を縦に振った。

 

「良いわ。でも、番人を倒して下の階層に降りるまで。それなら貴方も私も、益がある」

「一筋縄では行きませんねぇ。まぁ良いでしょう」

 

キャスターはそう言うと、空いた手を差し出した、何の魔術かノーマは頭に疑問符を抱かせマジマジと見つめる。奇抜な点を除けば何の変哲も無い手だ。

 

「握手ですよ。まさかこの時代の人間共はみんな交流手段を変えてしまったんですか?」

「あ、ああ。握手ね」

 

こんな異質なサーヴァントが、わざわざそんな礼儀正しい事をする。とはいえ何か事を起こせばキャスター自身の首を絞める結果が待っている。迷わずノーマは差し出された手を握った。思ったよりも温かみのある手。この温もりが人を騙す悪魔の手なのだ。

 

「よろしくね。メフィストフェレス」

「ええ、よろしくお願いします!私、契約を破らない事と主人に使えるという事では最上位のサーヴァントですので!ヒヒヒヒヒヒッ!」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パーティにメッフィーとフードを被った少女のランサーが加わったよ!やったね!
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