迷宮にて弓兵召喚   作:フォフォフォ

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第二階層③

 室内は、すっかり手狭になっていた。

 

 赤い外套に身を包んだ男、道化師のような悪魔、簡易ベッドで寝込む少女、そして自分。流石に四人分も人が入れば嫌でも誰かの存在を感じてしまう。

 

 キャスターとの取引後、まず向かったのはこの小屋だ。魔術礼装の行使によってランサーは一命を取り留めているものの、宝具の直撃を受けた傷はそう簡単に治りはしない。再度癒しの魔杖を使用する必要があるが、ノーマ自身の魔力が空になるまで使うわけにも行かないので、一先ずは拠点となるこの小屋で休息していた。

 

「ふうむ、フムフムゥ。マスター。このメフィストフェレス、良い考えを思いつきましたよ!」

「勘違いしているようだが、貴様はあくまで共闘しているに過ぎない。悪魔の名前を冠している割に、契約内容を忘れたのか?」

「そうお堅い事を言わずに。貴方のように規律ガチガチの考えは昔の御主人を思い出しますねえ。殺した時の死に顔も同じでしょうかぁ?」

 

 壊滅的に、キャスターとアーチャーは仲が悪い。キャスターの性格に合う方が怖いのだが、ノーマは部屋内に渦巻く火花を消火するべく「で、良い考えって?」とキャスターの話に食いついた。キャスターの一挙一動を見ていれば、彼がどれくらいの頻度で笑っているか気づく。殆ど笑顔が平常運転、逆に口が止まり表情が無になれば何を考えているか分からない不安さが残る分、今のようにケラケラと笑っている方が分かり易かった。

 

「やはりマスター、話が分かるし早い!私が提案するのはこれからの事です。その、ランサーの小娘が復帰するには、マスターの魔力をいち早く回復させなければならない。なので」

「じゃあ、アーチャーとキャスター二人で行ってきて」

「わっかりまあああしたあああああ!」

 

 キャスターはそう言うと、猛スピードで部屋を飛び出す。一瞬にして行われた意思疎通に、アーチャーが珍しく反応に困っていた。

 

「マスター、その。まさかと思うがあのサーヴァントと波長が合うのか?」

「違う違う。ただ、ああいうので酷い目には合ってるから、何となく分かるって言うか。スフィンクスとかの問いかけよりはマシと言うか」

「成る程、神獣に遭遇していたのか。それならばあんな手合いにも耐性がある、と。それなのに召喚した時は怯えていたが?」

「そ、それはちょっとアーチャーが怖かった、というか。気が動転していたというか」

「・・・・・・私はキャスターより恐れられていたのか」

「ああ!そんな事よりキャスターに付いて行ってあげて」

 

 本気で落ち込みそうになっているアーチャーに意識を切り替えさせるべく、ノーマは本題に入った。

 

「多分、キャスターは私の魔力を回復させる為に外に探索に行ったんだと思う。確か、アーチャーの取ってきた魚、みたいな奴は川にいたのよね?」

「ああ、そうだ。あの宝具の影響は出ているが、まだ無事な所があるかもしれない。とはいえあの男が取ってきた物は何であれ手は出さない方が良いだろうが」

「その為のアーチャーよ。ここは今の所安全だし、何かあったら呼びかけるわ」

「分かった。だが何かあった時に連絡を入れてるようでは遅い。令呪の使用を検討すべきだ」

 

 ノーマは手にある痣、のような呪印を見た。令呪。三画だけしかないサーヴァントの絶対命令であり、サーヴァントに大幅な魔力ブーストを与える支援にもなり得る切り札。これまで幾多もの使い道も使うタイミングもあったが、ノーマ本人に行使できる程の精神的余裕、そしてこんな事で使っていいのかという貧乏性があったりなかったりして結局まだ一画も使ってはいない。

 

「出し惜しみする必要はない。いつか使うから、と思って餓えているのに食糧を残してることはしまい?」

「食糧と違って、補給できないから。できれば使いたくないのだけれど」

「それでも、使う時は来る。そして使う時だと君が判断できるかが鍵になる」

「分かった。何かあれば直ぐに呼ぶわ」

「ああ。私も、キャスターに目を光らせておく」

 

 そう言うと、アーチャーはキャスターを追って部屋から出た。残されたノーマは部屋の中で休息を取る、よりも先に探索鞄の整理をしようと思った。装備品や魔術礼装は、出来うる限りの利便性、つまりメンテナンスフリーな素材を使ってはいるものの、使えば消費され、摩耗していく。いざ使う時に動作できなかった、で死んでしまっては元も子も無いのだ。ノーマの家が十代も魔術遺跡の探索ができているのは、何も先人達の作った画期的な魔術があった訳ではなく、単に死ななかったという結果だけを積み重ねただけだ。そして、その結果を生み出してきたのは備品の点検、情報の調査、撤退の判断という平凡なまでの注意事項を、馬鹿のようにやってきたに過ぎない。

 

 ノーマは探索鞄を開き、水筒の数を確認し、ロープに綻びがないか確認し、魔術礼装に欠陥が無いか確認し、ナイフが刃こぼれしていないか確認し、鏡に割れが無いかを確認し、鏡を取り落した。

 

「んぐっ!?」

 

 奇跡的に鏡は床に落ちても割れなかった。だがそんな奇跡は欲しくなかったとノーマは思う。鏡に一瞬映った自分以外の姿、起き上がったランサーの姿を見た瞬間、視界が急転した。ノーマは魔術師の中でも肉体を強化する部類ではないし、ましてや事態を解決する為に腕っ節で対処する人間でも無い。つまりはサーヴァントの力に対抗できる力はない。結果的にランサーの奇襲にあえなく無力化され、仰向けに彼女と視つめ合う結果となった。

 

「令呪は使わないように」

 

 ランサーの声は低く、冷たかった。その瞳、魔眼から威圧的な光が漏れる。少しでもおかしな素振りを見せればたちまち待機状態である魔眼が開放されるだろう。相手の属性や能力が分かっていたのなら対策でもできたかもしれないが、残念ながらこの状況で教えてくれるとは思えない。

 

「分かった」

 

 ノーマは端的に理解を示した。令呪を使わない。相手の用件はそれだ。命を差し出せとか、お前の魂を喰いたいとかではない。ランサーは、何か二人で話したいことがあるのだ。単純にアーチャーとキャスターの二人がいないからという理由は考えない。考えてしまえば恐怖で身動きが取れなくなる。

 

 ランサーの目と、ノーマの視線が再び交差する。やはりこちらに危害を加えるつもりは無いようにノーマは感じた。どちらかと言うと敵対とは正反対の、親愛とかそう言う物。ランサーの顔が若干の赤みを帯びて、息遣いが荒い。まだ回復しきってはいないのだ。

 

「魔力の回復をお願いしたいのですが」

「今、アーチャーとキャスターが探しに行ってるわ。もうしばらく」

「ええ。今だからこそ、お願いしてるのです」

 

 ランサーの目が、魔眼とは別種の光を放っている。肉食獣が獲物の喉笛を食らいつくような、クモが自分の巣に引っかかった昆虫ににじり寄ってくるような。

 

 あれ?もしかして私って生命の危機に瀕してる?

 

「私は、吸血種です」

「え。もしかして貴方は死徒なの?」

「いいえ。私は純粋な吸血種。人の生き血を吸うことで魔力を回復できる、怪物の途上です」

 

 吐き捨てるようにランサーは言った。まるで自分を本気で蔑むように。人の血液を吸う、のは厳密に言えば吸血種だけではないことを、ノーマは知っている。一般的な人間でも理解できる蚊等も動物の血液を必要とするし、幻想種の中にもそんな生命体がいるのも知っている。だがこんな少女の姿をした吸血種、と言うのは聞いたことが無い。

 

「私は、何としてでも下の階層へと行かなければいけないのです」

「亜種聖杯の事?それなら私もアーチャーもいらない。脱出するために私達は下に行っているだけ。欲しいのなら貴方に」

「亜種聖杯等、どうでも良いのです。私は下に、下に行かなければ」

 

 大きくランサーがせき込む。治癒にて表面上は継ぎ接いだおかげで、ランサーが魔力切れで消滅する事は当分は無い。が、それでもかなりの重体である事は確かだ。人一人押さえつける力にも、ノーマが本気で暴れればどうなるか分かったものではない。

 

 ここで、やっとノーマは相手の言いたいことを理解できた。魔力の回復、吸血種、ランサーと二人きりで。身体に思わず熱が籠もる。まさか、いやこれは別に、アレだ。自分とランサーは女性である訳で、キャスターとアーチャーは男性なので、その。デリケートな話になるから!

 

 浮かれたような頭の片隅で、しかしノーマは別の事も考えていた。あの杖による治癒と、ランサー本人の回復力。どちらが強く、より効率的にランサーが復帰できるか。あるか分からない回復アイテムに期待するより、『今ある物』(ノーマ)で代用する方が現実的ではないか。

 

「分かった。分かったから。自分で言うのも何だけど、私はそんなに凄い魔術回路なんて持ってないの。正直血液から吸い上げる量もあまり期待できない」

「はい、それは分かっています。魔力供給をして欲しい所ですが、サーヴァント二騎に魔力を分け与える余裕が無いことは聞いていました。ですが正直、限界に近いのです。ある程度は魔力を備蓄しておきたい」

「吸血種になったりしないのよね」

 

 ゾンビ映画の見すぎだと何も知らない人間なら言うところだが、死徒に噛まれれば実際そうなるのだから笑えない。しかしランサーは首を横に振りその危険性を否定した。どうやら彼女の吸血は自分の同胞を増やす方法ではなく、純粋な魔力確保の為の行動らしい。

 

「それなら、大丈夫、ね。ただ、その。痛かったりしない?」

 

 ランサーは、妖しく笑った。と思った時には顔を近づけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて。情報を整理したいのだけれど」

 

 アーチャーとキャスターが取ってきた魚を平らげ、魔力を回復したノーマは改めて三騎のサーヴァントと向かい合う。一時的にではあるものの、こう見ると自分が三騎もサーヴァントを従えている事に驚く。入口で半ばパニックに陥っていた自分が、何処をどうすればこうなるのか。ノーマには皆目見当が付かない。成長したのか、と誰かから問われたら否定する他無い。幾ら危機的状況で人は成長しやすいとはいえ、限度がある。となると元から自分はこうだったのか?

 

 無駄な思考をノーマは切り捨て、各サーヴァントの事を考える。

 

 アーチャーは冷静な判断能力と、投影魔術による攻防近中遠全てに対応できるサーヴァントだ。アーチャーというクラスが霞んで見える程投影魔術は幅が広い。

 

問題は後の二騎。キャスターとランサーだ。

 

「私の能力ですかぁ?こう見えても私、好戦主義者ですので!キャスターでありながら前線もできますよ!そこのアーチャーのように」

「ほう、ならばこちらは楽になるな。安心して裏切りの芽を摘む事に専念できる」

「キャスターも、戦えるの?あの、ハサミみたいな奴で」

 

連想したのは自分に奇襲してきたあの攻撃に使った武器だ。サーヴァントの持ち得る伝承の具現たる宝具があのハサミなのだろうか。キャスターの宝具がハサミ。メフィストフェレスの宝具がハサミ。

 

地味だ。

 

「ご心配無く!確かにこのハサミはとてもお気に入りですが、まぁそこまで便利ではありません。私の宝具は別!まぁ今回の戦いで使うかどうかは分かりませんが、少なくとも集団で連携しながら戦うには向いておりません」

 

自分の宝具を宣伝はしないあたり、悪魔らしい考えだ。とはいえ何も知らないよりはマシだとノーマは前向きに考える。

 

「じゃあ、ら、ランサー。お願いしてもいいかしら?」

 

もう一人、ランサーに気軽に話そうとするも、ノーマは若干の緊張を持ってしまう。つい数時間前にあった出来事のせいで、眼を合わせるのも羞恥心があるのだ。

 

いや、だって、あんなの初めてだし。そもそもあそこまでする必要無かったよね!?

 

ランサーはノーマの内心を読み取ったように微笑みながらその質問に答えた。

 

「私はこの眼が宝具です。そうですね。石化の魔眼と言えば分かるでしょうか」

 

その瞬間、やや暖かかった室内の空気が一変した。

 

 石化の魔眼、それを聞いた途端、ノーマは即座にランサーの真名を察した。魔眼の中でもかなり有名な部類、ごく一般的な人間にさえその能力は知れ渡っている。だが、それは英雄なのか?アーチャーの言っていた反英雄としても、彼女のソレは明らかなまでの悪。神話において怪物とまで言われてきた対象だ。

 

「メドゥーサ、ゴルゴーンの怪物か」

 

 アーチャーは腕を組んだまま、冷ややかに言った。こういう時、彼は非情なまでに自分の感情を突き放せる。感情と理性の区別が完全にできているのだ。目の前の少女が怪物で、例え今は敵意が無くともマスターに危害が及ぶようなら殺す、と言う断固とした意志を感じる。

 

「何と、あの悪名高き蛇ですか!素晴らしい。多くの勇者を屠ってきた殺戮怪物が味方とは!(悪魔)彼女(怪物)が揃えば百人力ですねえ」

 

 キャスターはキャスターで、同族に近い相手がいて嬉しいようだった。とはいえその感情は、同族に対する目ではなく弄りがいのある玩具へ向けた視線だったが。

 

 では、自分は?彼女を突き放すか、彼女を認めるか。急に選択が必要な場面を押し付けられた。ノーマは魔術師だが、神話に関しての知識は一般人と同じ。彼女がただの少女で、不幸な事が続いて怪物と呼ばれたのかもしれないし、メフィストフェレスのようにノーマを騙すためにその姿を隠しているのかもしれない。少なくとも怪物、という点においてメフィストフェレスと同位、もしくはそれ以上の化物であることに変わりはない。

 

 ランサーはそれ以上言葉を紡がず、ノーマを視ていた。初めて会った時と変わらない、濁りの無い視線。ノーマがこの迷宮に来て驚いた事は数多いが、サーヴァントという存在はその中でも驚きで満ちていた。名前が無く、優しいが必要になれば冷徹になるアーチャー。おどけた道化のような恰好で、平然と人の命を奪う悪でありながらも、その手は血の通った物だったキャスター。そして、あどけない少女の姿をしていながらも怪物だというランサー。状況により様々な見方で、彼らは生きていたのだろう。

 

 それらを見て、自分はどう判断するべきか。答えなければならない。

 

「でも、メドゥーサがランサーなの?」

 

 しかし、出た言葉は肯定でも否定でもない疑問だった。何故だろう。自分でもよく分からない。ただ何となく、その答えは今言うべきではないと感じたのだ。

 

 その言葉に、ランサーは失望を示さなかった。その笑みは穏やかなままノーマの質問に答えるように片手を開く。瞬時に展開された武器を、彼女は分かるようにノーマへと突き出した。

 

「恐らくこれがランサーである由縁かと思われます」

「鎌?」

 

 ランサーの持っている物は、鎌だった。刃と鎖が連結した暗器のような鎌だった。見様によっては槍にも見えなくもない。そこでノーマはある事に気付いた。メドゥーサは不死殺しの鎌で殺されたと聞く。

 

「これが何であるのか。正確な所私には分かりません。ただ召喚されてからずっと手元にありますし、何故だかこの刃は使いやすい。だから恐らくこれは」

「ごめんなさい。分かったわ。じゃあ番人について教えてくれる?」

 

 自分の死因を持っているというのはどういう気持ちだろう。それを考えただけでノーマは彼女に対する質問を切り上げ、別の方向性へと変えた。彼女を除いて、自分達は番人がどういったサーヴァントなのか知らない。一度でも交戦したランサーの情報が欲しかった。

 

「マスター、それについては私からも心当たりがある」

「分かるの?アーチャー」

「ああ、あの宝具には心当たりがある。地形破壊に特化し、あまつさえ末端の剣光ですらも丘を三つは破壊できる宝具。虹霓剣(カラドボルグ)を持っている英雄となれば一人しかおるまい」

「素晴らしい分析力ですねえっ!私、逃げるのに必死でそこまでは考えられませんでした、もしや貴方、その人物とは親類関係で?」

「さあ、どうだか。で、どうだ。ランサー。間近で見た貴様の意見は」

「・・・・・・ええ、恐らくサーヴァントはセイバー。そして真名は」

 

 フェルグス・マック・ロイ。アルスター伝説でも語られる大英雄。彼の豪快さは伝説にまで残されており、あの宝具の剣光を見ればそれが伝説以上の強さを持っている事は嫌でも分かってしまう。この場にいるサーヴァント三騎は皆伝説に名を遺した英霊だが、相手はそれらを蹴散らす程の能力を秘めているのだ。

 

「分かった。じゃあ改めて作戦を考えないとね」

 

 だからこそ、策を練らなければならない。相手が強大なのは分かっていた事だ。ならばこちらを強くし、相手を弱くすればいい。サーヴァントが兵士ならば、三騎のサーヴァントの能力を統括し、指揮するのは自分なのだ。本来なら自分以外の魔術師がやった方が能率的で、効率的に迷宮を探索できただろう。だが、この場にいるのは自分一人。助かりたいのなら、生きて帰りたいのなら自分が頑張らなければならない。ノーマは三騎のサーヴァントに、作戦内容を伝える。

 

 それを見ながら三騎のサーヴァントはそれぞれの想いを抱いていた。

 

 アーチャーは、本来の能力を発揮しつつあるマスターを認め。

 

 キャスターは、徐々に変化していくマスターを面白いと嗤い。

 

 ランサーは、無垢で純粋なマスターに在りし日を重ね。

 

 それぞれ、マスターと出会った時と場所が違う分、抱いた想いは皆違う。それでも共通しているのは。

 

 彼女をマスターとして認めている、という事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し聞きたい事があるのですが、良いでしょうか」

「そんなに畏まらなくて良いよ。正直私もドキドキしていて眠れなかったから」

 

 作戦会議は終わり、番人との決戦前夜。ノーマは最後になるかもしれない夜を小屋の中で過ごしていた。アーチャーとキャスターは小屋の外で、周囲を警戒している。睡眠を必要としないサーヴァント三騎に囲まれて眠るのは流石にノーマも気が引けないので、男性と女性で分けたのだ。とはいえ、ランサーもランサーなのだが。

 

 ランサーはノーマの了承を聞くと、ゆっくりとベッドに近付き、いきなり内部へと侵入してきた。前にあった事例を思い出したノーマは、思わず身体が強張る。そんな強張った身体を、ランサーは蛇のように絡みついた。

 

「さ、流石に決戦前夜は」

「あの時の、答えを貰っていません」

 

 しかしランサーの声は真剣だった。何を言いたいのか、ノーマは直ぐに分かった。あの作戦会議の時に明かした、ランサー、メドゥーサについてだ。

 

「貴方は、どう思いました」

 

 あの時、自分は答えを保留にした。彼女を怪物として扱うか、それとも自分と同じような少女と見るべきか。ノーマはここに来てようやく、答えなかった自分の行動理由に気付いた。

 

「もっと、詳しく知りたいなと思った。だって、あの話だけじゃあランサーが、メドゥーサが悪いのか何て分からないし、やむを得ない理由があったのか分からない。それに本当にメドゥーサかも分からないしね」

 

安っぽい同情や優しさの言葉を吐けば殺されるというのが本能的に理解していたからだ。彼女の事を知りもしない人間が、上辺だけの情報とランサーの外見を見れば、芝居のような悲劇があったに違い無いと感じるだろう。だが、彼女の過去は芝居や演劇ではなく、事実上にいた存在なのだ。

 

「それは何故?」

「髪の毛、蛇じゃないし」

 

 クスクス、とお互い笑った。伝承との違いなんて幾らでもあるだろうに、ノーマは敢えてそう言った。そうだ、本当に彼女がメドゥーサかも、今は分からない。ならばランサーは、どうすれば自分をメドゥーサと証明できるか。

 

「分かりました。話しましょう。私の過去を。ああ、何も悲劇だけでは無いので少しは面白いと思います。ただ明日は眠くなるかもしれませんよ?」

「構わないわ。それで連携が良くなるかもしれないし」

 

 そう言えば、同世代の人間と話すのは久しぶりだ。少女らしい恋話はできないが、会話に花を咲かせるのは必須。

 

 小屋の中では、少女達の小さな幸せが育まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では、小屋の外では?

 

「行くぞ、キャスター。貴様には負けん」

「貴方も負けず嫌いですねえ。何度も言ったでしょう。幾ら良い道具を持った所で、圧倒的に拡いた差を埋めるのは困難だと」

「言っているが良い。だが、道具の発明は常にその差を埋める為に作られたのだと知れ!」

 

 話は、ノーマの魔力を回復させる為に川へと行った時まで遡る。

 

 番人の宝具の影響で、川の生態系はかなり深刻なダメージを被ったが、無事な所は幾つかあった。そういう所にいる魚類を、アーチャーはこれまで通り最新式の釣竿を投影して釣ろうとしたのだ。

 

「そういえばキャスター。貴様、どうやって魚を捕るつもりだ?」

 

 勿論、アーチャーは投影品をキャスターに借すつもりなど無い。そうなると手掴みという原始的かつ野蛮な手段にキャスターは頼るしかない。

 

「いえいえ、私にはこれが」

 

 そう言うと、キャスターは糸を取り出した。その先には小さいながらも釣り針を模した木の枝を結び付けられている。

 

「糸は私の布の生地を、木の枝はそこらへんに生えてる物を。こう見えても道具作成スキルはある物で」

「フン、貴様らしい雑な代物だな。その程度で魚を捕れるのは余程の大物だろう。期待しているよ」

 

 三十分後。

 

「ええっと、十七匹目フィッシュ。 いや、二十匹目でしたっけ?覚えていますか、アーチャー?」

「・・・・・・」

 

 一時間後。

 

「・・・・・・馬鹿な」

 

 アーチャーは刮目せざるを得ない。キャスターの釣った魚の量。三十匹から先は数えていないが、彼は糸釣りだけでこれだけの量を釣っているのだ。アーチャー自身も釣ってはいるものの、何とか二桁に乗り出した辺り、それも段々と細くなっている。投影したとはいえ自分の持っているのは最新式のルアーフィッシング用の器具だ。それが負けるはずがない。

 

「キャスター、貴様、何か細工をしたな」

「細工ぅ?これにそれだけの意味があるとでも?」

「ふざけるな。魔術的細工でもしているのだろう!」

 

 キャスターは、大層な身振りで溜息を吐いた。その間にもその糸には反応があり、キャスターが糸を引けば魚が水面から顔を出す。

 

「私、これでも悪魔ですよ?獲物を騙し、偽物で吊り上げる。わざわざ呼吸にコツがありますか?それと同じです。私から見れば、細工だらけなのは貴方ですがね」

「何だと」

「自分の両手に収まっているのは何だと思います?人類の叡智、と言えば恰好は付きますが、単純に言えば人間が扱い、そして人間が抱いている『魚』を捕る為の物。迷宮内でそんなモノが通用するとでも?」

 

 ここで、アーチャーは自分の失策に気付く。成程、この釣竿は高価かつ最適な物。だが、迷宮の魚は魚であって魚ではない。ルアーの疑似餌を見抜き始めているのだ。

 

「貴方は道具に頼るばかりで、自分の実力を高めようとしなかった。その報いがこれですよ。見てみなさい。私は水面を見なくとも魚がどこの水流に乗っているか、そしてどのタイミングで口を開けるのかは即座に理解できている」

「馬鹿な、魚の口に針を入れるだと!そんな芸当ができるわけがない」

 

 と言うも、実際キャスターはそうしている。認めなければならない。キャスターの『騙す技術』は卓越していると。

 

「ですが、アーチャー。貴方にも有効なものがありますよ」

 

キャスターは意地悪い笑みを浮かべながらアーチャーを見た。

 

「私の釣った魚を、調理するという役目がね!ヒヒヒヒヒヒ!」

 

あの悪夢を、アーチャーは挽回するつもりだった。外敵がいない第二階層ならば、別に見張りなどいらんだろう?だから見張りと言う名目でキャスターと一緒に持ち場を離れ、リベンジを果たす。

 

「私、マスターの命令を尊守する高潔なサーヴァントなのですが」

「ほう、勝ち逃げかね?随分と殊勝な悪魔だ。それとも負けるのが怖いのか」

「いいえ。だって負ける事などあり得ませんし」

「ならやって見るがいい。みていろ、数々の戦場を渡り歩いた私の実力を!」

「はいはい、分かりました。三十分程で終わらせますよ」

 

キャスターはそう言って、再度糸を取り出した。アーチャーは身を屈める。

 

「おや、あの手品はしないのですか?」

「フン、甘く見るな」

 

アーチャーは人の頭ぐらいはある石を持ち上げる。目を丸くしているキャスターを横目に、アーチャーはその石を水中の同じサイズの石へと思い切りぶつけた。

 

瞬間、衝撃音が水中を木霊す。衝撃音に驚いた周辺の魚が浮き上がり、失神していた。アーチャーはどうだとばかりのキメ顔をキャスターへと見せ付ける。

 

「フーム、もしかしてバカですかね?」

 

もしもここが釣りのスポットならば、アーチャーは速攻で止められ、出禁にされる行為だ。それを奥の手として使った時点で、アーチャーの底が知れる。

 

「できることをしたまでだ。それとも何か、まさか汚いとでも言うのかね。ならやって見ると良い。もっとも、この猟場には既に大体の魚は捕らえたが」

 

キャスターは自分の宝具でアーチャーもろとも吹き飛ばそうかやや本気になって考えたが、幾ら楽しく裏切るのが心情のキャスターも、こんな裏切り方はしたくない。したくもない。

 

「はいはい、分かりました。私の負けで良いですよ。で、この大量の魚はどうするのです。全てマスターの胃袋に収まるおつもりで?」

「調理する。日持ちできるよう干し魚にもするし、荷物になるなら捨てる」

「アーチャー、貴方。もしかして結構腐ってます?」

 

アーチャーは聞こえていないのか、満足気に魚を回収していた。勝てば良しが、この英霊の特徴なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




石打漁法は川などでは禁止されてているので迷宮に入った時以外は良い子は真似しないように!
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