迷宮にて弓兵召喚   作:フォフォフォ

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最近腹痛が治らないから病院行ったら十二指腸潰瘍になってた
怖い!


第三階層②

ノーマは改めて現状をじっくりと考えてみた。いつもなら思考するのも十分程、それ以上考えて答えが出ないなら諦めるし、そもそもここで十分以上思考していればあっという間に徘徊する怪物達に襲われてしまう。しかし、今は安全かつ思考するには十分な『環境』にいる。

 

アルカトラスの第七迷宮、その探索部隊に自分は入っていた。過酷かつ辺境の地である場所を踏破するには十分な部隊だったが、あえなく探索部隊は自分を除き全滅した。

 

自分が生き残ったのは、運が良かったからだ。とノーマは考えていた。人生全ての幸運を代償に、自分は運命に抗ったと。だが、少し考えれば多くの違和感がある。何でアーチャーを召喚できたか、と問われれば令呪が自分の右手に刻まれたからと答えれる。極東の冬木市で行われた大規模な魔術儀式、聖杯戦争。令呪を持ったマスターと、それに使役されるサーヴァントの戦い。聖杯戦争のシステム上、令呪の発生は聖杯戦争自体に近しい者から選ばれ、稀に数合わせとして一般人も選抜されると言う。自分は聖杯戦争の関係者では無いが、一般人よりは神秘に近い。選ばれるのは可能性としてはあり得る。

 

しかし、それならば探索部隊の魔術師はどうだろうか。ノーマより格上は勿論、魔術協会でその名を知らない者はいないとするほど優秀な魔術師はいたし、更には亜種聖杯戦争を勝ち抜いた、と吹聴する者もいた。真偽はともかく、かなりの数がいたのだ。一人くらいはいてもおかしくはないし、逆に全員嘘吐きならばその状況がおかしい。

 

まるで、運命が自分をこの迷宮に誘い込んだようだ。運命に抗ったと思いきや、逆に運命に選ばれたように。

 

更に、召喚されたサーヴァント達、それらもクラスが被っていたり、わざわざ自分一人を蹴落とす為に各階層で待ち構えている。最下層にある亜種聖杯が欲しいのなら先に降りて行けば良いのだ。自分と戦うのは非効率、更に無意味。

 

下へ降れば降るほど謎が深まり、違和感が大きくなっていく。ノーマはしかし、それを嬉しく思った。第一階層では身の周りの事など考える暇や精神力も無かったからだ。慢心は厳禁だが、疑心暗鬼はもっとタチが悪い。

 

「シャーロック・ホームズでも召喚されていないかなぁ。いや、この場合は作者のコナン・ドイルなのかな」

「両方、という可能性はどうでしょう?創作上のキャラクターでも、それに近しい人物がいれば該当しますし、高名な人間なら作家だろうが劇作家だろうが、悪魔だろうがソレにされますしね!」

 

ノーマは山猫のような俊敏性で立ち上がり、声のした方向を見る。視るまでもなく、蒸気の向こうにはキャスターがいた。

 

ほぼ自動的に悲鳴が口から吐き出された。勇気やら冷静さや、恐怖やら令呪やら宝具やら全ての感情が一混ぜにされ、ノーマは首から下を水面へと付ける。勢いよく座ったせいでバシャン、と大きな水飛沫が上がった。

 

アーチャーを令呪で呼ぶ?却下だ。と言うより論外だ。今自身の体を守れるのは、その身体たるノーマのみ。自分の身体は自分で守れ。一般人でも使われる警鐘文句その通りに、ノーマは水底にある石ころを拾う。

 

見事なまでの投擲モーションは、キャスターの頭部と思われる箇所に直撃した。無論、サーヴァントたるキャスターにとっては攻撃ですら無い。一級の魔術師ですら赤子同然の戦力差を持つサーヴァントに、それでもノーマが攻撃をした理由は勇猛でも無謀でも悪足掻きでも無い。基本的に臆病な自分ですらも怒号を浴びせかけれるぐらいの気概は持っている。それは、何故なら。

 

「この変態!ヒトの入浴中になにしてんのよ!」

 

温泉の中で、素っ裸だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔色が悪いようだが・・・・・・何かあったのかマスター」

「い、いいえ!ちょっとのぼせただけ!」

 

 アーチャーは眉を潜めるも、それ以上は追求しなかった。自身のマスターの詳細を掴める程関係を深めてはいないが、このマスターが敵地のまっただ中で温泉でのぼせ上がる程油断する訳が無い。どちらかと言うなら気の張りすぎで神経質になっている。

 

 だが無理もない。右腕に悪趣味な爆弾が仕掛けられ、四六時中歪な駆動音を聴かされてこの程度で済んでいるのが奇跡なのだ。最悪発狂もあるだろうと考えていたが、マスターは依然正気を保っている。異常事態に次ぐ異常事態でそれらは吹き飛ばされているが、平時に戻ればどうなるだろうか。迷宮から脱出したあとは、この傷は癒えるだろうか。分からない。

 

 話を変えるべきだとアーチャーは考えた。

 

 

「ランサーもどうやら本気のようだな。我々を一時的な戦力と見ている。それ故の待遇だろう。わざわざ共同前戦の相手にこんな部屋を提供するぐらいだ。余程の期待か、それともただ単に見せつけたいだけなのか」

 

 

 石造りの洞穴を通れば、その先は現代で言うところの高級ホテル、を更に二段階程上をいかせた部屋があった。第二階層では場違いな日の光や川のせせらぎがあったが、これは別次元だ。神代に回帰している筈の迷宮で、現代的な建築内装が施されているのだから。

 

 何らかの魔術的トラップも入った時に捜索したが見つからなかった。とはいえ見つからなかった、というだけなので依然としてアーチャーは警戒していた。使ってくれと言われた露天風呂に、マスターが入ると言い出した時は同行を願い出る程に。残念ながらノーマはそれを拒否したが。

 

「正直、驚いたわ。魔力回復効果もある温泉なんて聞いたこと無いもの。アーチャーも入る?」

「やめておこう。孤立するリスクはこれ以上増やしたくない」

 

 ランサーとの会談の結果、ノーマとアーチャーはランサー、フィン・マックールの陣営に招かれた。陣営、と言ってもランサーの手によって召還されるケルト兵達の根城と言っても良い場所、陣営に入った途端に襲われる可能性もあったが、それはマスターたるノーマ自身が判断し、了承した。

 

「信用しきるのは難しいけど、今だけは協力できそうね。あの話も信憑性があるし」

 

 ああ、とアーチャーは頷く。別段ランサーはノーマの容姿を気に入り自軍へと引き寄せた訳ではない。必要だったからだ。ノーマも必要だったからこそランサーとの共闘を了承した。

 

「迷宮に厄介な魔獣が出現してな。それを私と一緒に討伐してくれないだろうか」

 

 ランサーの話はこうだった。この迷宮では、幻想種の宝庫だ。それらは迷宮の作成者アルカトラズの手によって作られた合成魔獣であったり、秘匿された幻想種を移住させてきたり、果ては探索者達の骸などの残置物で形作られている。つまりは一つの生態系が出来上がっているのだ。当然食物連鎖はあるし、ここでは探索する魔術師はその最底辺に至る。

 

「それらの内、最強となった者が階層の番人となる訳だ。ここで言うところの私が番人で、この階層を統治している訳だが・・・・・・最近になって強力な個体が出現してな」

「つまり、貴様の身を守る駒になれと?」

「慌てるなアーチャー。それなら私は三つ巴の戦いをしていたさ。こう見えても私の最後は孤軍奮闘だったからね。君達に協力を仰ぐのは、この問題が迷宮全体に広がっているからだ」

 

 通常の幻想種ならば、生態系の頂点に君臨し、それの維持を目的とする。しかしその魔獣はひたすらに暴走を繰り返し、周囲の幻想種を殺害、補食、拡張を繰り返しているらしい。生態系を崩壊させるだけでは飽きたらず、迷宮の構造そのものを吸収し、取り込み自らの領域とする為に。

 

「本来ならばそうなる前に私が討伐しているのだが・・・・・・正直に言おう。魔獣の成長速度が段違いに速く、気付くのが遅れた。私が認識した時にはこの階層の四割を掌握されていた。その後もケルト兵で食い止めてはいるが、限界は近い。前戦が崩壊すれば魔獣は瞬時に迷宮全体を取り込もうとするだろう」

 

 魔獣の混乱に乗じて脱出、と言う考えも浮かんだが、そう簡単に魔獣は逃がしてはくれないだろう。更に迷宮を掌握した魔獣が外へ出れば結局状況は変わらない。断る理由も無く、ノーマはランサーの提案を受け入れた。

 

「サーヴァント二騎による討伐、ややこちらに軍配はあるが、問題は戦いそのものよりも、戦いの後だな」

 

 アーチャーは現実的な意見を述べた。共通の敵がいなくなれば、残ったのは本命たる番人だけだ。魔獣との戦いでランサーが消滅し、自分達だけが生き残る、という楽観的な予想はできない。それこそ魔獣を倒した後にケルト兵を束ねる番人と戦う可能性もある。実質二重の壁が存在しているのだ。

 

「キャスターの協力は無理そうね」

「むしろアレが魔獣の正体としても驚くには値しない。どちらにせよ今回の戦いでは奴は援軍よりも番狂わせの敵と見た方が良いだろう。あわよくば魔獣に殺されていたなら解呪にも見通しが出る」

「となると後は立ち回りね。魔獣を倒した後、どうするか」

「ランサーは言っていたな。相当の抵抗をすると。それは戦士としてか、それとも一つの軍隊を指揮する長としてかは分からんが、状況は流動的になるだろう。その場の機転が命を救う。ここで決めていた事も、現実には成し得にくくなるかもしれん」

「それでも、迷って死ぬよりは良い。でしょう?」

 

 ノーマはそう言ってアーチャーを見た。結局、答えは明白だった。

 

「魔獣を倒したと同時に、ランサーも相手をする。長くなればなるほど向こうはケルト兵を喚び出せるから不利になる」

 

 裏切りはしないが、共闘が無くなればランサーは敵だ。スピード勝負で片を付けなければいけない。できるかできないかではなく、それしか手段が無く、その場凌ぎの後退は緩やかな諦観、そして死を意味する。

 

「君にしては前傾的な発言だ。相当の自信があると見た」

「ええ。何だって、アーチャーがいるもの」

 

 何の気も無くノーマは言った。言ってから気付く。まるでアーチャー頼みの発言だ。幾ら第一階層から今まで助けてくれたからと言って、彼に頼り切りにするつもりはない

 

「ご、ごめんなさい。何もアーチャーだけがんばれば良いって訳じゃなくて」

「ああ、分かっているとも。マスターあってのサーヴァントだからな。それに」

 

 アーチャーは笑みを浮かべた。今までは安心させるような父性を感じる笑みは、いつの間にか頼りになる相棒の笑みへと変わっている。

 

「君の召還したサーヴァントが、最強でない筈が無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「数時間の休息だったが、よく眠れたかな?私としては一晩程の休息を取りたかったが・・・・・・戦の常という奴だな。敵は待ってはくれない」

「状況はどうなってるの?」

「進軍しながら話そう。タイムイズマネーという奴だ」

 

 数時間の休息が終われば、即座に進軍が始まった。軍隊の進軍等これまでの人生で初めてであるノーマにとっては少しばかり期待していた物だったが、自分達の周囲にいるケルト兵達の姿が、最初に会った時よりも少数であるのを見て嫌な予感がした。ランサー自身の顔も自然と戦場のソレとなっており、状況が緊迫している事が分かる。

 

「一言で済ませるのなら、そうだな、ガブラの戦い、と言えば分かるかね?私以外で言う所のアーサー王のカムランの戦い、源義経で言う所の衣川の戦いだ」

 

 ランサーにとってそれは劣勢、むしろ敗戦に近い意味を持っている。本人は場を和ませるためのジョークらしく、笑みすら浮かべているが。

 

「詳しく言おう。と言ってもこれも一言で済ませれる。防衛線が突破され、敵が本格的に攻めてきた。占拠された空間は半ば異界と化しており、ケルト兵の突撃はおろか戦力補充の再召喚も難しくなってきた」

「最悪だな」

 

 この状況を、数々の言葉で表現する事ができるがアーチャーが一番的確な表現を行った。決してランサーは油断していなかっただろう。魔獣の進行速度を考え、その上で十分な戦力の補填を行った。ケルト兵を召喚し、自分達を仲間へと引き入れた。しかしそれらが完全に揃うよりも魔獣が攻めてくるのが早かった。それだけだ。

 

「だが最も幸運な事がある・・・・・・そう、私がいることだ!」

 

 臆面無くそう言い切ったランサーは、自身の親指を噛み始めた。遂に切羽詰まって退行までし始めたかとノーマは思ったが、フィン・マックールの伝説を思い出す。智慧の鮭の脂が染み付いた自身の親指を舐める事で、困難を分析し、突破する為の知識を得ることができるという。恐らくは彼の宝具なのだろうが、絵面は完全に大の大人が親指を噛んでいる絵だ。気色悪い。

 

「ふむ、ふむふむふむふむふむふむ!よおし冴えてきた、進軍止め!」

 

 親指を噛み終えると、ランサーはケルト兵に命じてそれ以上の進軍を止めさせた。怪訝な表情で見るアーチャーとノーマを後目に、彼は勿体振った仕草で指をパチンと鳴らす。すると、周囲にいた僅かなケルト兵は全て消滅した。僅かと言えども低級サーヴァントに匹敵する存在は一個中隊に匹敵する軍隊。烏合の衆とは訳が違う。それを何の未練も無く消した。

 

「何のつもりだ?ランサー」

「まずは説明せねばならないな。私の宝具、親指かむかむ知慧もりもり(フィンタン・フィネガス)は」

「で、それで何が分かったの?説明する暇が無かったからそうしたんだと思うのだけど」

 

 妖精眼が、魔を感じていた。何処からかは分からない、直ぐ近くにいるかも分からないが、何かがあって、そして来る。それをランサーは感じ取り、敵に『備える』為にケルト兵を消したのだ。

 

「流石だなアーチャーのマスター。麗しいだけでなく碧眼も兼ね備えている。いつもならこの後小一時間二人きりで話をしたいが、その時間は無いようだ」

 

 地面が揺れる。地下に存在する迷宮内なら比較的安全、等という一般常識を覆す程の地響きが。それもその筈、これは地盤の摩擦による揺れではなく、迷宮自体が揺れている。まるで大きな巨人が、迷宮を無茶苦茶に振り回しているような。

 

「来るぞ!」

 

 この中で純粋に視力が良いとするなら、アーチャーだ。その彼が叫び、バランスを崩したノーマを抱えて後方へと下がる。即座に戦闘行動を起こさずに撤退を選んだのはソレの脅威を一番先に理解したからだ。

 

「マスター、深く視るな!君の眼にはアレは猛毒だ、下手をすると魂まで持っていかれるぞ」

 

 数秒遅かった。ノーマがソレを視た瞬間、目を構成するありとあらゆるモノが蒸し焼きにされたかと思うくらいの『熱』を感じた。まるで太陽を眼球に入れられたかのように、視界が真っ暗になり、次いで猛烈なまでの痛みが眼球を突き破り頭蓋を割ろうとする。

 

 濃すぎる魔力に、妖精眼が耐えられない。ノーマは強く眼を瞑り、そして目を開いた。視界がやや紅く染まってはいるものの、見るぐらいはできる。

 

 魔獣、と言えばそれこそ迷宮の怪物を指しても十分に通じるが、これには魔獣という名は役不足だ。何故ならそれは形作られた怪物ではなく、幽霊のように実体無き存在でもない。迷宮の壁、床、天井、それらにへばり付いた泥のような肉塊。動物の内臓を思わせるソレは、ただただグロテスクなまでに蠢き、驚異的な速さで迷宮全体を侵食している。

 

 ランサーは既に動いていた。だがそれはアーチャーのように後退するのではない。ランサーは迫りくる肉塊へと接近し、その槍を振りかざす。肉塊の移動が濁流なら、ランサーは防波堤にすらなり得ない。たった一人で、嵐を止める事が可能だろうか?否だ。

 

 だが、それを是とするのが英霊だ。

 

 堕ちた神霊すらも殺した男、フィン・マックール。侵略者や魔物からエリンを守った守護者。栄光なるフィオナ騎士団の長。ケルト神話の中心的存在は、そんな不可能なぞ日常的に可能としてきた。肉塊の侵食を喰い止め、退けるなぞ造作もない。

 

「ハァッ!」

 

魔術で守り、智慧で打開し、武勇で攻める。第一階層のデイルムッド、第二階層のフェルグス、それらも同じ事はできるかもしれない。しかし、フィンほど『華麗に』できる英霊はそうはいない。これが舞台ならば、フィンは役者として観客から声援を送られ、手を振り返す事さえするだろう。

 

「助けはいらない!少しそこで待っていたまえ!」

 

 そういい放つと、ランサーは槍を構え直した。魔力が増幅し、その槍に水となって収縮される。フィン・マックールの槍、神霊アレーンを倒したとされる、神殺しの槍。

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃・・・・・・ただの手足には勿体ない一撃だが、受け取るが良い無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!」

 

 肉の濁流に、水の清流が衝突する。二つの異なった流れは、一瞬だけお互いに渦を巻きあげ、そして一つの奔流となって肉塊を浄化し、殲滅していく。神をも殺す一撃は、階層を傷付けぬように範囲を狭め、それ故に高密度に一掃していく。

 

 宝具の発動が終われば、洗い流された迷宮の通路があった。肉塊は跡形もなく消し飛ばされている。その上で迷宮には一切の破壊痕が無い。第二階層の番人であるセイバーには破壊力には劣るが、点に対する制圧力なら無類の強さを持つ宝具だ。

 

「危ない所だった。ケルト兵を召喚させていれば、ソレを糧に更に強大化していただろう」

「あれが魔獣の、一部か?」

「そうだ。本体に比べれば、かわいい物だが厄介なのは変わらない。周辺にいるものは何であれ取り込もうとする。一部を倒した所で数時間も経たずに復活するだろう。まさに魔獣の手足、と言ったところか」

 

 アーチャーの問いかけにランサーは首を縦に振る。あれほどの密度の魔でありながら、本体ではない事にノーマは愕然とした。英霊の宝具でも発動しない限りあの肉塊は消滅しないというのに。更に再生能力まで持っているとなると、最早魔獣でも怪物でもなく、化物だ。

 

「ケルト兵を防衛に出したのは失策だな。相手にとっては餌を撒き散らしているような物だ。迷宮内にいるモノは全て取り込むつもりなのだろう。だが心配は無用だ。私は親指を噛んだからね」

「前置きは良い。折角の時間を無駄に消費するつもりかね?」

「あいわかった。では策を聞かせよう。今、防衛していたケルト兵を全て消滅させた。これで階層諸共魔獣に乗っ取られた訳だが、魔獣自身もあれほどの体躯を維持するには餌が必要になってくる。さて、この階層に残っている生き物は誰かね?ああ、我等サーヴァントは別だ。魔力で現界しているサーヴァントは、魔獣にとって味は濃いが食感は薄い。魔獣だって霊体を好き好んで喰いはしまい」

 

それを言われれば、幾ら頭の鈍い人間でも気付く。この場で人間と言うのは、たった一人しかいないのだから。

 

「つまり、私を囮に魔獣を倒すという事?」

「それは違う!麗しの探索者よ。私が淑女を盾に魔獣を狩る、となればそれこそフィオナ騎士団の名折れだ。故に、私が君を守る。そしてアーチャーが魔獣を狩る。それでどうだろうか?」

 

本気で言っているのか、と喉まで出そうになった言葉を飲み込む。他のサーヴァント、しかも番人と二人でいる?キャスターの件は未だにノーマの心を重くしている。それでもノーマが抗弁しなかったのは、主観的ではなく客観的に状況を見たからだ。

 

「良いだろう」

「・・・・・・ほう、君ならまず第一に反対する、と思ったのだが」

 

 ノーマもそう思っていた。一時的に協力しているとはいえ、囮どころか人質になりかねない。しかしアーチャーは腕を組み、納得したようにランサーを見た。

 

「つまり、防衛に秀でた貴様がマスターを守り、遠距離狙撃に適した私が魔獣を撃つ、という事だろう。貴様の戦闘能力は先程の戦いで見た。大方この作戦を提示させるつもりでやったのだろうが・・・・・・作戦事態は悪くない。効率的だ。やや私的だが」

「フフフ。悪くない戦略眼だね。フィオナ騎士団に迎えるのもやぶさかではないな。とは言っても、君は騎士道には遠いだろうが」

「生憎それが通ずる時代ではなくてね。それに騎士道は何時でも悲劇的な終焉を迎えやすい」

「ハハ、確かにその通りだな。ここにデイルムッドがいれば冗談の一つや二つを話せただろうが、まあ良い。数は少なくなったが、その分戦力の密度は上がった。敵の本陣へと行進を再開しようではないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけの時間が経過したか、分からなかった。

 

 多くの物を蹂躙し、多くの物を取り込んでいく。生物とは、生きながらにして他の生き物を殺す。それは栄養を補給する為であったり、自身の障害となる存在を取り除く為であり、はたまた楽しいから殺す、と様々な理由がある。それらを全て統括して言うのなら『生きたいから殺す』のだ。

 

 では、彼女はどうだろうか。

 

「ああ、はあ。ああああああああ!」

 

 嗤いながら兵士達を殺戮し、愉悦を抱きながらその死体を喰らう様は、外見から見れば楽しんでいる。ブレーキの壊れた車にはアクセルしかなく、加速度的に蹂躙は高まっていく。骨を砕き、肉を潰し、血を吸い上げる。その度に身体が重く、強く、巨大に、そして壊れていく。しかしもう止められない。壊れるしかないのだ。

 

 だが、同時にソレは泣いてもいた。言葉が、記憶が、意識が薄れていく。それを実感しながら蹂躙する。倒れていく兵士達と同じように、理性が崩れ去っていく。どう足掻いても、どう行動しても、彼女の終焉は決められている。

 

 そこに槍兵(ランサー)はもういない。反英雄たるメドゥーサもいない。いやそもそも、彼女はもう既にサーヴァントですらない。

 

 形なき島に存在した怪物。ゴルゴーン。それこそが彼女の真名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




温泉回は丸々カットしてやった。
大丈夫、気が向いたら書くさ。
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