僕のヒーローアカデミア −MIGHTY HEART−   作:春風駘蕩

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No.6 無免許ヒーロー

『HEY! 会場中のリスナー諸君⁉︎ あちこちにいるスタッフの指示をよく聞くんだZE! 逃げるのに必死になって他のリスナーを押しのけたりするのは問題外だ‼︎』

 

 会場内を我先にと駆けていく来場者に向け、自身の〝個性〟を使用し叫ぶヒーロー・プレゼントマイク。

 超高波の震動で、相手の動きを封じる事もできる彼は、逃げ惑う来場者達が暴走しないよう、慎重な〝個性〟の操作で彼らを誘導する。

 

 しかし、彼がどんなに強く大きく、懸命に叫んでも人々の動きはまとまらない。むしろ刻一刻と、恐慌の時が近付きつつあった。

 

『いいか⁉︎ もう一回言うぞ⁉︎ ちゃんと指示を聞いてりゃ、安全に逃げられるんだから慌てずに―――』

 

 現れた怪人の対処は、会場の主催者である企業の社員が、自社の商品を使用して行っている。

 自分にできるのは、誰も怪我無く危険な場所から逃がす事だと、プレゼントマイクはさらに声を張り上げる。

 

 だが、その声はさらなる轟音によって掻き消されてしまう。

 プレゼントマイクが振り向くと、土煙の中で巨大な鋼鉄の鎧の上に陣取る、悍ましい犀の怪人の姿があった。

 

「おっと…こりゃちっとばかしヤバいか」

クウガパゾボダ(クウガはどこだ)⁉︎ バブセデギバギゼゼデボギ(隠れていないで出て来い)‼︎」

 

 思わず呟くプレゼントマイクの目の前で、犀の怪人が猛獣の咆哮のような怒号を上げる。

 踏みつけた、ボロボロになったロボットスーツを蹴り飛ばし、施設に激突させながら、ぎろぎろと辺りを見渡し、鋭く目を光らせる。

 

ゾボダクウガ(どこだクウガ)! ゼデボギ(出て来い)! ゼデボバべセダ(出て来なければ)ボボビギスリントゾロボ(此処にいるリント共を)ジドシボボガズボソグゾ(一人残さず殺すぞ)!」

「あいっかわらず…何行ってんのかさっぱりだNA! 何に怒ってんだ?」

 

 ズシンズシンと地面を踏み鳴らし、大きく亀裂を刻み、意味の分からない言語で喚き散らす犀の怪人。

 何を探しているのか、何に怒りを抱いているのか、まるでわからないプレゼントマイクがぼそりと呟いた時だった。

 

 彼の声に混じった呆れを感じ取ったのか、犀の怪人が勢い良く振り向き、凄まじい殺気をプレゼントマイクに向け始めた。

 

ビガラビジョグザバギ(貴様に用はない)! リントボザボズゼギガ(リントの雑魚風情が)!」

「うおおおおお⁉︎ ちょっ…待っ‼︎」

 

 言うが早いか、犀の怪人は怒りの矛先をプレゼントマイクに向ける。

 そして、地面が大きく竜騎士砕けるほどの威力で踏み出し、猛烈な速度と威力を伴い、突進を始める。

 

 重力をまるで無視したような超加速と、隕石かと見間違わんばかりの勢い。

 一瞬呆気にとられたプレゼントマイクが我に返った時には、犀の怪人の額に生えた角が、彼の目と鼻の先にまで迫っていた。

 

 絶体絶命、サングラスに隠れた彼の眼が、これ以上ないほどに大きく見開かれ、絶望がよぎる―――だが。

 

 

「オオオオアアアアアアアアアアアア‼︎」

 

 

 突如、どこかから何者かの咆哮が迸った、と思った直後。

 赤い影が犀の怪人のどてっぱらに激突し、怪人が真横に吹っ飛び、施設の壁に頭から突っ込む。

 

 爆風と轟音、びりびりと強烈な振動が辺りに炸裂していき、棒立ちになっていたプレゼントマイクが正気に戻る。

 はっ、と呼吸を思い出し、壁から這い出して来る歳の怪人を。

 

 そして、自分の目の前で背中を向ける、赤い鎧を纏ったその人物を、またしても呼吸も忘れて凝視していた。

 

「お、おいあれってよ…!」

「マジかよ⁉︎」

 

 ()()の姿に目を奪われていたのは、プレゼントマイクだけではなかった。

 その場に居合わせた生徒達、逃げ遅れた来場者達、企業の社員達。多くの人間が、強烈な印象を残し登場した、最近の話題を掻っ攫っている彼女を。

 

 金色の仮面をかぶり、赤い鎧と袴を身につけた謎多き孤高の戦士の姿を、視界いっぱいに焼き付けていた。

 

「未確認生命体……4号」

 

 クラスメイト達と共に、初めて生でその姿を目に捉えた出久が、思わず呆然と声を漏らす。

 すると、彼のその呟きを起点にしたように。

 

 鎧の戦士と犀の怪人が同時に駆け出し、激しくぶつかり合った。

 

「ウォオオオオオ‼︎」

「ガァアアアアア‼︎」

 

 その瞬間、大気そのものが恐怖しているかのように、辺り一帯に凄まじい衝撃波が拡散する。

 一人と一体の激突に気を取られていた生徒達や社員達は、それによってまるで紙屑のように吹っ飛ばされてしまう。

 

 どうにか体勢を整えようとするものの、異形達が再度拳を叩きつけた衝撃によって、再び吹き飛ばされてしまっていた。

 

ジョグジャブガサバセダバ(ようやく現れたな)…! ゴラゲビボソガセデビダ(お前に殺されてきた)ゾグゾグダヂボバダビ(同胞達の仇)ゴラゲボブヂゾロデデ(お前の首を持って)ドルサギドジデジャス(弔いとしてやる)‼︎  ガァアア‼︎」

「ちっ…」

 

 地面が陥没するほどに踏みつけた犀の怪人が、鎧の戦士に向けて渾身の拳を叩き込む。

 鎧の戦士は腕を交差させてそれを防ぎ、大きく後退し距離を取る。大きく舌打ちをこぼし、怒りと憎しみに目を燃やす犀の怪人を強く睨み返す。

 

「……バダビグヂドザバサザゲジャガス(敵討ちとは笑わせやがる)ゴラゲサグゴンババザラ(お前らがそんな仲間)ゴロギバジャヅサザドザ(想いな奴等だとは)ゴロヂヂャギバザダダジョ(思っちゃいなかったよ)

 

 鎧の戦士が吐き捨てた直後、犀の怪人が急接近し、鎧の戦士の顔面に拳を振り抜く。

 ゴッ、と鈍い音が辺りに響き、地面を踏みしめる戦士の足元に亀裂が入る。鎧の戦士は数歩後退り、ぶるぶると顔を振って意識を保つ。

 

 ペッ、と地面に血を吐きながら、戦士は先程よりも強く、苛立たしげな目で犀の怪人を睥睨する。

 

ダザゴセゾボソギダギザベザソ(ただ俺を殺したいだけだろ)……ゴラゲ(お前)

「……ガガ(ああ)ゴグザドロ(そうだとも)

 

 ギチッ…と、犀の怪人の目元が微かに歪む。憎悪ではない、見ているだけで嫌悪感を催させる、悍ましい嗜虐心が、その顔から滲み出ている。

 

 鎧の戦士は眉間にしわを寄せ、ゴキンッ!と激しく首を鳴らす。そして、再び雄叫びと共に、犀の怪人に殴りかかっていった。

 

「ぬぅあああ‼︎」

「クウガ…! ビガラビパセサグドレサセスバ(貴様に我らが止められるか)⁉︎ ログゲゲルパザジラデデギス(もうゲゲルは始まっている)……ドレスボドバゾゴラゲビパゼビバギ(止めることなどお前にはできない)‼︎ ルザバゾショブザ(無駄な努力だ)‼︎」

 

 金属同士が激突する甲高い音、岩石同士が激突する鈍い音。

 およそ生物の衝突したとは思えない轟音が、戦士と怪人がぶつかるたびに響き渡る。そして、その度に互いが鮮血を撒き散らす。

 

 その間も、犀の怪人が発する嘲りの言葉は、止まる様子を見せなかった。

 

ギゼンンジョグビパギババギ(以前のようにはいかない)…! ボンゾンゴラゲパバビロラロスボドグゼビズ(今度のお前は何も守ることができず)ルギベサンジョグビギンゼギブンザ(虫けらのように死んでいくんだ)‼︎」

ゴセギジョグギャデスバ(それ以上喋るな)ゴリブズグ(ゴミ屑が)

 

 際の怪人が振るう一撃が、鎧の戦士の頬を切り裂く。しかし代わりに、戦士は犀の怪人の目に一撃を叩き込み、蹈鞴を踏ませる。

 

 片眼を潰され怯む怪人に、戦士は次々に強烈な打撃を加え、休む間を与えない。胴に、鳩尾に、顎に、急所に幾つも打撃を喰らい、徐々に押され始める。

 鎧の戦士は鬼の形相で踏み込み、一度たりとも緩めず、怪人に渾身の一撃を食らわせ続けていた。

 

ラロス(守る)? ドレス(止める)? バデデバボドゾギグバ(勝手な事を言うな)……ガダギパゴンバググメメサギバンジョグゼ(あたしはそんな薄っぺらい感情で)ゴラゲンラゲビダデデンジャベェ(お前の前に立ってんじゃねぇ)

 

 ドゴンッ!と。

 真下から救い上げるように放たれたアッパーカットが炸裂し、犀の怪人が空中に撥ね上げられる。

 見上げるほどの高さまで浮いた巨体は、次の瞬間勢いよく落下し、地面に深く跡をつける。

 

 背中から倒れ込んだ怪人を見下ろし、鎧の戦士は鼻息荒く、地面を踏み鳴らす。

 

ゴラゲサゼンギンゾヅドドダグダレビ(お前ら全員をぶっ殺す為に)……ボボビダデデンザジョ(ここに立ってんだよ)!」

 

 ズンッ!と踏みしめた戦士の足に、真っ赤な炎が宿る。

 地面を焼き焦がしながら、戦士は数歩後退し、腰を落とし力を溜めていく。獣の唸り声のような、闘志に満ちた呼吸がこぼれた直後。

 

 突如、地面に蜘蛛の巣状に亀裂が入り、その中心から戦士が跳び立つ。

 空中へと高く舞い上がった戦士は、赤く両目を輝かせ、敵に向けて片足を鋭く突き出した。

 

「うおりゃあああああああ‼︎」

 

 大気が震えるほどの雄叫びと共に、戦士の蹴撃が怪人の胸の中心に炸裂する。

 強烈な熱と重量の乗った一撃を喰らった怪人の胸には、光る奇妙な紋章が浮かび上がる。

 

 そして次の瞬間、犀の怪人は真っ赤な炎を噴き出し、粉微塵に爆発四散してしまったのだった。

 

「どわああああっ⁉︎」

 

 爆発の勢いは凄まじく、その場に居合わせたヒーロー科の生徒達が揃って後ろ向きに倒れるほど。

 教員達でさえ、その場に耐えるだけで精一杯になっていて、しばらくの間爆心地に目を向けられなくなる。

 

 猛烈な熱波で、顔中火傷したのではと思えるほどに、怪人の最期は派手で強烈だった。

 

「ぐおっ…クソが! あの野郎…!」

「……スゴい」

 

 衝撃が収まって少しして、ようやく人々は正気を取り戻す。

 砂埃に塗れ、爆豪は苛立たしげに目を吊り上げ、出久は驚愕で大きく目を見開き、思わず声を漏らす。

 

 腫れていく粉塵の奥に目を凝らせば、陥没し、焼け焦げた地面の中心で佇む、無傷の戦士の姿が目に映る。

 怪人の姿は跡形もなく、それだけに戦士の姿が目立ち、誰もが目を奪われてしまっていた。

 

「あ……あの!」

『そこのお前! そこから動くなぁ‼︎』

 

 不意に、顔を上げた戦士が踵を返し、歩き出そうとしたその時。

 出久が思わず呼び止める声を発しかけた時。

 

 出久の背後で大きな足音が響き、出久はびくっと固まり、目を剥きながら、進み出てくる巨大なロボットスーツの集団を凝視する。

 企業の有する警備、増援の分の一団が今になってやって来たようだ。

 

『エセヒーローが!〝個性〟の無断使用やら戦闘行為やら……好き勝手暴れやがって!』

『ここはもう包囲されている! 逃げ場があると思うな!』

「ちょっ……待っ!」

 

 ゴム弾を装填した銃器を構え、鎧の戦士を取り囲んでいく警備のロボットスーツ集団に、出久は思わず制止に出かける。

 

 確かに法律的にアウトな存在。

 しかし、今この場において多くの人々を守った者に対する扱いとして、出久は立場も忘れて止めにかかりたくなる。

 

 すると、飛び出そうとした出久の前に、一人の黒ずくめのヒーローが割って入った。

 

「悪いんだが……そこでちょっと大人しくしてもらおうか? 抵抗しなきゃ悪いようにはしない…」

「相澤先生!」

 

 気だるげな顔を変え、髪を逆立て真剣な態度を見せる彼は、ぎろりと両目に〝個性〟を宿し、鎧の戦士を鋭く見据える。

 無言で佇み、仮面に隠された目で見つめ返す戦士に、相澤はいつでも動けるよう構えたまま口を開いた。

 

「まずはうちの同僚の命を助けてくれたことに礼を言おう……だが一ヒーローとしては、ここでお前を放置しておくわけにはいかない。事情聴取ってやつだ」

「……」

「サイレンの音が聞こえるか? もうじき警察もここにくる……色々と話してもらうぞ」

 

 背後で出久が戦々恐々としている事に気付きながら知らない振りをし、相澤は謎多き噂の戦士と相対する。

 自分が離している間に、戦士の周囲に警備が包囲網を作っていく様を確認しつつ、戦士が一切〝個性〟を使えないよう封印し、自身もゆっくりと距離を詰めていく。

 

 戦士もまた、相澤や警備の集団、さらに集まってくる雄英の教師達に目をやり、佇み続けていた。

 

「まずその邪魔な鎧を脱いで、腹を割って話そうか。俺達も、同僚の恩人にこれ以上敵意なんざぶつけていたくは―――」

 

 一人の人間としての礼儀を通してから、相澤が再度戦士に呼びかける。

 暫く睨み合っていた二人の均衡は、鎧の戦士が肩から力を抜いた様子を見て、一方に傾く。

 戦士から漂っていた敵意が薄れた、そう判断したその瞬間。

 

 戦士がその場に深く身を沈め、目のも止まらぬ速度で跳躍したかと思うと、あっと言う間に一体のロボットスーツの頭上を飛び越えていってしまった。

 

「何っ⁉︎」

「速ぇ‼︎」

 

 一瞬の油断、想定外の跳躍力に、相澤もプレゼントマイクも驚愕の声を上げ、戦士の姿を目で追う。

 

 鎧の戦士は包囲を飛び越え、崩壊した施設の上に飛び乗ると、そこからまた素早く走り去ってしまう。

 そこで、呆然としていた警備の者達も我に返り、動き出した。

 

『お…追え! 逃がすな!』

 

 ずしずしと地響きを響かせ、とっくに影も形もなくなった鎧の戦士の追跡を始めるロボットスーツの集団。

 怪我人の救助も忘れ、とてつもない暴れっぷりを見せつけた戦士を追い、全員慌ただしく走り去っていく。

 

 彼らの背中を見やりながら、プレゼントマイクが同僚の傍に近づいていった。

 

「ちょっとちょっとマイフレンド? まさかとは思うけど、まばたき我慢できなくて〝個性〟解除しちゃってたみたいな、ダサい真似してないよな?」

「……いや、ギリギリだったが〝個性〟はしっかり発動していた。なのに、あの動きだぞ…」

 

 瞬きをすると解除されてしまう、有能なのにリスキーな相澤の〝個性〟。

 その短所の具合を誰よりも理解している相澤は、それを効率的に使いこなせるように常に気を配っていた決して、気を抜いていたわけではない。

 

 しかし、逃げられた。〝個性〟を使えるはずがないのに、驚くほどの身軽さで置き去りにされてしまった。

 その事実に、相澤は眉間にしわを寄せ、唸るようにため息をつく。

 

「異形系か、それともなんらかの特殊な技術を使っていたのか……いずれにせよ、俺達はまんまとしてやられたらしい」

 

 目に焼き付けた鎧の戦士のことを思い浮かべ、吐き捨てる相澤。

 

 不穏な空気が漂う教師達を見やり、出久もまた戸惑いと驚愕の混じった表情で、戦士が消えた方角を凝視していた。

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