朝日はすっかり沈み、夕日は消えかかろうとしている。
もうすぐ夜の時間で生徒は初めての戦闘となる。
僕はあの時に動いて殲滅してしまったから初戦闘ではないのだけれど。
「はぁ・・・」
「ユーリ?どうしたの?」
「いいえ、何もないですよ」
ミリエルは単純に心配なのかずっと僕の様子を気にかけていた。
一番この戦闘で僕が尖らせないと駄目なのはミリエルの安否。
それ以外は正直どうでもいい。
僕には関係もない他人だから。
「むぅ・・・本当?」
「本当ですよ。気にしないでください」
「む~・・・なんだか気になる」
今日のミリエルは何だか心配性というか、鋭い気がする。
今までよりも何か思うところがあるのかな?
僕はそんなところを見せていないと思うのだけど。
「とりあえず、行きましょうか」
「・・・うん」
今回の実習は最低でも魔物を一体倒し、その証拠となる魔石を持って帰ること。
魔石は魔物が体内に生まれ持つ石で魔力が詰まっている。
魔物自体もランク付けされて分かれており、高ランクほど大きく質も良い魔石が取れる。
「ねぇ、ユーリ」
「はい?」
「・・・ずっと、ずっと思ってたことがあるの」
「・・・何でしょう」
「ユーリにとって・・・私は、信用に足らない?」
「・・・それは」
「婚約者だから、なんじゃない。本当に私自身を見てくれてるの?」
「・・・」
まさかこんなことを今ここで聞かれるとは思っていなかった。
人の恋愛はお互いがお互いを想うからこそ、長く成り立つ。
僕とミリエルの関係はとても難しいのかもしれない。
元スラム街出身の貧民とマギュルカ王国の王族。
僕にはミリエルを背負えるほど強くない。
目に見える強さじゃなくて心の強さ。
「・・・元々はさっさとこの国を出るつもりだった」
「だからなの?」
「そう、思っていい。僕は君との関係を持とうとしてないから」
「っ・・・」
これで良い。
はっきりと言えば婚約関係が嫌だと分かる。
ミリエルだって嫌気がさすだろうから。
「私、は・・・」
「ミリエルは悪くない。僕が駄目なんだ。僕の我が儘でずっと振り回していたのだから」
「でも・・・」
《空間魔法:無限収納=魔石》
魔石を取り出すとミリエルに渡す。
今回の実習条件は達成できるから。
「そろそろ、キリが良いかなと思ってたんだ」
「ぇ・・・?」
「・・・ミリエル、すごく急だけど・・・お別れだ」
《空間魔法:転移=座標軸固定》
ミリエルを学院近くまで転移させると僕はその場を駆け抜けた。
自分が持てる力を、魔法に頼らない純粋な力で。
「・・・また来れる」
次はいつ来れるか分からない。
だが、確実に一度は来れると確信はしていた。
僕が死ななければね。
「また、ね。ミリエル」
世界を見て回る、そんな夢物語。
言うには簡単だけれど僕にはそんなこと出来ないだろう。
ただ自由に外を見てみたくはあった。
あの日から少し日が経った。
今頃僕の事を国中で探しているだろう。
第三王女という席は重要であり、取り入れたい貴族は多いだろう。
「・・・ミリエルなら、大丈夫」
彼女は寂しがりでどことなく危なげがあるけれど芯がしっかりしている。
王族という自負があるからだろうが、それでいてもあの年齢では大人びている方だ。
「それにしても、どうしよう」
そう呟くと僕の膝には幼い女の子が枕にして眠っていた。
「んぎゅ・・・」
「はぁ・・・」
《鑑定:解析=?》
名前が分からない以上仕方がないということで鑑定による解析を行った。
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鑑定対象:ルミア・スカーレット
種族:半人半魔
性別:女
年齢:5歳
《__の加護》《封魔の呪縛》
魔力量:S
魔力処理能力:SS
ーーーーーーーーーー
羊皮紙に反映されたその内容。
特殊なスキルを持っているような感じもするが、それよりも重要なのはその名前。
「・・・ルミア・・・スカーレット」
スカーレットというのは正式にマギュルカ王国で認められた伯爵の家名で、僕の家名だ。
それを何故この子が持ち得るのか。
「血縁・・・?まさか」
血縁は薄い気がした。
解析による種族は半人半魔。
これは半分が人間で半分が魔族か魔物など魔の生物。
だが何事にも例外はあり、世界としての理は反映力と影響力が強い。
もし僕がスカーレットという爵位を貰わなければこの子は家名がなかっただろう。
「・・・どちらにせよ、こんな子・・・ほっとけない、か」
成長速度がどれほどか知らない。
だがこんな幼い子を置いて行けば僕の何かが壊れる気がした。
例え無関係で、他人でも訳ありだろうと見える。
じゃなければ幼子がこんな場所にいるわけがない。
「んう・・・すぅ・・・」
「子守は・・・慣れないんだけどな」
《魔の頂:術式構築》
《剣の頂:幻影剣》
組み上げる術式は剣林弾雨の如く降り、弾丸のように射出される剣。
《幻想魔法:幻影剣》
新たに作り出された魔法術式は魔力で創られた剣を操作する魔法。
威力は魔力と速度と質量に依存するが基本的に斬れない物はない。
「・・・はぁ」
見知らない幼子を守るためだけに編み上げたが過保護過ぎただろうか。
それでも良いやと思いながら僕はパチパチと燃える焚火の音を聞きながら目を閉じた。