僕がミリエル様の部屋を後にして早数日。
お金に関しては仕方ない為に《元素操作》で宝石を生成した。
宝石店でその相場を粗方見て、この世界はルビーの絶対数が少なく、ダイヤよりも価値が高いようだった。
ほんの小さな粒ですら数十万するそれは酸化アルミニウムで構成される。
アルミニウムの原子を手に入れるのは思ったより簡単で地面の中に僅かに混在した
「すみません、これを売りたいのですが」
「はい・・・これは・・・ルビーですか!」
「はい。幾らぐらいで売れますかね」
「ふむ・・・このルビーは天然物ですね。それでいて透き通るほどの透明度・・・とても美しいルビーだ。そしてこの程よい大きさ・・・そうですね、大金貨5枚ほどになります」
「・・・今ここで売れるのでしたら、それで」
「ありがとうございます!手続きをしますので暫くお待ち下さい」
そういって宝石店の店員が奥へ行くと、今一度僕の能力を考えた。
この能力はこの世界ではどの国も喉から手が出るほど欲しいものであり、それゆえに僕自身の危険性がある。
ばらさなければ良いのだが、生活していく上ではばれる可能性は考えなければならない。
「・・・ま、後々考える・・・か」
後々と言ったが、前世で見たとあるアニメの技を真似て見ようと思った。
幸いにも《魔の頂》はそれを全て簡単に行使できそうなので後は僕自身のイメージ次第だろうか。
「お待たせしました」
店員が奥から来ると手には何かの書類を携えて戻って来る。
「それでは、この書面に同意の筆で取引成立とさせて頂きます」
羽ペン方式のこの世界にも慣れているので、手際よく書面に目を通す。
何も不備が無いと分かると、自分の名前を記入して羽を置いた。
「では、こちらが大金貨5枚でございます」
「ん・・・ありがとうございます」
「こちらこそ、あれほどのルビーを売っていただきありがとうございました」
それぐらいで話を終えて店を出ると今の資金は大金貨5枚となった。
この世界の通貨は分かりやすい・・・のかな。
一番低いのは『銅貨<大銅貨<銀貨<大銀貨<金貨<大金貨<魔導貨』で、全て100枚で上の硬貨へとなる。
この大金貨5枚というのは金額にして500万ということだ。
適当に作り出したルビーが500万もするということがその貴重さを物語る。
「とりあえず・・・のんびりしよう、かな」
のんびりしようと宿屋に入ろうとした。
その瞬間、遠くから何かが鳴らされるような音が町中に鳴り響く。
「なんの・・・音だろ」
警報のように鳴り響く音が何故か嫌なほどまでに澄んで聞こえる。
「・・・行こう」
《魔力操作:身体強化》
《闇魔法:気配察知》
魔法によって察知出来たその数は数百。
そのうち、一般人を全て対象外にすると二百を察知出来た。
そしてそのうち、僕が知る気配も察知してしまった。
「・・・まずい、か」
その気配は二十を超える数の気配に囲まれており、護衛という立ち位置とは思えなかった。
「・・・仕方ない」
《空想具現化:転移=座標軸指定》
《魔の頂》の最高位の魔法を行使すると周りの景色が一気に変化する。
一気に移動した、そんな感覚を余所に転移した場所は件の所から少し離れている。
護衛としてならただの杞憂なのだけど、僕の勘が違うといっている。
身体強化によって五感も強化された嗅覚はそれを逃さない。
人間の血の匂いは、とても分かりやすいのだから。
「間に合って。絶対に・・・!」
少し離れた場所であろうと、到着するまでの時間すら惜しいと思えた。
つい先程まではこの能力を使うのは考えた方が良いと考えていたのに。
だが人を救うためになるのなら、躊躇う必要はない。
「ミリエルー!!」
ただ少しだけ、話しただけでも。
死なれてしまえば目覚めが悪い。
何故こんな所に居るのか、分からないけれど。
「ユーリ・・・!?」
ミリエルの元に辿り着く。
少し怪我をしているようで、周りには血の匂いが漂う。
鎧を来ているところから護衛だったのだろうが、応戦虚しく・・・だろう。
「・・・よし」
死人となってしまった護衛の兵士の剣を少しだけ借りることにした。
ただ借りるだけ、壊すことは慮れた。
兵士にとって剣は命に等しい。
身を守るだけでなく、人々を守る剣なのだから。
「・・・ユーリ、私は良いから・・・逃げて!」
「・・・お断り」
敬語ではないのは状況なのだ、仕方あるまいと思うと剣をしっかりと握りしめた。
するとこの剣の使い方どころか、技術すらも頭の中に叩き込まれる。
これが《剣の頂》の真骨頂・・・か。
「いくぞ!」
《剣の頂:剣術の極み》
人を、ミリエルを助けるためならば躊躇いはいらない。
必要なのは覚悟とそれを成し遂げる勇気だ。
常人の早さではないそれはただの体当たりですら脅威となりえる。
それに加えて剣だ。
血で鈍っていようと、先端が鋭いだけで大きく威力は上がる。
「ガァァァァ!!」
威嚇だろうか、魔物は自身を奮い立たせると周りの魔物も同じく雄叫びを上げて僕に襲い掛かる。
幼い子供がそんな光景にあえば普通は見るも無惨な姿に成り果ててしまうだろう。
だが、僕がただ剣を振るった、それだけで。
「え・・・?」
二十は超えていた魔物が全て切断され、その生を終えた。
その光景を近くで見ていたミリエルは信じられないといった表情で、声すら漏れていた。
「・・・はは」
命を奪うのは構わない。
スラム街で死ぬほど見てきた光景で、いつ自分の番になるのかと思っていたぐらいだ。
だがその光景を人に見せたくはない。
今の僕はとても醜い表情だろうから。
「ユーリ・・・」
「・・・見ないで・・・」
魔法を使えばミリエルの目を一時的に閉じらせる事も出来た。
だがそれは本当の逃げになる。
どこかで助けてほしかったのに、救いの手は無かったから。
「ぁ・・・」
前髪を掻き分けられ、僕は泣いてしまった。
そこには優しい表情で見てくるミリエルがいた。
今まで我慢していた何かをひたすら吐き出すように同じ歳の女の子に縋り付いて泣きじゃくった。
「よく頑張ったね・・・えらい、えらい」
「うわぁぁぁぁぁん・・・!!」
そこからどれだけ泣いていたか、分からない。
そのまま気を失ってしまったから。
気がつけばとても豪華そうな天蓋ベッドで、僕はそこで眠っていたようだった。
「ぁ・・・ぅ・・・」
まだあの戦闘での疲れというか何かが取れていないのか、少し気怠かった。
「失礼致します」
ノックされ入ってきたのはメイドさんで、僕の知らない人だった、当然ではあったが。
「お気付きなられましたか」
「・・・はい。ここは、どこでしょうか」
「ここは王都です。マギュルカ国家の王宮でございます」
マギュルカ国家は僕が生まれ育った国だ。
あまり聞くことが少なかった分、うろ覚えだったが。
「ぁ・・・ミリエル、様は」
あの時ミリエルの胸で思いっきり泣くじゃくった挙げ句気を失うという失態を犯した。
あの時は魔物を全て切り飛ばしたが、また来る可能性もあったのだ。
「ミリエルお嬢様は・・・」
「・・・どう、なってますか」
何故かそれ以上聞いてはいけないと警鐘が鳴っていた。
あんなに平然としていたのだから大丈夫だと。
「・・・意識がございません」
「・・・そう、ですか。面会は・・・出来ますか」
もしかしたら見るのは最期になる可能性もあった。
王族に対する殺人を持ち掛けられてもおかしくはない状況にはなっていただろうから。
「・・・はい、ですが今は・・・」
「僕は大丈夫です。それよりもミリエル様の方です・・・から」
所詮成り上がりの貴族だ。
僕が死んでもまだ影響も薄く、すぐに消し去れるだろう。
だがミリエルは違う。
王族の娘というだけで華やかな未来があり、約束されている。
死なせただけで国家にとって大きな打撃でもあり悲哀だ。
「で、ですがお身体が」
「大丈夫ですから」
僕の真剣さに根負けしたのか、渋々で意を決したようだった。
だが僕の身体はとてつもないほど謎の痛みを出しており、動くことすら厳しい。
「・・・では、案内致します」
《魔力操作:身体強化》
《冥魔法:身体操作=痛覚遮断》
魔力を全身に這わせて無理矢理動かせるようにする。
そして冥魔法で痛覚だけを完全に遮断する。
痛覚の伝達部分を遮断するだけで、実際は痛みが発生している。
それを切っているために無理に動けば悪化するが、そんなものは無視だ。
「・・・こちらです。中には宮廷屈指の治癒魔導師がおります」
メイドさんが案内してくれた部屋はミリエルの部屋で以前忍び込んだ場所でもあった。
中には数名ほどの人が居て全員がベッドに横たわるミリエルに魔法を使っていた。
「・・・あれが・・・」
「・・・はい」
「・・・少し、触れても大丈夫ですか・・・?」
「・・・構いません」
メイドさんの許可も貰うと治癒魔導師がいる反対側に移動してミリエルの右手に触れる。
《魔力操作:物体解析》
僕の魔力を触れている部分からミリエルへと流し込んでいく。
本来ならば他人の魔力は拒絶反応を起こすが、そんなことならないようにミリエルの魔力と合うようにしている。
するとある部分が分かった。
ミリエルの身体、その全てに生命力が尽きていた。
あの時は大丈夫そうで軽い怪我だけだった。
もしかしたらその怪我によってこうなったのかもしれない。
「・・・なる、ほど」
「何かお分かりに・・・?」
「・・・一応は。でも専門家でもないので・・・」
「構いません。原因不明である以上、それを探りたいのです」
メイドさんがそういうと治療に当たっている魔導師の人も同様に頷いた。
「・・・ミリエル様の身体、その全てから生命力を感じれません。このままだと・・・持って二日程・・・だと」
「・・・何か、何か方法は・・・!?」
生命に対しての魔法として《聖魔法》があるが、あれは生きている生命に対してのみ影響がある。
生命力がないミリエルに行使しても無意味なのだ。
だが、方法はあった。
この世界では人代の魔法の中で最高位である《錬金術》ならばそれは可能だと。
だが、それを易々と人に見せる物ではないと理解はしていた。
「条件として・・・この後起こることに対してはお見せできません。ですが・・・絶対に助けます」
藁にも縋るというのはこのことだろう。
メイドさんと魔導師達はそれを呑むと部屋を出ていった。
「・・・ごめん。ミリエル、少しだけ待っててね」
《錬金術》はとても複雑な理論によって組み上げられた魔法で、それは人代によって成し遂げられた奇跡だ。
人の命を延ばす事が出来る『命の雫』はその錬金術の究極であり、生命力を与える物だった。
「・・・ふー・・・よしっ」
《魔の頂:魔力供給速度上昇》
《錬金術:理論構築=完了》
《錬金術:命の雫=精製》
手で器を作るとそこに透き通る液体が生み出された。
これこそが錬金術の極みである『命の雫』。
それをミリエルの口の中へと入れて飲ませた。
「これで・・・大丈夫・・・だよね」
不安はあった。
初めて行使する錬金術だからしっかりと出来ているかが。
《魔の頂》によってその知識や行程を分かっても初めてとなるとどうしても不安にはなる。
「ん・・・ぁ・・・」
だからこそ今、小さな呻き声が聞こえただけでも安心出来た。
ミリエルの右手を両手で握るとそれに応える様に指が少しだけ動いた。
これ以上は僕がやる事ではない。
元々僕は治癒魔導師ではないし、生命力を与えた後は専門家に任せるのが安心だろう。
「・・・メイドさん」
僕がメイドさんを呼ぶと扉を開けて入ってくる。
そしてその様子を見て察してくれたようだった。
「・・・良かったぁ」
その緊張感が切れると発動していた魔法が切れて這わせていた魔力も解除された。
その痛みで僕はまた気を失うのだった。