転生者は静かに過ごしたい   作:紅風車

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転生者は突然の事に驚く

ミリエルが起きる頃には夜遅くなっていた。

その間は暇だったので窓の縁に座って夜風に当たっていた。

 

「・・・起きたのですか」

 

「うん。寝たおかげですっかり元気になったかな?」

 

「なら良かったです」

 

ミリエルの顔色や声色からは疲れなどは感じれず、元気そうだったので一安心した。

生命力を与えるなど初めての行為だったが、何事もないようだった。

 

「ねぇ、ユーリ」

 

「なんでしょう?」

 

「もし・・・もしだよ?お父様が貴方との交際を許してくれたら・・・どうする?」

 

「・・難しい、ですね。私は女性と付き合う気はございませんので」

 

今は色恋よりも世界を見たい。

それが僕の今やりたいことだから。

ミリエルの好意はとっても純粋で真っすぐだ。

だけどそれに応えるほど、地位も稼ぎもない。

 

「どうして?私の立場を考えれば玉の輿でしょ?ユーリは伯爵になったばかりだけれど、その影響を強めれるきっかけにもなる」

 

「・・・本気でそう考えているのなら、大間違いですね。私は伯爵位など欲しくなかったのです。強いて言えば良い機会ではありましたが、後々はこの国を出ようと思っていましたから」

 

「・・・ぇ?」

 

僕の本音を告げるとミリエルは一瞬固まった。

そして急に涙目になりはじめる。

 

「でて、いっちゃうの・・・?」

 

「・・・ええ」

 

世界はここだけじゃない。

色んな場所を見て、その景色を見たい。

 

「駄目っ!ユーリは私と居るの!」

 

ミリエルの年齢は6歳ほどだろう。

逆にここまで大人びている方が凄いぐらいで、まだまだ甘えたい年頃だ。

こういった我が儘な言動も幼さを抜けきっていない純粋な子供なままだからだろう。

 

「学院にいる間は出ませんよ」

 

「やだぁ!」

 

「はぁ・・・ミリエル様、その感情は今だけです。あとになって後悔なされるのは貴女なのですよ。一時の言動で貴女の人生を壊したくないのです」

 

「・・・で、でも」

 

「僕を好いてくれることはとても嬉しいです。ですが、今だけの感情に身を任せるのは駄目です」

 

「・・・うん」

 

ミリエルは王族として教育を受けているからか、聞き分けはしっかりしている。

正直ミリエルの気まぐれで僕が死ぬことも有り得るが、それはそれで良いと思えた。

少しでも楽しく生きれた、それがわかれば例えやり残した事があろうと構わない。

 

「ミリエル様。私は私用がございますので、失礼します」

 

「ぁ・・・うん」

 

「また、会えたら」

 

そういってミリエルの部屋を後にすると、元々自分の客室にされていた部屋へ向かう。

 

「・・・ふぅ」

 

部屋に入ってベッドに横たわると、少し疲れが出た。

あまり人との付き合いが得意ではなかったため、ああやって親しい女の子と話すのは苦手だった。

幼馴染でも同じで、どこか緊張してしまう所もあったし。

 

「・・・寝よ」

 

さっさと寝てしまうに限る。

あの世界の事を考えても仕方ない。

もう戻れないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると何処となく、部屋の外が騒がしかった。

《闇魔法:気配察知》

王宮全体に一瞬だけあらゆる気配を察知する魔法をかけたが、侵入者ではない。

ということは何か催しや大事がある、ということだ。

 

「スカーレット様、起きておられますか」

 

「はい、起きています」

 

失礼します、と中に入ってくるのはメイドさん。

そういえばこの人の名前を知らないな。

 

「あの、名前は・・・」

 

「私はミルメルと申します。ミリエルお嬢様の専属メイドを担当させていただいております」

 

「ミルメルさんですね。僕はユーリ・スカーレットです。適当に呼んでくださって構いません」

 

「いえ、そのような事をすればお嬢様に叱られてしまいますので。それで、ご用件なのですが」

 

 

「本日、王立総合学院の入学式なのです」

 

ミルメルが言ったそれは初めて聞くものだった。

まさか今日だとは思わず、今の今まで知らなかったのだが。

 

「お嬢様はもう準備が完了なさって出発なされましたが、スカーレット様にはある事を頼みたいのです」

 

「・・・僕に、ですか?」

 

「はい。お嬢様のお父上である国王陛下からのご指名でもございます」

 

それを聞いたとき、何か嫌な予感がした。

まるで離さないというような束縛を。

 

「入学の式中だけでも構いません、お嬢様の事を守っていただけませんか。お嬢様の立場を狙っている様々な殿方やご息子が出席なさいます」

 

「・・・条件に、どんな責任はそちらに持っていただく。それを呑んでくれるのなら、悪意ある者から守りましょう」

 

「構いません。国王陛下はそれを見据えておりますので」

 

「・・・そうですか。では、自分も用意しますので」

 

そういうとミルメルは部屋を出ていく。

ここから学院までは転移で行けば良いが、服装は・・・なんでも良いのだろうか。

指定ならあれだし、視るか。

《魔の頂:千里の魔眼》

()()は本来ならば生まれつきか遺伝で伝わる先天性だが、その実態はとても複雑な魔法術式だと《魔の頂》が教えてくれる。

術式ならば、簡単に組めるのですぐに《千里の魔眼》を発動させると窓から顔を出して学院がある方角を見つめる。

 

「・・・服は、ある程度指定か」

 

男子生徒の服装は、統一こそされていないが貴族服類だろうと分かる。

女子生徒もドレスがない貴族服だ。

 

「・・・持ってないし、創ろう」

 

《空想具現化:物質創造》

《空想具現化》の魔法は様々な物を具現化させれるが、そのうちの物質創造は《元素操作》とはまた違う。

魔法による幻想概念を組み込めるのが《空想具現化》で、世界による自然概念を組み込めるのが《元素操作》だ。

だから自然の物は全てを具現化できない。

しようとするとどこかしらが抜けてしまうのだ。

《物質創造=工程開始》

《工程:創造理念・構成物質・幻想概念=完了》

《幻想概念:絶対耐久》

魔力を練り続けて全ての工程を終えると出来上がったのは、貴族服に似せた衣類。

()()()()という概念を括り付けられているため、空気中の魔力を()()()()へと変換するようにした。

 

「ん、これで良いか」

 

謁見の時から着ていた燕尾服のおかげでこういった貴族服には慣れた。

当然構成物質はかなり軽量になる物を使ったため重みはないが耐久性は高い。

 

「よし、行こう」

 

《空想具現化:転移=座標軸指定》

転移を使って指定した座標へと転移する。

一瞬で変わる光景だが、慣れない人は慣れない感覚だと思う。

学院の門へと入っていくと、中はかなり広々としており数千人は入れる規模だ。

 

「・・・とりあえず、歩く、か」

 

ミリエル護衛の任は式の時だけだが、それ以外でも絡まれる気がするので歩きながら魔法で場所を探す。

《闇魔法:気配探知=ミリエル》

少ししたら感じ慣れた気配と魔力の持ち主の場所が分かった。

そこへ歩いて行くと数名ほど人に囲まれていた。

自分の目の前に人がいて見づらいはずだが、何故か普通に僕を見つけて来る。

 

「あっ、ユーリ様!」

 

この場所は公でミリエルは王族の立場になる。

それをわかっているからか、以前のように抱き着かず少し早い歩きでこっちに来た。

 

「遅いです!」

 

「すみません。少し私用で遅れました」

 

喋り方こそ変わらないが、その佇まいと仕草は王族そのものだ。

 

「ミリエル様、この者はどちら様ですか?」

 

人を見下している様な目を向けて来るそれは、正直嫌な物だった。

まるで自分こそ偉いと踏ん反り返っている態度。

 

「これはご無礼を。私はユーリ・スカーレットと申します」

 

「へぇ?ミリエル様と親しいようだけれど」

 

この喋り方に感じたことのある気配。

・・・そうか、ミリエルの婚約者か。

 

「・・・ちょうど良いタイミングなので、話します。アルフォンス様、実は婚約のお話なのですが・・・」

 

「うん?どうしたんだい?」

 

ミリエルと話すときだけは上機嫌で、わかりやすい猫かぶりだ。

しかもねっとりとした甘い声が余計に吐き気を催す。

 

「お父様が破棄にするとおっしゃられておりました」

 

「なっ・・・!?」

 

「・・・ほぅ」

 

「な、何故だ!そのような話聞いていない!」

 

「今日の朝、お父様から直々に言われましたの。相応しい相手は見つけたと」

 

「だ、誰なんだい?その相手は」

 

そういうとミリエルは意味深に僕の方へと向き直る。

そして僕の唇に柔らかい感触が触れた。

 

「な、な・・・」

 

「・・・ミリエル様?」

 

「私はユーリ様と婚約することになりました。これはお父様のご要望でもあり、アルフォンス様のお父上であるグラフク伯爵とはお父様が話すそうです」

 

まさかの話に僕もついていけない。

僕がミリエルの婚約者?

あまりにも突然で、急過ぎる。

アルフォンスという男子生徒も口を開けて固まっているし。

 

「ユーリ様っ、王族とその関係者は専用の席があります。そこへいきましょう」

 

「・・・わかりました」

 

僕の表情は今出ていないだろうが、内心驚きしかない。

まさか本当に許されると思っていなかったし。

というか国王陛下は僕を信用しすぎじゃないか?

普通は会って数分の男を信用しないだろうに。

 

「ミリエル様、あの話は・・・」

 

だが、あの場を切り抜けるだけにでっち上げた可能性を探るため聞いた。

 

「本当だよ。お父様がね、ユーリと一緒に居たいと言ったら二つ返事だったよ」

 

「・・・はぁ」

 

「んふふ~、これからよろしくね?旦那様?」

 

今日、入学式が始まる前に僕には婚約者が出来ました。

それもマギュルカ国家の王族である第三王女ミリエル・ヴェイエルという自分と歳が変わらない少女と。

 

 

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