入学が終わり、魔物の進行の騒ぎもほとぼりが冷めはじめた頃。
数日以上僕はミリエルとは顔を合わせていない。
あの時に置いていってからという物の、少し気まずさというか話しにくくなった。
護るという事はするが、それ以上までするとは今の状況からも考えにくい。
「・・・はぁ」
ミリエルを意識することは今まで無かった。
婚約者と言われても正直受け入れがたい。
国王が直々に僕を指名して婚約に持ち込んだのだろうが、断るつもりだった。
今となってはその足掛かりを作るためとも言える。
自分に愛想を尽かされたと思えばミリエルも諦めると考えた。
人間と女性は信用ならない。
信じるに値しない者が多いこの世界では当て嵌まり、特に女性なんて損得勘定でしか動かないことのが多いのだから。
「・・・ん」
飛び級制度はあるらしく、高成績を何度も叩き出し、専用の問題を解けばその学級を飛ばせる。
自分は初学年だが、元々ここでの目的はこの国随一の図書館だ。
勉学に励むというよりは、知識を求めたい。
どのようなものがあるのかを分かっておきたい。
「・・・終わり」
そしてその図書館ももうすぐ用がなくなるだろう。
9割方読み終えた書物や文面。
先程読み終えた本こそが、最後の一冊だった。
元々本を読むのが苦手ではなく、好きであったからか幾らでも居る事は出来た。
記憶力も良い方で、速読も軽く出来る。
「此処も・・・後、一ヶ月、かな」
自分は人のために動こうとは思わない。
他人の事など他人がやれば良いのだ。
楽しければそれに加担もするかもしれないが。
「・・・はぁ」
今の時間は夜の9時頃か、それぐらい。
生徒は寝ているか寮員同士で話し合っているかぐらい。
今から自分の寮に戻ると確実にミリエルと会うため少し時間をずらしたい。
「もう少し、潰そう」
夜の散歩も悪くないかなと思いながら、本を片付け終えると図書館を出て外に出た。
空には月が浮いており、三日月の形だった。
雲があまりなく、綺麗な星も見える。
「・・・良い、日」
朝昼の太陽は苦手だが、夜の光は前世から好きだった。
眠れない日はこうやって外に出歩いて軽く散歩をしていた。
「ん・・・?」
何やら後ろの方で気配的な物を感じた。
感じ慣れた物で恐らくミリエルだろう。
「ユーリ」
「ミリエル様?」
後ろから抱き着かれ、顔が押し付けられる。
耳を澄ませば小さな嗚咽が聞こえる辺り泣いているのかもしれない。
「・・・夢でね。遠く、遠くにユーリが行っちゃう夢を見たの」
「・・・夢ですよ」
「でも・・・この国を出るんでしょ・・・?」
「そうですね・・・」
「行ってほしくない・・・」
「・・・」
こんなに頼りに、好意を持たれるのは前世では幼馴染ぐらいだったな。
いつも俺があいつを連れて遊んで。
学校も二人で行ける場所を選んで。
「また、戻る」
どこの世界でも同じで、大切な人は信じれるようになるべきだろう。
この世界ではミリエルだけでも信じても良いかもしれない。
純粋で健気で元気でありながら、勇気もある。
そんな強くて儚い女の子なんてそうそういない。
「前に言ったように、後悔はしてほしくない。だから考えて、考えて。それで出した答えなら僕が帰って来るまで待ってて」
「・・・帰ってこなかったら・・・どうするの?」
「・・・・・・ミリエル様、もう寝ましょうか」
「・・・分かった」
狡いだろうとは思った。
だけれど、今ここで出せる言葉じゃない。
それはミリエルを完全に縛ってしまう鎖で。
自由を求めていた彼女をまた束縛してしまうかもしれないのだから。
入学して日がかなり経った。
生徒達はここの学院にも慣れて、思い思い談話したり魔法の練習などに時間を当てる。
授業と言える授業は少なく、ここでは努力する者こそがこの学院の生徒と言える。
授業はその初歩を授けるだけであり、その上位や派生を教えはしない。
図書館は予習や勉学のために大きく多い本が置かれているのだろう。
そして今日、その本番が行われる。
実際に魔物と戦闘し戦いを経験する。
「・・・・・僕は、どうしよう」
あまりこの戦闘で暴れすぎると確実に何かしら言われる。
神刀の銀霜刀や《魔の頂》による全魔法行使がどれほどまで目を付けられるか分かった物ではない。
だがミリエルに危害が加えられそうならばそれもやむを得ない。
「ユーリっ、一緒に組みましょう?」
「・・・自由にしてください」
何でこんなに嬉しそうにしているのか。
まぁ純粋な好意を抱いているからこそ、一緒に居たいのだろう。
「そういえば・・・ユーリのスキルってどうなるの?」
「私のスキルはどうやら《鑑定》を弾くようで、自分で掛ければしっかり分かりましたよ。ミリエル様の足手まといにならないようにはしますので」
「そっかぁ・・・スキル気になるなあ」
「秘密です。そのうち分かりますから」
そういいながらミリエルの頭を撫でる。
以前ならこんなことをしなかったが、最近ではするようになった。
こうしてあげれば嬉しそうに表情を綻ばせるし、単純にやりたいからだ。
この提案はミリエルがしてきて今もなお続いているが。
「はふ~」
「・・・はぁ」
最近ではこんな感じだ。
僕とミリエルが婚約関係だというのは貴族間では理解されており、それに対して突っ掛かって来る者はいない。
「ん・・・」
「ねぇユーリ」
「はい?」
「その・・・眼、見ても良い?」
「は、はぁ・・・」
自分の眼は蒼色で、どうやら特別な眼らしい。
基本的に切っているが、発動すれば魔力や魔法の術式に魔力の痕跡すら見える。
先天的な物らしく、持っている人はとても少ない。
存在だけで高位の魔法に関する仕事に就ける程だ。
「ん・・・綺麗・・・」
「その・・・マジマジと見られますと・・・」
「だって・・・」
そしてもう一つが、魔眼としても力が有る。
それは《魅了の魔眼》で、中でもかなり力が強い。
こればかりは抑えるしか無かったが《魔の頂》による自動制御である程度は抑えれる。
だが眼を直接見てしまうと少し効力が出るようで、ミリエルもその影響か頬が朱く染まり目がトロンと据わっている。
「ぅ・・・もう終わりです」
「ぇ・・・?」
「これ以上は恥ずかしいのです」
「む~・・・」
「それよりもミリエル様、お時間は大丈夫ですか?本日はご友人と何かあったのでは」
「あっ!」
ミリエルが時計を見ると慌てたようにせっせと片付けをして脱兎の如くどこかへ去っていく。
チラッと僕を見て手を振ってきたので、振ってあげるとそのまま急いで行った。
「・・・夜まで寝よ」
実践は夜にある。
今は朝方でやることがないのでとりあえず寝ておこう。
眠気がある状態で戦闘など好んでしたくない。
疲れて面倒だし。
「ん・・・」
友人が出来て良かったと思いながらミリエルの事を少し考えながら。
僕は少しだけ眠りについた。