【完結】ONE PUNCH MAN 最弱のヒーローと時間泥棒 作:春風駘蕩
「さぁ…行け‼」
「あいつらから分岐点を奪い取れぇ‼」
各々が持つ武器を掲げ、吠えるゴルドラとシルバラの合図で、無数の怪人たちが再びサイタマたちに襲いかかる。
地震と勘違いしそうなほどに凄まじい地響きが伝わり、闇の中に映る黒いシルエットも相まって見るものに圧倒的な恐怖をもたらしていた。
「いくぜいくぜいくぜぇ‼」
しかしモモタロスinジェノスは臆することなく、ようやく調整に慣れてきた手のひらの火炎放射器を掲げ、勇ましく走り出した。
怪人たちの目前にまで達すると、モモタロスは真正面からの爆炎で相手を迎撃した。
「俺の必殺技! サイボーグバージョン‼」
手加減なしの業火に包まれ、怪人たちは焼き焦がされる苦痛の中で悶え苦しみ、やがて炭になっていく。
そして本人はやはり、自分の炎で熱そうに悶えていた。
その横では、亀の甲羅を模した槍を振り回すウラタロスinフブキが涼しい顔でスタイリッシュに暴れる。フブキ自身のクールな装いも相まって、実に美しい槍捌きで相手を圧倒していた。
「ふんっ!」
少し離れた場所では、分厚く大きな葉の斧を振り回し、キンタロスinキングが豪快に怪人達を斬り伏せる。やや動きづらそうにしながらも、キンタロスの持つ怪力によって決して敵を寄せ付けなかった。
「ダイナミックチョップ―――マイルド‼」
大きく跳躍すると、怪人の一体の脳天に力強く斧を振り下ろす。
強烈な一撃を受けた怪人は真っ二つに叩き割られ、数歩後ずさってから地面に倒れ、爆散して激しい炎に包まれた。
「いぇ~い!」
誰にも憑くことのできなかったリュウタロスだが、もはやそんなことはどうでもいいとばかりに愉し気に銃を乱射する。
むちゃくちゃな撃ち方だというのに一発たりとも撃ち漏らしがないのが、彼の異様な強さを表す一因となっていた。
「おらぁ!」
ユウトもサーベルを振り回し、向かってくる怪人達を次々に打ち倒していく。激しい火花を散らしながら、巨大な刃が怪人達を両断していった。
四体のイマジンと戦士たちに阻まれ、狙っている少女のもとへと一向にたどり着くことのできない怪人達。それでも進軍をやめようとしない彼らの前に、白いマントが翻る。
と思った瞬間、繰り出された赤い拳が、凄まじい衝撃波を放ってみせた。
「必殺…………ちょっとマジなパンチ」
ドッ‼と硬い壁に真正面からぶち当たったかのような衝撃が走り、怪人達はひとまとめにされて吹き飛ばされる。中には全身をバラバラにされてしまうような者もいて、残骸があたりに散らばって大変悲惨な光景が広げられることとなった。
だが、ふと気づいた瞬間にはそれらは霞のように消えてしまう。
そしてその向こう側から、バラバラに吹き飛ばされたはずの怪人達が無傷のまま近づいてくるのだった。
「……なんかちょっとイライラしてきた」
「ああクソ! ホンットにしつけぇな‼︎」
いつもやっている雑魚怪人の掃除よりもはるかに苛立たしい単純作業の繰り返しに、サイタマの血管が切れそうになる。
八つ当たりのように剣を振り回すモモタロスを横目に、サイタマは引きつった表情でゴルドラとシルバラを睨みつけた。
「たかが人間が…まずは貴様から排除してくれる‼」
「うおらああああ‼」
サイタマを最優先に倒すべき標的ととらえ、シルバラが金棒を振り回して接近する。
岩どころか鉄の塊さえも簡単に破壊できる鋼鉄が、サイタマに向けて雪崩のように降り注がれた。
「鬼神連弾‼︎」
見た目以上の重量を考えさせない、無数の残像を残すほどの速さで繰り出される一撃一撃を、サイタマはヒュンヒュンととてつもない速さでかいくぐる。
一片たりとも掠ってさえいないことに気づかないシルバラは、その顔を残酷な笑みで歪めていった。
「おいおいどうしたぁ⁉︎ 避けてばっかじゃつまらねぇぞ‼︎ もっと俺たちを楽しませろよぉ‼︎ ぎゃははは‼︎」
耳障りな笑い声を聞いて、サイタマのこめかみにぴキリト血管が浮き立つ。
絶えず降り注ぐ金棒の連撃を躱したまま、赤い手袋がぐっと握りしめられた。
「は―――ぐっはぁあああああ‼︎」
「ミミヒコォォォォォ⁉︎」
醜く歪んでいた顔が、拳をもろに受けてより醜く破壊される。
金棒までもが粉々に砕かれ、鬼の仮面が鼻の部分を中心に大きく陥没。その勢いのまま頭部がスイカのように血飛沫を撒き散らしながら試算し、ゴルドラが思わず悲鳴を上げた。
「んだよ。たいそうなこと言っといてもう終わりかよ」
シルバラの血を全身に浴び、真っ赤に染まったサイタマがつまらなそうに呟く。
じゃあ次はとゴルドラの方を向いたサイタマだったが、ふとその目が訝し気に細められた。
自分に降りかかった血が、ビデオの逆再生のようにはがれていくのが見えたからだ。
「⁉」
目を見開くサイタマの前で、飛び散った血が、肉片が一点に集まり、もとの形へと逆再生されていく。
鬼の仮面が修復され、その目に光が戻ると、シルバラはゴキリと首を鳴らして気だるげにサイタマを睨みつけた。
「ククク……言ったはずだ。貴様らが我らに勝つことなどできないと―――」
「うわ気持ち悪っ⁉︎」
「ぐわあああああああああ‼︎」
「兄者ぎゃあああああああ‼︎」
仮面の下で不敵な笑みを浮かべていたようだが、顔を真っ青に染めたサイタマの連続の拳打によって、鬼の兄弟はまとめて粉砕されてしまう。
サイタマの反応は例えるなら、せっかく潰したと思ったゴキブリが復活して再び向かってくるかのような感じだった。
「サイタマく――ん! あいつらいくら倒したって復活するから意味ないよ! 早く乗って!」
「ん? お、おう…」
あまり見たくはない光景を見せられ、肩で息をするサイタマに、背後からデネブが手を大きく振って呼びかけた。
正直もう無限に湧く怪人の相手は面倒くさかったし、気持ち悪いものを見てしまったサイタマは素直にそれに従い、先に乗りこんだハナたちのもとへと急いだ。
「くっ…逃すな‼︎ 奴らの首を獲り、分岐点を奪い取れ…ぐわっ‼︎」
身体が再生されるのを待ちながら、部下の怪人達に命令するゴルドラだが、ゼロライナーはそれらを引きつぶすように容赦なく発進する。
天空に向かって伸びていくレールに沿って、牛の顔を持つ列車は夜空を突き進んでいった。
なんとか列車の中に戻り、ほっと息をつく一同。
憑依していたイマジンたちが光となって飛び出すと、いの一番にジェノスがモモタロスに掴みかかった。
「貴様…よくも勝手におれの体を…‼」
「何だコラ⁉ あの方が強かったじゃねぇかよ! 文句があるなら言って見やがれポンコツサイボーグが‼」
「焼却する…‼」
「やめなさいよアホ共‼」
怒り心頭のジェノスと、逆ギレするモモタロスの脳天にハナのチョップが突き刺さる。
ばつが悪そうに引き下がる二人にため息をついてから、ハナはふっと肩をすくめてサイタマ達の方を向いた。
「とにかく助かったわ……あんなゾンビみたいな連中、いつまでも相手していられないもの」
気の強い彼女からの素直な感謝を受け、サイタマは「おう」と気の抜けた返事を返す。
ようやく落ち着いたジェノスは、改めて疑問に思っていたことをハナにぶつけた。
「あれは一体どう言うことだ。先生の攻撃を受けてなぜ復活できる」
「それがわかれば苦労はしないわよ」
座席にどっかりと腰を下ろし、ハナは苦い表情を浮かべた。
「あいつらはもともと、ミライが戦って倒してきたやつら。時間を超えて悪さをしようとしてきた奴らだから、ガオウと近い目論見があるんだろうけど……どうやって復活したのかまでは」
かつて戦い、相当に苦戦してきたのだろう。
またそんな敵を相手にするなど、それも何度も蘇るようになったなど考えたくもないのだろう。その表情は曇りを見せていた。
「ただ言えることは……あいつらはまだ、ミライを執拗に狙う理由があるということ。分岐点であるあの子の身柄を押さえる事こそ、あいつらが目的を達成させるために必要不可欠なこと……それだけは、許しちゃいけない」
言い切ってからも、ハナの表情は暗く沈んだままだった。
ジェノス達もほぼ同じ心境であった。今回の怪人は、これまで相手にしてきたどんな敵よりも厄介な能力を持っているのだから。
「どういう理屈で蘇っているのかしら…」
「なんかRPGの勇者みたいだよな」
「思いっきり悪役だけどね~」
「とりあえず今できることといえば、このまま逃げ続けながら対策を練ることだけよ。絶対に何かできることがあるはず…」
ハナは眠り続けるミライを見やり、自分だけでもしっかりしなければと思ったのか、表情を引き締めてジェノス達に告げた。その視線の行き先の中に、ボケっとした顔のサイタマが含まれていないのは、もはや通例のようであった。
そんな彼らの少し後ろで、キングは一人考え込んでいた。
(RPGの勇者か……サイタマ氏ってばいい例え思いつくな)
先ほどサイタマがぼそりと呟き、リュウタロスが肯定していた言葉が、キングは妙に気になっていた。
たとえ死んでもある時間、ある場所で勝手に蘇る。ゲームによってはデスペナルティがかかったりすることもあるが、基本的にはもとの状態で蘇って再び敵キャラに挑む事が出来る、ゲームでは不可欠なシステムだ。
(考えてみたらああいうのって、普通の人から見たらどんな感じなんだろうな。死んでも死んでも蘇ってくる奴とか、普通なら迫害とかされそうだよなぁ。魔王も魔王でドン引きしてそう…自分は一回でも倒されたら終わりなのに)
ゲームだからこそ当たり前で、現実だったらまず考えられないシステムをキングは馬鹿正直に思考する。
生活がゲーム中心の彼としては、そう言ったことぐらいにしか興味がわかなかった。
(
だがそこで、キングはあることに気づいた。
それもこの一件に深くかかわりそうな、とてつもなく重要そうな事実に。
(……ガオウってやつが、分岐点であるミライ氏の記憶を奪って、自由に改竄できるってことはつまり―――)
自分が思いついた考えに、キングはまさかと冷や汗を流しながらも、もう一度思考する。
だが、彼がその考えをまとめなおすよりも前に、ゼロライナーに突如大きな揺れが襲い掛かった。
「きゃあ⁉」
「なんだ⁉︎」
爆発かなにかでも起きたような轟音と衝撃が響き渡り、揺れるゼロライナーの中でジェノス達は目を見開く。
すると、ゼロライナーを操縦していたユウトが慌てた様子で知らせてきた。
「攻撃を受けてる…‼︎ 後ろだ‼︎」
切迫した声が、事態の深刻さを物語っている。
ハナは急いでゼロライナーの窓の付近に顔を寄せ、こちら側に攻撃を仕掛けている相手を見ようと目を細め、やがて驚きと焦燥に大きく見開かれた。
ゼロライナーの後を追うように走行しているのは、鮮やかな赤を基調とした流線型の列車。割れた桃のような意匠の先頭車両のそれは、車両のあちこちからキャノン法や砲台やミサイルなどを展開し、ゼロライナーに向けて発砲し続けていた。
「デンライナー…! ってことはあれに乗っているのは‼︎」
表情を引きつらせたハナが、操縦席のある先頭車両を凝視する。
奇しくもハナの予想通り、デンライナーの先頭車両には件の最低最悪の怪人、ガオウの姿があった。
「…ようやく見つけたぜ、小娘ども」
列車と接続されているバイクを操り、我が物顔でガオウはデンライナーを駆る。
ユウトもまたゼロライナーの操縦席であるバイクを操るも、両方の車両は引きはがせないほど近づけられてしまっていた。
「クソ…! 完全に背後をとられた‼」
「おいこっちからはなんかできないのか⁉︎」
「こっちの武装に遠距離攻撃はない! ぐあ⁉」
一方的にやられてたまるかとイマジンたちが操縦席に殺到するが、回避で精いっぱいのユウトは鬱陶しいとばかりに閉め出す。
しかしそれもついに限界を迎え、爆撃を受けたゼロライナーは車体を大きく傾けさせ、レールを外れて真っ逆さまに落ちていった。
「うわああああ‼」
「ぎゃあああああ‼」
「…しばらくおとなしくしてろ、ゴミ共」
時空の渦の中へと落下していくゼロライナーを見下ろし、ガオウはフンッと残酷な笑みを浮かべる。
その笑みはやがて、大きく上質な獲物を前にした獣のような、獰猛で冷ややかな恐ろしいものへと変わっていった。
「さぁ、狩りの時間だ」
ガオウは血に酔ったような、恍惚とした目でレールの先を凝視する。
自らが望む世界が、それを創造するための下地に向かうため、ガオウはバイクのアクセルを限界まで引き絞った。