【完結】ONE PUNCH MAN 最弱のヒーローと時間泥棒   作:春風駘蕩

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13話の閲覧数だけ爆上がりしてたんですけどなんでですかね?
しかもその翌日沈静化しましたし。
不思議すぎて怖いんですけどどなたかご存知の方はいらっしゃいませんか…?


 十四撃目 理不尽の権化

 ヒーローと不死の怪人達の戦いは、苛烈を極めていた。

 しかし拮抗していた戦況も、次第にヒーロー側が押されはじめ崩されていく。無限に湧き出る敵を前に、ヒーロー達の体力も徐々に落ち始めていたのだ。

 

「ダメだ、やっぱC級やB級じゃ相手にならねぇよ‼︎」

「撤退しろ撤退!」

「誰かA級かS級呼んでこい‼︎」

 

 C級に所属するヒーローのほとんどが、一般人に毛が生えたレベルの戦闘能力しかない。

 B級以上の実力者達は本当に全体の一握りしかなく、そんな彼らも迫り来る怪人達にはまともに太刀打ちできない。より強いものに助けを求めることしかできなかった。

 

「ヒャハハハハ‼︎ だらしがねぇなぁヒーローってのは‼︎」

「尻尾巻いて逃げて情けねぇぞ‼︎」

「あいつらっ…!」

「待て、いくな! 奴らの思うつぼだぞ‼︎」

 

 勇ましく名乗りながら、命からがら逃げ出していくヒーロー達を、怪人達はここぞとばかりに嘲笑する。

 悔しさに歯を食いしばり、激昂しそうになるのを必死に押さえつけ、恥を噛み締めながら、ヒーローは怪人達に背を向ける。

 

「ギヒャヒャヒャヒャ……あ?」

 

 馬鹿にするように、逃げ去っていくヒーロー達を追いかけていた怪人達は、ふと感じた違和感に訝しげな声を上げる。

 すると次の瞬間、あたりを闊歩していた怪人達がまとめて宙に浮かび、米を握るかのようにひとまとめに圧縮され、小さく潰されてしまった。

 

「あんた達、こんなザコ相手にどんだけ手間取ってるわけ?」

 

 緑色の光を纏い、片手を握りしめていたその人物は、苛立たしげに厳しい声で告げる。

 逃げ惑っていたB・C級ヒーロー達は、突然起きた現象に目を疑うと、自分たちを見下すように空中に佇んでいる小柄な女性を凝視した。

 

「邪魔だからどっか消えててくれない?」

 

 癖の強い緑の髪を持つ、一見少女にしか見えない体つきに、氷のような鋭い眼差しを持つ彼女の名はタツマキ(28)。

 S級ヒーローの中でも最強の一角を担う、この世で知らぬ者のいないとてつもない超能力者だった。

 

「せ…〝戦慄〟のタツマキ…」

「フンッ……ほんっと役立たずなんだから」

 

 タツマキは見た目に似合わぬ辛辣な言葉を吐き、慌てるばかりであったヒーロー達を呆れたように見下す。

 自身と同等、もしくはそれに準ずる実力者以外を認めない彼女は、力のない者が戦場に出ることを極端に嫌う。優しさのかけらもない孤高の女性だった。

 

「…ん?」

 

 そんなタツマキの視線がふと、先ほどまで怪人達がいた方へ向けられ訝しげに細められる。

 サイコキネシスで原型をとどめないほどに押しつぶしてやったはずなのに、怪人達は激昂した様子でタツマキを睨みあげていた。

 

「このっ…クソガキがぁぁぁぁ‼︎」

「ぶっ殺してバラバラにしちまえ‼︎」

 

 一方的なやられ方が気に入らなかったらしく、屈辱を倍にして返そうと怪人達があちこちから集まってくる。

 流石のタツマキも気味が悪そうに眉間にしわを寄せ、納得の唸り声をあげた。

 

「……ああ、そういうこと。これは確かにあんた達じゃ相手するのは無理ね」

「そ…そうなんだ! 倒しても倒しても敵が復活する! 対処法が見つからない限り手も足も出せなく……」

 

 真下にいるヒーローの一人が、せめて情報を渡そうとタツマキを見上げて声を張り上げる。

 しかしタツマキはギロリと彼を睨み付けると、鬱陶しさと苛立ちが混じった恐ろしく低い声で告げた。

 

「言ったわよね? 邪魔だからどいててって」

 

 タツマキは「フンッ」と鼻を鳴らすと、怪人達に人差し指を向けて軽く力を込める。

 途端に怪人達のうちの何体かが空中に浮かび上がり、ベキバキボキと勝手にひしゃげて肉塊にされていく。だがすぐにその姿は消失し、元の状態で物陰から現れるのだった。

 

「……ほんっとうっとうしいわね、アレ」

 

 倒しても倒しても片付かない敵に、タツマキのイライラは否応がなく募っていく。

 すると次の瞬間、タツマキの全身をより濃い緑の光が包み、それは強烈な衝撃波となって怪人たちをまとめて薙ぎ払って行った。

 

「……行こうか」

「おお…」

 

 どう見ても手を貸す必要はないし求められてもいない。むしろ加勢すればこちらの命はない。

 あまりに圧倒的すぎる力を前にし、B級以下のヒーロー達は妙に達観した顔で、すごすごとその場を後にしていくのだった。

 

 しかし弱者達が姿を消す中、タツマキは険しい表情で空中に留まっていた。

 自分が負ける要素など微塵もない。しかしこの自体を収集できる未来も、今の所全く見えてこなかったからだ。

 

「なんていうのかしら…穴の空いた桶で水を掬ってる感じね。いい加減飽きてきたし……そうだわ。こうしてあげる」

 

 考え込んでいたタツマキの目が危険な光を宿し、ニヤリと意地の悪い笑みが浮かべられる。

 くいっと彼女が片手を動かすと、怪人達とともに周囲の瓦礫も浮かび、ゆっくりと動き始める。それらはぐるぐると円運動を始め、空中の一点を中心とした球状の嵐へ変化していった。

 

「殺しても殺しても死なないんなら、殺し続ければいいってわけよね」

 

 タツマキの作り出した嵐の中で、怪人達は互いや瓦礫と激突しあっという間にボロボロにされていく。

 予想通り一度死んでも復活していたが、すぐにまた念力の檻の中に閉じ込められ、またしても攻撃を受け続ける羽目になる。あまりに恐ろしい刑罰に、怪人達の悲鳴が嵐の中でいくつもこだましていた。

 

「ぎゃあああああ‼︎」

「そこで永遠に死に続けなさい」

 

 根本的な解決はしていないが、それでも怪人達を一方的に攻撃できてご満悦になるタツマキ。

 その時、彼女の背後から突如青白い鬼火のようなものが襲いかかり、咄嗟に躱した彼女の肌を焼きかけた。

 

「…! どこのどいつよ! 生意気に不意打ちかましてきたザコは⁉︎」

 

 せっかくいい気分に浸っていたところを邪魔され、怒りをあらわにするタツマキ。

 そんな彼女の目に入ったのは、何もないビルの屋上の影から滲み出るように現れた、奇妙な格好の男だった。

 

「…お前も、俺の願いの邪魔をするのか」

「はぁ?」

 

 毛皮のついた小汚い着物という、時代がずれたような格好をしている美丈夫が、空中に佇むタツマキを忌々しげに見上げている。

 意味のわからないことを耳にし、馬鹿にするような視線を返すタツマキの前で、美丈夫は懐から一本の鞭を取り出し、振り回し始めた。

 

「あの男は言った……この時間を破壊すると。それを成し遂げた暁には、俺の過去も破壊すると」

 

 宙を裂く鞭は美丈夫の腰に巻きつくと、一瞬にして金属製のベルトに変化する。

 異様な気配を放つそれに触れると、美丈夫はさらに取り出したパスケースのようなものを持って、ベルトの前にかざした。

 

「俺は忌々しいあの時間を破壊し…ソラを取り戻す。それを邪魔するというのなら、何者であろうと潰して進む……変身」

Hijack form(ハイジャックフォーム)

 

 低い男の声が響いた直後、ベルトから無数の暗い光の破片がばらまかれる。それらは一旦空中にとどまり、次の瞬間には美丈夫の全身にまとわりつき、一着の黒い着物を作り出す。

 さらに美丈夫の周囲に鬼火をまとった金属の塊が浮遊し、怪物の牙を模した鎧となって美丈夫の体に張り付く。

 最後に顔を骸骨に似た仮面が覆い、赤い線路のようなマフラーがたなびいた。

 

〈Full charge〉

「ぬぅああああああ‼︎」

 

 幽汽と呼ばれる、死者の戦士へと変貌した美丈夫が、雄叫びとともに機械的な斧剣を振りかざす。

 すると幽汽の体から溢れ出た鬼火が刀身に宿り、タツマキに向かって一気に放たれた。

 

 ターミネイトフラッシュ‼︎

 

 凄まじい炎が天空をも焼き、タツマキの小さな体をも呑み込もうと勢いよく迫る。

 とっさに念力で防ごうとしたタツマキだったが、向かってくる鬼火はその勢いを落とすことなく、タツマキに襲いかかった。

 

「くっ…!」

 

 一瞬目を見開いたタツマキは、即座に防御ではなく回避に移り、鬼火の届かない上空へと飛翔する。

 かろうじて衣服の端が焦げるだけで済んだタツマキは、真下で見上げてくる幽汽に鋭い目を受けた。

 

「…へぇ? なかなか骨があるやつがいるじゃない」

 

 言葉こそ愉しげだが、雑魚と思っていた相手に不覚を取らされた彼女の目に宿る怒りの感情は、凄まじい迫力を伴っていた。

 

 

「あーくそ……あいつらのせいで随分遅れて到着しちまったぜ」

「相も変わらず憎たらしい奴らだったな、弟よ……」

 

 広い自動車道を、金と銀の二体の鬼を先頭に怪人達の軍勢が闊歩する。

 その姿はまるで戦に赴く異形の軍隊であり、相対する戦士達から歯向かう気力を容赦なく奪い去っていた。

 

「ほんじゃ、思いっきり暴れて取り戻そうかね!」

 

 鬼の一体、ゴルドラが錫杖を掲げると、後ろに続く怪人達が咆哮を上げる。

 彼らが向かおうとしている先にあるのは、逃げたヒーロー達と一般市民が避難しているシェルターがある方向だった。

 

「オラァ‼︎ いけ、野郎ども‼︎」

「目につく全部をぶっ壊せ‼︎」

「うおおおおおおおお‼︎」

 

 出遅れた苛立ちをぶつけるように、シルバラが地面を金棒で思いっきり叩いて粉砕する。アスファルトが粉々に粉砕され、その上を恐ろしい外見の怪人達が一斉に駆け抜けて行った。

 鬼の兄弟がニヤリと下卑た笑みを浮かべた時、先に突撃していた怪人達が突然吹き飛ばされ、あちこちで爆発四散し始めた。

 

「アァ⁉︎」

 

 いきなりの事態に、ゴルドラとシルバラは各々の武器を構えて眉間にしわを寄せる。

 おののき始める怪人達の前に、その男は音もなく降り立った。

 

「……騒がしいと思えば、こんなところにもいたのか」

 

 長い白金の髪をなびかせ、研ぎ澄まされた剣を持った美貌の剣士が、群れる怪人達を見据えて呟く。

 すでに何体も仕留めようとして、謎の現象により邪魔されてきたが、それでも彼のやるべきことは一切変わらなかった。

 

「閃光のフラッシュ、正義を執行する」

「ヘッ…やってみやがれ、優男が‼︎」

 

 構えを取るフラッシュの宣告に、シルバラが小馬鹿にするように笑い、金棒を突きつけて吠える。

 宣言通りフラッシュは文字通り閃光のごとき速度で駆け抜け、シルバラに刃を食らいつかせた。

 だが、それは甲高い音とともに弾かれ、虚しく火花のみを舞い散らせるだけだった。

 

「……!」

「へっ、斬ったと思ったか? 残念…痛くも痒くもねぇよ」

 

 目を見開くフラッシュにシルバラが金棒を振り下ろすが、フラッシュはすぐさま回避し距離を取る。

 そしてまた猛スピードで疾走し、今度はゴルドラとシルバラ両方に向けて、目にも留まらぬ連続攻撃を繰り出し始めた。

 

「おおぉ! 速ぇはえぇ‼︎ ハエみたいにはえぇな‼︎」

「クチヒコよ、洒落が効いているな‼︎」

 

 どれほど刃を走らせても、どれほど急所を狙っても、フラッシュは鬼達の鎧を抜くことはできずにいた。

 やがてフラッシュは一旦大きく後退し、やや険しい表情で鬼達を鋭く睨みつけた。

 

「…これほどまでの防御力……刃を通すのも難しいか」

 

 初めて口にした弱気な言葉。S級の中でも上位に君臨する彼には似合わない泣き言が紡がれるが、フラッシュの表情に悲観の色は見られない。

 むしろその瞳は、先ほどよりも鋭く濃い決意を宿したものに変化している。

 

「少し、本気を出すとするか」

 

 今の彼の中に生まれたのは、久しく味わっていなかった緊張感を堪能したいという、挑戦者の気概だった。

 

 

 灰色のコートを着た、生者には見えない肌色の男が放つ銃弾が、一発もうち漏らされることなく標的に食らいつく。

 しかし放たれた銃弾は硬い装甲によって防がれ、火花を散らしながら無残に歪んで地面に転がるばかりだった。

 

「チッ…! これだけ撃ってかすり傷ひとつつかんとはな…!」

 

 不死のヒーロー・ゾンビマンは苦々しく呟き、道のど真ん中を堂々と歩いて来る機械的な格好の怪人を前に舌打ちする。

 一見パトカーに似た特徴を持つ鎧をまとったその怪人は、両の目を怪しく光らせゾンビマンに銃口を突きつけた。

 

「完全なる時の運行の管理のため……人類の排除を完遂する」

 

 物騒なことを言い、怪人はどこか機械的な動きで引き金を引く。

 反射的にゾンビマンが飛びのくと、一瞬前まで彼がいた場所を無数の光弾が貫き、着弾した途端に激しく爆発した。

 

「チッ…!」

 

 いくら不死身といえど、あの攻撃で四肢を欠損すれば復活には相当時間を食われることになる。瓦礫をうまく盾にしながら、怪人への有効打を考えねばならないだろう。

 ゾンビマンがいつでも動けるように身構えていると、怪人の前に割って入るように、突如黒い光沢のある人影が降り立った。

 

「……駆動騎士」

「下がっていろ、ゾンビマン。お前ではあの怪人の相手は相性が悪い」

 

 黒い直方体の機材を備えた機械の戦士は、どこか自身と似た雰囲気のある怪人を見据え、赤い一つ目をひときわ光らせる。

 そして次の瞬間、二体の機械の戦士はとてつもない衝撃と爆音を生み出しながら、激突するのだった。

 

 

 街全体を見渡せる、ヒーロー協会の本部の屋上で一人、ガオウは盃に注いだ酒をかっくらう。

 耳を済ませれば心地のいい悲鳴と破壊音が聞こえてきて、着々と野望の実現の時が近づいていることに笑みが浮かぶ。

 

「おーおー、がんばれがんばれ」

 

 それに抗おうと必死に戦う者の声も聞こえるが、それは徐々に一つずつ消えていく。あの軍団に勝てる可能性など最初からなかったのだ。

 上機嫌に盃を傾けていたガオウだったが、ふとその笑みが消える。

 彼の耳に、近づいてくる何者かの足音が届いたからだ。

 

「……なんだ、テメェは」

 

 胡乱げに、そして愉悦の邪魔をされて苛立たしげに表情を歪め、ガオウは足音の主の方へ目を向ける。

 鋭く貫くような視線に対し、その男は純白のマントを翻し、気だるげに答えてみせた。

 

「最初は趣味で、今はプロヒーローをやっている者だ」

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