【完結】ONE PUNCH MAN 最弱のヒーローと時間泥棒   作:春風駘蕩

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 十八撃目 諦めない奴ら

 崩れた廃墟の前に停車している、近未来的な外見の列車デンライナー。

 その前で気だるげに座り込んでいる二体の怪人達のもとに、どこからともなくビリビリと空気を震わせ破壊音が聞こえてくる。

 それが自分たち以外のイマジンや怪人達がもたらしているのだと思うと、列車の見張りを任されているイマジンたちには苛立ちが募っていた。

 なぜこんなつまらない命令をこなさなければならないのか。

 

「かったりぃな……こんなもん見張ってる必要なんてもうねぇだろ」

「そう思うなら直接言いに行ってみろよ、存在ごと消されるぜ」

 

 現在のイマジンたちが存在を保っているのは、ガオウがそう過去を書き換えているから。

 絶対的な支配者の位置に立っているガオウに文句を言おうものなら、怒りのままに消されるか、もしくは死と復活を延々と繰り返されるか。考えるだけで恐ろしかった。

 

「あーあ…俺もあっちで暴れてぇな」

「もう少ししたら交代の時間だ。我慢し…ろ…」

 

 相方と同じく、力を持て余していたイマジンがそうなだめていると、その声が急に尻蕾になっていく。

 急に黙り込んだイマジンに不審げな視線を向けた相方は、彼が向いている方向に目をやると、同じように驚愕で目を見開き、言葉を失くした。

 彼らのいる方に向けて、一人の男が近づいてきていたからだ。

 

「こ、こいつ!あの顔の傷跡…!」

「まさかあの、キング…⁉︎」

 

 ズシ、ズシと瓦礫の砂利の上を踏みしめ、顔に深い傷を刻んだ金髪の大男、キングが恐ろしい形相で近づいてくる。

 それなりの距離があるのに聞こえてくる、エンジンのような重低音を耳にした彼らは、キングが完全に戦闘態勢に入っていることを察して硬直してしまった。

 

「な、なんなんだよこいつ…⁉︎」

「く、来るんじゃねぇよ‼︎」

 

 慌てて立ち上がったはいいものの、彼らはそれ以上の行動を起こす事ができない。

 一歩でも動けば潰される。わずかに動きを見せただけであの男の餌食にされると錯覚させられるほどの威圧感が、迫ってくる大男からは感じられていた。

 

「そこから動かないでくれるかな……俺は今にも、何もかもを解き放ちそうなんだ」

「う…あ…!」

「もしそうなったとしても君達には何の責もない……俺も咎めるつもりもない…だから、そこをどいてくれ。他ならぬ君達自身のために」

 

 圧倒的な力の差を見せつけながら、逃げる猶予を与えるようにキングは告げる。だが、それを聞いてもイマジンたちは動くことはできなかった。

 敵の言う事を信用できないという単純なものではない、かすかに緊張を解けば意識が吹き飛ばされそうな気がしていた。

 

(なんだこの、とてつもない威圧感…⁉︎ こいつ本当に人間か⁉︎)

(たとえ倒されても、俺たちはすぐに復活する…どんなに強いヒーローが来たって問題じゃねぇ……なのになんで、なんでこんなにも体が震えるんだ…⁉︎)

 

 復活する力など何の意味もない。むしろ復活して、この男にまた立ち向かわなければならないのかという絶望感が湧きあがり、逆らう心をへし折られる。

 ガタガタと震えたまま立ち尽くし、反応さえ返す事ができないイマジンたちに向けて、さらに凄みを増した表情でキングが口を開いた。

 

「これは最後の警告だ……どいてくれないかな」

 

 魂まで見抜かれそうなすさまじい眼光に、イマジンたちはもはやまともな思考さえできなくなる。

 呼吸も脈動もおかしくなりながら、徐々に理性の鎖が壊れていき、衝動のままに勝ち目のまったくない戦いを挑みそうになった、その瞬間。

 

【Full charge】

 

 横から聞こえてきた声と眩しい光に、イマジンたちの意識がハッと現実に引き戻される。

 しかしその時には、イマジンたちは両方ともサーベルの刃をその身に食らい、真っ二つに両断されてしまっていた。

 

「でやああああああ‼︎」

「ぎゃああああああ‼︎」

 

 ユウトの刃をその身に受け、イマジンたちは断末魔の悲鳴を上げて爆発四散する。

 復活を懸念し振り向いて身構えるユウトと、指先の銃口を突き付けたデネブは、一目散に走り去っていく先ほどのイマジンたちの背中を見やり、ひと段落とばかりに肩を落とした。

 

「もーヒヤヒヤしたよ…キングさん無茶しすぎ」

「だが助かった。睨むだけで連中を戦闘不能にするとはな…やはり、伝説は本物か」

 

 唯一の武器であろう拳は、キングのポケットの中に納められたまま。ただその辺を散歩するような悠々とした態度でイマジンたちの方へ向かったその勇姿は、歴戦の戦士であるユウトたちから見ても感嘆せざるを得ない。

 勝算の施栓を双方から受けながらキングは、今にも爆発しそうな自分の股間に称賛の念を送っていた。

 

(よく頑張ったぞ、俺の膀胱)

 

 尊敬の念さえ向けているユウトたちには口が裂けても言えない。

 デンライナーの奪還のため隠れていたところを、爆発音に驚いて物陰から飛び出してしまい、ヤケクソになって突撃をかましてしまっただけなどとは。

 そうとは知らないユウトたちがデンライナーに乗りこむのを見ながら、キングも急いで車内に乗り込んだ。

 

「オーナー、大丈夫か⁉︎」

 

 乗客室に飛び込んだユウトは、座席の一つに座り悠然と構えている男性、オーナーのもとに急ぐ。

 捉えられていたわりには平然としている男性は、息を荒げているユウトを落ち着かせるように穏やかな声で応じた。

 

「特に怪我などはしていませんよ。…私のマスターパスは奪われてしまいましたがねぇ」

「ガオウが使っているアレか…」

「非常に申し訳ない。奮闘はしたんですがねぇ…」

 

 オーナーは無表情のままだが、実際にかなりの責任を感じているらしく、忌々し気に歯を食いしばるユウトやデネブに申し訳なさそうな視線を向けている。

 ふとその目が、所在なさげに立ち尽くしているキングの方にも向けられ、深々と頭が提げられた。

 

「キングさん……あなたやこの時代のヒーローの方々にも苦労をかけて、大変申し訳ない」

「あ、いや…成り行きだし仕方ないっていうか……」

 

 見知らぬ男性に急に謝られ、キングは内心かなりビビりながら手と首を振る。

 何故だろうか、オーナの謝罪は無関係の人間に向けられているだけではなく、一般市民に対して向ける謝意にも感じられたのは。

 冷や汗を流すキングをよそに、オーナーはユウトの方に向き直り、状況の説明を求めた。

 

「ミライさんは?」

「ハナやミライのイマジン達と一緒だ。だが正直、ガオウへの打つ手がなくてな…」

「ふむ…なるほど」

 

 悔し気に眉間にしわを寄せるユウトに、オーナーは表情を変えないまま顎に手を当てて考え込む。

 しばらくするとオーナーは顔を上げ、席から腰を上げるとステッキを手に持ち、コンと床を叩いて歩きだした。

 

「さて…では反撃といきましょうか」

 

 平然とそう告げるオーナーを、ユウトとデネブは目を見開いて凝視する。

 自分たちがもたらした報告は全く希望が見当たらない、耳を背けたくなるような内容ばかりだった。

 それでも好意的に受け止められるという事は、打開策があるという事か。

 

「⁉︎ 何か奴に対抗する策があるのか?」

「彼が何を思ってミライさんを狙ったのかは、捕まっている間にだいたいの検討はつきましたからねぇ…あとはそれをどう防ぐかです」

 

 信じられないとばかりに立ち尽くすユウトたちの前を通り過ぎ、オーナーは先頭車両がある方へ一人颯爽と歩いていく。

 放置されたユウトたちやキングがオーナーの背中を見つめていると、彼はふと思い出したというように立ち止まった。

 

「まぁ…そちらはミライさん自身に任せましょう。一度改変されてしまった時間は、上書きすることでしか元には戻せませんから」

「どういうこと?」

「復活した怪人たちは、ガオウを倒したとしてもこの時代に残るということです」

 

 オーナーの言葉に、ユウトはハッと息を呑んで表情を強張らせる。

 確かに、ガオウを倒したところで時間の流れが完全に元に戻るという保証はない。これだけ滅茶苦茶にされた時間が、何もせずに勝手に奇麗さっぱり元通りになるわけがなかった。

 

「最悪だ…! 過去の怪人の中には、危うく人類を滅ぼしかけた連中だっているんだぞ⁉︎ そんな奴らを、いっぺんに相手にするなど無謀すぎる…!」

「確かにそうです。ある奇跡の存在によって退けられてきたこの時間の脅威、それが繰り返される……そう簡単には乗り越えられないでしょう」

 

 くるくるとステッキを回し、オーナーはユウトたちに背を向けたまま歩く。

 その足がふいに止まり、コンコンカツンっと杖でリズミカルに床を鳴らすと、オーナーは意味深な笑みを浮かべてユウトたちに振り返り、口を開いた。

 

「ですが……だからこそヒーローがいるのです」

 

 珍しいオーナーの笑みに、ユウトたちは呆気にとられたように立ち尽くし、どういう意味かと尋ねるように凝視する。

 間抜けな姿を見せている若者たちを諭すように、オーナーは穏やかな表情のまま向き直り、彼らにビッと人差し指を突き付けた。

 

「怪人と戦うために必要なのは、人の域を超えた純粋な力ですが……我々時の守護者に必要なものは、そんな単純なものではありません」

 

 オーナーを訝しげに見つめるユウトには、彼の言いたい事が何なのか分からない。

 記憶を奪われ、戦う手段を奪われ、何一つ為せないよう弱体化させられたミライの事を考えれば、打つ手など一つも残されていないようにしか思えない。

 しかしオーナーは、そんな疑念を否定するように不敵な笑みを浮かべてみせるのだった。

 

「彼女は、すでに持っているものです」

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