【完結】ONE PUNCH MAN 最弱のヒーローと時間泥棒 作:春風駘蕩
【
「ぬぅん!」
白い電流を纏わせたブーメランを投げ、もう片方の手にハンドアックスを握ったジークが牙王に向かって突進する。
牙王は向かってきたブーメランを剣で弾き、振るわれた斧の刃を受け止める。激しい火花を撒き散らし、白鳥と鰐の仮面が真正面から睨み合った。
「きくかよぉ‼︎」
力任せにジークを振り払った牙王は、背後から再び飛んできたブーメランをまた弾き、自らジークに向かって突撃していった。
白鳥の騎士は戻ってきたブーメランを受け止め、ハンドアックスと交差させると牙王の剣を受け止める。だが、膂力の違いが顕著に表れ、大きく後退させられる羽目になった。
「くははは…! でかい顔で出てきたと思えば、やっぱりつまらねぇなぁおい! もっと俺を楽しませろよ白鳥野郎‼︎」
剣で肩を叩き、耳障りな笑い声をあげる牙王は執拗にジークを叩きのめそうと迫る。
対するジークは追い詰められるも、一切窮地を感じさせない態度で武器を構え、軽い足取りで牙王を翻弄し続けていた。
「フン、貴様を愉しませるなど虫唾が走る。奪った宝石で偉くなった気でいるお山の大将ごときが……せいぜい今のうちに辞世の句でも考えておくがよいわ」
「うるせぇ‼︎」
力の差を技術で補い、ジークは牙王と対等に渡り合う。だがやはり、時間ばかりが過ぎるだけで反撃の糸口を見いだせずにいる。
時間稼ぎに徹しているジークを忌々しげに睨み、牙王が情け容赦なく剣を振るい続ける。その背後に、大きく仰け反った人影が接近した。
「俺を忘れてんじゃねぇよ」
マジ頭突き‼
大きく頭を反らせたサイタマが、眼下の牙王に向けて渾身のヘッドバットを食らわせようと体を折り曲げる。
牙王はそれを異様な反射速度で躱し、空振りしたサイタマは足場である屋上を思い切り砕いてしまう。また何かズルをしたのだと察し、ビキッとサイタマのこめかみに血管が浮き立った。
「うっとうしいんだっての…! 食らいやがれ!」
【Full charge】
褐色のエネルギーが牙王の剣から迸り、刀身が勢いよく射出される。
牙王は電流でつながったそれを振り回し、砕けた足場の上でよろめくサイタマとジークに向けて思い切り振り下ろした。
「おらぁぁぁぁ‼︎」
カッ、と閃光が走り、二人のヒーローごと屋上が吹き飛ばされる。
とてつもない爆音と衝撃があたりに発せられ、大量の瓦礫が雨のように地面に降り注いでいった。
「うおらあああああ‼︎」
裂帛の気合いとともに、金属バットが特別製のバットを振り回す。そのたびに怪人達の身体はバラバラに吹き飛び、あるいは弾丸のようにビルの壁に突き刺さっていく。
気合い野蛮トルネード‼︎
ストレートにあらわされた名の業が決まり、あっという間に金属バットのまわりから怪人達は一掃される。だが、すぐさま物陰から怪人達が姿を現し、金属バットは苛々した様子でバットを構えなおす。
次から次へと表れ、復活する怪人達を前にヒーローたちは一歩も引かない。
背にしているビルに何人たりとも近づけさせまいと、懸命に戦い続けていた。
「嬢ちゃんのところへは蟻一匹通さねぇぜ!」
アトミック侍の声に賛同しているわけではない。しかし同じ思いを有したヒーローたちが、事態の収束を担う希望を守るため、測らぬうちに背中を合わせて戦うようになっていた。
「ぶへぇっ⁉︎」
宙を舞っていた赤い光が少女に弾かれ、砂の塊となって地面に叩きつけられる。
地面に散らばった砂はずるずると蠢くと、悔しげな顔の鬼に変わってギリギリと歯を食いしばってみせた。
「クッソォ…! ダメか!」
「やっぱりのぅ…今のミライとは契約自体がなかったことになっとって乗り移れへん」
「でも乗り移れたところで、あんなのが相手なんじゃ…」
「じゃああれどうするの〜?」
モモタロスの挑戦が失敗に終わると、他のイマジンたちがどうしたものかと頭を抱えて唸る。
ミライに憑依することで、戦う力となっていたイマジンたち。それができないうえ、それでも敵わない敵が相手となっては打つ手がなかなか見つからなかった。
「全く情けないわね! あんた達四人も揃って何の打開策も思いつかないわけ⁉︎」
「…このバカ共にそんなひらめきを求めるのは酷ですよ」
「あんだとハナクソ女に高飛車女! てめーらだって何にもできてねぇじゃねーか!」
呆れた様子で肩をすくめるフブキと、ジト目で睨んでくるハナにモモタロスが抗議の声を上げるが、事実であるため否定はできない。
モモタロスは砂の身体のまま、不安げな表情で立ち尽くしているミライを見やって頭を抱えていた。
「ちくしょう…ミライが変身さえできればあんな野郎なんて…!」
「…なるほど」
ぶるぶると拳を震わせ、悔しさをあらわにするモモタロスやほかのイマジンたちの耳に童帝の声が届き、思わず全員で振り向く。
自前のパソコンとにらめっこしていた彼は、若干目を充血させながら、いつの間にかやり遂げた様子で画面を見つめていた。
「あ? なんだちびっ子、なんか分かったのか?」
「観測機を何十台も使ってようやくね……ちびっ子とは失礼だな」
ぎろっと不本意な呼び方に凄むが、そんな無駄なことをしている場合ではないと、童帝はすぐにパソコンに向き直る。
モモタロスたちやハナたちも同じく画面を覗き込むが、よくわからない数値が表示されているだけで意味が分からず、みんなで一斉に眉を顰めていた。
「君たちイマジンとは、つまりは実体のない精神だけの存在。砂の姿なのはあくまで僕たち人間が君たちのいまの姿を認識できないため、脳が代替的なイメージを作り上げているだけ……まさに
「ん…? まぁそうだな」
「先輩…わからないなら無理しなくても」
「うるせぇ!」
頭がそれほど優秀ではないモモタロスを無視し、童帝は自分が見つけ出した回答を説明すべくイマジンたちの方に目を向ける。
周囲の磁場の数値から始まり、イマジンたちやミライの肉体の隅々まで観測した結果得られた情報の全てを統合し、童帝は状況を打開するためのある秘策を導き出そうとしていた。
「そして人間がイメージすることにより、君たちは擬似的な姿を得る。そして契約を交わすことにより実体を持ち、物理的な干渉が可能になる……極めて興味深い存在だ」
「あ〜! そんなむずかしい話はもういいから! どうすればいいのかだけ教えてよ!」
「慌てないで……これも必要な説明なんだから」
あちこちから聞こえてくる爆発音や破壊音に焦ったのか、慌てた様子で先を促すウラタロスを制し、童帝はできるだけ正確な情報をかき集める。
そのためのいろいろなことを、今一度モモタロスたちに詳しく確認しておく必要があった。
「君たちはかつて、ミライさんと契約を交わして戦士としての力を手にしていた。そうだったよね?」
「せや」
「そして今、君たちとミライさんとの契約が切れてしまい、憑依して戦うことができなくなった…」
「それがどうしたのさ?」
頷くキンタロスやリュウタロスに、童帝は最後のシミュレーションを行う。
ほとんど手つかずの専門外の分野だが、集めた情報をどうにかして纏め上げ、秘策という一つの形に仕上げていく。
ものの数秒で、不敵な笑みを浮かべた童帝が鋭く目を輝かせた。
「だったら話は簡単だ……
童帝の示したプランはシンプルなものだった。
クラッシュしたパソコンを蘇らせるために、全ての機能を最初からやり直すような、単純な考えだった。
小難しい作戦でも出るのかと身構えていたモモタロスたちは、提示された案に思わず目を見開いて固まってしまった。
「何ぃ⁉︎」
「それは……できるの?」
「考えたこともないでそんな荒技…!」
「面白そ〜!」
それぞれで反応を異ならせ、顔を見合わせるイマジンたち。
種族的な本能というべきか、契約の仕方については深く考えずとも自ずとできたため、童帝の言うような方法など考える由もなかった。
不安になってきたのか、ウラタロスがちらりとミライを見やりながら尋ねた。
「本当に可能なの? そんな荒唐無稽なこと……」
「正直言って賭けだ。机上の計算な上に、失敗したらどんなことがあるかもわからない……イマジンたちにも、ミライさんにも」
保証はできない、と童帝は苦々しい表情になる。天才を自負する彼にとって、ここまであやふやな答えを提示するのは抵抗が大きいのだろう。
それでも、現状で最も成功確率が高い策であることには変わりなく、童帝は決断を求めるために、少女の方を振り向く。
視線を向けられた少女は一瞬口をつぐみ、やがて意を決したように顔を上げ、頷いて見せた。
「……僕、やるよ」
いまだミライの顔には、怯えが混じっていて頼りなさげである。
しかしそれを必死で抑え込もうとしている強い眼差しを目にし、モモタロスたちの方があっけにとられる。
だがすぐに、よく言ったといわんばかりに不敵な笑みをミライに向け始めた。
「…へっ! しょうがねぇな!」
「やりますか」
「おっしゃ! 乗ったで‼」
「イェ~イ!」
笑みを浮かべて鼻を拭うモモタロスを筆頭に、イマジンたちは続々とミライの方に近づき、互いに小突き合いながら意気を高めていく。
それに慌てたのは、決意を口にしたミライに絶句し、反応が遅れたハナとフブキだった。
「あんた達……本気でやる気なの⁉︎」
「この状態のミライがやる気出してんだ。俺たちが根性出さねぇでどうするんだ」
「たまには、泥臭い努力も必要だよね」
「おっしゃ、こうなったら最後まで付き合ったるわ!」
「イェーイ! やろやろ〜♪」
砂の身体のまま、腕を伸ばしたりと準備運動を始めるイマジンたちに、ハナは呆れて言葉もない様子でため息をつく。
リスクが大きすぎるというのに、それを微塵も気にする様子もなく試そうとしているイマジンたちのミライへの信頼、あるいは能天気さに返す言葉もないようだった。
構わずモモタロスは、動悸を抑えようと胸を抑えているミライと向き合い、ビシッと指を突き付けた。
「ミライ、お前はとにかくひたすらイメージしろ! なんでもいい、俺たちと一緒に戦うための何かだ!」
「……うん」
まっすぐに見つめてくるモモタロスに頷き、ミライはスッと目を閉じて集中を始める。
恐れはまだ、ミライの中で根を張っている。しかし胸の奥でくすぶる何かに、そしてモモタロスたちに背中を押され、ミライは覚悟を決めていた。
「よっしゃあ! 行くぞお前ら!」
「しょうがないね」
「やったろやないか!」
「イェ〜イ!」
気合いの声を上げたモモタロスたちが、一斉に四色の光の球となって空中に浮かび上がる。
赤、青、黄、紫。四色の光は目を閉じたままのミライの目の前に浮かび、くるくると回ってその輝きを大きく強くしていく。
「……一緒に、戦う」
伏せていた目をかすかに開いたミライの口から、小さな呟きがこぼれる。
その瞬間、ミライの目の前で回っていた光がカッと弾け、急速にその形を確かなものに変えていく。
丸い円盤と、長く伸びる分厚い刃。赤を基調とした、レバーのついたそれは、奇妙な形ではあるが確かに一振りの剣だった。
四つの仮面が円状についたその剣が、ふわりとミライの伸ばした手の中に納まる。
「こ、これが秘策…!」
「……デンカメンソード」
予想外の現象に、ハナやフブキだけでなく童帝も驚愕の表情で目を見開く。
両手に感じる武器の重みに、ミライは閉じていた瞼をゆっくりと開いて、託された希望をじっと見下ろす。そして、黒いパスケースを取り出し、剣の刀身にはめ込んだ。
「…変身」
【
電子音声が鳴り響き、ミライの全身に光のかけらが張り付いて、深紅と白と黒に彩られたスーツを生み出す。その上から、竜の顔を模したような流線型の装甲が張り付き、輝きを放つ。
最後に前頭部にデンライナーの前面の形をした髪留めがつき、左右から三色の突起が羽のように展開され、さらに頭頂部からパンタグラフが伸びる。
これぞ、急遽生み出された時の守護者の新たな姿。
始終戸惑いの表情を浮かべていたミライは、全身を包む鮮やかな深紅を見下ろし、その目から強い輝きを放った。