【完結】ONE PUNCH MAN 最弱のヒーローと時間泥棒   作:春風駘蕩

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二十二撃目 ヒーローの意地

「デネブ!」

「ほいきた‼」

 

 ユウトの指示で、デネブは銃口となっている自分の手を、ユウトの両肩に交差させながら置く。

 鋼鉄の腕は新たな鎧としてユウトに備わり、デネブの身体が漆黒の布に変化する。同時にユウトの胸にデネブの顔の形をした鎧が現れ、より重厚な形状へと変わった。

 

Vega form(ベガフォーム)

 

 最後に牛の形状の仮面が後頭部に引っ込み、かわりに小型のドリルが現れ、花弁のように展開して新たな仮面へと変わった。

 

「最初に言っておく! 胸の顔は飾りだぁ‼」

(余計なことは言わなくていいんだっつの‼)

 

 憑依したデネブが、ノリノリでよくわからない紹介をするが、ユウトが中からそれを叱る。

 苦笑しながら頭をかいたデネブは、組み合わせたサーベルを振りかざし、目前にいる怪人・やせ細りモヤシに向かって颯爽と駆け出した。

 

「ひぃいいい! こないでくださ…!」

「その手は食わないよ‼」

 

 泣き叫びながら、虎視眈々と相手が油断するところを待っていたやせ細りモヤシの演技を、デネブは一発で見破りサーベルを振るう。

 優しい彼であっても、何人ものプロヒーローたちを卑劣な手段で屠ってきたことを許すつもりは、さらさらなかった。

 

「ちっ、ちくしょう! どうせお前なんか、僕の足元にも及ばないんだぁ‼」

 

 ふいうちは無意味だと悟り、やせ細りモヤシは両手から強烈な冷気を滅茶苦茶に放って、ユウトとデネブを狙う。

 僅かに触れても凍結させられかねないそれを、デネブは両肩の銃器で爆破することで応戦していた。

 

「ミライちゃんが頑張ってるのに、俺たちがサボるわけにはいかないからね!」

(さっさと決めるぞ、デネブ!)

「おう!」

 

 バキバキと、周囲が極地のように氷で覆い尽くされていく中を、デネブがサーベルを振りかざし、標的に向かって踊りかかっていった。

 

 

 ズシン、と地響きのような衝撃を周囲にもたらし、二人の豪傑の拳が互いの体に炸裂する。

 片や緑色の半魚人、もう片方は全裸の巨漢という組み合わせの二人は、すでに数十分もの間勢いを衰えさせないまま戦い続けていた。

 

「ぐふぅっ…‼」

「きひゃっ…‼」

 

 鋼鉄をもしのぐ硬度の拳がそれぞれに決まり、深海王とぷりぷりプリズナー両方の顔面が痛々しく陥没する。

 苦悶の声を漏らすぷりぷりプリズナーとは反対に、深海王の声には喜色が混じっていた。

 

「効いたわぁ…♡ 前よりちょっとだけね」

「効くなぁ…やはり」

 

 二人とも、戦闘狂というわけではない。ぷりぷりプリズナーは単純な正義感により、深海王は己よりも下等な生物を踏み潰すことへの快感により、己が全力を振るうことに無類の喜びを見出している。

 しかし深海王は、他のヒーローよりもはるかに続いた戦いににやや不満げな様子を見せていた。

 

「でもね、やっぱり期待外れよね。完膚なきまでに潰してあげたのに、またのこのこ殺されに出てくるなんて…殴られ過ぎておかしくなっちゃったのかしら?」

「……お前にはわかるまいよ」

 

 ギリッ、と握りしめられた拳が軋みを上げる。ぷりぷりプリズナーの胸中に蘇る、かつて完膚なきまでに敗北した屈辱の記憶が、彼に沸々と力を与える。

 負けたことが悔しいだけではない、無様を晒したことが悔しいのでもない、ヒーローとしての本分を全うできなかったことが悔しくて仕方がないのだ。

 

「確かにおれは、お前に完全な敗北を喫した。だがな…おれの愛はそれで折れるほど脆くはない」

「……はぁ?」

「おれは負けた……そして愛するべき、守るべき男子たちを危険にさらしてしまった。この屈辱は今もなお俺の胸に深く突き刺さり……」

 

 血がにじむほどに力が込められた拳をぶるぶると掲げ、大切な男子たち(一方的な感情)の顔を思い浮かべる。

 もう決して曇らせてはならない、決して奪わせてはならないと自身の心に再度叫び、ボゴンッと筋肉の鎧をさらに膨張させた。

 

「おれの再戦の意志を燃え上がらせているのだ…‼」

 

 カッ!と見開かれたぷりぷりプリズナーの目が、己が今越えなければならない壁を見据えて、強い光を宿す。

 その背から、光を呑み込む漆黒の翼を羽ばたかせ、ぷりぷりプリズナーはさらなる自身の愛の進化のために、力強く飛翔した。 

 

「お前はここで、俺のこの手で倒す‼」

「意味が分からないのよ……やっぱり下等な生物はいやね」

 

 凄まじい覇気を纏い、頭上から迫るぷりぷりプリズナーに、深海王は呆れた様子でため息をつき、やがてにんまりと笑みを浮かべた。

 もう少しこのおもちゃで遊んでやろう、そんな残酷な考えを抱いて、深海の異形は巨大な拳を振りかぶる。

 

「おおおおおおおおおお‼」

「あははははははははは‼」

 

 雄々しい咆哮と狂気に満ちた笑い声。

 わかりやすい善と悪の意思を抱き、豪傑たちは再び拳撃の応酬を繰り広げるのだった。

 

 

「うおおおおお‼」

 

 瓦礫が飛び散り、障害物が散乱する道を、正義の自転車乗りが爆走する。

 本気の状態である立ち漕ぎモードに移行した無免ライダーは、必死の雄叫びを上げながら後ろに振り向き、自身を追いかけてくる異形たちの集団を見やった。

 

「待ちやがれクソザコが‼」

「チッ…! 何で自転車なのにあんな速いんだよ⁉」

 

 人外の脚力で追いすがってくる異形たちだったが、日夜愛用の自転車で疾走し続ける無免ライダーの速度には敵わず、一定の距離を保ったままになっている。

 無免ライダーのそばに民間人やほかのC級ヒーローたちの姿はなく、怪人達は彼のみを追い続けていた。

 

(これでいい…! 少しでも、少しでも俺が時間を稼げれば…‼)

 

 戦闘能力のない彼が決死の覚悟で選択した、自身が囮となる方法。

 怪人側の戦力を一部でも割き、咥えて民間人への注意を反らす彼の目論見は、途中まではうまくいっていた。

 慣れない道に入ってしまい、前方と左右を壁で塞がれた空間に入ってしまうまでは。

 

「! しまった…行き止まりか‼」

 

 急ぎ方向転換しようと停止した無免ライダーだったが、振り向いた時にはすでに、背後に迫っていた怪人達が待ち構えていた。

 冷や汗を流して硬直する無免ライダーに、怪人達は苛立ちを抱いたまま、嗜虐的な笑みを浮かべて近づいていった。

 

「手間かけさせやがって…‼ だが、もう終いだ…‼」

「…やるしか、ないのか…‼」

 

 迫りくる、凶悪な形相の怪人達を前に、無免ライダーは自転車の上で構える。

 勝てるとは最初から思ってはいない、ただ、何もせずあきらめるという選択だけは、彼は取りたくなかった。

 

 

 ズン、ズン、と凄まじい地響きが鳴り、超大型の巨人が街を彷徨う。

 何十何百もの怪人達が足元で暴れていることなど気にかけず、自身の片割れだけを探しながら、巨人は歩き続けていた。

 

「兄さん……どうしてどこにもいないんだ……もう一度、もう一度俺達兄弟の夢をかなえよう……俺が最強の身体を、兄さんが最高の頭脳を使って……世界を支配するんだ……そうだろう……⁉」

 

 体だけしか取り柄がなかった馬鹿な自分のために、最強になれる薬を作ってくれた兄。二人で世界を手にしようと誓い合った兄。

 自分で手にかけてしまった兄を探しながら、巨人は滂沱の涙を流して泣きわめき続けていた。

 

「兄さぁぁぁぁん‼」

 

 雷鳴のような咆哮があたりに響き渡り、衝撃でビルの窓ガラスがまとめて叩き割られていく。

 誰にも止められないと思われていた巨人の進撃は、ふいに巨人が膝を折ったことで止められる。ズシン、と巨人に膝をつかせ、アスファルトに巨大なクレーターを作らせた張本人は、黒く輝く肉体を見せつけるように見事な着地をしてみせた。

 

「……図体はデカくとも、人体の弱点はそのままらしいな」

 

 巨人の膝裏に渾身の体当たりを食らわせた、俗にいう膝カックンを行った超合金クロビカリは、逆にいえばそれ以外では普通のヒーローでは歯も立たないという事実に眉間にしわを寄せる。

 自分程の強者がいなければ、この超巨大怪人には抗う事もできないのかと。

 

「だがこれしきの事で倒れるなど、鍛え方が足りないぞ‼ せっかくの筋肉が泣いている‼」

 

 ビシッと指を突き付け、たった一撃で倒れかけた事への忠告を行うクロビカリ。

 超巨大巨人はビルを押し潰しながら腕を立て、ゆっくりとその巨体を起き上がらせていく。伏せられた目がクロビカリの姿を映し、ギラリと鋭い光を放った。

 

「邪魔を…するなぁぁぁぁ‼」

 

 巨人が吠えた直後、クロビカリの姿が一瞬で消える。かと思えば、振り上げられた巨人の腕と吹き飛ばされたクロビカリが、ほぼ同時にビルの壁に激突し轟音を響かせた。

 ガラガラと崩れていくビルの中を、クロビカリは自慢の筋肉の鎧で防ぎながら抜け出し、ゆっくりと立ち上がっていく巨人を見上げた。

 

「いいパワーだ……だが‼ その程度で、おれのこの肉体には傷一つつきはしないぞ‼」

 

 ムキッ!とクロビカリの鋼の肉体がポーズを取り、体に着いた埃や砂塵を吹き飛ばす。

 ただの力まかせ、しかしそれだけでも無視できないほどすさまじい威力をその身に受けても、クロビカリの闘志に衰えは見られなかった。

 

 

 異なる場所では、流星のごとき速さで刃が駆け抜け、二体の鬼を翻弄する。

 全身に無数の傷跡を刻まれた金と銀の鬼の兄弟は、それぞれが持つ武器で迎撃しようと試みるが、ビルの壁を足場に駆け回る剣士を目に捉える事さえできていない。

 

「あ…兄者‼ こいつ…さっきより速くなってねぇか⁉」

「ひ、怯むな‼ どうせ傷ひとつつけられやしねぇ‼」

 

 ミミヒコが泣き言をこぼすと、すかさずクチヒコがそれを諫めて鼓舞する。

 いかに素早く鋭い剣術を見せられようと、肝心の刃は自分たちの分厚く硬い鎧に阻まれて、僅かな傷さえつけられていない。

 決して自分たちを屠ることはできないのだと、クチヒコは完全に油断していた。

 

「浅はかだな」

 

 閃光のフラッシュがそう呟き、加速を繰り返した身体で二人の鬼の間を駆け抜ける。

 移動による強烈な風が吹き抜けたと思った直後、金と銀の鬼の鎧にピシリと亀裂が走り、鬼たちの身体から鮮血が噴き出した。

 

「ぐふっ…‼」

「お前達とじゃれ合うのもさすがに飽きた……けりをつけるとしよう」

 

 一度立ち止まったフラッシュが、膝をつく鬼の兄弟に向かって低く身構える。

 ちゃきっと音を立てる彼の剣が、幾度も風を「斬った」ことでかつてない程に研ぎ澄まされ、危険な輝きを放っていた。

 

 その真上では、青い炎が噴火の様に荒れ狂い、空中に浮かぶ超能力者を焼き焦がそうと猛っている。

 緑色の光を纏い、空中を自在に飛び回り回避し続けるタツマキを、幽汽が執拗に狙い続けていた。

 

「俺の邪魔をするな…小娘が‼」

 

 幽汽が剣を振るい、青い炎がタツマキを取り囲むように膨れ上がる。

 服の端は焦がされ、肌にも何か所も火傷を負わされたタツマキには防ぐこともできず、避けきれそうにもない。炎の包囲網はもはや逃げ場はなく、小柄な女性はあわや焼き尽くされそうになる。

 そう思われた瞬間、彼女に食らいつこうとした炎は、蝋燭の火を吹き消すようにまとめて掻き消されてしまった。

 

「何…⁉」

「……やっとコツがつかめてきたわ。そういう攻撃もあるってわかったから、儲けものとでも考えておこうかしらね」

 

 信じられないといった様子で、仮面の下の両目を見開く幽汽に、タツマキは小馬鹿にするように得意げな笑みを見せつける。

 ただ逃げ回っていたわけではない。自分が対応できない敵の攻撃など決して認めないと、回避の最中にずっと攻略法を探し続けていたのだと、嗜虐的な笑顔は悠然と語っていた。

 

「じゃあ、もう終わりでいいわね」

 

 呆然と立ち尽くす亡霊に向けて、タツマキの纏うただでさえ強力な超能力の光が、さらなる凶悪な光を放った。

 

 

「理解不能……反応速度が上昇している…⁉」

 

 無数の銃弾を発射しながら、G電王は目の前に立ちはだかる黒い機械の戦士を凝視する。

 何十分も戦闘を繰り広げ、黒騎士の戦闘能力の全てを把握したつもりになっていた彼は、理解の追い付かない状況に困惑に似た反応を示していた。

 

「敵の行動パターンを理解し、対策を打ち出す頭脳の高さは見上げたものだが、それだけで俺に勝てると驕ったのが敗因だったな」

 

 無数の部品から構成される、黒騎士が操る『盾』がG電王の放つ銃弾の尽くを防ぎ、徐々に接近していく。

 赤く光る眼で敵を射抜いたまま、黒騎士はどこか嘲笑うように、変幻自在の専用武器を蠢かしてみせた。

 

「俺の戦略が、そうそう攻略できるわけがないだろう」

 

 

 空中に浮かぶ超巨大戦艦が、上空を旋回する鋼鉄の騎士に向けて大砲を発射する。

 ロケットエンジンを全開に蒸かすメタルナイトは、モニターに表示される数値を目にすると、生身の方の眉を寄せて舌打ちをこぼした。

 

『……えねるぎー残量モ心モトナイナ。中途半端ダガ、一時撤退シテオクカ』

 

 未知の技術の確保、同時にヒーローとしての職務の遂行、自分勝手ながらそれだけを理由に戦闘を続けてきたが、やがて対抗手段が尽きることを悟って一旦この場を離れようと試みる。

 だがその時、彼の横をすさまじい速度で通り過ぎるカラフルな列車の姿に気づき、咄嗟にカメラのレンズを向けていた。

 

『…何ダ?』

 

 メタルナイトを追い越して上空を走る列車、デンライナーと連結したゼロライナーが、汽笛を鳴らして戦艦の上を舞う。

 それを操る、コックピットのバイクにまたがったキングは、引き攣った表情を隠すこともできないまま恐る恐る後ろを振り返った。

 

「ねぇ…これやっぱり無理があるんじゃないの…? 俺マジで免許持ってないんだけど⁉」

 

 なぜこんな目に遭っているのかと世の不条理を嘆きながら、振り向いた先でくつろいでいるオーナーに向けてキングは叫ぶ。

 限界を迎えつつあるキングに、オーナーは悪びれる様子もなく口を開いた。

 

「仕方がありません。お二人には怪人達の排除をお願いしていますから。あの巨大戦艦を撃墜するには、デンライナーとゼロライナーの火力が欠かせません」

「でも何でその役目を俺が⁉」

「ゲームがお好きだと聞いていますし、こういうものの操縦は得意かと」

「いや俺はこういうゲーセンのゲームじゃなくて家庭用ゲームが得意なだけで…それにしたって何で俺が⁉」

 

 生身で怪人に立ち向かわされないだけましだが、眼下に見える巨大戦艦の相手など同じくらい危険なのではないだろうか。

 キングエンジンを盛大に鳴り響かせ、真っ青な顔でハンドルを握りしめるキングに、オーナーは意味深な笑みを浮かべてみせた。

 

「頼めるのは現状、あなた以外にはいませんからねぇ……それに、こういうのはヒーローの役目でしょう?」

「あんたホントは俺が弱いの知ってるだろ⁉ 鬼か⁉」

 

 みっともなく泣き喚きそうになるのを必死にこらえ、キングはとんでもない無茶ぶりを吹っかけてくるオーナーに抗議の声を上げる。

 しかしそれを、敵は待ってくれない。射程範囲内に近づいてきた列車に向けて、巨大戦艦の砲門の全ての照準が合わされ、大量の爆発が空中で起こった。

 

「うわあああああ来たあああああ‼」

 

 恐怖で変に力が入ったキングの腕が、バイクのハンドルを押してゼロライナーの進行方向を変える。

 奇跡的に、方向を変えられたゼロライナーは爆発の間を潜り抜け、巨大戦艦の猛襲からの回避を成功させる。その後も謎の偶然が重なり、キングの操縦は戦艦の爆撃を躱し続けた。

 

「ぬおおおおおおお‼︎」

 

 最早悲鳴なのか雄叫びなのかもわからない、涙目で無茶苦茶にバイクを操る彼は、備えられていたボタンにうっかり触ってしまう。

 すると、ゼロライナーとデンライナーがそれぞれで変形し、ドリルや大砲や、ミサイルなどを展開し、戦艦に向けて一斉に発射し装甲を片っ端から破壊し始めた。

 

『…‼ ナントイウ火力……撤退ハヤメダ。残量ぎりぎりマデ戦闘ヲ続行シ、さんぷるノ採取ヲ試ミルトシヨウ』

 

 戦艦が端から爆破されていく光景に、メタルナイトはやや離れた位置から感嘆の声を上げる。

 一方、その火力を見せつけた当人であるキングは最早悲鳴さえ上げられず、いまだ雨あられと襲い掛かる爆撃を躱し続けることに夢中になっていた。

 

「やればできるではないですか。このまま思う存分暴れて下さい」

「弁護士を呼んでくれぇ‼ 俺への扱いがひどすぎる‼」

 

 人の恐怖心も知らず、のんきにまた無茶ぶりをしてくるオーナーに殺意さえ抱きながら、キングはハンドルを握り続けた。

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