【完結】ONE PUNCH MAN 最弱のヒーローと時間泥棒   作:春風駘蕩

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  四撃目 動き出した奴ら

「命に別状はないです。このまま安静にしていればじきに目を覚ますかと」

 眠りについていた少女のバイタルを確認した女性の黒スーツが、そうフブキに報告する。ヒーローになる前は看護師を目指していたという彼女は、フブキに呼ばれてすぐさま経験を発揮していた。

「そう。ありがとう、下がっていいわ」

「はい、フブキ様」

 ほほえみとともにフブキは部下を送り、部下の女性はそれに誇らしげに笑みを浮かべる。

 問題が簡単に解決したことに、サイタマも感嘆の声を上げていた。

「助かったフブキ。初めて仲間が多いお前のところが羨ましいと思った」

「ようやく私に組するメリットが見えたようね。歓迎するわ、ようこそ我がフブキ組へ……」

「よし、腹減ってきたし飯でも作るか」

「手伝います」

 さらりと勧誘をスルー、というか聞こえなかったふりをし、台所に向かうサイタマ。放置されたフブキはまたいつかのようにがっくりと項垂れていた。

「後であいつにも食べさせてやらねーとな。おかゆって、どうやって作るんだっけ?」

「先生、まずは米を用意しないと……」

「サイタマ氏、持ってきたゲームやってもいいかな?」

「……私の分もあるでしょうね?」

 ジト目でサイタマを睨むフブキを横目に、キングは暇をつぶそうとテレビの電源を付ける。入力切替ボタンを押そうとした時、ふと映っていたニュースに目が行った。

『―――現場から、生放送でお送りしています! 突如現れた巨大な怪人は現在、F市中心に向かって進行しています!』

「……あん?」

 聞きなれた町の名前に、台所で野菜を洗っていたサイタマが反応した。

 平穏な街が一変、数十メートルはあろうサイみたいなウシみたいな怪物が大暴れし、突進しては巨大なビルを次々に破壊して回っていた。すでに何名かヒーローが出動していたが、レベルが違うのか片っ端から打ち上げられていた。

「近いな。F市って、さっき俺とジェノスが行ったばっかだぞ」

「食事の前に向かいますか、先生」

 エプロンまで装着していたジェノスが右腕の焼却機関を起動しながら尋ね、フブキもガタッと腰を上げかけた。キングはちょっとだけ動悸を激しくした。

『F市在住の方は……ザザッ……速やかに 難を―――いそい……』

「サイタマ氏、このテレビなんだか調子悪いよ? 買い換えたほうがいいんじゃない?」

「マジか。そんな金ないのに……」

 情報が欲しかったのに、先にテレビのほうが音を上げそうになり、サイタマは若干焦ったように冷や汗をかいた。一応ヒーロー協会から賞金は出るが、それは怪人を倒したときか事件を解決した場合であり、最近あんまり依頼が来ないサイタマはほぼ金欠状態であった。

 話題が脱線している間に、ニュースのほうでは一段と被害がひどくなっている。レポーターまで命の危機にさらされていた。

『皆さんは速やかに……あぶなっ……ザザッ―――て下さい、このBody! 匠の技による最高級の品物なんですよ!』

『素晴らしいですね!』

「……は?」

 思わず、その場にいた全員から気の抜けた声が漏れた。

 先ほどまで鬼気迫った様子でリポートをしていた女性の姿が消え、いきなり通販会社の社長がドアップで現れたのだ。

「何の脈絡もなく通販始まったぞ」

「ちょっと、どうなってるのよ? 誰かチャンネル変えた?」

「いや、触ってないはずだけど」

 困惑気味にキングが答える。何もしていないのに勝手にテレビのチャンネルが変わるなど、ホラーじみていて近づきたくもなかった。

 サイタマは気にはなったものの、さして深く考えることもなく自分のなすべきことに専念することにした。

「ま、いいや。とりあえずさっさと行って―――」

 腰を上げたサイタマとエプロンを外すジェノスが外出の準備を始めようとする。

 その時、ジェノスのセンサーが激しく警報を鳴らした。

「!」

 ジェノスの機械の目が外に向けられる。熱・音・光のセンサーがジェノスに、急速な勢いで近づいてくる何かがあることを知らせていた。

「高速接近反応、来ます……この数は⁉︎」

 一瞬で性格な数が把握できないほど大量の反応に、流石のジェノスも驚愕に目を見張る。

 その直後、サイタマの部屋の壁をぶち破りながら一体の怪人が姿を現した。

 青いコウモリに似たその怪人は、剥き出しにした牙で笑みを浮かべると、奥で苦しげな寝息を立てている少女を見つけて笑い声をあげた。

「ゲハハハハハ‼ ようやく見つけたぜぇ、愛しのみ」

「俺の部屋に何してくれてんだ」

「げぶはああああああああ⁉」

 何度も何度も家を壊されてきたサイタマが、今までの分の苛立ちも込めた拳を軽く怪人に向けて放つ。その一撃だけで、コウモリの怪人は断末魔の絶叫とともに爆発四散してしまった。

 しかし襲撃は一度では終わらなかった。ぽっかりと空いた壁から、こんどは蟹やサイに似た怪人がぞろぞろと這い上がってきた。

「ヒャッハー! そのガキよこ」

「だからてめーらオレの部屋に何してくれてんだよ‼︎」

 連続キレ気味パンチ‼︎

 家具を踏みつけながらズカズカ上がり込んでくる怪人たちを、サイタマの怒りの拳が次々に吹き飛ばし血飛沫を上げさせる。悲鳴さえ残らず粉々にされて行く姿は、あまりに哀れであった。

 あっけなく消しとばされる怪人たちを見てサイタマは一旦深く息を吐いて落ち着くが、ジェノスのセンサーは未だに危険を知らせていた。

「先生、どうやら外にまだ複数待ち構えているようです」

「いい度胸だ。とりあえず全員ボコボコにしてやろーじゃねーか!」

「その案には私も賛成ね」

「あの、サイタマ氏? 下手に突っ込むより、ここで籠城しながら戦ったほうがいいんじゃないかな?」

 サイタマたちの背後から、ドッドッドッドッと凄まじい爆音が断続的に響きわたっていた。

 音の元は、いつの間にか少女の方に寄っていたキング。彼が戦闘態勢に入るとどこからか聞こえてくる〝キングエンジン〟と呼ばれる駆動音だーーーと言われているが、実際はただビビりすぎて心臓の音が漏れてしまっているだけだ。

(あの子の安全を考えて、先にそばに控えていたのね。たしかに、非戦闘員は優先的に守らないとね……)

(この男……やはり侮れん)

 キングへの評価・警戒度を上げるジェノスとフブキであったが、ぶっちゃけ大きな勘違いである。

 このような勘違いによって、現在のキングの地位と評価は構成されてしまっているのだった。

「邪魔するやつらはぶっ殺せえええ‼︎」

「どきやがれクソがぁぁぁ‼︎」

 見下ろせば、閑散としていたはずの自宅の前が無数の黒っぽい怪人の集団で埋め尽くされていた。

 動きを見せないサイタマたちにしびれを切らしたのか、怪人たちが次々に壁をよじ登って向かってくる。無数の異形たちが群れて向かってくる様は、害虫がひとかたまりになって向かってくるかのような恐怖を催させた。

「つーか多すぎじゃね⁉︎」

 あまりの多さに思わずサイタマの口から声が出るが、最近では怪人が向こうからやってくることは珍しくなったために、内心で少し期待していた。

「上等だ! かかってこいやぁ‼︎」

 半壊したベランダに出て、まとめて迎え撃ってやろうと身構えるサイタマ。その姿はまさに、か弱き人々をその身一つで守り抜くヒーローそのものであった。

 不退転の覚悟で、数えるだけで絶望しそうなほど大勢の怪人たちを迎え撃とうとした、その時だった。

「ギャアアアアアアア‼︎」

「うおおお⁉︎」

 今まさにサイタマに襲いかかろうとしていた怪人たちが、突然横からの衝撃で吹き飛ばされた。緑色の巨大な影が通り過ぎ、怪人たちをはね飛ばしていったのだ。

 危うく一緒に轢かれかけたサイタマはとっさに引き、超スピードで過ぎ去って行く何かを凝視した。

「何だ⁉︎ 何が起こった⁉︎」

 その正体を見極めようと目を凝らし、サイタマは言葉を失う。

 遠く空に見えるのは、直方体の鋼鉄の箱に車輪がついた、レールを伝って進んでいく乗り物らしきもの。何もない空中に枕木らしきものが展開し、その上を鉄の道が走って、その乗り物を導いていた。

「何だあれ……⁉︎ 電車か⁉︎」

 これまで見たこともない、SFに出てきそうな乗り物を見て、やや興奮気味に声をあげるサイタマ。

 その背後で、玄関の方のドアが勢いよく開かれ、一人の少女が険しい表情で飛び込んできた。

「見つけた……! 早くこっちに‼︎」

 奇妙な服装の少女は寝かされている少女を見つけると、うなされているのにも構わずにその体を抱き上げ、玄関の方に連れ出そうとする。

 慌てて、サイタマがその暴挙を止めようと駆け寄った。

「な、何だお前⁉︎ おい、そいつどこ連れてく気だよ⁉︎」

「ああもう鬱陶しい‼︎ 邪魔するんじゃないわよこのハゲ‼︎」

「んだとコラァ⁉︎」

 自身が最も気にしていることをばかにされたサイタマが、怒りの声をあげながら玄関の外に飛び出して行く少女を追う。

 少女がどこへ向かっているのか、そしてどこからきたのか考える間も無く、サイタマは強烈な光が刺してくる扉の向こうへと飛び込んで行ってしまった。

「先生‼︎」

「サイタマ氏⁉︎」

 あっけにとられていたジェノスたちも、慌ててサイタマと少女たちの後を追いかける。

 そして気づかなかった。

 扉の外に見える光景が、この世のものとは思えない奇妙な世界であったことに。

 

 

「……取り逃がしたってのか?」

 ある乗り物の中の座席に座る一人の男が、足元で頭を下げるコウモリの怪人の発した報告に眉を寄せる。

 毛皮を継ぎ合わせた衣服を纏った、山賊や盗賊のような格好をしたたくましい体つきの男を前に、コウモリの怪人はすっかり縮こまっていた。

「おい、俺は言ったよな?すぐに連れて来いって。……なのにやられておめおめ帰ってきただと?」

「す、すんません。でも妙に強ぇやつに守られてて邪魔されちまってーーー」

 言い訳を口にするコウモリの怪人の姿が、次の瞬間には消え失せていた。壁に叩きつけられたとか、踏み潰されたなどの比喩表現ではない。元からそこには何もなかったかのように、消滅してしまったのだ。

「弱ぇやつには任せられねぇ。てめーら、次失敗したらわかってんだろうな……?」

「ヒ、ヒィ……!」

 一部始終を見せつけられた他の怪人たちが、ガタガタと震えながら頷く。

 本来、怪人が徒党を組むなど滅多にあることではない。人間の犯罪者とは異なり、頂上的な力を持つ彼らはその力に任せて大暴れするだけのいわゆる災害の一種であり、手を組む必要などない。

 しかしこの場にいる怪人は皆一つの意志の元に集い、その筆頭たる男に従っているのであった。

 男はいらだたしげに酒瓶を煽ると、少し離れた席に座っているスーツの男に声をかけた。

「手下が使えねぇと、上が苦労するよな。…なぁ、オーナー?」

「さぁ? 私に手下はいませんので、そのお気持ちはわかりませんねぇ?」

 声をかけられた、紳士然とした中年の男は横目を向け、周りを怪人たちに囲まれながらも平然とした様子で答えた。

 そんな気丈な男性の返答に、盗賊のような男はあざ笑うように足を組んだ。

「フン、どうだかな? あんただって今まで散々あの小娘のことを利用してきただろ。何の力もなかったただのガキを、電王として祭り上げたのはほかならぬあんただろ?」

 ガタッと席を立ち、盗賊はオーナーと呼ばれた男性の顔を覗き込む。

 その目には、強い侮蔑の感情が宿っていた。

「……お前は俺と同類なんだ。見下すんじゃねぇよ」

 殺気をぶつけられても、オーナーは表情を変えることはない。聞いているのかすらも怪しい様子で、席に座ったまま無言を貫いていた。

 その様子にやや不満げな様子の盗賊であったが、やがてその口元を醜く歪め、再び席について窓の外を眺めた。

「いい機会だ。あいつの力がどれほどのもの確認するとしよう」

 飢えた獣のような、凶暴な光を目に宿す盗賊の男。

 その瞳に映っているのは、たった一人の少女であった。

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