【完結】ONE PUNCH MAN 最弱のヒーローと時間泥棒   作:春風駘蕩

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  九撃目 鬼の兄弟

「わざわざ案内ご苦労……おかげで手軽にノルマを達成できそうだ」

「チクショウ! 後をつけてやがったな⁉︎」

 

 愕然とした表情を浮かべるモモタロスに向けて、金色の着物を着た長身の男―――クチヒコが馬鹿にするような笑みを浮かべる。隣に立つ銀の鎧を着た大男―――ミミヒコもさもおかしそうに、耳障りな笑い声を響かせていた。

 まんまと敵の策略にはまったことを嘆き、モモタロスはこの場にいないミライに対して口惜しそうに歯を食いしばった。

 

「鬼だと…? あれはいったい何者だ?」

「オニ一族の兄弟……クチヒコとミミヒコ!」

 

 聞きなれない鬼ライダーという名称に対しジェノスが問うと、ハナは狼狽した様子ながらも憤慨した様子で答えた。

 敵であることはわかっているが、それとは別に普通の怪人とは何かが違うということが感じられた。

 

「もともとは室町時代で暴れまわっていた怪人だったけど……時空の歪みのせいでで未来と繋がったことを利用して、歴史を好き勝手に改変しようともくろんでいた連中よ!」

「……他の連中と同じ、穴の狢ってわけね」

 

 ハナの態度に納得したフブキが、体に緑色の光を灯しながら身構えた。

 過去の確執やら因縁やらは差し置いても、ヒーローとして放置するわけにはいかない相手だとわかっただけで十分だった。

 ハナはなおも怒りと焦りをあらわにしながら、鬼の兄弟を睨みつけて怒鳴りつけた。

 

「なんであんた達がまだ生きてるのよ‼」

「フン…! 知ったところで貴様らに何かできるとは思えんな」

 

 鬼の兄弟の強さを知っているゆえに、自分からは手が出せないハナを馬鹿にしたようにクチヒコが嘲る。

 割と頭に血が上りやすいハナが憤慨しながら一歩を踏み出しかけるが、冷静なままのユウトに制されて悔しげに後ろに引いた。

 

「兄者! 俺は兄者と俺を殺しやがったあいつらが憎いぜ‼︎」

「慌てるな弟よ…ただ殺すだけでは物足りない。たっぷりと絶望を味わわせる必要がある」

「ああ! そうだな!」

 

 ミミヒコが金の鬼に訴えかけ、攻撃の時を今か今かと待ちわびている。

 モモタロスたちの周りにも、見覚えのあるイマジンたちが徐々に輪を狭めてきているのが見えて、時の守護者たちは焦りを抱き始める。

 

「やるしかねぇな……!」

 

 囲まれ、退路を断たれてしまったのならば、もう前の敵に向かって進むしかない。

 不退転の覚悟を決め、まだ少し痛む尻を抑え、ポキポキと拳を鳴らすモモタロスが一歩前に出る。

 ちらりと視線を向け、ゼロライナーを背に身構えているハナを睨んだ。

 

「おい、ハナクソ女! ミライは今どうしてる⁉︎」

「眠ってるわ……ダメージが深刻で、立ち上がることもできないみたい」

「仕方がねぇか…!」

 

 一度バラバラに逃げる羽目になった襲撃の時を思い出し、ミライの負荷を考えてモモタロスは顔を険しくする。

 今のミライに無理はさせられない。そもそも記憶を奪われてしまった今の彼女が電王になれるかどうかもわからない。

 そう考えたモモタロスは、自分の後ろにいる見慣れない金髪の男に振り向いた。

 

「おいお前! ちょっと体を借りるぞ!」

「何っ⁉︎ ぐっ……⁉︎」

 

 いきなり呼ばれて驚くジェノスに、赤い光となったモモタロスが飛びかかる。

 赤い光を受けたジェノスは一瞬体を震わせると、がくりとうなだれる。しかしすぐにキッと吊り上げた目を向け、獰猛な笑みを浮かべて肩を回した。

 

「っしゃあ‼︎ 俺、参上‼︎」

 

 前髪が全て逆立ち、一部に赤いメッシュが入り、凶暴そうな形相に変わったジェノスがビシッと自分を指さし、歌舞伎役者のようなポーズをとる。

 いつもの彼とは明らかに雰囲気が変わったサイボーグに、サイタマが興味深そうな視線を向けた。

 

「お、ジェノスがチンピラみたいになった」

「誰がチンピラだ! こうした方が強ぇんだよ‼︎」

(貴様……! 俺に断りもなく勝手に‼︎)

「細けぇこと気にすんな‼︎ 行くぜ行くぜ行くぜぇ‼︎」

 

 各所から聞こえてくる評価や非難に聞こえないふりをし、ジェノスに憑依したモモタロスが拳を振り回す。

 どよめくイマジンに向けて、モモタロスinジェノスは手のひらに装備された火炎放射器を解放した。

 

「うおりゃああああ‼︎ って熱っ⁉︎ 熱っつう⁉︎」

 

 ゴウッ!と普段の加減を取っ払った豪火が発射され、イマジンたちをまとめて飲み込んでいく。

 しかしあまりの威力を放ったためか、炎を放ったモモタロスにまで火が及んで大変危険な状態に陥っていた。もっとも、サイボーグであるため熱さは感じないはずだが。

 

「くっ……小癪な」

「おいてめぇら‼︎ 自分自身への弔い合戦だ! 存分に暴れやがれ‼︎」

「「「「ウオオオオオオオオオオオ‼︎」」」」

 

 かろうじて火炎を躱したクチヒコとミミヒコが、まだ炎に飲み込まれているイマジンたちに命じる。

 雄叫びをあげたイマジンたちは、炎をかき分けるようにして全身を再開する。奇妙なことに、全力の豪火を受けたはずの彼らはまったくの無傷であった。

 

「ぎょうさん来よったでぇ!」

「じゃあ僕も……お姉さん、ちょっと力貸してくれる?」

「え⁉︎」

 

 突如ウラタロスに尋ねられ、戸惑いの声を上げるフブキ。

 すると次の瞬間、彼女の了承を得ることなく、青い光となったウラタロスがフブキの中に飛び込んだ。

 

「お前、僕に釣られてみる?」

 

 青いメッシュが入り、メガネをかけたフブキが青く輝く流し目をよこし、手のひらを差し向ける。

 発動した超能力によって、迫っていたイマジンたちの体が宙に浮き上がり、ぐるぐると渦に飲み込まれるように回転させられ始めた。味方にぶつかり、あるいはモモタロスが出した炎に巻き込まれ、敵はみるみるうちにボロボロになっていった。

 

「はっ!」

 

 最後に衝撃波のような一撃を加え、イマジンたちを遠く空の彼方へ飛ばしてしまうと、ウラタロスinフブキはヒュウと楽しげな口笛を吹いた。

 

「超能力って結構難しいね。あ、でも慣れると結構便利かも」

(なんてこと……⁉︎ いつもより強い力が使えるなんて…‼︎)

「なんせ、二人分の力だからね?」

 

 かつてない力に興奮を覚えるフブキだが、イマジンはまだまだ残っていて次々に狙ってきている。

 そこで、パンッと手のひらを合わせたキンタロスがキングに目を向けた。

 

「ほな、あんたにも力貸してもらうで!」

「えっ⁉︎」

 

 自分が呼ばれると思っていなかったキングは、若干焦りを覚えながら目を見開く。

 有無を言わさず黄色の光となって乗り移ったキンタロスは、近付きつつあるイマジンの胸に強烈な張り手をかまし、思い切り吹っ飛ばした。

 

「むぅん‼︎」

 

 伸びた髪を後頭部でまとめ、色の違う金のメッシュを垂らしたキングが、相撲の四股を踏んで勇ましく吠えた。

 

「涙はこれで拭いとけぇ! …なんやあんましっくりこぉへんな、この身体」

(……なんか、ごめん)

 

 実はほぼ一般人並みの力もないキング。他の二人ほど派手な働きを見せられなかったことに、内心でものすごく申し訳ない気分に陥っていた。

 残ったもう一人、リュウタロスは憑依できる相手がもう一人しかいないことに非常に不満を抱いていた。

 

「え〜…僕この余りぃ〜?」

「おい誰が余りだクソガキ」

「ちぇ〜じゃあしょうがないや。とうっ!」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、このままだと自分だけ暴れられないと思ったリュウタロスが渋々紫の光となってサイタマに向かって飛ぶ。

 が、体に入ろうとした瞬間、見えない壁にぶつかったようにあっけなく弾き返されてしまった。

 

「…へぶ⁉︎」

 

 顔面から思いっきり地面に落ちたリュウタロスはしばらく呆然としていたが、我に返ると信じられないとばかりに目を見開いてサイタマを凝視し出した。

 

「何この人⁉︎ ぜんっぜん入れないじゃん‼︎」

「嘘…リュウちゃんが取り憑けないなんて」

「せやからものすごい力持っとるっていうたやないか」

 

 騒ぐリュウタロスと呆然となるウラタロスに呆れたように返すキンタロスだが、なぜキングのひ弱さには気がつかないのだろうか。

 火加減に慣れ始めたモモタロスは、普段から小生意気なリュウタロスの失敗に意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「へんっ! じゃあ小僧はそこでお留守番だな! どおりゃあああ‼︎」

 

 雄叫びをあげたモモタロスが、鋼鉄の拳でイマジンたちに殴りかかる。

 チンピラの喧嘩のような戦闘が好みな彼にとって、殴っても蹴っても頭突きしても壊れる気配のないジェノスの体は実に相性がいいようであった。

 

「デネブ! お前はミライを守れ!」

「わかった!」

「変身!」

 

 モモタロスたちの合間を縫って近づこうとするイマジンたちを足止めするために、ユウトもゼロノスの姿に変わって駆け出していく。

 デネブがゼロライナーの前に陣取り、指先の鉄砲を打ち出して牽制し、敵が怯んだ隙にユウトがサーベルで斬り裂いていく。

 

「ウオオオオオオ‼︎」

「ぶっ殺せぇええ‼︎」

 

 しかし、何度敵を倒しても、どれほど時間が経っても、敵のイマジンの数が減る様子は一向に見えない。

 終わる予感のしない戦いの中、徐々にジェノスたちの表情に疲弊の色が見え始めた。いくら力に差があろうとも、戦闘による体力の消耗は抑えようがなかったのだ。

 

「チクショウ! いつまでやってりゃいいんだよ‼︎」

 

 どこからか取り出した大きな紅い太刀を振り回し、力の限り暴れまわるモモタロスが苛立ち交じりにわめき出す。

 質よりも数の差によって押され始めるヒーローたちを、クチヒコはにぃと冷酷な笑みで見下ろしていた。

 

「フン…電王になれない貴様らなど、大した脅威では……」

 

 無限に尽きることのない兵を操り、クチヒコはこのままじりじりと憎い仇の体力が尽きるのを待っていた。

 しかしその時、ドゴォォン‼︎と凄まじい爆発音が響き渡り、包囲網を作っていた配下のイマジンたちが大量に空中に吹き飛ばされた。

 

「何……⁉︎」

 

 予想外の事態に、クチヒコは大きく目を見開いて言葉を失う。

 吹っ飛ばされたイマジンたちは、その衝撃のあまりの強さによって粉々に粉砕され、雨あられとなってその場に降り注いでいる。

 その中心でたった一人だけ、拳を振り上げた男が立っていた。

 

「なんだ、もう終わりなのか?」

 

 落胆した様子で拳を降ろすサイタマに、クチヒコとミミヒコは得体の知れない恐怖を感じて後ずさる。

 倒しても倒しても数を減らさない敵も、異常な力を持つ怪人を前にしても、目の前の男は巨大な岩石のように動じる様子がなかった。

 それだけで、普通の人間ではないのだと鬼の兄弟は察したようだ。

 

「あ、兄者! あの禿頭、只者じゃねぇぜ!」

「そのようだな……だが」

 

 見た目はただの禿頭の一般人だというのに、感じられる気配も何ら変わったところのない平凡なものなのに、何だというのかこの妙な威圧感は。

 若干顔を青ざめさせていたクチヒコだったが、やがてその口元に笑みを浮かべた。

 

「どんなに強大な力を持った奴が相手だろうが…あの男の力を受けた我らに勝つことはできない」

「! そ…そうだな!」

 

 クチヒコの激励を受けてか、ミミヒコももとの自信満々な様子を取り戻す。

 モモタロスたちは態度を幾度も変える怪人達に訝しげな視線を向け、中でもハナは焦燥を感じているようでように冷や汗を流していた。

 

「何だぁ? どういうこった?」

「ガオウは……一体どれだけの力を手に入れたっていうの」

 

 どれだけ尽きない軍団を操ろうとも、サイタマ一人で片付けられそうな雰囲気が一時流れたが、まだまだ油断はできないらしい。

 クチヒコとミミヒコの見せる不気味な笑みが、ハナたちにうまく言い表せられない不安を抱かせた。

 

「だが、やつに使われっぱなしというのも腹立たしいのは確かだ。他の奴らは排除するとしよう」

「ああ、やるぜ兄者!」

 

 クチヒコの声に威勢よくミミヒコが答えると、鬼の兄弟は天に向かってそれぞれの武器を突き出した。

 すると、武器は何もないはずの彼らの頭上に激しくぶつかり、亀裂を走らせて空間が砕き、大きな穴を開けた。

 

「「変身!」」

 

 力尽くでぶち開けられた、奇妙な色の渦が巻くその穴の奥から、鬼の兄弟に向けて強烈な雷が降り注いだ。

 雷は鬼の兄弟の体にまとわりつくと、その体を二色の鋼の鎧に変えていく。

 片や、三本の角の生えた錫杖を持った黄金の鬼。片や、二本の角を生やし巨大な金棒を担いだ白銀の鬼。

 明らかに力を増した様子の二人の鬼を前に、モモタロスたちは険しい表情で身構えた。

 

「来るがいい……時の守護者ども。今度こそ貴様らを冥府へと送り、全ての時間を破壊してやる」

 

 クチヒコの殺意と憎悪のこもった声が、要を失った時の守護者たちに向けられた。

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