それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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 かなりつたない文章ですし、オリ主などといった人によっては不快に感じる要素も多々含んでいます。
 それでも自分なりに頑張っていくつもりですので暖かい目で見て頂ければ幸いです。


一話   始まり

 仏教か何かだったと思うが、輪廻転生という考えがある。

 ようは生まれ変わりのことだ。生き物は死ぬことによって輪廻の輪へと戻り、別の生き物としてまた再び生を受けるという考え。俺は別段その考えを否定してはいなかったが、信じているわけでもなかった。

 でも誰だってそんなもんなんじゃないだろうか?

 死んだあとのことなんて知る由もないし、否定したところで一文の得にもならないのだからわざわざ声を上げてそれについてどうこう言おうとも思わない。けれどもそんな荒唐無稽な話を信じるわけでもない。だいたい前世だの来世だのなんて言葉は漫画の中の電波キャラか、胡散臭い占い師の専売特許だ。世間話や真面目な悩みとして使うものじゃない。事実友人に相談にのってくれと言われたとして、その内容が

 

「俺、前世の記憶があるんだけど、どうしたらいいかな?」

 

 なんてのだった日には、病院に行け、と返すだろう。

 まあ何が言いたいのかといえば、少なくとも俺にとって、前世がどうしたなんて話を大真面目に口に出したり、前世の記憶があるなんていいだす奴はちょっとおかしい人だった、ということだ。だけどこの一生変わることはないだろうな、とさえ思っていた考えはしばらく前にやめていたりする。いや正しく言うのならば、一生の間には変わることはなかったになるのかもしれない。なぜこんな回りくどい言い方をしているのかといえば……

 

「うーわ、なにこれ、ライオンに羽生えてるんだけど。これ作ったデザイナーどーかしてんじゃねーの」

 

 家の書庫に置いてあった図鑑を見ながら俺、アシル・ド・セシルはそう呟いた。

 ……今現在その生まれ変わりとやらを経験し、二度目の人生とやらを送っているからである。

 自分がなぜ死んだのかは覚えていない。朝起きた時、自分が眠りにつく瞬間を覚えていないように自分があのあと気がつくと俺はここセシル家の一人息子アシル・ド・セシルとして生まれてから3年もの月日がたっていた。気がついた当初はさすがに驚いた。なにせ金髪の夫婦が自分の親だということらしいうえ、その夫婦は子爵位を持つ貴族であったからだ。さらにこの間まで黒い髪と瞳だったというのに、金髪に青い瞳になっているし。

 しかしなによりも驚いたことは、この世界には魔法というものがあったことだ。

 杖を持ち、呪文を唱えれば怪我が治ったり、風が吹いたり…。前世で物理だの化学だのをまじめに学んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるようなことをできるらしい。マジシャンが見たら血の涙を流すんじゃないだろうか、ってレベルの不思議現象を初めて目の前で見せられた時は心臓が止まるんじゃないかと思ったのを覚えている。

 時間をかけて本を読んだり、両親や家で働いている使用人の人たちと会話をしたりすることで、自分の立場やおおよその世界観などをつかんでから俺は考えた。まずはセシル夫妻に恩を返さなくてはいけない。なにせ俺とセシル夫妻は肉体的には確かに血は繋がっているのだろうが、精神的には赤の他人となんら変わらない。なにせついこの間まで日本人の両親と過ごしていたのに、いきなり金髪の人を両親と思えというのは、少しばかり厳しいものがある。言ってしまえば赤の他人を騙して育ててもらっている様なものだ。かっこうの托卵じゃあるまいしさすがにそれは寝覚めが悪い。ならある程度は恩を返すのが筋というものだろう。

 と言ってもバイトの経験はあるとはいえ、この間まで親のすねをかじって生きていた、ただの大学生なわけで恩を返す方法なんてそういくつも思い浮かばない。例を挙げれば「大金を稼ぐ」「名誉や地位を手に入れる」「子爵位以上の貴族のご令嬢と結ばれる」といった所だろうか。

 ……言うだけ言ってはみたが、どれもこれも難易度が半端ないな……。

という訳で、明らかに無理っぽいそれらの目標は、後何年かしたらトリステイン魔法学院とかいう名前の学校に入る予定らしいのでその時まで置いといて、今はもう一つの目標に向けて努力している最中だったりする。

 

「くそ、こんなことならもっと化学と心理学について学んでおくんだった。何々……えー……水の精霊の涙……? 情緒不安定な精霊探せってか。こっちは……マンティコアの牙? なにこれ? ダンジョンでマンティコア倒せば落とすの?」

 

 狂人とは自分が異常だと気づいていない異常者のことを呼ぶらしい。ならば俺は、どうなのだろうか。いくら魔法なんてもんがあるこのとんでも世界でも、さすがに生まれ変わりなんてものがあるなんて話は聞いたことが無い。ならば常識に照らし合わせて考えれば、俺はいわゆる痛い子、率直に言えば狂人に区分されてしまう。だが、俺はこれでもまともに生きてきたつもりだ。自分がどうかしてしまっているなんて、できれば認めたくはない。

 ならばこの記憶がただの妄想なのか、それとも本当にあったことなのか……ようは自分がまともなのかどうかを、調べる必要がある。幸いにもここには魔法なんて便利なものがある。ならばこれをうまく使えば、自分の精神状態を調べることはできるだろう。ただこんなこと、他の人に相談できるわけが無い。なら自分でなんとかするしかないわけなんだが……精神に干渉する魔法はかなり高難易度であり、年単位の時間をかけて自分の力を着けなくてはいけないし、専門的で複雑な知識も必要になってくる。

 そのためにこうやって、家の図書室でゲームの攻略本でしか見たことのない様な材料だらけの水の秘薬についての本を調べているというわけだ。両親ともに治療などにむいている水の魔法使い(ここハルケギニアではメイジと呼ぶみたいだが)だったため俺自身も水のメイジだったこと、そのおかげか家の書庫にはそういった魔法薬などについての書物が多いので、ありがたく使わせてもらっている。

 しかし、そればっかりやっているという訳にもいかない。他にも魔法の練習もしなければならないし、本来生まれてくるべきではない俺に対して世話をやいてくれ、気を遣ってくれる家族や使用人の方々に妙に思われないためにも二十歳超えた精神で八歳の少年の様な振る舞いをしなきゃならない。もう数年もしたら領地経営についても勉強しなければならないだろうし、さらに数年すればドロドロとした貴族同士のつきあいもしなきゃならない。できれば体の弱い母を治す薬も作りたいし、他にも……アレやコレや……。指を使って数えるのならば、手だけでは足りないくらいの数をこなさなければならない。

 

「……やってらんねぇ……」

 

 八歳にして人生に割と疲れている少年、それが俺アシル・ド・セシルだった。

 

 

 

 

 

 

 私はカジミール・ド・セシル。しがない子爵である。妻セリアと共にここセシル領を治めている。長らく妻と二人で支え合い生きてきたがついに息子が生まれた。妻は体が弱く、私自身貴族としては珍しく妻以外の女性を愛することはしなかったので長らく子供を授かることができず、養子や体の丈夫な妾を迎えるしかないのだろうか、という話が持ち上がっていた所だったので実にうれしかったことを憶えている。この年になると月日が経つのも早く、この間まで赤子だった息子も八歳になった。

 

「あ、父上。おはようございます。今日もお時間がありましたら一緒に本を読んで欲しいのですが……」

 

「アシルか……。おはよう。今日も元気そうでなによりだ。本なら昼食のあとなら構わないよ。アシルはイーヴァルディの勇者の話が好きみたいだからね、今日の本はそれにしよう。さあ、それよりも朝食を頂こう。たくさん食べないと大きくなれないからね」

 

 朝起きて朝食をとるために食堂へ向かう途中で一人息子であるアシルに会ったので、朝の挨拶をかわし、頭をなでて共に食堂へ向かった。

 

「本当ですか? やったあ! 父上と一緒に本を読むのは楽しいから好きなんですよ。うれしいな。あ、後今日も図書室を使いたいのですが、いいですか? 私も水のメイジとして、母上のために何かしたいのです」

 

 息子は実に優秀だといってかまわないと思う。三歳くらいまでは使用人の間でも、元気が無さすぎる赤子だとまで言われていたほどだった。夜泣きさえ滅多にしないことに心配をしていたものだったが、ある日いきなりそれが嘘だったかの様に元気に、そして優秀になった。それこそまるで人が変わってしまったかの様に。

 人格も、能力も、今までの様子が嘘だったかのように一変した。自主的に魔法やマナー、勉学を学び、親だけではなく使用人に対しても礼儀を忘れない。それでいて子供らしく明るくよく笑い、私達に気を遣いながらもかわいらしいわがままを言うこともある。手が掛からず育てやすいが、かといって機械的でもない。実によくできた息子になった。だが何故だろう、私はいつからかこの子を心の底から愛することができなくなっていた。

 気づいたのはいつのことだっただろうか。あの子が私や妻、使用人達と接する時、その目に媚びが、哀れみが、謝罪の気持ちが込められていることに。あの子は、アシルは八歳にして何かのために私達に媚び、私達の何かを哀れみ、何かについて私達に謝罪の気持ちを持ち続けている。八歳の子供と言うのはああいったものなのだろうか? 愛せない私が悪いのだろうか? それともあの子が異常なのだろうか? 難しい年頃というやつなのかもしれないので親としての経験のない私にはどうもよくわからない。まあ、数年後にはトリステイン魔法学院に入れるつもりであるし、その時には治っているかもしれないし、そうでなくとも学院で年の近い人と共に過ごすことで変わっていくだろうと、いつかはもう一度私は我が子を心の底から愛することができるだろう。

 そう考えた私はドアを開け、息子と共に食堂に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数年が経った。今俺はトリステイン魔法学院にいる。剣士がいて、魔法使いがいて、森の中にはモンスターがいる……そんなファンタジーな世界の学校で、いったい何を学ぶのだろうと思っていたが、それほど奇抜な物ではなかった。

 魔法を教える授業がある、洗濯やら何やらをしてくれる使用人がいる、という所を除けばどこにでもある学校とそう変わりはしない。勝手に期待しておいて嫌な言い方だとは思うが、正直新鮮味にはかけた。……まあ、十数年貴族やってるとはいえ元が小市民の俺にとっては気疲れするくらい、そこかしこにある調度品やら内装やらが高級品だらけってのはすごいが。

 ただ元の人生で経験したようなお気楽な感じの学生生活ではなかったのは確かだ。学校は社会の縮図だと何かで聞いたが、ここもご多分に漏れず社交界の縮図だった。爵位によって周りの人の反応は露骨に違うし、有名な家のご子息、ご令嬢にすり寄って媚びる……なんてのもそこかしこで行われている。周りがそんなんなら俺もここでしっかりコネをつくって将来楽しよう、なんてことを考えてしまうのも仕方がないだろう。それに媚を売ると言えば聞こえは悪いが、家や将来のことを考えれば必要なのは間違いないのだから。

 そしてこの行動は俺にしては珍しく上手くいっている。

 

「アシル、おはよう」

 

 朝食を取るため食堂に行く途中、後ろから声がかけられたので振り返ってみるとそこには親しくしておくべき対象、重要度ナンバーワン、ヴァリエール公爵家三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがいた。

 この年頃の女性にしても小柄な体型。肉体労働なんて間違いなくしたことが無いだろうその腕は、転んだだけで壊れてしまいそうなほど細く華奢だ。やや大きい鳶色の瞳からは勝気さと同時に気品さを感じる。白く美しい肌といい、すっと通った鼻筋といい、整った顔立ちは精巧な作りの西洋人形に似た美しさだ。そしてそれらを際立たせる桃色の髪。……いやいやいや、桃色て。コスプレじゃねーんだから。しかし、彼女は別に髪を染めてはいない。驚くことにこの色が彼女の地の色なのだ。

 やはり世界が違うとそこに住んでいる人の遺伝子からして違うらしく、ルイズのような桃色の他にも水色やら赤やら緑やらといった、母親が妊娠中に絵の具でも喰ってたんじゃないかっていうようなとんでもない色をした髪の人が珍しくない。むしろ黒い髪をした人の方が遥かに珍しい。

 

 「おはよう、ルイズ。いやーいい朝だな。こういい天気だとあれだ、使い魔もいいのが景気よくポンっとでてきそうだと思わないか?」

 

 「そうね、今日こそ魔法を成功させてみせる! そんでドラゴンとか高位の幻獣とか出して! ここから栄えあるヴァリエール家の一員として立派なメイジになるんだから!」

 

「ああ、そうだな。ルイズならできるだろ。ああ、できるできる。」

 

「……あんたはもう少し心を込めて話すことを練習したほうがいいと思うわ。それより使い魔よ! あんただって使い魔の召還はするんでしょ。何がでてくるんだろう、とかそういう不安とか期待とかはないの?」

 

「俺は水のメイジだからな。たぶんカエルとかそのあたりだろ。ぶっちゃけ悩んでどうなるもんでもないし、どうでもいいよ」

 

「……いつものことながら軽いわね。きちんとした召喚の儀は一生に一回の事なんだし、少しはしっかりしなさいよ。はあ、まったく。まあいいわ。それじゃ、また後でね」

 

「しっかりするくらいならうっかりしてるくらいの方が人生楽しいと思うけどな。まあ、いいや。ほんじゃ後でな」

 

 普通ならルイズのような爵位の高い子は、派閥というかグループのようなものをつくっているので俺ごときが親しくするのは難しいのだが、ルイズは何故か魔法が使えず、それを知っている多くの学生から馬鹿にされているので俺でも仲良くできた。正直言ってコミュニケーション能力が高いほうではなかったから、これはルイズには悪いがラッキーだった……というかいくら出来が悪かろうと、自分の親でも頭が上がらない家の子をバカにするのはまずいってのが他の子にはわからないんだろうか。

 使用人に対してもそうだ。平民だからって理由でバカにしたり虐げたりしているのを見るとどうかしてるんじゃないかと思う。彼ら、彼女らは俺達の衣、食、住、全ての世話をしてくれている訳だ。そんな人達の恨みを買えばドラマにでてくるOLみたいに、ぞうきんの絞り汁とかを紅茶に入れられるかもしれない、服にうっかりまち針を刺しっぱなしにされるかもしれない、下手をすれば食事に一服もられるかもしれない……まあ、そんなことはまずないだろうが、世話になってるんだからある程度感謝の気持ちは持つべきだと思う。それに平民相手でも年上にはやっぱりある程度礼儀を尽くすべきだろうとも思っている。と、まあこんな考えを頭に置いて行動していたからか使用人のなかでは俺は結構好意的に思われているらしい。けどそのせいで周りの貴族には「あいつはゼロのルイズどころか平民にも媚びを売っている」って思われてしまったのでプラマイゼロどころか、下手すりゃマイナスなので別段うれしくはなかったりしている。

 

 

 

「んなことよりも今は使い魔の召喚だな」

 

 朝食をとっていったん自室に戻ってきた俺はそうつぶやいた。

 ここトリステイン魔法学院では二年に進級する際に使い魔ってやつを召還して今後の方針を決めるらしい。その使い魔もカエルや鳥からドラゴンまで召還したメイジの実力や属性によって千差万別だということだから実は少しわくわくしていたりする。いったい俺の使い魔はどんなやつなんだろうか? ルイズじゃないがもしかしたらドラゴンとかでちゃうかもしれない。

 時間もおしていることだし俺は部屋を出て、使い魔召還の儀式をする外の草原へと向かった。

 

「できればドラゴンとかがいいんだけどなあ……。大方カエルか下手すりゃナメクジってとこだろうな……。せめてファーストキスは哺乳類が良かったんだけどなあ……」

 

 現実的に考えたらそんなわくわくした気持ちは消え去ったが。

 できれば普段一緒にいても嫌悪感を感じないような奴が出てくれるとありがたいな、そう思いながら俺は草原へ向かうのだった。 

 


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