それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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とりあえずどんどん投稿していこうと思います。
一応見直して余程変な部分は直していますが、何か気になるような部分があれば教えてもらえるとうれしいです。


十二話  ラグドリアンへ

「よう、マリベル。元気だった?」

 

「……何度も言ったと思いますが、私はアラベルです」

 

 アルビオンの騒動から帰ってきた翌日、見覚えのある金髪のメイドさんを見つけたので、声をかけた。

 本人も言っているが彼女の名はアラベル。後ろで一つにまとめた金髪に青い瞳というこの世界では極々平凡な見た目を持つメイドだ。この学院の使用人の中では俺と一番親しい子でもある。

 ちなみに、アルビオンの事に関してはルイズとアンリエッタ姫殿下間の秘密の任務だったこともあり、俺がその後どうなったかの会談に加わることは出来なかった。一応、風のルビーは姫様に渡すように言ってルイズに渡しておいたが。まあ、言いたくはないが王族としての精神があまり完成しているように思えないアンリエッタ姫殿下と関わっても、メリットはあまり無いと思うので、会談に加われなかったのは逆に良かったかもしれない。正直、こんなに苦労した褒美も、治療などに使った薬品代などが出ないというのは予想外だったが。これじゃ、苦労した分だけ丸損だ。

 まあ、そんなこんなでとりあえずアルビオンへの冒険は終わった訳なので、預けていた遺書を返してもらいに来たわけだ。

 

「まあ、半分あってんだしいいじゃん。それより手紙渡しといたろ? あれ、返してくれ」

 

「ああ、そうでした。私あれについて言っておきたい事が山ほどあったんです。何なんですか? あれ」

 

 ただでさえ普段から無愛想というか無表情なのに、手紙の返却を求めたら眉間にしわが寄ったんだが、どうしたんだこの子。なにやら不機嫌な感じだ。俺が何かやらかした憶えはないんだけど。出発前夜にマルトー親方を起こして保存食を作ってもらい、ついでにその時アラベルに手紙を渡すよう頼んだだけだったはずだが。

 

「アシル様は私の事をどう思っています?」

 

「なんか残念なメイド」

 

「なんか残念な貴族に言われたくはないんですけど。まあ私達はそういったドライな関係のはずですよね?」

 

「まあ、ねちょねちょした関係ではないな。それなりに仲は良いつもりだけど」

 

「そこは同意してもいいですけど……。いや、それは置いておきまして。このあいだの朝いきなりマルトーさんがにやにやしながら、アシル様からだと手紙を渡して来たんですよ。私もアシル様も年頃ですし、長い付き合いですから。マルトーさんはもちろん、それを見ていた使用人の皆さん達に私達、……まあ、その、そういった類の手紙を送り合う仲だと、思われているようなんですよ」

 

「……まじでか? それは悪かったなあ」

 

 困った時の癖だが、左手で頭をかきながらそう返事をする。

 まあ、マルトーさんに手紙を渡すよう頼んだのは、命の危険があるアルビオンに行く直前だったからなあ。

 真剣な顔をした男性が女性に手紙を渡すよう頼む、なんてシチュエーション、確かにラブレターか何かだと勘違いしても仕方ないか。

 ん? するとこいつ俺と恋仲だと思われているから不機嫌なのか? 

 ……なんだかなぁ、別に惚れてる訳じゃないが切ない話だ。

 

「いえ、それは別にいいんです。問題は手紙の内容です。正直私もそういった類の手紙だと勘違いしまして、生憎と恋愛経験というものが無いので、手紙をもらった時はまあ、それなりに、多少、なんというかドキドキしたんですよ。そして、そんな気分で手紙を開いてみたら一行目に『もしも私が死ぬような事が起きた場合のため、ここにお世話になった方々に対しての感謝と私財について書き残しておこうと思う』ですよ。なんだか裏切られたような気分にはなるわ、それなりに不安になるわで……心配したんですよ、まったく。そんな危険な目に遭う可能性があったのなら一言くらい言っておいてくださってもいいのではないかと思うのですが」

 

「いやいやそれは悪かったけどさあ、俺も大変だったんだって。夜中にいきなり明日の早朝出発だって知らされたんだからさ、仕方ねーべよ」

 

「はあ……一応貴族様ですからね、色々あるんだというのはわかっているつもりですが。しかし次からは私に、事前に、直に、言ってください。普段親しくしている人が突然いなくなるというのはあまり気分の良いものではありませんからね。言いたい事はそれだけです。はい、どうぞ。お預かりしていた手紙です」

 

「あいよ、確かに。ま、今後何かあったらきちんと言うよ。まあ、そうそう危険な目に遭う事なんて無いと思うけどな」

 

「そう願いますよ。ま、精々頑張ってください。応援も協力もしませんが、傍観はしますから」

 

「そらどうも。心強くて涙が出るよ」

 

「いえいえ、喜んで頂けたのなら何よりです。あ、後マルトーさん達も心配していたので後で顔だけでも出してあげてください」

 

「あいあい、わかったよ。ほんじゃ、またな」

 

「はい、失礼します。」

 

 頭を下げたアラベルに対して、軽く手を振って別れると俺は自室へと戻った。

 

 

 

 

「恋愛ねえ……」

 

 自室のベッドの上で、自分の腕を枕に横になりながらそんな事を考えてみる。

 恥ずかしながら……になるのかはわからないが俺には惚れた腫れたの経験が無い。蓼食う虫も好き好きと言うし、誰かに惚れられてた、というのはもしかしたらあったのかもしれないが、少なくとも誰かに惚れる、という経験をしたことが無い。正直キュルケやギーシュ、サイト君達が恋だの愛だのがどーしたこーしたと騒いでいるのを見るたび、自分が出来ない事をしているのを見るようで少しだけ羨ましく感じることもある。

 

「作ってみようかなぁ、惚れ薬」

 

 もともと興味のある分野だったので、これでも一応心に作用する薬についての知識は一通り持っている。そのなかには惚れ薬についての物もある。それを飲んでみれば誰かに惚れる、という感情を体験することはできるだろう。

 様々な薬を作ったり、実験をしたりしているので材料もある。材料の中でも入手が一番困難な水の精霊の涙も市場に流れるたびに可能な限り手に入れるようにしているので、そちらも問題は無い。なにせ心に作用する薬や高い効果の物を作る際には絶対とまではいかなくともそれが必要になるのだ。大量に用意しておくにこした事はない。といってもバカ高い上、滅多に売られないのでビンにそこそこといった程度だが。知識と材料は揃っているのだ。惚れ薬を作ることは可能な訳だが。

 ……さすがに惚れ薬ごときに使うのももったいないか。だいたい、自分の意志でとはいえ心を薬でどうこうってのも良い気がしない。

 そう考え諦めると、俺は目を閉じる。疲れからかすぐに睡魔が訪れたので素直に意識を落とした。

 

 だるかったんで授業は二日連続でさぼってみた。というか、ワルドに蹴られたあばらのあたりが折れていたようで、治療にそれだけかかったというのが真相だが。気が抜けたからだろうか、アルビオンから帰ってきた翌々日から痛み出すというのが、またいやらしい。

 それにしてもそれらの怪我を自作の秘薬と呪文で治したのでまたもや赤字だ。勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まいったわね……元々珍しい物ではあったけど入荷が絶望的だなんて……。けれどもなんとかしないと……もしもあの平民やルイズの口から王女様にこのことが伝わったとしたら、私だけじゃなく実家の方にまで迷惑がかかるわ。こうなったら本当にラグドリアン湖にまで行くしかないのかしら……。

 いや……一つだけ方法があったわ! あいつなら持っているかもしれない。正直借りを作るどころか関わるのもできれば遠慮したいけど、そうも言っていられないわね。仕方ない、行くだけ行ってみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうこんな時間か」

 

 怪我の方が完治したので薬の作成や研究をしていたのだが、気付けば月が出るような時間になっていた。この調子なら明日からは授業に出ることができるだろう。

 今日はもう横になるか。そう思い椅子に座ったままのびをしたのと同時に部屋のドアがノックされた。

 

「誰だ? こんな時間に」

 

 そう思いながらも、ドアを開ける。そこにいたのは……

 

「ミス・モンモランシー?」

 

 金髪のドリルが似合うクラスメートだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな時間に来るとは、何か用でも? ギーシュならいないが」

 

「いえ、ちょっと頼みたい事があって……。廊下でするような話じゃないし、部屋に入れてもらえない?」

 

「ん、ああ、気が利かなくて悪いね。少し散らかっているけど、どうぞ入ってくれ。今お茶でも出すよ」

 

 私が訪ねた部屋から出てきた男はアシル・ド・セシル。確か二つ名は「水薬」のアシルだったはず。私の二つ名である「香水」と微妙に被っているような気がしたり、自作の香水を町で売っている私と同じように怪我や病気に効く薬を町で売っていたりと、変な所で妙に私と似ている奴。今の会話でわかるように悪い奴ではないと思うのだけれど、正直私は好きじゃない。

 部屋に通された後、椅子に座って待っているとすぐに紅茶が出てきた。用意したにしては早すぎるし、元々自分で飲みながら何か作業でもしていたのかしら。すこし、部屋が散らかっているようだし。

 一言お礼を言って紅茶を頂き、人心地ついたところで向かい側に座った彼に向け用件を話す。私はここにお茶会をしに来た訳じゃないんだから。

 

「で、わざわざあなたの所に来た理由なんだけど、……えっとね、その……、水の精霊の涙を持っていたら分けて欲しいのよ、あなたなら持ってるんじゃないかと思って。もちろんお金なら払うわ」

 

「……金があるんなら買えばいいんじゃないのか? 売ってる所くらい知ってるだろ、『香水』のモンモランシーなんだし」

 

「そりゃ行ったわよ! けど売り切れの上に水の精霊と連絡が取れないとかで入荷も絶望的みたいで……。これであなたが持ってなかったらラグドリアン湖にまで行かなくちゃならなくなるかもしれないのよ。だからお願い! 持っていたら分けてもらえないかしら?」

 

「へえ、そりゃ大変だ。……ところで俺の所に来た理由はそれだけ? 実は秘めたる想いを胸に、夜這い……とかおもしろそうな理由は無いの?」

 

「冗談でもそんなバカな事を言うのはやめて欲しいわね。そんな理由も想いも無いし、あなたとお茶会するために、こんな時間にわざわざ部屋に来たりはしないわ。水の精霊の涙が欲しいだけよ」

 

 少し興奮気味にしゃべったせいか、喉が渇いたので紅茶に口をつける。それと同時に彼が口を開いた。

 

「で? 惚れ薬を飲んじゃったのは誰?」

 

「ぶふっ!!」

 

 それを聞いて私は紅茶を吹き出してしまう。何? 今のは私の聞き間違い?

 

「飲み物を吹き出すとかはしたないぞ、モンモランシー。いやいや、それにしてもマジかよ? 結構な大事だぞ、それ。で、誰にやったのさ? 故意? それとも偶然? いや、わざわざ来たんだ。故意じゃないか。事故か何か、ってとこかね」

 

「げほっ、げほっ、こふっ……。な、何を言っているのかしら? 何を根拠にそんな事を……」

 

 むせながらも私はそう言い返す。そんな私を見ながら彼は、悪戯を思いついた子供のような少し楽しげで得意そうな表情で話し始める。

 

「まず、こんな夜更けにわざわざ大して親しくも無い男の部屋を訪れてまで水の精霊の涙が欲しい、ってことは至急必要だって事だ。そうじゃないなら別に明日の朝やそれ以降でもいいんだしな。さらにあれを使って作る薬って言ったら、惚れ薬か心をいじったり、えげつない効果を発揮するような毒薬、または効果の高い治療薬ってとこだろ。生憎モンモランシーが毒薬使うような奴には思えないし、思いたくない。なら残りは惚れ薬か治療薬関係に絞られる。そして至急、水の精霊の涙を使うような治療薬が必要な状況になった、もしそんなことになってるなら、いくらばれたくないんだとしても座ってお茶飲んでるような余裕は無いだろ、いくらなんでももっと焦ってるはずだ。つまりこれも無い」

 

「……」

 

 私は言い返すことも無く、ただ彼を呆然と見返していた。

 これだ。私が彼の事が好きでは無い、いやどちらかと言えば嫌いなのはこれだからだ。

 自分の都合や内面はくだらない冗談で覆い隠しているくせに、人のそれは見透かしてくる。少なくとも私はそんな彼を好きにはなれない。

 そんな私を見ながら彼は続ける。

 

「まあ後は楽だろ。惚れ薬が至急必要って状況なんて、……もしかしたらあんのかもしれないけど俺は思いつかない。ってことは、それの解除薬。で、狙った相手……モンモランシーの場合はギーシュか? に使ったのなら解除薬なんか必要にならないから、それ以外の奴が飲んじまった。だから解除薬が必要になったけど、水の精霊の涙は惚れ薬を作る分量しか用意しなかった、その上店に行ったら売ってない。そんな訳で仕方なく俺の所に来た、と。こんなとこか、ちなみにこれで合ってる?」

 

「……ええ。その考えに飲んだのはルイズで、あの使い魔が相手ってのを足せば完璧よ」

 

「うわっ! まじかよ。ルイズがサイト君にべた惚れ中かー。それは見ておかないと損だな。後で会ってこよう」

 

「……事情はわかったでしょう。お願い、水の精霊の涙を分けてちょうだい。さっきも言ったけどお礼はするわ」

 

「そりゃ、『水薬』って呼ばれてるしな、持ってはいるけど……ごめん、断らせてもらうわ」

 

「は、はあっ!? あなた私をバカにしてるの!? いや、そうじゃなくとも知り合いが困ってるんだから手を貸してくれたっていいでしょう!?」

 

「い、いや、そうじゃないんだ。勘違いしないでくれ、モンモランシー」

 

 私がそう声を荒げると、少し焦った様にそう返事をしてきた。勘違いも何もないと思うのだけれど。

 

「モンモランシ家って確か水の精霊との交渉役を何代にも渡って努めて来てたろ? なら、水の精霊もモンモランシーの呼びかけなら答えてくれると思うんだよ。俺、一度水の精霊と会ってみたかったんだ。俺が水の精霊の涙を渡さなきゃラグドリアン湖行って、精霊と交渉するつもりだったんだろ? それについて行きたいだけなんだよ。もしそうしてくれれば、精霊との交渉が上手くいかなかったとしても、水の精霊の涙どころか解除薬を作って渡すよ、お金もいらない。……だめかな? 」

 

 そう言うとこちらを伺うような目で見てきた。意図はわかった。正直、ここで素直に水の精霊の涙を渡してくれれば話は早いのだけれど、本人にその気が無い以上仕方がない。それにここで断っても何の得も無いわけだし……。

 

「……しょうがないわね。わかったわ、元々ラグドリアン湖に行くつもりだったし、一緒に行く人が一人増えるだけだしね。いいわ、付いてきなさいな。あ、解除薬の話、忘れないでよ」

 

「わかってるよ、悪いね、無理を聞いてもらって。で、いつ行くつもりなんだ?」

 

「明日の早朝よ」

 

「……え?」

 

 そう伝えると、彼は頭を抱えてしまった。なにやらまたかよ……、とか呟いているのが聞こえる。

 ……一体どうしたのかしら?

 

「……大丈夫? どこか体調でも悪いの? そういえばここ何日か見なかったし」

 

「ああ、いや別にどっか悪いわけじゃないんだ。ただ、前日の夜に計画立案、翌日早朝に出発ってのがこないだあったばっかでね。また、そんな事になるとはなー、ってだけだよ」

 

「ふーん……案外忙しく生きてるのね」

 

 なんというか、普段はのんびりしているイメージがあったけれども色々大変なのね。

 

「……まさかまた、大冒険が待ってるんじゃねえだろうな……」

 

「何か言った?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 何か呟いたみたいだったけれど小声すぎて聞こえなかったわ。まあ、大した事じゃないでしょう。

 

「じゃ、私はもう部屋に戻るわ。明日はよろしくね」

 

 そう言って椅子から立ちあがり、ドアへと向かう。さすがにもういい時間だ。明日のためにも、もう部屋に戻らないと。

 

「ああ、おやすみ。こちらこそよろしく頼むよ。じゃ」

 

 そうあいさつを交わすと私は、自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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