それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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とりあえず溜まっている未投稿の物を、投稿してしまおうと思います。
感想への返信や指摘された部分の改定、サブタイトルはその後にするつもりです。


十七話  湖の向こう側へ

「せ、先生……この作業いつまで続くんですか?」

 

 眠い目をこすり、疲労でかすかに震える指先を必死に動かしながら俺はコルベール先生へと尋ねた。ろくに睡眠も食事もとらずにもう働くこと……何日だろう? よくわからないが結構長い間頑張っていると思う。

 

 

 

 ガソリンが完成した後、俺は自室で眠っていたのだがいきなり部屋に来たコルベール先生に起こされた。なんでもエンジンを動かすことはできたのだがさすがにあれだけの量では飛ばすことができないらしく、飛ばすために必要な量、最低でも樽で五本ほどは作ってほしいとサイト君に言われたらしい。それでゼロ戦が飛ぶところを一刻も早く見たい先生は、寝ている俺をたたき起こしてガソリンの生成を手伝うように言ってきた。……まあ、無理やりではなくて協力を頼まれただけなので嫌なら断ればよかっただけなのだが、三日も一緒に作業していたせいか変な仲間意識がわいてしまい、うっかり了承してしまった。そのせいでこんな大変な目にあっているという訳だ。

 

「た、確かサイト君に言われたのは樽に五本ほど……、む……1,2,3……できている! もう十分な量ができているぞ、アシル君!」

 

「ほ、本当ですか!? コルベール先生! これで、これでついにやっと……」

 

「ああ、やっとだ! これで……これで……やっと……」

 

「寝れる!!!」

「ぜろせんが飛ぶのを見ることができる!!」

 

 ……え?

 

「さあ、行こうじゃないか! アシル君! サイト君に頼んでさっそく飛ばしてもらおう! いや、はは、わくわくするなぁ。何の魔法も使わずにあれほどの物が飛ぶことが見れるのだ。今までの苦労が飛んでしまわないかね、アシル君」

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいコルベール先生。俺も今気付きましたけど、外真っ暗ですよ。こんな暗い中飛ばすのはさすがに難しいでしょう。それにこんな遅くにあんなすごい音出すもの飛ばしたらさすがに学院長も良い顔しないと思いますよ」

 

 このままだとゼロ戦飛ばす前に俺の意識が飛ぶっちゅうねん。

 

「む……そうだな……仕方がないか。それに私も随分と疲れてしまったし、今度明るいうちに飛ばしてもらおう。それにしてもアシル君、あんなにすごい音ってエンジンを動かしたときは君、いなかったじゃないか。なんで知ってるんだい?」

 

 やべえ、また口が滑った。

 

「ああ、使用人がエンジンのかかる音を聞いていましてね。その子から聞いたんですよ、エンジンをかけたのはまだ明るいうちだったらしいですし結構いろいろな人が聞いていたみたいですよ」

 

「なるほど、確かに何人か遠くから興味深げに見ていたしね。気になるようだったらもう少し近くで見ても構わないと言ってもらえるかい? サイト君ならば、平民だからなどといった理由で断らないだろうからね、構わないだろう」

 

「わかりました。じゃあ、おやすみなさい。一足先にお暇します」

 

「ああ、おやすみ。後片付けは私がやっておこう。本当に助かったよ、ありがとう」

 

 笑顔でそう言ったコルベール先生に一礼すると、俺は先生の研究室を出て行った。

 

 

 

 

「……おっとっと……、これはまずいな」

 

 睡眠不足と極度の疲労のせいか、足がふらつく。自室に戻るためには階段を上る必要があるのだが、こんな状態じゃころんで大けがをしそうだ。かといってレビテーションなどの魔法で窓から入るのも、難しいだろう。とりあえず一休みでもしないと怪我じゃすまない事態になりそうだ。

 中庭まで来た俺はそこにおいてあったベンチに座ると、夜風に当たりながら体を休めることにした。

 

 

 

 

 

「……んあ……。……うおっ! 寒っ! 」

 

 ゆさゆさと体を揺さぶられるのを感じ、目を開けた。どうやらいつのまにか眠ってしまっていたみたいだ。周囲は眠る前よりも少し明るくなっている。生まれて初めての野宿によって、予想以上に冷えてしまっていた体を両手で軽くこすりながら、いまだに俺の服を掴んでいた人物の方を見てみるとそこにいたのはタバサだった。後ろには使い魔である風竜のシルフィードもいる。

 

「起こしてもらって悪いな。それよりもこんな朝早くにこんなところにいるなんてどうかしたのか?」

 

 そう聞くといつものように小さめの声で簡潔な答えが返ってきた。

 どうも散歩気分で明け方の空を飛んでいたシルフィードが外で眠りこけている俺を発見、それをタバサに伝えたということらしい。以前言っていたタバサの知り合いを診察……といえるほど俺は治療などに関して詳しいわけではないが……することを約束していたので俺を起こすついでにそれをしてほしいんだそうだ。どうもその見てほしい人はタバサの母親で、その人が療養しているところまでは距離があるらしく、そのせいでこんな早くに起こしたらしい。

 

「こんな早い時間に申し訳ないけれども力を貸してほしい」

 

 真剣な面持ちでそう俺に言うタバサ。

 アルビオンで迎えに来てもらった借りがあるし、その病気の人を診てみると約束したのは事実だ。確かにこんな太陽が完全に出てきていないような時間に出かけるのは、さすがに少し非常識な気がするがレコン・キスタの件といい、アンリエッタ王女のお輿入れが近いことといい……なにやら面倒なことが起きそうな予感がする。なら今の平穏なうちに行っておくのも一つの手だろう。

 

「いや、たまにはこんな時間から体動かすのも良いもんさ。それに約束しといていつまでもほっとくってのは寝覚めが悪いからな、覚えてるうちにさっさと行ったほうがいいだろ。むしろ俺こそ今の今までほっぽっといてごめんな」

 

「そんなことはない」

 

 そう言ってタバサはふるふると首を横に振った。

 そして病状について一応聞いておこうと尋ねたところ、

 

「……私はあまり口が回るほうではないので病状などの詳しい事情は母さまの世話をしている、ペルスランという執事に聞いてほしい。もちろんその後で何かわからないことがあったのなら私に聞いてもらえば、可能な限り答える」

 

 という返事が返ってきた。

 

「執事さんがいるってことは、おふくろさん実家で静養してるのか。……そういやあタバサの実家ってどこなんだ? よく考えたら家名すら知らないしな。距離があるっていってたけどそんな遠いのか?」

 

「家はラグドリアンのほうにある。ゆっくりと行っても二日もあれば着くから、この時間に風竜で出れば明日……遅くとも明後日には帰ってこれると思う」

 

「結構な長丁場だな。それよりラグドリアンにあるんならこの間ラグドリアン湖に行ったときにでも言ってくれりゃあよかったのに。……まあ、過ぎたことを言ったってしょうがないか」

 

 俺はそう言って立ち上がると、変な体勢で寝たせいで固まってしまった体をほぐすように伸びをする。パキ、ポキという関節が立てる音と鈍い痛みを感じながらもタバサへと返事をする。

 

「ちょっと待ってろ。準備してくっから」

 

 

 

 

 

「恐ろしいほどはえーな。やっぱ俺のティナとシルフィード交換してくれよ」

 

「ティナ?」

 

「俺の使い魔のフクロウだよ。いつまでも名無しってのは可哀そうだからな、適当に名づけてみた。交換してくれたら今なら洗剤もつけるよ、お得だろ?」

 

「……そんな特売品みたいに言われても困る」

 

 凄まじいスピードで空を飛ぶシルフィードの上で会話をする俺とタバサ。そんなくだらない会話をしている間にも眼下に広がる風景が少しずつ過ぎ去っていく。よくわからないが車以上の速度は出ているのではないだろうか。使い魔にランクを付けるのならばドラゴンがトップクラスだろうが、このスピードを見れば納得ができる。使い魔はメイジにふさわしいものが召喚されるというが、こんな立派な風竜を召喚できたということはタバサはやはり超一流のメイジだということだろう。実家も風光明媚で有名なラグドリアン湖の近くのようだし、どれだけ恵まれているのやら。

 

「お願いを重ねるようで悪いけれど、一つ約束してもらいたいことがある」

 

 さすがに疲れが残っていたので、軽く休もうかとしたところそう声をかけられた。

 そのまま目で先を続けるように促す。

 

「私の家でのことや母さまについてのことは外では口にしないでほしい。あまり人に知られたくないことがいくつかあるから」

 

 なんだそんなことか。

 

「言われないでも、人様の家庭事情を言いふらすほど性根は腐ってねーよ。それよりやっぱまだ眠いんで寝るわ。ついたら起こしてくれ」

 

 そう言って自分の腕を枕にごろりと横になる。そのまま意識を手放そうとしてあることに気付き、タバサに一言言っておく。

 

「寝相良いほうじゃないんで、もしシルフィードから転げ落ちたら助けてくれよ?」

 

 

 

 

 

 ゴン!!

 

「のわっ! ……ってぇ、何、何だよ。てか誰だよ」

 

 いい気分で寝ていたところ頭をたたかれて目が覚めた。といっても軽く叩かれた程度なので対して痛くはなかったが。

 

「ついた。揺さぶっても起きなかったので、悪いとは思ったけれども叩かせてもらった」

 

 どうやら目的地についたらしい。事実、シルフィードも飛ぶのをやめ地面へ着陸している。そして俺の目の前には……

 

「……お前って結構なお偉いさんだったりするの?」

 

 今まで見てきた貴族の邸宅の中では最も大きいであろう屋敷がでん! と構えていた。

 

「初めまして。セシル様」

 

 俺が屋敷を見上げている間に、近くへ一人の老人が来ていた。物静かで上品な雰囲気を身にまとった老紳士といった人だ。この人がタバサの言っていた執事さんだろうか?

 

「このオルレアン家の執事をしておりますペルスランでございます。要件はシャルロットお嬢様からうかがっております。奥様のご診断はすぐになさいますか?」

 

 ……オルレアン家? シャルロットお嬢様? 誰だよそれ、タバサのことか?

 

 どうやら俺が眠っている間にタバサが事情を伝えているようで、俺たちが来た理由も知っているようだ。しかし、眠っていた俺には何が何だかさっぱりだ。しかし診察に来たのを知っているからだろうか、諦めと期待が混ざっているようなペルスランさんの顔を見るとそれを今聞くのも気が引ける。眠気が完全には抜けていないのもあり、俺はあいまいに返事をするとそのまま彼に案内され、気付けば何やら仰々しい部屋の前にいた。

 

「ここが奥様の部屋でございます。では、私は扉の前にいますので……」

 

 やばい、俺が想像していたのよりも遥かに凄まじいスピードで事態が進んでいる。これは止めたほうがいいのか、俺何の状況把握もできていないんだが……。

 そう考え俺が勇気を出して声を発しようとした瞬間

 

 ……コンコン。

 

 ノックの音が静かな廊下に響き渡った。横を見ればタバサがどことなく緊張したような様子で軽く握った手を扉に当てている。これで後戻りはできなくなった、ような気がする。俺の様子を無視した行動に文句の一つでも言いたくなったが、

 

「では診察をお願いする」

 

 何の悪意も感じない純粋に早く母親に治ってほしいから、早く診察をお願いしたいという気持ちが伝わってくるような真剣なタバサの顔を見た俺には、

 

「……ああ。全力を尽くすよ」

 

 そう返すことしかできなかった。

 




フクロウの名前なんですが、ネットで適当に フランス ペット 名前と打ち込んで、出てきたランキングの二位の物にしました。
変だったら指摘してもらえるとありがたいです。

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