それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

2 / 51
改定と投稿する際に一応読んではいますが、誤字や変な表現などがあったら教えてくださるとありがたいです。


二話   決闘

「ぐあ! ぐぁああああああ! 熱い!」

 

 ……なんかよくわからんことになっている。

 さっきまでルイズが使い魔召還の儀式、サモン・サーヴァントをやっていて、いつもの様に失敗、つまり爆発を繰り返していたはずだ。それがあまりに長く続くので途中から見ているのに飽きた俺は、召還した俺の使い魔(結局召還されたのはごくごく普通のフクロウだった)と遊んでいた。そのまましばらく経ち、気付けばいつのまにか爆発音がやみ、周りからはクラスメート達の笑い声が響いている。何を笑っているのかと、彼らの視線の先へ、つまりルイズの方を見たところ何故かそこにさっきまでいなかった男の子がいて、その上なにやら左手を抑えて苦しんでいるのが見えたというわけだ。

 

「タバ吉、何がどうなってんの。あれ誰よ?いつものように箇条書きで説明してくれ」

 

「召還された」

 

「へえ、人に見えるけどな……。なあ、人が召喚されたことってあったっけか?」

 

「……少なくとも私は聞いたことが無い」

 

「俺もだよ。かなり珍しいんじゃないか? けどまあ、さすがルイズだな。あいつ、いつもああ後ろ向きに前人未踏の地を進んでいくけどどこ目指してんだろうな。あと使い魔交換しないか?」

 

「だめ」

 

 知り合いの一人であるタバサに状況を聞いてみたところあの男の子はルイズの使い魔として召還されたらしい。サモン・サーヴァントで人が召還されたってのは聞いたことがないがまあ人だって動物だし、そういうこともあるだろう。その上、その男の子は黒い髪に肌色の肌を持ち、顔立ちを見るに日本人のように見える。まあ、長い人生そういうことが起こることもあるだろう。

 

「さてと、それでは皆さん教室に戻りますぞ」

 

 ルイズが召還に成功したことで、全員使い魔召還の儀式は終わったので儀式に立ち会っていたコルベール先生がそう言うと、まだぎゃーぎゃーなんかやってるルイズ達を放っておいて、周りの皆はフライという魔法で飛んで学院へ戻っていく。俺としてはルイズを慰めるか、魔法が成功したことを褒めるかするべきなのかもしれないが……召還した男の子を殴り倒して気絶させたのを見て、とりあえず今は関わらないことに決めた。

とばっちりで殴られるのはごめんだからな。

 

 次の日の朝食。さすがに気になるので、ルイズの機嫌や召還された彼の様子をこっそりと見てみたが、そこにはおそらく同郷の人だろう彼が床に座って悲しそうな顔で貧しい物を食べているという、なんかもう感想に困る光景が広がっていた。心情的にもちょっとルイズに言いたいことがあったが、普段ならともかく今の機嫌の悪いルイズに文句を言うのは、面倒な事になる可能性が高い。下手をすれば、八つ当たりとしてさらに彼の待遇が悪くなることも考えられる。だから残念だが、おおっぴらに俺が何かをしてやることは難しいだろう。まあ、隠れて何か差し入れるくらいなら大丈夫かな。

 

「……せめて昼飯くらいキチンとした物が食える様にメイドさんに頼んでおこう」

 

 あれじゃ見てるこっちが気疲れする。

 

 

「……お、来た」

 

 朝食の後、シュヴルーズ先生による錬金、石っころやらなにやらに杖を振るだけで別の金属に変えるという、科学者に喧嘩売ってるような魔法についての授業があった。しかし、そこでルイズがいつものように爆発オチをしてしまい、原因である彼女とその使い魔の彼は壊した教室の片付けを命じられたので俺はそれが終わった二人が食堂にくるのを待っていた。二人で一緒に部屋の片付けをすることで少しでも仲良くなったかと思ったが、前から来る二人を見る限り何があったか知らないがどうも悪化してるようだ。根本的に気が合わないんだろうか。

 片手を上げて、二人を呼び止めた。

 

「やっほルイズ。ちょっと使い魔君借りてもいいかい?」

 

「……好きにしたらいいじゃない」

 

「悪いね。じゃ、君ちょっとこっち来てもらっていい?ってか、来い。ほれ急いで」

 

「ちょ、え!? あんた誰!?」

 

 臨界点突破寸前のところに刺激を加えるほど、俺は命知らずじゃない。急いで使い魔の彼の腕を取り、厨房へと引っ張っていった。

 

 

 

「……という訳でだ。昼食の時間になったら、ここに来ればそこそこ立派なモン食えるから。まあ、ただでって訳にはいかないから、ちょっとした手伝いはしてもらうらしいけど。その辺についてはこのメイドさんに聞いてくれ。俺よくわからんから」

 

「わかった。正直こっち来てからろくなモン食ってなかったからありがたいよ。シエスタさん……だっけ? これからよろしく頼むよ」

 

「シエスタでいいですよ、サイトさん。じゃあ、ちょっと待っていてくださいね。今、シチューを持ってきますから。お手伝いはそれを食べてからお願いしますね」

 

「わかった。俺にできることならなんでも言ってくれ。頑張って手伝うから」

 

「ふふ、それは頼もしいですね。ありがとうございます」

 

 ……なに、この雰囲気。

 あの後厨房に彼、サイト君を引っ張りこんで、使用人の人達の仕事を手伝ってくれれば昼食はキチンとしたものを用意する、ということを説明した。いきなり手伝えって言っても難しいだろうから、サイト君と年が近いシエスタってメイドさんに彼の面倒見てくれる様に頼んでおいたのだが、思った以上に気があったらしく会ってそんなに経ってないのに早くも俺が疎外感を感じるくらいには仲良くなっている。

 ……まあ、いいけどさ。なんかシチューの味やら貴族に対する愚痴やらで楽しそうに話し始めた二人を横目に俺は食堂へと急いだ。

 ただこのすぐ後に俺はこんな提案をしたことを後悔することになる。なぜなら……

 

 「諸君! 決闘だ!」

 

 ……さすがにこんなことになるとは思っていなかったからである。

 

 

 

 

 

 きっかけはしょーもないことだった。サイト君が昼食の対価であるお手伝いとして、デザートの配膳を手伝っていたのだがその際に香水か何かの小瓶を拾い、落とし主のギーシュという貴族に渡したところそれによって二股がばれてしまい、逆恨みしたギーシュがサイト君に決闘を申し込んだ、というなんかもうみっともないというか、アホくさいというか説明するのもいやになるような理由だった。

 というか何でギーシュはバラを持ち歩いているんだ? まさかとは思うが、あれ食べるんだろうか? もしそうなら、まさに文字通り草食系っていうやつだな。いや、でも二股かけてたし、草食風肉食系男子ってやつになるのか?

 俺がそんなくだらないことを考えている間にも話は進んでいたらしく、ギーシュはサイト君に決闘の場所を告げて行ってしまった。ギーシュがいなくなったのを見てか、厳しい顔をしたルイズがサイト君へと食って掛かった。

 

「謝っちゃいなさいよ。今なら許してくれるかもしれないし。勝てるわけない決闘なんかして、怪我をするなんて馬鹿馬鹿しいじゃない」

 

「ふざけんな! 悪いのはあっちなのになんで俺が謝らなくちゃいけねえんだ! だいたい、勝てるかどうかなんてやってみなくちゃわかんないだろうが」

 

「わかるの! 貴族に、メイジに平民が勝てるわけないでしょ! 少しは私の言うこと聞きなさいよ! あんたは私の使い魔なのよ!?」

 

「話にならねえな。おい、なんたらの広場ってどこだ」

 

「こっちだ。ついてこい」

 

 ルイズと言い合っていたが、言っても無駄だと思ったんだろう、サイト君は近くにいた貴族に声をかけて決闘の場所であるヴェストリの広場へ向かって行った。それを見たルイズもなんだかぶつぶつ文句を言いながら後を追って行く。

 

「……仕方ないな。このまま見殺しも寝覚め悪いし、回復用の魔法薬でも用意しといてやるか。あれ高いんだけどなあ。ったくファンタジーな世界観ならエリクサーの入った宝箱でも用意しとけっての」

 

 確かギーシュの二つ名は「青銅」。青銅のワルキューレを何体か作り出して戦わせるという戦闘スタイルだったはず。しかもたしかそのワルキューレ達は武器の類は装備していなかった。なら、よほど当たり所が悪くない限り死ぬことはないだろうし、四肢欠損などの重傷になることもないだろう。せいぜい骨折といったところだろうか。なら、なんとでもなるだろう。

 そう考えた俺は負けるであろうサイト君の治療のための薬などを用意しておくため、自室へと戻った。

 

 

「……うそん」

 

 俺の目の前で信じられないことが起きている。サイト君がギーシュを圧倒しているのだ。

 さっきまでは俺の予想通りの展開だった。ギーシュの出した青銅製のワルキューレにひたすら殴られ、蹴られ吹き飛ばされるサイト君。正直腕を折られても心が折れないというのは予想外だったが、それ以外は典型的なメイジ対平民の戦いだったはずだ。おかしくなったのは……そう、余裕の表れかなんなのかしらないがギーシュが剣を作り、それをサイト君が受け取ってからだ。俺の見間違いじゃなければその時、左手のルーンが輝いたような気がする。

 そして剣を手にした瞬間動きが変わった。今までよりも段違いに速く、力強くなった。いや、それだけじゃないだろう。ただ力が強くなっただけならば、青銅でできた剣で同じく青銅でできたワルキューレがあんなにすっぱり両断できるとは思えない。おそらく、剣の技術か、魔法的なよくわからない何かが働いたのだろう。そして、そんな不思議パワーをサイト君が持っていたとは考えにくい。つまり、推測にすぎないがサイト君に与えられたルーンの力は、剣を持つことで身体能力の強化と何らかのプラスアルファを持ち主に与えるという物。だけどちょっと待ってくれ。そんなルーンは聞いたことがない。

 魔法の使えない落ちこぼれメイジ、前例の無い使い魔として人間の召還、類を見ないほど圧倒的な力を持つルーンの付与……。

 どれか一つだけ、せめて二つなら不幸な、もしくは幸運な出来事だったのかもしれない。しかし、三つだ。これら三つの出来事は何らかの理由があると考えるのが自然だろう。

 

「……すると何がある……。おそらく大元の原因はルイズだろう。考えられる物としては……」

 

 一つ、突然変異。ルイズは何らかの要因で、失われた虚無を含む五つの魔法の属性、そのどれにも当てはまらないメイジとして生まれた可能性。ルイズ自身が前例の無い存在ならば、前例の無いことを三つも起こしたというのも説明がつく。

 二つ、虚無のメイジ。先祖返りだかなんだか知らないがルイズが失われた属性、虚無のメイジである可能性。これならば基礎であるコモン・マジックはともかく、水や土等の系統魔法が使えない理由は説明できる。五つの系統のうち虚無のみが無くなったということは、虚無はそれのみの一点特化の系統であった可能性が高い。ならば、虚無に特化しているのにも限らず他の系統魔法を使おうとすれば、失敗すると考えても不思議じゃないだろう。

 三つ、先住魔法。ここハルケギニアには先住魔法という、俺たちが使う系統魔法とは別の種類の魔法がある。主に吸血鬼だのエルフだのといった亜人が使うのだが、そういった亜人の外見はほとんど人と変わらないらしい。まあ、本物を見たわけじゃないから詳しくは知らないが。とにかく、ルイズは公爵令嬢、つまり父親は公爵。貴族としてはトップクラスの絶大な権力を持った存在である。なら、戯れにそう言った亜人をとっつかまえて子供を産ませるといったこともできるかもしれない。つまり、ルイズがそういった亜人の血をひいている可能性。

 ざっと考えられるのはこんなところだろうか。このなかでも可能性が高いのは……

 

「三つ目かね。ピンクの髪なんておかしいと思ったんだ。亜人の血を継いでいるってんなら、そんな変わった色の髪色をしているのにも説明がつく。…………、けどこの考えがあってるのならルイズの親父さん鬼畜だな。できればお会いしたくない人種の人だ」

 

 ってことはルイズでも先住魔法なら使えるかもしれない。後で教えてやろう。もし、これで魔法が使えるようになれば好感度大幅アップってやつだ。

 あん……?あれ、ちょっと待てよ、何か忘れてるような……。

 元々神話や民話、地域に伝わる伝承や都市伝説を調べるのが趣味だったこともあって、こっちに生まれてからは、勇者イーヴァルディやら始祖の伝説といった物語などを読みあさったのだけど……確かその中に何かあったような……。

 

「……、そういやあれがあったな。確か図書館に本があったはず、一応確認しておくか。もし、俺の想像通りだったならサイト君に剣と槍でもプレゼントしてやらなくちゃな。……ぶっちゃけ、剣と槍をいっぺんに持ってたら戦いにくくてしょうがない気もするが」

 

 始祖の伝説の一節を思い出した俺は、自分の考えを確認するために図書館へと急いだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。