それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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まさかの半年ぶりです。色々と人生かかってるレベルのイベントが重なったとはいえ、こんなに空くとは思いませんでした。
それらが終わった後も、それの反動なのかムジュラだのGEだの絶対絶望だの、そしてもちろんモバマスだのといろいろとストレス発散していたらこんなことになりました。申し訳ないです。
次がいつになるかはわかりませんが、できるだけ早くするつもりです。



四十三話  足りない精一杯

「……シン……ミスト」

 

 この魔法も今日だけで何度目だろうか。俺は木に寄り掛かったまま、喘ぐようにして呪文を唱え、平原へと向かい杖を振る。

 戦場となっていた場所を抜けたからだろう、もはや霧に血は混じっていない。視界が白く濁っていく。霧が白い、そんな当然なことにいくらかの安心感を感じながら、俺は森の中へと一歩足を進め……そしてそのまま雪で泥濘んだ地面に足を取られて倒れ込んだ。

 

「つっ……」

 

 魔法は精神力を消費して行使しているという話だが、多分、それが原因なのだろう。しばらく前から魔法を使うごとに何かが身体から抜けていくような感覚と共に、視界は霞んでいき、身体を動かすことが困難になっていく。薬の副作用も治まってはおらず、頭はじくじくと鈍く痛み、まるで脳に針でも刺されているかのようだ。

 木の幹に手を付き、震える足で立ち上がる。

 全く、これじゃいい男が台無しだ。顔に付いた泥ごと汗をぬぐい、そして口に入った泥を吐き捨てる。

 地面の泥濘には轍が残っている。周りに注意を払えば、おそらく無理やり馬車を通したからだろう、木の枝が不自然に折れているのも見える。この後をたどっていけば隊の者たちと合流できるはずだ。

 

「あー……まっずぃ……うぇ」

 

 泥のせいで口の中がどうもざらざらする。俺は泥をもう一度吐き出すと、森の中へと入っていった。

 

 

 

「隊長! 無事だったか!?」

 

 しばらく森の中を進み、奥へと入っていくと向こうから一人の男が駆け寄ってきた。見覚えがある。確か……隊員の内の一人だ。

 彼は俺が歩んできた方向に目を凝らし、誰もいないことを確認すると俺の様子を確認し、そう声をかけた。

 

「……元気いっぱい、ってわけじゃないけど、まあ無事だよ。お前はここで何をやってるんだ?」

 

「見張りみたいなもんだ。追手は来そうか?」

 

 その言葉に俺も、今自分が歩いてきた道を振り返る。道には轍が、木や枝には傷がついている。とはいえそれはパッと見てそれほど目立つわけではないし、森の外は霧が立ち込めているはずだ。それに相手は騎兵ばかりだった。ならば森の中にいきなり入ってくる、ということもないだろう。少なくとも俺が敵軍の隊長ならばならそうはしない。相手は敗走軍みたいなものなのだ、ゆるりと援軍の到着を待ってから潰せばいいだけの話だ。

 それに今やこちらは百にも満たない数だ。ならそんなやつらに構っているよりかは、逃げて続けている本隊を叩くことに数を割くはずだ。おそらく二、三日はこちらに力を向けることはない、と思う。

 まあ、俺ならばどうしたなんて、それがベストだとも、相手はそうするとも限らない以上、考えたって仕方ないのだろうけど。だいたい俺がベストな行動を取れるような優秀な隊長なら、端からこんな状況には陥っていないからな。

 

「……わからん。いつかは来るだろうが、おそらくはしばらくは大丈夫なはずだ」

 

「そうか。じゃあ悪いがこっちに来てくれ。怪我した奴らの治癒を頼みたい。かなりやばそうなのが何人かいる」

 

 しばらくの間、ゆっくりと歩けたことで体調がいくらか回復していたので、はた目にはそこそこしゃんとしているように見えたのが悪かったのか。それとも仲間が怪我しているので単に焦っていたのか。彼は俺の腕を取ると、そのまま急ぎ足で森の奥へと足を速めた。

 

「うわっ!……ぶっ」

 

 外からはどう見えるのかは知らないが、まだまだ気を抜けばそのまま倒れてしまいそうな状態なのだ。腕を引かれた俺は、そのまま前につっかかるようにして脚を滑らし、またもや顔から地面へと突っ込んだ。

 

「……」

 

「…………」

 

「……肩貸してもらえるか?」

 

「……悪い」

 

 

 

 しばらく森の中を歩いていくと、少し開けているところに出た。二十人弱だろうか、二台の馬車の周りに隊の

皆が集まっている。

 

「こっちだ」

 

 俺に肩を貸したまま、彼は奥の方に置いてある馬車へと向かっていく。

 

「随分人数が少ない気がするが……」

 

「ああ、まとまりすぎるのも危ないからな。そんな離れてるところでもないが、もう一ヶ所とに分かれてる。それに気休め程度だろうとはいえ見張りを立てないわけにもいかないから、元気そうな奴はそっちに振っといたから、ここにいるのは一部だけだ」

 

「そうか」

 

 良かった。さすがに136人がこれっぽちの人数になってたら、罪悪感のあまり首吊ってるところだった。 ていうか未だに頭痛いし、耳鳴りもするし、気持ち悪いし、体中痛いし、未来は暗いし、生きて帰る道筋が正直ほとんど見えないし、隊長なんて責任のある立場でさえなかったらホントもう全部放り出して逃げ出したい。

 

「怪我人はこの中だ。……止血だけでもいいから、できるだけ頼む」

 

「わかった」

 

 彼から離れ、自分の足で立った瞬間よろけて地面に手を付いてしまった。なんとか立ち上がると軽く頭を押さえながら、馬車の入り口に手をかける。その様子を見て、さすがに心配そうに声をかけられる。

 

「本当に大丈夫か、隊長。顔、真っ白だぞ」

 

「わからん。……まあ死にゃしないだろ」

 

 そう言い捨てて、俺は馬車へと入っていった。

 

 

 

 血の匂いと汗の匂い。馬車の中は顔を背けてしまいたくなるような臭いが籠っていた。

 床に寝かせられた七人の人たち。防寒に使っていた物だろう、毛布が掛けられた彼らは苦悶の声を漏らしている。ただどうやら意識はないかあっても薄いらしく、おそらくその声は反射的なもののようだ。その証拠に、彼らの声は人の呻き声というよりも、まるで獣の唸り声のように聞こえた。

 彼らの世話をしていた、いや様子を見ていただけだろう、彼らの横で不安そうに所在なさげにしていた男が俺に声をかけてくる。

 

「あ……隊長……! 良かった、無事だったんですね」

 

 その声に軽く返事を返すと、一番手近な入口の近くにいた隊員の毛布に手をかける。

 こういった場合、本来ならば一番怪我がひどいものから対処していくものだと何かで見たが、悲しいかなそんな怪我の度合いを見分けられるほどの知識を持ち合わせていない。

 そしてそのまま毛布を取り去った。

 

「……うっ」

 

「あの、こいつら、傷が深くて……応急処置じゃどうにも……。もう俺どうしていいか……」

 

 毛布を取り去るとともに、一段と血の匂いが濃くなった。

 怪我をした隊員は応急処置のために上半身は裸にされ、そこには包帯がぐるぐると巻いてある。だが怪我の範囲が広いのか、包帯のせいでもはや皮膚さえろくに見えないほどで、その包帯には押せば滲みだすのではないかというほど血で色濃く染まっている。いったい包帯の下はどれほどのものなのか。

 だいたい俺は特別な知識も技術も持ち合わせていない。彼、いや彼らが俺に何期待してるのかわからないが、俺にはいいとこ止血やちょっとしたことしかできない。傷の度合いだって、それの対処だって人並みか、それにプラスアルファくらいにしかわからない。そんな俺が少しばかり頑張ったところで、いったい何が変わるというのか。

 

「隊長……そいつ助かりそうですか……?」

 

「知らん。できる限りのことはするがあんまり期待しないでくれ。俺は魔法使いじゃあないんだ」

 

「え? 隊長、メイジですよね?」

 

 そのきょとんとしたような彼の顔と声に、思わず息が抜ける。

 ……そうだな、今や俺は魔法使いなんだ。杖を持って、呪文を唱えれば怪我が治ったり、風が吹いたりするわけだ。そして少なくとも俺の部下は、隊員たちはそれができないわけだ。

 ……ならせめて、せめて杖を振るくらいは全力を尽くさせていただこう。

 

「悪いが次のやつの包帯を取っておいてくれ。命に係わる怪我のところだけでいい」

 

「わっ、わかりました!」

 

 俺は杖をぎゅっと、力を込めて握りなおす。そして目の前の隊員へと杖を振った。

 

 

 

「……ヒー……リング……」

 

 擦れきった声でなんとか呪文を唱える。吐き気がするほどの頭痛と共に身体から何かが抜けていく。だがそれと引き換えに目の前の隊員のわき腹に深く切り裂かれた箇所が、そこに撒かれた秘薬と化学反応するように、少しずつ塞がっていった。

 これでとりあえずは大丈夫だろう。 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「……つぎ……」

 

 もはや返事をすることさえ億劫でしょうがない。ぼんやりと霞む視界の中、なんとか彼の肩へと手を回すと、そのまま引き上げられるようにして、彼の力を借りてなんとか立ち上がる。

 

「……ってぇ……」

 

「……本当に大丈夫ですか? 何でしたら少し、休んでも……」

 

「……いらん……」

 

「……わかりました。あと、あと三人です! 申し訳ないですが、頑張ってください!」

 

 声が頭に響いて、耳障りで仕方がない。さすがにそろそろ限界が近い。

 なんとか四人の応急処置は済んだ。止血と大まかな怪我の治療と気付け程度だが、俺にできる精一杯はやったはずだ。後は本人の体力と気力次第だろう。

 だが、その代償はタダじゃない。ドーピング薬の副作用と、魔法の酷使、そして精神力の摩耗による体への影響は軽微ではなかった。

 頭痛はもはや経験したことも無いほどのものであり、脳に直に釘でも打ち込まれているかのようなズキンズキンと激しいものとなっている。心臓の鼓動はその頭痛の痛みに合わせるかのように、大きく脈打ち、視界は自分でも目を開けているのか閉じているのかもわからないほどおぼろげだ。そして身体の芯にまで響くほどの耳鳴りで彼の声もろくにに聞こえない。吐く息は熱く、自分でも震えていることがわかるくらいで、もう自分では立ち上がることすらまともにできなくなってしまった。なんとかまだ杖を握っている自分を褒めてあげたいくらいだ。ていうか誰か褒めてくれ。だが俺を無条件で褒めてくれそうなやつと、なんだかんだで褒めてくれそうなやつは両方学院だ。もう一度会えればいいけど。

 崩れ落ちるようにして五人目の前へと座り込む。怪我の様子を確認しようと目を凝らしても、目に映るのは黒一色の霞んだ視界に、わずかな赤い色だけだ。額から垂れる汗をぬぐいながら、必死に目をこする。

 なんとか怪我の具合を確認し、一番致命的だと思われるものに壜に残った秘薬を掛ける。そしてそこに左手の指をあてると、杖を握りながら治癒の呪文を唱えた。

 

「イル……ウォータルッ……」

 

 呪文を唱えるにつれ、頭痛がひどくなっていく。情けないながら浮かんできた涙をそのままに、歯を食いしばり治癒の魔法をかけた。

 上手くいったのか、怪我が治癒していくことが当てていた指を通して伝わってくる。よくは見えないが、どうやらうまくはいったようだ。

 まだ大きな怪我を一つ治しただけだが、とりあえずは一歩進んだ。そう思い、わずかに気を抜いた瞬間だった。

 

「……あ……?」

 

 ぷつり、と何かが切れる音が聞こえたような気がした。

 そしてそれを最後に、俺は意識を落としたのだった。




小説を書いたの自体が半年ぶりなので、変なところがあるかもしれません。何か思うところがあれば、どんどん言って頂けるとうれしいです。



小説関係ありませんがついにモバマスアニメが始まりましたね。オリジナルキャラ的な面はありますが、個人的には武内Pはクリティカルヒットです。おそらく2クール目には自分が押している北条加蓮が登場すると思いますが、彼になら任せられます。彼によってアイドルたちの新しい魅力が見れることが楽しみです。
じっくりとストーリーを進めていくようなので、この調子でいってほしいです。
またNGと武内Pの掘り下げも一段落し、他のCPの掘り下げに入るようなので、これからも期待したいと思います。

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