「遅かったじゃない、何してたの?」
「学院長に盗まれた破壊の杖について聞いてた。宝物庫の中身について堂々と質問できることなんかそう無いからな」
ルイズの問いかけにそう返す。
俺が馬車にくるとすでにみんなそろっていた。遅れたことを咎められるか、と思ったがそんなことはないようだ。みんな緊張しているかと思ったが、ずいぶんとリラックスしている、というか普段通りだ。
「へえ、で何かわかったのかしら?」
「これと言って大したことは。なんか学院長の昔の恩人の持ち物で、ワイバーン殺す程度の威力はあること。同じ物がもう一本あってそれはその恩人さんの墓の下、ってことだけだな。わかったのは」
まあ、その恩人さんは死ぬ間際に元の世界に帰りたい、って言ってたことから俺やサイト君みたいに違う世界から来た人だろうという事がわかったのは収穫っちゃ収穫だけど。あと、同じ物を二本携帯していたことから予想できることもあるが、まあそれはどうでもいいだろう。キュルケ達に話すようなことでもない。
「……」
「……」
「何?」
「いや、ルイズ、キュルケって順に質問が来たから、次はタバサあたりが『お兄ちゃんて好きな人いるの?』みたいな事聞いてくるかと思って待ってるんだが」
「興味ない」
「……そうですか」
ギャグに素で返されるとつらいですね。あとルイズさんとキュルケさんは、無言で蔑みの視線を送ってくるの勘弁してくんないかな。
「で、サイト君はなんか聞きたいことある?」
「いや、特にないけど……目的地まで結構かかるんだろ?早く出発した方がよくないか?」
「……そうですね」
徹夜のせいかテンションが変に上がっているので、みんなとの間に温度差を感じて少しさみしい。
さすがに、こんな気持ちでは役に立たないだろう。
「……ふう」
俺は息を一つつき、軽く目をもむ。さすがにきついものがある。少しばかり眠ることにしよう。
目的地についたら起こしてくれるようタバサに頼むと、俺は自分の腕を枕に横になった。疲れていたのだろう、そうしていると幸い眠気はすぐ来たので、俺はそれに身を任せることにし、意識を手放した。
「…………ん?」
ゆさゆさと体を揺さぶられている感覚で目を覚ました。目を開けて一番に目に入ったのはタバサの顔。まあ、タバサに起こすように頼んだのだし当たり前か。
……どうでもいいが起きてすぐに、美人さんを見ると一日幸せに過ごせる気がするな。ちょっと得した気分だ。
体を起こし、周りを見渡すとみんなが降りる支度をしている。ってことは、もうすぐ目的地に着くのか。外を覗いて見れば、いつのまにやら随分と木が生い茂っている。俺が寝ているうちに、随分と森の奥の方にやってきたみたいだな。ここがロングビルさんの言っていた所だろう。
それからすぐにここからは徒歩で行くべきだとロングビルさんが言い、反対する理由もないのでそれに従いみんなでぞろぞろと歩き出した。歩いている間、何があったか知らないがサイト君を取り合ってルイズとキュルケがギャーギャーと騒いでいた。何時のも事ながら、実に青春ぽい光景だ。俺が女で、かつ寝起きでなければ『まーぜーてー』って言いながら飛び込んでいたかもしれない。そんな事を考えながら歩いていると前方に廃屋が見えてきた。あれがロングビルさんが言っていたフーケの隠れ家ってやつだろう。
それにしてもこうして実際に目にすると、いい年して秘密基地を実際に作ってしまったフーケに、俺は感動を禁じ得ない。まあ、ロングビルさんの嘘なんだろうけど。俺も今度どっかに秘密基地を作ってみるかな。
廃屋の近くの茂みに身をひそめ、これからどうするかを相談する。
「で、どうするべーよ」
「偵察をするべき」
「って事はこーゆーのはすばしっこいサイト君だな。ほれ、行ってこい、キミに決めたから」
「え?え?」
「相棒、俺も鞘の中に入れられっぱなしでなまってたんだ。いっちょ、偵察でも何でもしてやろーぜ」
俺が廃屋の偵察をサイト君に頼むと二つ返事で請け負ってくれた。意思疎通が上手くいくのはなんと気持ちが良いのだろうか。周りを調べてきますと言ってどっか行っちまったロングビルさんにも見習って欲しい物だ。
ガンダールヴの力を使い、サイト君がすごいスピードで廃屋に近づいていった。そして、窓から中を覗き、特に危険要素はなかったらしく、手で俺達を呼んだ。
ロングビルが周りを見回っているだろうとはいえ、万が一の時のためにルイズをドアの外に残し他の四人は中へと入る。
廃屋の中は、思ったほど廃屋してなかった。……つまりぼろくはなっていなかった。埃こそ積もっているが掃除すればまだまだ住めそうなくらいには、きちんとしている。そして、埃が積もっているということはここはしばらく使われていない、ということだ。俺の考えが合っていたようでホッとする。後は、適当に家捜ししてから学院に戻って、すでにフーケは逃げた後でした、って報告すれば終わりだ。良きかな良きかな。ありがたい話だ。
「あった。破壊の杖」
……えー。
「本当にこれが破壊の杖なの?ずいぶんあっさり見つかったけど」
「間違いないはず」
「……」
「……」
破壊の杖を前に話し合っている二人をよそに、俺とサイト君は黙っていた。
学院長には破壊の杖のだいたいの見た目とその威力、どうやって手に入れたのかを聞いただけだったのでさすがにこれには驚いた。何せ破壊の杖というのは俺の記憶が確かなら、俺やサイト君がいた世界にあった対ゾンビ用最終兵器、ようはロケットランチャーのことだったからである。それに盗まれた物が実際にここにあったということは、俺の推理は完全に間違っていたということになる。
……いやな予感がする。早くここを離れた方が良いような、そんな気が。
「……まあ、いいや。見つかったんならさっさと帰ろうぜ。こんな陰気な森の中にいつまでもいたくねーや」
考えていても仕方がない。俺は破壊の杖を掴むとみんなにそう声をかけた。何はともあれまずは戻って破壊の杖を取り戻したことを報告しよう。そして、みんなで廃屋出ようとした時、ルイズの悲鳴が聞こえた。その理由は考えるまでもなく、すぐにわかった。
何故なら恐ろしい破砕音と共に小屋のドアや屋根破壊され、そこから三十メートルはあろうかという土でできたゴーレムがこちらをむいていたからだった。
前回までのあらすじ
死にそう。
「まずは外に出るぞ!」
こんな狭い所では、対処のしようがない。急いで廃屋の外に出た俺達は、ゴーレムへ失敗魔法で攻撃していたルイズを捕まえると、ゴーレムと距離をとった。そうすることで今から俺達が戦わなくてはならないだろう相手の姿が明確にわかった。
前回見たときは薄暗い真夜中だったためよくわからなかったが、いざこうして見るとでかい。目測だが30メートルはあるだろう。メイジ一人で作るゴーレムとしては最大級だ。フーケのことを賊ごとき、と先生方はバカにしていたがそんなことはない、これを一人で作ったのならフーケはトライアングル、いや下手をすればメイジの実力としては最高峰であるスクウェアかもしれない。
「タバサ!使い魔のドラゴンを呼んでくれ!確か連れてきていただろ!悪いんだがサイト君はあれの足止めを!たぶん俺達じゃ敵わない」
「わかった!」
「もう呼んである。それで?」
「さっすが!じゃあキュルケとルイズを乗せて空中に待避していてくれ。あれは俺とサイト君でなんとかする」
「バカにしないで!私だって……魔法が使えなくったって私は貴族なのよ!それなのに敵を使い魔に任せて、背中を見せて逃げるなんてまねできるわけないでしょ!」
貴族令嬢三人に対して避難するよう言ったが、ルイズはその意見に反対してきた。この危機的状況でそんなこと言わないで欲しい。これじゃあ速攻でタバサのウィンドドラゴンの上へと非難したキュルケがかっこわるい感じになってしまう。それにしてもこんなことになるなら俺の使い魔も連れてくればよかった。あいつには学院周辺の地理を憶えさせるため、留守番させてきたからな。
「……そうじゃない。適材適所ってやつだ。ルイズ達は上空からフーケを探してくれ。この近くでゴーレムを操っているはずなんだ。頼むよ、ルイズ。誇りを優先して状況を見間違えないでくれ!」
「……わかったわよ」
なんとか説得して三人を避難させることはできた。まったく少しは考えて欲しい。今回来た六人の中で、あの三人だけは怪我をさせるわけにはいかないのに。
タバサとキュルケはそれぞれガリアとゲルマニアの貴族だったはずだ。留学先の他国で、自国の貴族が賊に殺された、怪我をさせられた。しかもそれは学院の尻ぬぐいのため、そのうえフーケなんて危険人物がいるであろう場所に行くことを学院長が許可していた。
……下手しなくても外交問題になる気がする。
ルイズの方はもっとわかりやすい。公爵令嬢が怪我した、なんてことになったらこの場にいる唯一ルイズと同国の貴族である俺が、貴族社会的にヤバイ。
つまり、この場は俺とサイト君の二人でどうにかしなくてはならない。
まずはあれだろう。サイト君にこの破壊の杖でゴーレムを攻撃してもらう。一撃とはいかなくてもかなりの大ダメージを与えることはできるはずだ。そうすれば時間が稼げる。できればその間にタバサ達がフーケを見つけてくれるのを祈るばかりだ。
「サイト君!ちょっと来てくれ!」
そう俺はゴーレムの足下で戦っているサイト君に叫んだ。だが、戦いに必死で聞こえていないらしい。これは、俺の方から近づくしかないか、と気を入れ直しサイト君の方へ一歩踏み出した所、ゴーレムの拳がうなりを上げて彼にたたき込まれるのが見えた。デルフを盾にしてなんとか受けたようだが、もともと威力がすさまじかった上に直撃の瞬間ゴーレムの拳が鉄へと変えられたようで、サイト君はこちらへと吹っ飛んできた。
「サイト君!大丈夫か!?」
「っつ!っと。ああなんとかな。だけどこのまんまじゃじり貧だ。あいつ削っても崩してもすぐに直るんできりがねえ。どうしたら……あっ!それ破壊の杖……だったか?アシル、それ貸してくれ」
そう言うと俺の手から破壊の杖を取り、ゴーレムへと向けた。そして発射に必要なのであろう細々とした操作を行うと肩に担ぎ、トリガーを引いた。思っていたよりもぱっとしないロケット状のタマが発射され、ゴーレムに当たると爆音と共に破裂した。
「うおっ!」
爆発による土埃が収まると、そこには上半身が吹っ飛んだゴーレムがいた。
……いくらなんでもあっけないな。さすがに木っ端みじんというわけにはいかなかったようが、ロケットランチャーってこんなに強い武器だったのか。
だけどこれはチャンスだ。回復される前にとどめを刺せば……。
「ん?」
ゴーレムはそのまま数歩歩くと、膝から崩れ落ちた。どうやら、有る程度以上の破損は直せないようだ。
「やったな!」
「つってもサイト君以外特に何もしてないけどね。後はせいぜいタバサのドラゴンくらいか、役に立ったの。あとさサイト君、もしかしてその破壊の杖って単発式だったりする?」
「ああ……そうだけど。アシルもこれがなんだか知ってるのか?」
「まさか、学院長の話からすればたぶんそうだろうなって。後サイト君もしかしたらこの後少しばかり面倒なことになるかもしれないけど、その時は頼むね。俺が杖投げるのを合図に斬りかかってくれ」
「それってどういう……」
そうサイト君が疑問を言いかけた時、空から女性組が戻ってきた。そして、キュルケがサイト君に駆け寄り、抱きついた。それにまたルイズがぎゃーぎゃー文句をつけている。一人でゴーレムの残骸を調べているタバサとの温度差がいつものことながらすごい。二人にまとわりつかれて大変そうなサイト君から、俺は破壊の杖を受け取った。たぶんこの後、俺の考えている通りに事態が動けば必要だからな。
「ミスタ・アシル。それが破壊の杖ですか。一応確認をしたいので見せてもらってもよろしいですか?」
「ええ、もちろんですよ。ミス・ロングビル。どうぞ」
いつのまにか戻ってきていたロングビルさんに、俺は言われた通りに破壊の杖を渡した。彼女はそれを受け取ると俺達から少しばかり離れ、こちらへと破壊の杖を向ける。先ほどまでの柔和な表情が嘘のように無くなっている。ルイズ達も異常に気づいたのか騒ぐのをやめて、彼女の方を見ている。距離的に、渡した俺が彼女と一番近いので、俺が話をする。
「なるほど。あなたがフーケだったんだな。ミス・ロングビル」
「ああ、そうさ。気づくのが少しばかり遅かったね。もう少し早ければ破壊の杖があんた達に向けられることもなかっただろうに。まあ、度胸は認めるよ。破壊の杖を向けられてもあんた震え一つないようだしねえ」
「確かに、少しうかつだったな。しかしあんな威力の物がそちらの手に渡ったんじゃもうどうしようもないからな。死ぬ前くらい気合いいれるさ。度胸があるんじゃなくて諦めがいいだけだよ」
それだけ言うと顔を手で覆い、ため息を一つつく。そして顔をおこすと一つの問いを投げかける。
「最期に一つだけ教えてくれ。なんでこんなことをした?こんなことをしている暇があったのなら、そんなもんさっさとどっかの好事家にでも売っぱらえばよかったのに」
「ああ、それはね……」
フーケが理由を話しかけた時をねらい、俺は杖を相手の顔めがけて投げつけ全速力で走り寄る。フーケはいくらか驚いたようだったが、首を振って冷静に杖をよけ、近づいて来ていた俺に破壊の杖を向け、その引き金を引いた。
「なっ!!」
それでも何も起こらないことに驚愕の表情を浮かべたフーケの顔面めがけ、俺は握った拳をたたきつける。
「ちぃっ!」
だがさすがにインドア派の貴族のパンチなど簡単によけられてしまった。しかし、ずいぶん雑だったとはいえ、打ち合わせしておいた通りにガンダールヴを発動させたサイト君がデルフをフーケの腹に打ち込んだ。鈍いうめき声を上げて倒れたフーケから破壊の杖と、普通の杖を取り上げているとルイズ達が近寄ってきた。ずいぶん物事が早めに進んだせいか少し混乱しているようだ。
「よくわからないんだけど……ミス・ロングビルがフーケだったってことなのよね?気づいてたんなら早くいいなさいよ!本当に死ぬかと思ったんだからね!」
「無茶言うなよ、ルイズ。気づいたのはついさっきなんだ。それに証拠が無かったからな。破壊の杖を渡せば目撃者消すためにこっち向けて撃ってくれるかな、って考えてたらぺらぺら自白しだしたからな。運が良かったよ」
「でも破壊の杖が発動してたらどうするつもりだったのよ。だいたいなんで何も起こらなかったの?故障?」
「いや、キュルケも破壊の杖撃つ前にサイト君がなんかごちゃごちゃやってたの見たろ。つまりこれ使うのには特殊な準備がいるわけだ。フーケがこんな芝居うったのも、大方その準備がわからなくて使い方がさっぱりだったからだろう」
「つまり、その準備をしなかったから動かなかったということ?」
タバサがそう、声を問いかける。
俺はその言葉に、そういうことだ、と答えると話を続けた。
「後はまあ、これは何かって話だが……、スケベに泥棒とはいえ学院長もフーケもメイジとしては一流だ。その二人でも使い方がわからないってことはこれはマジックアイテムじゃない可能性が高い。なら、マジックアイテムではない、ってのを頭に置いて見てみればいいさ」
軽く持ち上げるようにして、破壊の杖を他の奴らにも見えるように掲げた。
「筒に持つ部分が付いていて、ついでに引き金も付いている。キュルケ辺りは、こんな武器に見覚えあるんじゃないか?」
「……なるほど、銃ね」
そうゆうこと、と俺は一つ頷いた。
「事実サイト君が使ったときは変な形の弾が発射されたしな。つまりこれは銃の発展系ってことだ。そこまでわかれば話は簡単だろ。学院長の話からすればこれは恩人さんの持ち物で同じ物を二本持ってたって話だ。単発式じゃないなら同じ物を二本持ち歩くより、これと弾を持ち歩くのが普通だろ。でもそうじゃなかった。そんな考えからこれは単発式の銃だと俺は考えたってわけさ」
そう言うと俺は破壊の杖をルイズへと向けて、引き金をひいてみせる。当たり前だが何も起こりはしない。それを肩に担ぐと、俺は笑いながら言う。
「な?つまりこれはもう弾切れなんだよ、動くわけがねえ」
まあ、こんな穴だらけの推理サイト君って裏付けがなくちゃ、行動には移せねえけどな。
しかしフーケは捕まえた。破壊の杖も取り戻した。おまけにサイト君が擦り傷くらいはしているかもしれないけど、目立ったけが人もいない、と。上々どころか最高の結末だ。
持ってきていた縄でフーケを縛り上げると、レビテーションで浮かび上がらせる。
それを見てルイズが声を上げる。
「じゃあ、帰りましょうか!」
それを締めとして、俺たちは馬車へと乗り込んだ。