それなりに楽しい脇役としての人生   作:yuki01

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更新スピードも最初の方は随分と飛ばしてましたが、最近は忙しくて遅くなってきています。
一週間以内に更新していくと言ったので、できるかぎりそれを守ろうとは思っています。


八話   ラ・ロシェール

「おい、ギーシュ。よくバラくわえてるけどそれって美味いの?一本くれ」

 

「これは僕の美しさを引き立てるための物だよ、食用じゃない。……さっきから変な事ばっかり言ってるけど大丈夫かい?ずいぶん疲れてるように見えるけど」

 

 疲れるのも当たり前だ。かれこれ半日以上馬に乗っているのだから。それだけならともかく前方には、新キャラのワルドさんが余裕しゃくしゃくのうえ、微妙にルイズといちゃつきながらグリフォンに乗っているのが見えるし、さらにそれを見てサイト君の機嫌もどんどん悪くなっている。正直意味のないことでもぐだぐだとしゃべってないとやってられない。だいたいモテるイケメンとか、見てると腹の立つ生き物はできれば俺の視界に入らないでほしい。具体的に言うと、ワルドさんには俺の視界に入らないでほしい。

 

「すまないがもう少し急いでくれないか!あまりに遅いと置いていってしまうよ!」

 

 こっちの気も知らずにそうワルドさん……もう呼び捨てでいいや、ワルドが怒鳴った。馬とグリフォンじゃ地力が違うってことをあの人わかっているんだろうか。あんたがあんまり飛ばすからこちとら二回も馬を変えているってのに。こっちの苦労もわかってほしいもんだ。

 

「「……やってらんねえ」」

 

 そうつぶやいた俺とサイト君は、ぐったりと馬の首にもたれかかった。

 

 

 

 あれからまたずいぶんと馬を走らせ、俺達はアルビオンへの港町、ラ・ロシェールの入り口付近に着いた。日は沈みしばらく前に沈んでしまい、もうあたりはすっかり暗くなってしまっている。

 

「港町目指してるんじゃなかったっけ?さっきから山登ってるような気がするんだけど」

 

「ああ、サイト君は知らないんだっけか?あー、まあ行ってみりゃわかるよ」

 

 だるすぎて説明するのもめんどくさい。まあ、もう少しで着くらしいので、気分的には幾分楽になってきたが。

 そんな事を虚ろな目をして、馬にもたれかかりながら考えていたところ何故か目の前に松明が落ちてきた。急に火を見たからだろう馬が驚き、暴れたせいで振り落とされてしまった。

 

「敵襲だ!!」

 

 そのワルドの一声を合図にしたかのように松明と矢が大量に飛んできた。 疲れて落馬したところへの不意打ちの急襲、情けない話だが俺にはなんの反応もできなかった。それに俺が頑張る必要はないだろう。なにせ、

 

「大丈夫だったかい?」

 

 こちらには風のスクウェアがいるんだからな。ワルドが杖を振ると突風が吹き、矢も松明も吹き飛ばしてしまった。グリフォンに乗って体力を温存していたのだし、これくらいはやってくれないとな。それにどうやら頼もしい助っ人も来たようだ。

 

「う、うわあああ。竜だ、くそがっ!竜がいるなんて聞いてねえぞ!」

 

 矢が飛んできたがけの上の方からそんな悲鳴が聞こえると共に、人が転がり落ちてきた。上を見上げればそこには二つの月を背景にタバサの使い魔であるシルフィードがいた。上にはタバサとキュルケが乗っているようだ。夜目のきく使い魔であるフクロウと感覚の共有をしていたので早めに気づいた俺はともかく、それ以外の人にとっては、ずいぶんとかっこいい登場だと感じたことだろう。全く、タバサもキュルケも美人で優秀で登場のタイミングまでも良いとは……どれか一つくらい俺に分けて欲しいもんだ。

 俺はため息を一つついて立ち上がった。そして服やマントについた土ぼこりを払いながら、賊が言っていたことを思い出す。

 『聞いてねえぞ』……。さっきの賊が言っていたセリフだ。言った奴にこの状況、どう考えたって予想できることは一つしかない。容疑者も思いつくのは一人だけだ。といっても、推理小説のように『犯人はこの中に』っていう訳でもないのだから、俺の知らない誰かの手引きの可能性の方が遥かに高いっちゃ高いが。

 まあ、どうでもいいか。

 なにせ証拠はもちろん無いうえ、動機もわからん。そんな難しいこと考えるのはまた今度として、今は……

 

「タバ公、俺もそっちに乗せてもらえない?」

 

 そう言って俺はまるでタクシーでも止めるかのように、右手を挙げた。

 

 

 

 それからしばらくして、ラ・ロシェールに付いた俺達はまず宿をとった。今はアルビオン行きの船があるかどうか聞きに行ったワルド待ちだ。

 それにしても疲れた。正直移動だけでこんなに疲れるとは思っていなかった。しかし軽く腰を叩きながら周りを見渡すと、疲れているのはどうやら俺だけで、他のみんなは案外ぴんぴんしている。

 よく考えたら、それもそうか。竜やグリフォンで来た奴等はそら疲れてないだろうし、ギーシュは軍人の家系、サイト君はあれで結構体力も根性もあるからな。ほんとなんで俺連れてきたんだか。きっとあの姫様には人を見る目が無い。

「おっとっと」

 倒れはしなかったが、少しよろめいてしまう。そういえば食事もろくにとっていなかったんだった。

 まずいな、本格的にくらくらしてきた。先に部屋戻って休ませてもらおう。このままじゃ何か起きたとき、足手まとい以下の存在になるのは間違いないしな。まあ、万全の状態でも役に立てるとは言い切れないが。

 

「皆、悪いんだけど、疲れたんで先に部屋に行って休んでるわ。なにかあったら起こしてくれ」

 

 さすがにこれからすぐに出発ってこともないだろう。俺は頼み事に対する了承の返事をもらうと部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

「……やべえ」

 

 起きてみたら何故か夜だった。まさかとは思うがまる一日寝ていたんだろうか、起こしてくれてもよかったんじゃないかと思うんだが。

 下の食堂で騒いでいたギーシュにそう言ってみたところ、

 

「いや、一応朝起こそうとはしたんだよ。でもきみ、用もないのに起こしたんだったらはっ倒すぞ、ってすごい目付きで言ってきたからさ、出発は明日だって話だし寝かせておいてあげようと思ってね」

 

 ……それはどう考えても俺が悪いな。

 

「……悪いな、親切で起こしてくれたのに気を悪くさせるようなことしちまって。ごめん」

 

「はっはっは、別に気にしてないさ。それにしても普段ひょうひょうとしているきみでもあんな顔をするんだな、少しばかり驚いたよ」

 

 ……あれ?もしかしてギーシュって良い奴なのか?女好きという評判を聞いて偏見を持っていたのかもしれないな。

 とりあえず俺は酒を片手に、俺が寝ている間に何かあったかどうか聞いてみた。が、サイト君とワルドが決闘まがいのことをして、サイト君が負けたくらいで、他にはこれといって特に何もなかったようだ。まあ、決闘そのものは見ていないし決闘の理由も知らないらしいが。大方ルイズの取り合いとかそんな理由だろう、アホくさい。

 それにしてもピンク色の女の子のために頑張るヒゲとかどこの配管工だよ。杖持ってサイト君と闘ってる暇があったら、キノコ持ってカメと闘ってろよ。

 それからしばらくキュルケとタバサも含めた四人で飲んでいたら、武装した男達が入口を蹴破るような勢いでなだれ込んできた。

 

「隠れて!!」

 

 とっさにキュルケが、俺達で使っていたテーブルの脚を折り、それを立てて盾のようにした。これで油断さえしなければすぐにやられる、ってことはないだろう。

 ……そこからが長かった。ワルドが加勢に来てくれたのはよかったんだが相手も手練れの傭兵かなにからしくこちらの魔法の射程を見極めると、その外から矢を射かけてくるという嫌らしい戦法を使ってきた。あげくのはてにバカでかいゴーレムは現れるわ、上の方から破壊音はするわ……。破壊音がしてすぐ上から駆け降りてきたルイズとサイト君が言うにはこの襲撃にはフーケが参加しているとのこと。しかもその近くには謎の仮面の男もいたらしい。まったく冗談じゃない。こんな場面に出てくる怪しい男は頭が切れる実力者だと相場は決まっている。そんな奴が敵側にいるなんて面倒な予感しかしないぞ。

 

「これではらちが明かないな……」

 

 そうワルドがつぶやいた。そう思ってるのなら、お強い風のスクウェア様らしくなんとからちを明けてもらいたいもんだけどな。

 しかし、どうしたもんかね、こちらは全部で七人だ。傭兵を返り討ちにするには少なすぎるし、なんとか逃げだしてあいつらを撒き、ちゃっちゃと船に乗ってアルビオンへ行くには多すぎる。どこかで見つかるか、遅れた奴が捕まるのが関の山だろう。すると一番ベターなのは足止めとアルビオン行きの二組に分かれることなんだが……どうもあの「聞いてねえぞ」の一言が引っかかる。……しかたない、こうしよう。

 

「みんな聞いてくれ」

 

 とりあえずそう言ってみんなの意識をこちらに向けさせると、俺は自分の分散するべきだという考えを伝えた。

 

「なるほど、確かにそうだね。僕もそう提案しようと思っていたところなんだよ。では……」

 

「当たり前のことですがワルド子爵、ルイズ、サイト君はアルビオン行きでしょう。逆に他国の貴族であるタバサとキュルケは足止めの方がいいと思います。シルフィードがいますし、二人ともトライアングルなのでなりふり構わなければ逃げること事態はそれほど難しくないはずです。あとは俺とギーシュですが、治癒のできる水メイジである俺がアルビオンへ、ワルキューレなど多数と戦うことができる魔法が得意なギーシュが足止め、というのが妥当だと思いますが。いかがでしょうか、子爵?」

 

 この俺の考え多少ワルドに反対されたが、最終的には採用された。ワルドがしゃべろうとした所を遮って自分の意見を話したのは失礼だったとは思うが、彼にまかせると自分とルイズだけでアルビオンに行くといいだしそうだったので仕方がないだろう。あと、どうもワルドが怪しく感じるので行動を共にしておきたいというのも理由の一つだ。それに……ラ・ロシェールに着く前に待ち伏せをして襲い、着いてからも傭兵を雇い襲撃させる、そんなことをするやつがこれで手じまいってのは考えにくい。おそらく船までの道にも追っ手が潜んでいるはずだ。俺たちが二組に別れることまで読んでいたならそちらには手練れの者がいる可能性が高い。もしかしたらルイズ達が言っていた仮面の男が直々にかかってくるかもしれない。それが俺の狙いだ。とりあえず見てみないことには対策が立てられないからな、ワルドがこちらの味方であるうちにそいつに会っておきたい。まあ、これがこんな分け方にした本当の理由だ。

 

「じゃあ僕たちは裏口から桟橋を目指すから、奴等の注意を引き付けてくれ。じゃあ頼んだよ」

 

 ワルドはキュルケ達にそう言うと俺達に対しても気を付けるように言い、ルイズをかばいながら風のよう先に行ってしまった。

 ……それにしてもラ・ロシェールに来るまでといい、ルイズ偏重主義もここまでくると立派なもんだ。つーかあいつフェミニスト通り越してただのロリコンなんじゃないのか?なんか初めて会った時からルイズを見る目が変だった気がするしなあ。

 

「はあ……、まあいいや。じゃあ、キュルケにサマンサ・タバ公、行ってくるわ、フォロー頼む」

 

「わかった」

 

「はいはい、ダーリンも頑張ってね」

 

「ああ、二人も気をつけてな」

 

「いや、僕もいるんだがね……」

 

「いいからもう行くぞ。ほら、サイト君が先行してくれ」

 

 俺とサイト君はタバサのフォローによって、矢を防ぎながら通用口へと向かった。

 




改訂したものをのっけているだけなので、以前の物を読んでいてくれていた人は、展開などを知っているとは思います。
一応まだ投稿していないのがいくつかあるので、展開を変えることはできませんが、何か気になったことがあれば感想を付けてくれるとうれしいです。
やっぱり感想がついているとうれしいので。もちろん批評も大歓迎です。

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