腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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15話 元宮廷魔術師長アリアデス ★

「初対面で恥ずかしいところを見せてしまったね。死んだと思っていた弟子が腑抜けた面でやってきたものだから、衰えていないか力試しをしたくなったのだよ」

「そ、そうですか……」

 

 魔術師の力試しが肉弾戦でよいのだろうか。そうは思ったが、ここにたどり着くまでの修行を思い出し「きっと自分に分からないだけで、あれにも魔術が応用されているんだろう」とジュンペイは自分を納得させた。

 

(そういえば俺と戦った時も、リアトリスよく動いてたもんな……)

 

 それこそ初対面時、失礼を通り越して自分を真っ向から倒そうとしていた嫁の猛攻を思い出す。

 あの時も操る魔術の多彩さに加え、それらをあらゆる角度から打ち込んできていた。更にはそのあと人間の足では歩きにくい腐朽の大地を、途中までは自らの足で進んでいたわけだが……。この老人とのやり取りを見れば、それも納得できる気がした。鍛えられているわけだ。

 それにしても対面に座られているだけでも筋肉が発する圧が凄い。ちゃっかり離れた位置に陣取ったユリアがうらやましかった。

 ちなみにリアトリスであるが、不満げな顔で彼女の師匠……アリアデスの老人とは思えない肉体に手を添えて、肩を揉んでいる。

 

「泣いて喜んで生還を感動してくれる知り合いが一人もいないわ……」

「ふふっ。それはリーアちゃんがそう簡単に死ぬと思ってないからよ~」

 

 人数分の茶を用意し各人の前に置いていくアリアデスの孫、シンシアはそう言ってクスクスと笑う。

 ちなみに広い屋敷であるが、住んでいるのはこの二人だけのようだ。今のところ使用人らしき人影は目にしていない。

 

「ところでジュンペイくん……と言ったかな。いや、"くん"だなどと失礼か」

「いや、別にいいけど……いいですよ」

「ではお言葉に甘えさせていただくが……。腐敗公であらせられる君だが、本当にこの子が嫁でいいのかい?」

 

 先ほどリアトリスがジュンペイの事を軽く紹介した際に、ジュンペイが腐敗公であることも告げていた。

 軽い紹介で話す内容ではないとは思ったが、あっさり納得されたどころか「本当にお前が腐敗公か」と問われる前に、嫁に関して質問されるのも予想外である。……しかし今の口ぶりからして、彼はジュンペイが腐敗公だということ自体は疑っていないようだ。

 今まで散々恐れられてきただけに、外へ出てからの周りの反応に戸惑いっぱなしである。リアトリスの知り合いが特殊なのか、それともやはり見た目なのだろうかと、ジュンペイは多少憂鬱な気分を味わう。

 が、アリアデスの問いにははっきりと答えた。

 

「もちろん」

「本当に? この子は君を利用する気だ。世界最強と言っても過言ではない君を、人化という餌で釣って好意を向けさせている。そこに愛はあるのかね」

「ちょっと師匠。ろくすっぽ話さないうちに、なにをいきなり……」

「なんというか、いきなり問いかけがヘヴィーですね」

 

 リアトリスが文句を言いユリアが軽口を叩くが、アリアデスは答えずジュンペイだけをまっすぐに見ている。ジュンペイもまた、これは目をそらしてはいけない場面だと察しその薄い紫色の瞳を見返した。

 

「感謝と依存、愛情をはき違えてはいないか」

 

 更に言葉を重ねたアリアデスに対し、ジュンペイは答えを紡ぐ。

 

「……その感情が全部、混ざっていることは否定しない。だけど俺にとってリアトリスは一緒に幸せになろうって、手を取ってくれた相手です。俺はそれが嬉しかったし、幸せだと思った。利用するならすればいい。リアトリスも俺に自分を利用しろと言った。…………でも俺がリアトリスを好きだと思ったこの感情に偽りはない。もしリアトリスの方にその気が無くったって、いずれ振り向かせるし惚れさせてみせる」

「まあ」

 

 ジュンペイの言葉にシンシアが口に手を添えて嬉しそうな声をあげ「素敵な旦那様ですね」とリアトリスに言葉をむけた。リアトリスはそれに対し「段々と言葉の幅が広がって情熱的になっていくわねあの子……」と、嬉しいような複雑なような微妙な反応である。

 

(ジュンペイに言ったことに偽りはないけれど……。あの子の想いに、私は同じだけの熱量で応えてあげられるのかしら。あの子の事は大事だし可愛いし、これからも大切にするつもりだけれど……)

 

 ふとそんな考えが過る。そしてその心を見透かされるように、老爺の鷹のように鋭い視線が振り返り際に居抜いてきた。それに対し心臓が跳ねる。

 アリアデスはすぐにリアトリスから視線を外しジュンペイに向き直った。が、やはりこの師には未だ頭が上がりそうにないと再確認させられる。言葉にせずとも「よく考えろ」と釘を刺されたようだ。

 

「…………いや、申し訳ない。試すようなことを言った」

「いえ! アリアデスさんはリアトリスのお父さんみたいな存在でもあるんですよね? なら娘の婿に色々聞くのは間違ってないです!」

 

 熱心に「婿」を強調するジュンペイだったが、今さらになって先ほど口にした言葉が恥ずかしくなったのか、嫁に視線をちらちらと送りながら顔を赤らめてもじもじとし始める。

 その姿は非常に愛らしく、リアトリスはすぐにでも抱きしめたくなった。…………が、それはやはり夫へ、異性へ向ける感情というよりも……。

 

(あああああ! 私の娘、かっわいぃ~~~~! 違うって分かってるけど、かっわいぃぃぃぃぃ!)

 

 たった今師に釘を刺されたばかりだというのに、心を満たすのはそんな感情の乱舞である。

 

(でも、だって! 本当にあの子、ただでさえ理想の見た目なのに、中身まで可愛いとか! もう!)

 

 ちなみにジュンペイの見た目であるが、ぱっとしない金髪と彩度の低いこれまたパッとしない碧眼を持つリアトリスにとって何もかもが理想なのだ。ぱさついたリアトリスの比較的短い髪と違い、豊かにうねるはちみつのような黄金の髪に、宝石もかくやといわんばかりの煌めく碧眼。きつく人を寄せ付けない顔立ちと違って、甘く柔らかな美貌。

 理想と言っても自分がそうなりたいとは思わないが、「理想の娘」としては完璧なのだ。

 

「……なるほど。彼の見た目はお前が原因だな?」

「ふぇ!? あ、あの、師匠! そうやって喋る前にすぐ察するのやめてくれません……!? 私まだ何も言ってな……」

「ああ、では存分に語り合おうではないか。よく話を聞かせてくれ」

 

 言うなり、アリアデスはリアトリスの首根っこを猫でも運ぶように掴んで持ち上げた。

 

「時間がもったいないからな。二人きりで、鍛錬しながら話そうではないか。……シンシア、僕はリアトリスと話しているから、彼らを客室へ案内なさい。疲れているだろうから、お二方からはあとで話を伺おう」

「ちょ、ちょっと待ってください師匠! 私だって疲れて……」

「何?」

「ひう!」

 

 ぎろりと鋭い眼光に睨まれすくみ上ったリアトリスを見て、ジュンペイは知らず「お義父さんかっこいいな……俺もいつか、あんな筋肉の雄々しい体に……」とつぶやいていた。

 ユリアは久しぶりにまともな場所で休めそうだということに歓喜し、リアトリスについては両手を体の前で組んで「ご武運を……」と笑顔で述べていた。薄情かつ現金である。

 

「見た様子、お前の体に疲労はたまっていない。魔力の体内循環の精度は以前より上がっているようだな。素晴らしい。……だからこそ今の実力を確かめたいという、師の申し出を断るのか?」

「そ、そんな。まっさかぁ~」

「うむ。では行くぞ。何もない館ですが、お二人はごゆるりと休まれよ」

「は~い! ありがとうございます! リアトリスさん頑張ってくださいね!」

「ごめん、リアトリス。頑張って」

「リーアちゃんの部屋も準備しておきますね~」

 

 自分に好意を向けてくれている二人と友人に見放され、リアトリスは陸に打ち上げられた魚類のような顔で、アリアデスに何処かへと連れ去られていった。

 

 その後しばらく……館のどこからか、激しく打ち合っているような打撃音が響いてきたという。

 

 

 

 

 

 

「わぁ、素敵なお部屋ですね!」

 

 案内された客室でユリアは歓声をあげてはしゃぎまわる。彼女がこの世界にやってきてから過ごしてきた「聖女様」待遇の部屋も素晴らしいものだったが、そことはまた趣が違う。

 いかにも年頃の少女に媚を売るような、今思えば胸焼けするような甘々とした調度品に囲まれていた部屋と違い……アリアデスの館の客室は、不思議な形の家具や飾りこそ多いものの、温かみのある内装となっていた。

 

「ふふ、ありがとうございます~」

「この館ってずいぶん広いですけど、使用人さんとかは居ないんですか? このお部屋とかさっきの応接間、綺麗にされてますけど」

「たしかに……。でも俺が感じる限り、この屋敷に他に人間は居なさそうだぞ。動物っぽいのはちょこちょこ居るけど」

 

 ユリアが抱いていた素朴な疑問に、同じく気になったのかジュンペイも不思議そうにつぶやいた。

 さらっと魔術が施された館内の生物の気配探知を行われたことにシンシアは少々肝を冷やしたが、すでに相手の正体を知っていればこそ、抱くのは恐怖ではなく納得と尊敬だ。

 

「さすが、腐敗公様であらせられますね。おっしゃる通り、この館にはわたくしと祖父しか住んでおりません。家事はわたくしと祖父もいたしますが、掃除などは主に使い魔に任せているのですわ」

「使い魔! 魔術師っぽくていいですね!」

 

 素直にはしゃぐユリアを微笑ましそうに見ると、シンシアは「わたくしは夕食の用意をしますので、時間まで好きにくつろいでいてください。客室は全て扉で繋がっているので、どれでもお好きな部屋を使ってくださいませね」と述べてその場を去った。

 

「そういえば、お前と二人になるのって初めてだな」

「いやん、エッチ! 離婚したっていうのに襲う気ですか? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

「襲うか! 誰がエッチだよ! 俺の嫁はリアトリスだけなの! つーかエロ同人ってなんだよ!」

 

 自分の体を抱きしめて身をくねらすユリアに、ジュンペイは全力で否定の言葉を叩き込んだ。現在彼は長い髪の毛を複雑に編み込んでひとつにまとめているが、それがほころびる勢いで首を横に振る。

 

「あ~あ、リアトリスさんが丹精込めて編み込んだのに崩した~。い~けないんだ」

「あのさ、なんでお前俺にそこまで遠慮が無いの?」

「え、そうですかぁ? ごめんなさい! ふふっ」

 

 まったく謝罪の意を感じない言葉に、思わずぐったり脱力するジュンペイ。気が抜けて人化の術が解けてしまいそうだ。

 しかし次にユリアが口にした言葉にピクリと反応する。

 

「それにしても、エロ同人は伝わらないか……。でもカタカナ言葉は理解してるみたいだし、やっぱり……」

「……? お前、何を」

「ズバリ聞きます」

 

 問いかけをさえぎって、目の前に不躾にも自分を指さす白い手が迫る。思わずそれにのけぞるが、ユリアの次の言葉にジュンペイは身を固くした。

 

 

 

「あなたは、私と同じ世界からの転生者ですね? "ジュンペイ"くん」

 

 

 

 

 

 

 




※リアトリスとジュンペイの全身イメージ図を描きなおしました。

リアトリス
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ジュンペイ
【挿絵表示】
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