腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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17話 襲撃

「ジュンペイあんた、もしかしたら食料扱いされるかもしれない」

「リアトリス! 俺、人間だったかもしれない!」

 

 合流し真っ先に互いにとっての最重要事項を報告するあたり「信頼関係は出来ているんだなぁ」と納得するユリア、アリアデス、シンシア。互いに事情は違えどそこまで直接的に話すとは思っていなかっただけに、向ける視線はどこか生暖かい。

 

 この二人、ある意味すでに似たもの夫婦である。

 

 リアトリスが師にこれまでの説明を終え、ジュンペイがユリアにひとつの可能性を提示されたあと。夕食の準備が出来たからと呼ばれたこともあって、五人は食堂へと集合した。

 屋敷の規模のわりにこじんまりとして機能的な食堂では、それまで目にしなかった使い魔たちが、食器を運んだりシンシアの手伝いでせっせと働いている。

 その数は三体で、姿は犬と猫、熊に近い。普通の動物ではないと分かるのは、みな一様に足が無くふわふわと浮いて移動しているからである。その輪郭もどこか朧気だ。

 

「へえ、可愛いな」

「まあ、ありがとう。この子たちは、わたくしの使い魔なんですよ~」

 

 物珍しさに思わず猫型の使い魔を撫でたジュンペイが褒めれば、シンシアは嬉しそうに笑う。

 

「相変わらず、使い魔の扱いに関してはすごいわよねシンシアは」

「うふふ、リーアちゃんにそう言ってもらうと嬉しいですね~。まあ、わたくしはリーアちゃんと違って一芸特化ですけどね」

「あ、さっきも思いましたけど、その"リーアちゃん"って呼び方可愛いです! あだ名で呼び合うなんて、お二人は仲がよろしいのですね」

「? あら、リーアちゃんったら言ってないんですか。リーアの方が本名だって」

「え」

「え?」

 

 シンシアの言葉に反応した旅の連れに見つめられて、リアトリスは少々ばつの悪そうな顔になる。

 

「だって、今の私はリアトリスだもの。……ああ、もう。そんなに見ないでってば! 私は家名の他に、名前も一緒に師匠から頂いたの! あ~……ほら。アリアデスとリアトリス……響きが似てるでしょう? 占星術的に大成する名前に変えてもらったのよ」

「それもっと早く知りたかったんだけど!? 俺、リアトリスの夫なのに! え、じゃあ俺もリーアって呼ぶよ!? 可愛いから!」

「い、いいわよ呼ばなくて! あんたみたいに強い魔力の持ち主に前の名前で呼ばれたら、今の名前の効力が薄くなっちゃうわ」

「ええー!?」

「あら、じゃあ私は呼んでもいいですよね! リーアさ……」

「ユリアもダメ。あんた自分の"聖女"って肩書と能力、他者へ及ぼす影響をあんまり舐めない方がいいわ」

「ええー!?」

 

 きゃっきゃと会話を弾ませる女性陣を見て、アリアデスは深くため息をついた。自分はもう長い事生きてきたため、そう簡単に何かに対し動じたりしない。だが自分より経験が少ないはずの若者たちの、この肝の据わり方はなんなのだろうと。緊張感が無いともいえる。

 見た目が愛らしいとはいえ、きゃっきゃと話しているうちの一名は魔王すら逃げ出す大魔物なのだが。

 

「失礼、君は確かユリアさんと言ったね? 一応リアトリスから君の事情も窺っているが……」

「あ、自己紹介が遅くなり失礼しました! 私はユリア・ジョウガサキと申します。この間までルクスエグマで聖女として扱われていました」

「魔王ゲーデザハル討伐の功労者だな」

「まあ、まさか私の事を知っていただけているなんて!」

「まあね。……だが、君。リアトリスと、その師である僕を信じてくれたようで嬉しいのだが、その事はあまり公言しない方がいい」

「ええ、もちろん分かっています! 特別な肩書は時に厄介ごとを引き寄せますから。おっしゃる通り、私がリアトリスさんを信頼して、そのお師匠様であるアリアデス様も信頼してこその自己紹介ですわ」

 

 そう言って穏やかに笑うユリアからはたおやかな外見にそぐわない強かさと、芯の強さが窺えた。そしてもう一方のリアトリスの旅の連れである腐敗公を見れば、嫁にまとわりつきながら「リーア」と呼びたいとごねている。腐敗公ジュンペイは、見たところ純粋で素直な性格のようだ。

 

「お前は昔から、数こそ少ないが縁に恵まれているところがあるな」

 

 アリアデスは苦笑を漏らしつつ、「さあ食事にしよう」と家主として全員に席を勧めた。このまま立って雑談をしていたら、せっかく孫が用意してくれた晩餐が冷めてしまう。それぞれ会話に花を咲かせていた面々だが、言われてからようやくそれに気づいて席に着いた。

 

 

 

 

 そしてアリアデス邸での夕食の席にて。

 

「ところで、リアトリス。さっきの俺が食料にされるかもって話はなに?」

 

 時間経過と崖のぼりで魔力を消費した影響なのか、妙におぼつかない所作でナイフとフォークを扱うジュンペイ。どうやら分身体が不安的になってきているようだ。

 みかねて彼の目の前にあった柔らかそうな肉を切り分けてやりながら、リアトリスはまず何故自分が生贄などにされたのかを説明した。

 

「…………せっかく切ってもらったんだけど、その話って肉食べた後じゃダメだった?」

「あ、ごめん」

 

 上司に魔族の肉を食わせられそうになってキレて殴った。要約すればそんな内容なのだが、リアトリスは先ほどアリアデスに話したことでタガが外れたのか……そのくだりの前に、自分が仕事でさせられていた"魔族への見せしめを兼ねた捕虜魔族の加工"に関しても少しだけ話してしまったのだ。なかなかにえぐみを含んだその内容は、食事の席にふさわしいものではない。食の喜びを知った腐敗公も、流石に一度手を止めた。

 だが基本的に嫁に甘いジュンペイは「いや、それでも食べるけどさ……」と肉を口にする。それを見ていたユリアの感想が「お母さんに食べやすくしてもらってる幼児……」だったことを、彼が知らずに済んだことは幸いだろうか。

 

 ちなみにユリアだが、こちらは話を聞いても平然と肉をパクついていた。

 

「でも改めて考えたら、人間のたかが一国の王子がジュンペイを害せるはずないのよね」

「まあ、彼が腐敗公ならばそうだろうな」

 

 手ずから人数分のパンを切り分け、軽く魔術を用いて温めたそれを配りながらアリアデスも頷く。……隆々とした筋肉という視覚的な衝撃を抜きにすれば、この老爺の所作は非常に繊細だ。気配りも行き届いている。ジュンペイは密かにその様子を見て「男として人化するときに参考にしよう」と誓った。

 そしてリアトリスは受け取ったパンに遠慮なく木苺煮をたっぷりと乗せかじりつくと、うんうんと首を上下に動かし頷いた。

 

「誰もが倒そうとして、人間にも魔族にも勝てなかった相手よ。何百年も! 魔王ですら手を出さなかった最強の魔物だわ。 今ここに居るジュンペイは分身体で、本体は今も腐敗公に圧倒的有利な腐朽の大地に居るわけだし……。実際に戦った私が断言するけど、魔術が使えなくても地力と何もかもを腐らせて溶かす能力だけで十分強いわ。防御力も高いし自己回復力も一級品。何者かにいいようにされる可能性なんて、全く思い浮かびませんよ。ましてや、いくら異常者であってもあんな王子ごときに。……まあ、杞憂でしたね」

 

 ふんぞり返ってまるで我がことのようにジュンペイを自慢するリアトリスに、ジュンペイは照れていいのかどうか微妙な表情である。

 

(いいこと……なんだろうけど。嬉しい記憶で上書きされて、自分が嫌われもので……世界にとっては害悪そのものだってことを、忘れそうになる)

 

 この姿になってからというもの、時々自分がそんなたいそうな存在であったのかと疑問に思うのだ。そしてこの幸せな記憶がいつか泡沫のように消えてしまう可能性が脳裏をよぎり、少々憂鬱になる。

 そんなジュンペイを知ってか知らずか、おそらく知らないままに会話は続く。

 次に口を開いたのはシンシアだ。ほがらかな笑顔のままに、頬に片手をそえてしげしげと夫婦を交互に見つめる。

 

「リーアちゃん、本当にすごい旦那様をみつけたんですね~」

「…………いや、あのね? シンシア。見つけたんじゃなくて、最初は生贄として無理やり送り込まれただけだからね?」

「……ああ、そうでした~。でも結果的によかったじゃないですか~」

「そうだな。お前は性格に難があるから、もしもらってくれる相手が居てもオヌマくらいだと思っていたが」

「それは無い」

「それはわたくしがさせません」

 

 即座にリアトリスとシンシアが否定し、オヌマの適当ながらも面倒見がよい性格を知るジュンペイは「結婚相手の候補にあがるのは気に食わないけど、なんでそこまで?」と首を傾げた。そして話に上がったオヌマを知らないユリアは「穏やかなシンシアさんまでそんな食い気味に否定するなんて、どんなろくでなしなんだろう」と顔も知らない相手への評価を下げていた。

 

「…………それは、まあいい。しかしリアトリスよ。お前は現在唯一、腐敗公に好意を向けられている相手だ。彼がいくら強くても、お前が原因で危機に瀕する可能性を忘れてはならないよ」

「私が人質にでもなると? それこそあり得ませんよ!」

「その自信過剰なところが心配だというのだ」

「あの……」

 

 額に手を当てて深く息を吐き出すアリアデスに、ジュンペイはおずおずと問いかけた。

 

「俺、一応これまで世界の三分の一を生き物が住めない場所に変えてきたんですけど……。いや、不本意! 不本意ですけども! でもそんな魔物なのに、危険視とか……しないんですか?」

 

 初対面時も今も。アリアデスはジュンペイが、リアトリスに利用されることに関して心配をしてくれている。まだ会ったばかりの相手で、それも世界に災厄をまき散らしている魔物だというのに。

 どこか不安そうなジュンペイに、アリアデスは厳格な表情を緩める。可憐な少女の外見という事もあるが、その人格は好ましいものに思えた。

 

「たしかに君の力は強大だが、こうして意志を交わせる存在に恐怖など抱かないよ。ジュンペイくんは人柄もいいしね。それに僕の弟子が君の妻となり魔術の師となったのなら、今後世界は……少なくとも腐朽の大地に関しては、いい方向へ向かうと僕は信じるつもりさ」

「さっすが師匠! 優秀な弟子を信頼してくださってるんですね! どうよジュンペイ、この師弟の絆!」

「だがお前はその調子に乗りすぎるところと短気を直せ。エニルターシェ殿下の件に関しても、短気を起こさずその場だけこらえていれば、生贄になどされなかったものを」

「いや無理ですよ! ま、まあその件に関してはこうして結果が良かったんだから、いいじゃないですか。そのうちジュンペイがちゃんと魔術を使えるようになったら、師匠にもいい思いをさせてあげますわ」

「僕は今の暮らしで満足している」

 

 やれやれと首を振るアリアデスだったが、呆れこそしているがこの空間はあまりにも穏やかだ。ジュンペイはこそばゆさを覚えながらも、今は不安など感じずに……手に入れた幸せを享受しようと自分に言い聞かせる。もしこの幸せを手放す時が来ても、それは今ではないし……手放す必要がないくらいに、自分が頑張ればいいのだ。

 

 そう、頑張れる環境が今の自分にはある。ならばあとは、更なる幸せを目指しながら「目的」のある生を歩むのだ。

 

 そのためにも新たに知った自分の"前世"と呼ばれるものの可能性も話しておこう、自分に関することを全て知ってもらいたい。

 ……ジュンペイがそう、思った時だ。

 

 

 

 

 轟音と共に、アリアデス邸の天井が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 すぐさまアリアデスとリアトリスが結界を構築したため、誰も怪我こそしなかったが……。強力な結界で守られているはずの魔術師の館を誰が襲撃し、貫き打ち崩したのかと。警戒心をもって全員の視線が、攻撃が放たれたと思わしき瓦礫の向こう側へ動いた。

 崩れた天井の先……雲が散らばる夕刻の空には、血のような太陽光をさえぎる影が十数。逆光により目が慣れるまで非常に見辛かったものの、時代に目が慣れることによってその正体が露になる。影の正体……それは天馬にまたがる、輝かしい鎧を纏った戦士たちだった。

 

「聖女ユリア! あなたはご自分の役割を放棄した。その罪、万死に値する! 再び花嫁として、腐朽の大地に戻っていただこうか!」

 

 戦士たちの先頭に居た、他より明らかに抜きんでて素晴らしい装飾の鎧を纏った男が高らかに宣言する。

 

「あ、すみません。これ私の案件ですね。なにこのタイミング」

 

 先ほどまで食事に舌鼓を打ち、にこにこと笑いながらリアトリス達の話を聞いていたユリア。だが鎧の男を見た瞬間、その煌めかんばかりに美しい瞳は曇って淀み、表情はこれでもかというくらいに歪められた。屋内だというのに行儀悪くぺっと唾まで吐き出す有様だ。

 そして結界を解除しつつ、突然の暴挙にリアトリスの視線もきついものとなる。……それ以上に、今は呆れが浮かんでいたが。

 

「え、なにあれ馬鹿なの? いきなり人様の家吹き飛ばすとか馬鹿なの?」

「ええ、馬鹿です。殺して埋めましょう」

「あら、それは。ほほう……埋めていいのか……」

 

 一切の淀みなく本気の声色でもって相手を殺すと宣言したユリアに、リアトリスは値踏みするように襲撃者達を眺めた。

 

「魔戦騎士か。しかもユリア関係って事はルクスエグマの……」

 

 途端に、薄い唇がにんまりと三日月型に歪められる。そして突発的なことに関してまだ耐性が薄いながらも、リアトリスを守るように彼女の前に立ち両腕を広げていたジュンペイの肩にぽんっと手を置いた。

 

 

 

「ジュンペイ。いい機会だから、実戦を兼ねて魔術のおさらいをしましょうか」

「え?」

 

 

 

 唐突に新たな課題を提示され、最強の魔物はただただ困惑するしかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

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