腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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18話 実践授業と打ち砕かれた魔物の純情

 アリアデス邸を襲撃した者達の隊長……アッセフェルト・ダイナーは、大国ルクスエグマの魔戦騎士団天馬隊の隊長を務める男であった。

 国でも有数の権力を持つ実家の後ろ盾を有し、容姿にも恵まれた華やかな経歴の青年。……だが彼には唯一、人生の汚点ともいえるものが存在した。

 

 一年ほど前、ルクスエグマに一匹の"化け物"が召喚された。「化け物に化け物を倒させる」。それは人類の忌むべき敵、魔族を率いる魔王を倒すための苦肉の策であったのだ。

 近年、ルクスエグマが魔術に関しての発展を遂げた影響なのか、魔族からの干渉が強まっていた。特に魔王ゲーデザハル率いる軍勢の猛攻は激しく、戦いで命を落とした者や奪われた魔術の知識も多い。

 そこでこのままでは折角の発展を遂げた国が衰退してしまうと憂慮した上層部が、ルクスエグマに伝わる「召喚の儀式」を使用することを決断した。

 呼び出されたのは、一見して普通の少女。だがその潜在能力の高さ、そして"魔族に対する"攻撃性の強い属性は一級品であり、狙った相手を呼び出せたことに関しては、ルクスエグマの歴史に恥じない成果だったといえよう。

 だがその強さもすぐに使用できるものではなく、まずは少女の「育成」に時間が使われた。この時に選ばれた育成に携わる人間の一人が、アッセフェルトである。

 

 くれぐれも機嫌を損ねることが無いように。それが選ばれた人間に通達された共通事項であり、彼らはそれに従い少女を蝶よ花よと愛で、聖女などと呼びながら持て囃した。

 …………だが見た目が自分たちと同じな分、余計に異界から呼び出された未知の生物に対し全員が嫌悪感を抱いてもいたのだ。表面を取り繕うことに慣れた人材がそろっていたため、呼び出された方はそんな理不尽な感情を向けられていることなど気づかなかったが。

 

 そして育成する中で「聖女」単体では魔王は倒せないことが分かり、育成係達はそのまま魔王討伐隊へと編成される。

 結果としては想定していた被害を最小限以上に抑え、見事忌まわしきルクスエグマが敵対していた魔族の王は倒された。…………そして事がすむと、もとより「聖女」を元の世界へ帰す(すべ)など持ち合わせていなかったルクスエグマは、呼び出した化け物の処分を考えるようになる。

 

 そんな時だ。

 数百年と続く「腐敗公への花嫁」の持ち回りがきたのは。

 

 誰がその不文律を定めたのか知らないが、腐朽の大地に隣接する国だけでなく、人類全ての国に等しく巡ってくる生贄制度。それは世界の三分の一を支配する、恐るべき魔物を抑えるための唯一の方法だ。

 花嫁には魔力の高い娘ほどふさわしいとされ、それこそ「聖女」は最適だった。よって聖女……ユリア・ジョウガサキは速やかに花嫁へと仕立て上げられ、腐朽の大地へ供物として送られたのである。

 

 だが、ある日。…………隣国でもない、わずか遠方の国。アルガサルタから「貴殿の国の聖女と思しき人物が国内で目撃された」という通達があったのだ。

 魔王討伐の際に箔をつけるため聖女の存在は国民にも晒されていたし、絵姿も出回っていた。よってルクスエグマの聖女の存在と姿を他国が知っていること自体はおかしくない。

 ……とはいえ、そんなことを言われれば「国の義務を果たしていない」と疑われたことと同義。侮辱である。

 だがその通達は正式なものではなく、ルクスエグマの第二王子と親交があったアルガサルタの第四王子エニルターシェからの個人的なものだった。直接戦場へ赴く勇壮な王子という事で他国にも名を知られ、第二王子の友人としての付き合いのある相手。……その彼からの情報を無下にするわけにもいかず、念のためと聖女に身に着けさせた花嫁衣裳の一部、鳥の翼を模した髪飾りに探索の魔術を使用した。

 

 すると、なんということか。……髪飾りの位置は、花嫁を捧げた腐朽の大地の中心部でなく、アルガサルタ内陸の山岳部。……ここで真っ先に責を問われたのが、花嫁を天馬にて腐朽の大地に運んだアッセフェルトである。

 

 

 役職に加え魔王討伐の功労者、英雄の一人。

 そんな輝かしい経歴に、汚濁した墨が垂らされたのだ。こんな屈辱は無い。

 

 

 アッセフェルトはすぐさま聖女捕獲のために隊列を編成し、天を駆けた。頭に血が上ってはいたが、第二王子を介してアルガサルタの王族であるエニルターシェに入国の許可を貰うのも忘れていない。

 ……だが完全に冷静であったかといえば、そうではなかった。少なくとも聖女ユリアが居ると思しき建物をすぐに破壊しにかかったのは、あまりにも軽率な行動である。

 

 だが彼はそれをしてしまったのだ。

 

 彼の実力や生家の権力ゆえに声高く言える者は少なかったが、その傲慢で短慮な性格は以前より問題視されていた。今回それが露呈した結果といえるが、代償はあまりにも大きい。

 

 

「さぁて、あなたたち? 愚かな行動と、彼女と一緒に私たちが居た運の無さを呪いなさい!」

 

 

 快活な女の声を皮切りに、彼らの悪夢は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんのわずかに、時は遡る。

 

 

「さあジュンペイ、魔術のおさらい兼実践授業よー! ほーっほほ! いい実験台がきてくれたこと! 雑魚を相手取るより、多少骨がありそうな相手の方が勉強になるわ!」

 

 吹き飛ばされた屋根にも臆することなく、嬉しそうに襲撃者を指さすリアトリス……の頭を、師であるアリアデスが小突いた。といってもその威力は、とても小突くなどというものではなかったが。

 

「いったぁぁぁぁ!?」

「馬鹿者。僕の家を他国の騎士の墓場とするつもりか?」

「いいじゃないですかぁ~! こんな事されたんですから、仕返しされるのは当然です! あっちが悪い!」

「だがリアトリスよ。お前、仕置きに留まらず彼らの存在ごと抹消する気だろう。家を壊されたことは腹立たしいが、せめて別の場所でやりなさい」

「あ、相手をころころしちゃうのは決定事項なんですね。わぁい嬉しい! 死ねアッセフェルト~」

 

 当事者であるはずのユリアはすでに傍観の体勢に入っているのか、二人のやりとりを見て相手の末路を察したようだ。嬉しそうに手を打ち合わせて物騒なことを言うユリアに、シンシアは「でもおじい様が言う通り、ここでそれをやられてしまうと後処理が……」と困った様子を見せている。誰も相手の命に対して気を使っていないあたり、この集団には少々常識が欠けていた。もしこの場にオヌマが居た場合、その様子に頭を抱えていたことだろう。

 ……彼女たちがこうしている今も、屋敷を囲い自分たちを優位と信じて疑わない魔戦騎士団もまた、自分たちの命が紙のごとく扱われているなど知る由もない。

 

 そしていきなり実践だ、授業などと言われたジュンペイだが……。どことなく不安そうに、何かを確認するように掌を握ったり開いたりしていた。

 

「なあ、リアトリス。俺は構わないんだけど、しばらく本体に戻ってないからか魔力があんまり……。普通にしてる分にはいいけど、戦ったら分身体が消えるかも」

「あら、そういえば結構な時間が経っていたわね。う~ん、でもせっかくの機会だし……」

「聖女ユリアよ、速やかにその館から出てくるがいい! 君はお優しいからな! 館の人間を巻き込むことはよしとすまい? 次の破壊は一部だけに留まらんぞ!! さあ、出てこい! 君のせいで俺は恥をかいたのだ! 償ってもらおうか!」

「ああもう! うるっさいわねー! 男のくせにキンキンキンキンと声が甲高くてうるさいのよ!」

 

 天馬に跨り飛翔する金髪の男が、苛立たし気に外で喚いている。それを煩わしそうに睨みつけると、リアトリスはジュンペイの頬を両手で挟み込んだ。

 

「り、リアトリス?」

「しょうがないわねー。いつももらっているばかりだし、特別に今日は私からあげるわ。あんた、星幽界から魔力を引き出すの苦手だものね。修行はもともと持ってる魔力を魔術に昇華させる方が目的だし、そっち方面は、まあいいんだけど」

 

 ジュンペイが頬に伝わる柔らかい掌の感触に顔を赤くさせていれば、嫁がそんな事を言う。

 そして何か答える前にリアトリスの薄い色合いの青をたたえた瞳が近づき……唇に何か、柔らかいものが触れた。

 

「!?!?!?!?」

 

 それと同時にジュンペイの体に自分のものとは違う魔力が流れ込んだ。色合いや匂いに例えるべきか……ともあれ自分のものとは違ったそれは、速やかに分身体の中を循環しジュンペイを満たす。

 リアトリスは口付けたまま時間を置き、しばらくすると愛らしい珊瑚色の唇から自身のそれを離して一息ついた。

 

「うわ、初めてやったけど……かなり魔力持っていかれるわね。本体にとってごく一部だってのに、とんでもない容量……」

「馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!」

「え!?」

 

 突然罵倒され、自身に背を向けて走り出したジュンペイに困惑するリアトリス。そんな彼女に、ジュンペイの悲鳴のような叫びが轟いた。

 

 

 

「初めてのちゃんとしたキスなのに、キスなのにぃぃぃぃぃーーーー!! そんな事務的に! もっと、ムードとかぁぁぁぁぁぁぁ!! 酷いよ、リアトリスのバカバカバカーーーー!!」

 

 

 その嘆きをぶつけるがごとく、ジュンペイが作り出した炎の魔術が天馬に跨る一部の者たちを焼き払った。

 リアトリスは「あちゃー」と頭をかくも、気を取り直して高らかに宣言した。

 

 

 

「えー……と。さ、さぁて! あなたたち? 愚かな行動と、彼女と一緒に私たちが居た運の無さを呪いなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルクスエグマの英雄の一人が率いる二十名ほどの騎士対、可憐な金髪の少女。その一見無謀ともいえる戦いは、阿鼻叫喚の様相をていしていた。

 

「はい、そこ! 水を引き出して飛ばしなさい! そしてそのまま凍結! 天馬の翼を貫け!」

『銀盆に満ちし星脈の系譜よ、雫となりて零れ落ち氷結せよ! 穿て!!』

 

 少女が腕を振るったかと思えば、そこから発生した水の魔術が飛来し、途中で氷柱へと姿を変えたそれが天馬の翼に食らいつく。一撃でも受ければ無残にも肉は引きちぎられ、成すすべなく騎士もろとも天馬は地に落ちていった。

 

「さっきと同じように炎も使ってみなさい! 今度は火球じゃなくて、炎の波で飲み込むように広範囲へ!」

『その身を躍らせ絡み合え。紅蓮の両翼にて抱擁せよ!』

 

 先ほど初手で数名を飲み込み焼き払った火球とはまた違った炎が、翼を広げた巨鳥のごとく騎士たちの眼前に飛来した。今度は誰も再起不能とまではいかなかったが、鎧越しに体を舐めていく炎が容赦なく体力を奪っていく。

 

(なんだ、なんだアレは!! どれも下級の魔術じゃないか!)

 

 アッセフェルトは目の前で起こっている事態を認めたくなかった。たった一人の少女に、自分や精鋭の部下たちがなすすべもなくやられていくのだから。

 それも呪文こそ使う個々人によって違って来るものの、魔術の生成過程と形を見る限り使っているのは中位にも満たない下級魔術。その現実は悪夢以外の何ものでもない。

 

 もちろん反撃は試みた。……だがいくら魔術や斬撃、刺突が当たろうとも少女は揺るぎもしないのだ。

 

「この、化け物がぁぁぁぁぁぁ!!」

「まあ、その通りなんだけど」

 

 しかしこれで終わるまいと、自慢の槍でもってアッセフェルトは少女に自身最大の攻撃を仕掛けた。その貫通力に優れた一撃は、魔王の魔力壁さえ貫いた必殺になりうるもの。

 それが肉の触感を捉えた瞬間、アッセフェルトは「勝った」と思った。

 

 …………だが。

 

「鎧とかピカピカで綺麗な外見のわりに、言う事は三下だよな。お前みたいなやつ、何人も見てきたよ」

 

 温度の無い碧眼で眺められ、喉が張り付いた。見開きすぎて急激に乾いていく眼球をなんとか動かせば、視線の先で確かに槍は少女の腹を穿っている。……しかし少女は相も変わらずこゆるぎもせず、それどころか幾重にも魔術が施されているはずの伝説級の槍の穂先は、アッセフェルトの前で無残にも溶解し……熔けおちた。

 

「馬鹿……な……」

「馬鹿はお前たちだろう? どうして勝てると思ってたんだろうな。……ああ、今の俺の外見じゃあ仕方がないか」

 

 少女はやれやれとでも言いたげに首を振り、穂先が消えた槍を掴んでアッセフェルトごと雑に放り投げた。……どう考えても十歳そこそこの少女の腕力ではない。しかも腹に穴が開いていながらも平然と立っている。

 少女は腹の傷よりも破けてしまった服を掴んで不機嫌そうに表情をゆがめると、ぎゅっと拳を握った。

 

「いいか? 今俺は、最高に傷心なんだ。嬉しいけど素直に喜べない、そんな気分なんだ。だから素直に八つ当たりされろ! ついでに俺の仲間が過去に受けた屈辱のぶん苦しめ!」

「ちょっとジュンペイく~ん! 仲間って言ってくれるのは嬉しいけど、ついでは酷いですよ~!」

(酷いのは貴様らだ化け物め!!)

 

 壊れた屋敷の中から標的だった聖女が少女に声をかけているが、最早全てが恐怖でしかない。

 ……そんな中、赤い外套を翻して一人の女が少女の横に並び立った。

 

「あら~。意外と早い決着になっちゃったわね。でもいいお勉強にはなったかしら? …………というか、下級でも思ったより火力たっかいわね……。それに攻撃がきかないのはやっぱり強い……。見た感じ、けしてこいつらが弱いってわけでもなかったはずだけど」

 

 この惨敗の有様では慰めにもならない女の言葉に、アッセフェルトは天を仰ぐ。…………ああ、自分の命日が美しい夕刻を抱く日であったことは、せめてもの慰めだろうか……と。

 しかし自らの余命を悟って傲慢さがなりを潜めたアッセフェルトを気にかけるでもなく、女は少女に満面の笑みを向けた。

 

「でも、ちゃんと私の声を聞いて指示を実行できていたし合格よ! すごいじゃない。一年かけてもほっとんど覚えられなかったのに、ここ最近の成長は目覚ましいわ! やっぱり新しい刺激が必要だったのかしらね~」

「…………」

「むすっとしないの。ほ、ほら。ちゃんとあとで謝るから」

「…………」

「つ~んともしないで~! ごめんってば!」

 

 が、笑みに対して少女の対応はすげない。女は困ったように眉尻を下げたが、ふと思い立ったように館を振り返り呼びかけた。

 

「で、ユリア! こいつら本当に埋めちゃわなくていいのー? ジュンペイならこの場で綺麗に大地の肥やしにしてくれるけどー!」

「あ、もう結構すっきりしたんで大丈夫でーす! 本音を言えば埋めたいですけど、やっぱりアリアデスさん達に迷惑ですしー! かよわい私の後味的にも、殺しちゃうよりは生かしたうえでもっと辱める方向でお願いしまーす!」

「わかったー!」

「あと天馬ちゃんは普通に可愛いしかわいそうなので、治してからもらっちゃいましょう! 売れますしー!」

「了解了解。じゃあその方向でー」

 

 何やらものすごく朗らかに恐ろしい会話がされている気がする。

 そう思ったアッセフェルトであったが、すでに意識を保っているのも難しく……そのまま視界を暗転させた。

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 アルガサルタの山岳部から流れ海に出る川に、裸に剥かれた満身創痍の男たちが折り重なった状態で積まれた丸太が、複数流れてきたという。

 

 

 

 

 

 

 

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