腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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28話 我が家の扉を開いたら

「懐かしいわねぇ……。帰るの、よく考えたらどれくらいぶりなのかしら」

 

 久しく目にしていなかった故郷の風景に、思わずそんな言葉が口を突いて出た。

 

 

 

 魔術師学校に入学しその後アリアデスの弟子となって、更には宮廷魔術師という地位までの爆速出世街道を駆け抜けてきたリアトリス。そんな彼女は学業と研究、仕事に忙殺されるあまり何年も実家に帰ってはいなかった。

 時々仕事ついでに寄りはしたが、それでも最後に家族の顔を見たのは何年前だろうか? おそらく自分が帰ったのではなく、年に一度のアルガサルタの大祭に家族が遊びに来た時だろう。……それもすでに二年前の出来事だ。

 手紙のやり取りはしていたが、お互い家族の情はあっても個人主義というか放任主義というか……。それぞれ「まあ、どうせ元気だろう」と自分たちの生活を優先するのが、リアトリスと彼女の家族との距離感だった。

 リアトリスにしてみればどこかふわっふわで適当。といった表現をした方がしっくりくるが。変に気を遣わなくてよいありがたい家族だとは思う。

 

 ……とはいえ、生還など不可能と言われてる死の大地で生き延びてから初めての再会だ。さしものリアトリスとて感慨深い。

 

 そんなことを思いつつ、懐かしさに目を細め木製の素朴な扉を叩けば、「はいはいはーい! どちらさまー?」と快活な声と共にぱたぱたとかけてくる足音。

 記憶より大人びてはいるが、間違いなく実の妹のものだ。相変わらず元気なようだと笑みを浮かべる。

 

 

 だが扉を開けてからの第一声。

 それは生き別れた家族に対して、あまりにもあまりなものだった。

 

 

「………………。おかーさーん! おとーさーん! お姉ちゃんが美少女侍らせて帰ってきたーー!」

 

「合ってるけどな!!」

 

 

 両腕にべったりがっちりと腕を絡ませくっついているのは、金髪と黒髪の美少女。……事実でしかないそれに、リアトリスは突っ込みもどきの肯定しか返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、ここが私の故郷よ! ふふん、どう? 本気出したら早かったでしょう」

 

 自慢気に胸を張るリアトリスだったが、堂々とした表情とは裏腹に少々お疲れ気味の顔色だ。というのもアルガサルタの国土に入るなり、風の魔術を使用してここまでの道のりを一気に走破したからである。

 たどり着いた目的地だが、最初にリアトリスとジュンペイが訪れたような海付近の港町でもなければ魔術師アリアデスが坐する山脈地帯でもない。そこより更に内陸も内陸に位置する豊かな山と森に囲まれた村が、リアトリスの故郷だった。

 かけた時間こそ短いが、距離はなかなかもの。ジュンペイの魔力を借りることなく自前の魔力で三人分の高速移動を行ったため、自称天才魔術師といえどさすがに疲れたらしい。

 妙なことになったが未だ腐敗公ジュンペイの強大な力そのものは健在。分身体を構築する魔力の純度も高いため、体を維持するその一部でを少しでも借りたら楽だったのだが……そこで節約を選んだのがリアトリス。それはもうしばらくジュンペイの現在の分身体を維持し、腐朽の大地に戻らずにすむように、という配慮だ。

 ジュンペイはやろうと思えば意識を本体に戻せるため現在の腐朽の大地を確認してもらったが、現在は変わらず静かなようで。ならば当初の予定通り、しばらくリアトリスの故郷でのんびりしても構うまい。そのための節約である。

 

(まあ、これくらい平気よ平気。節約できるとこはしなくちゃね!)

 

 倦怠感を覚えつつ、ドヤ顔で一人頷く自称天才魔術師。実際天才ではあるのだが、この過剰ともいえる自信こそが彼女の天才性を支える一助となっていることもまた事実だろう。

 

 

 

 

「リアトリスさん、お疲れ様でした! はい、これ良かったらどうぞ!」

「あらユリア、ありがとう。気が利くわね」

 

 そんなお疲れ気味のリアトリスに、ユリアがすかさず飲み物を差し出す。水筒から注がれたそれは柑橘類の果汁と皮で香りづけがされた果実水だ。

 リアトリスは乱れた髪の毛を整えながら、ありがたくそれを頂戴する。すっきりと冷えた水が乾いた喉にすうっと沁みていく感覚が心地よい。

 

(いや、にしても……。見よう見まねでこれが出来ちゃうって事は、この子ジュンペイより才能あるわ……)

 

 ……器ごと、直前に冷やされたらしいそれに思わず舌を巻く。ユリアはここ最近聖女としての能力を生活魔術もどきに変換出来るようになってきたらしいのだが、その才能が何気に恐ろしい。なにしろリアトリスは何も教えていないのに、リアトリスの魔術の見よう見まねでこれを行っているらしいのだから。

 

「リアトリス、リアトリス! はい、これで汗拭いて。あ、いや待った。俺がふく!」

 

 それに張り合うようにぴょこぴょこ飛び跳ねつつ差し出されたのは、濡らして絞った顔を拭くための布。受け取ろうとしたらジュンペイが自分がやると主張したので任せたら、思いのほか優しくふかれて気持ちよかった。こちらは水と逆で、ほんのりと温かい。

 それに対してリアトリスはふむ、と満足げに頷いた。

 

「ジュンペイもありがとう。……ふんふん、やるわね。生活に魔術の使用が出来るようになるのは良い事よ! 細かい調整を覚えられるから、扱いがうまくなるわ」

「へへへ……」

 

 こそばゆそうに笑うジュンペイ。その表情には少し前までの陰りはないようだ。

 ……内容はともかく、少し前にユリアがジュンペイの尻を蹴飛ばした効果はあったらしい。最近特にジュンペイに甘い自分としては同じことは出来なかっただろうから、ありがたいことだとリアトリスは苦笑する。

 

「ふふっ。二人ともありがとうね。疲れがふっとんだわぁ~! こんな優秀な友人と旦那様をもって、私ったら幸せよね!」

 

 表情をほころばせながら言えばジュンペイは満面の笑みで、ユリアは少々不満そうな顔をしてからにっこり笑って応えてくれる。

 

(……うん。好意は嬉しいし、よいものよね。思ったより重かったのに驚いたけど……ほほっ)

 

 礼を言いながらも、リアトリスは口の端をほんの少しひくつかせた。

 

 

 ……先日。リアトリスが狩りに行っている間、この見目麗しい少女たちはどうも恋の鞘当てを行っていたらしいのだ。ユリアとしては落ち込むジュンペイの気持ちを奮い立たせる目論見もあったようだが、語った言葉に嘘は感じられなかった。

 早々に狩りを終えて物陰でその内容を聞いてしまったリアトリスが、そのあまりにも熱烈な愛のこもった台詞に彼女らしくもなく少々怖気づいたのは秘密である。

 少し前、自分の思考内だけではあるが「このまま同性愛に目覚めて二人とも娶っちゃうのもありかも!」などと考えていた自分を張り倒したい。思ったより相手側が本気だった。

 

(ま、まあ好意は好意! ユリアの望む形で受け入れることは出来ないけど、形はどうあれ一緒に居るわって言ったもの! ここはドーンと構えておくのがいいわよね! それくらいの度量、あるわ!)

 

 そして想像以上に重量級な愛を抱えていたルクスエグマの聖女様だが、盲目的な面があることは否めないが慧眼である。彼女がリアトリスがジュンペイに抱いている愛情を母性に例えたことは、実に正しい。……ユリアでなくとも一緒に行動する者が居たとしたらそれは一目瞭然であり、リアトリスとしても「そりゃそうだ」としか言いようがないのだが。

 何しろ今のジュンペイは「リアトリスの理想の娘の姿」なのだから、リアトリスの対応も自然とそうなるのは当たり前。彼に対し魔術を教える代わりに要求した対価が「自分にふさわしい夫になれ」だというのに、我ながら酷いと思う。

 

「でも、可愛いのよねぇ……」

「?」

 

 無意識に頭を撫でながらつぶやけば、キョトンとしたつぶらな瞳が見上げてくる。……やはり可愛い。リアトリスはきゅっとする心臓を押さえて思った。

 容姿だけでなく仕草や性格までも愛らしいのだからどうしようもない。ユリアには悪いがこの可愛い旦那様を悲しませるわけにはいかないので、やはり愛人とかそういうのはダメだと思う。抱く気持ちの種類はどうあれ、リアトリスなりにすでに打算抜きで大事にしたい相手なのだ。

 

 こんな子がユリアに「嫁に恋の一つもさせてみろ」と焚きつけられ、その気で居るらしい。ますます可愛らしい。

 これから自分の家族に夫だと紹介しに行くというのに、こんなふうに考える自分はやはり酷い嫁だろうか。

 

 しかし。

 

(人化の術を完璧に習得した後ならともかく……今の姿で、今の厄介な状態で。果たしてそれが出来るのかしら?)

 

 

 

 もし出来たなら、それはきっと一生分の恋になる。

 

 

 

 などという想像に少し楽しくなりながら、リアトリスは「さ、あと少しよ!」と二人を促し故郷である村へと入っていく。

 

 今は旦那様の頑張りを、せいぜい楽しみにさせていただこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして冒頭に戻るわけだが、来る途中でどっちが先にリアトリスの家族に名乗るかとジュンペイとユリアが張り合い始めた結果ぐいぐい距離を詰め始め……最終的にこのゼロ距離密着である。正しく侍らせている、と言うにふさわしいありさまだ。

 いい香りはするし色々と柔らかくて気持ちいいのだが、言っちゃ悪いが少々暑苦しい。

 

 しかしリアトリスと同じ少しくすんだ金髪を高い位置で二つ結びにした少女は、驚きはしたものの何か面白がっているのかケタケタと笑いながら自己紹介をした。

 

「どーもどーも、初めまして! リーアの妹、ルーカです! ひっじょーにお二人の事が気になるわけですけど、まず最初にお名前だけ聞いても?」

「ジュン「ユリ」ぺ「ア」イ」「「です!!」」

「…………なんて?」

 

 ルーカは耳に手をあてて聞き返した。

 

「……こっちがジュンペイで、こっちがユリアよ」

 

 再度ジュンペイとユリアが口を開く前に、ため息を吐きながらリアトリスが紹介した。それに対し先に名前を呼ばれたジュンペイがユリアに「ふふん」とドヤ顔を向け、ユリアが「くっ……!」と悔しがっている。いちいち反応がにぎやかだ。

 リアトリスとしては身動きが取れないので二人ともそろそろ腕を放してほしい。

 

「ジュンペイちゃんにユリアちゃん、ね。もう、お姉ちゃんったら生きてたと思ったらこ~んな可愛い子達連れて、連絡も無しに帰ってくるんだもの。驚いちゃったわ」

「そのわりに驚いた様子をまったく感じないんだけど?」

「ん~……」

 

 もったいぶるような妹の様子に、少々嫌な予感がする。……いや、実は今考えていることを見越して帰ってきた部分もあるといえばあるのだが。しかしこうして急いで帰ってきたのだから、出来ればそれはもう少し後が良かったというのが本音だ。体も心も実家でゆっくり休めたい。

 

(けど、これはもしかして無理かしら……?)

 

 それなりに図太く適当なところがある家族だが、流石に嫁ぐ前の面会もなく腐敗公の嫁……生贄にされた家族が帰ってきたとあらば、もう少しなにか反応があるだろう。先ほど妹が大声で呼んだにも関わらず未だ両親が来ないことで疑念が確信に変わりつつある。

 そう広い家でもないのだし、こうして話している間に真っ先に母がすっ飛んできて頭の一つもひっぱたくだろうと思っていたのだが……。

 

「ルーカ。来客?」

「おう、正解だ」

 

 問えばそれに答えたのはルーカではなく、不本意ながら良く知る男の声だ。

 それに真っ先に反応したのは腕にくっついていたジュンペイである。

 

「オヌマ!? なんでお前がリアトリスの実家に……」

「よっ! 久しぶりだなぁジュンペイ」

 

 ぬっとルーカの横から顔を出したのは、港町で世話になったリアトリスの魔法学校時代の同級生オヌマ・アマルケイン。しかし以前会った時と違い、無精ひげを剃って妙にこざっぱりとした格好をしている。それに眉根を寄せたのはリアトリスだ。

 

「なによ、小奇麗な恰好しちゃって。もしかして~とは思ってたけど……お使いの認識で合っているかしら?」

「正解っちゃ正解。にしてもお前さ、もう少し驚けよ。可愛げねぇな~」

「アリアデス様でなかっただけマシだとは思ってるわよ……」

「え、え、リアトリス? どういうことだ?」

「…………」

 

 うんざりしながらも訳知り顔のリアトリスに、ジュンペイが二人の顔を交互に見ながら混乱した様子で問う。対してオヌマと初対面のユリアはリアトリスの腕をぎゅっと抱きながら、睨むようにオヌマを観察していた。その眼光にたじろぎながら、オヌマはへらっと笑った。

 

「あー……まあ、入り口で話もなんだし、まず中に入ろうぜ」

「偉そうね。私の実家なんだけど?」

「まあまあ、お姉ちゃん。オヌマさんのいう通り、まず中で落ち着きましょうよ」

「…………。はあ、分かったわよ」

 

 からからと笑う妹にそう言われてしまっては頷くほかない。

 体は依然として魔術の使い過ぎで重い。この様子ならすぐに何かしてくる事は無いだろうし、提案通りまずは中で腰を落ち着けよう。両親の顔も見たい。

 

 そう結論付けたリアトリスは二人の美少女を腕に張り付けたまま、懐かしい実家に足を踏み入れたわけだが……。

 居間にあたる部屋の扉を開けた瞬間、盛大にすっこけた。

 

「わわ!?」

「ぷぎゅっ」

 

 当然くっついたままだったジュンペイとユリアも一緒に転び、どすんっとそれなりに大きな音が家の中に響く。だが知ったこっちゃないとばかりに体を起こしたリアトリスは、わなわなと震えながら部屋の中を指さした。

 

 

「な、な、な……!」

「やぁ、思ったより遅かったね?」

 

 脚を組み優雅に茶を嗜むその姿、忘れようはずもない。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? ちょ、なんッ…………オヌマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「気持ちはわかるが俺を蹴るなよ!!」

「あっはっは」

 

 

 血のように赤いその髪と笑みに歪んだつり目。

 

 

 

「なんっであんた直々に来てんのよクソ上司ィ!!」

 

 

 

 かしこまる両親の前で優雅に寛いでいたのは、一年前にぶん殴ったアルガサルタの第四王子……エニルターシェ・デルテ・アルガサルティスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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