腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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46話 夜天引き裂く流星

 何故だか共に飯を囲うべく、どこぞの店へと案内されている途中。ユリアは先ほどから言葉を発せずに……しかし警戒を一瞬たりとも怠っていない老魔術師を窺う。

 案内人のすぐ後ろを陣取ってずんずん進んでいく魔族の男について尋ねたいが、エニルターシェに絡まれているリアトリスとジュンペイに声をかけるのはどうも憚られた。

 そのため隣を歩くアリアデスに質問しようと思ったのだが……。

 

「あの、アリアデス様?」

 

 するとザリーデハルトと名乗った魔族に向いていた視線が、そのままユリアに降りてくる。筋骨隆々の長身から見降ろされるだけでも迫力を感じるが、それに加えて今その眼光は鷹の様に鋭い。その迫力にユリアの肩がビクッとはねた。

 

「ああ……すまないね」

 

 するとアリアデスは申し訳なさそうに目元を緩める。それにほっとしつつ、ユリアはザリーデハルトを見た。

 

 

「……アリアデス様。あの男について、窺っても?」

「君なら気づいているのではないかな?」

「ええ。ですが、あまりにも……」

「見抜くか。こう言われるのは嫌だろうが、元聖女様だけあるね」

「確かにその称号は忌々しいですが、事実その力があるからこそわかるのだとも感じています。私の力は魔族に対して特化したものらしいので」

「そうだったね。……さて、奴についてか」

「……」

「魔王ザリーデハルト。魔皇とも呼ばれる、魔族の王の一人だよ。腐敗公ほどでないにしろあれも特異な存在だ」

「魔皇、ですか」

 

 似て異なる言葉の響きを吟味するように口内でころがす。

 近づかれるまで、声をかけられるまで。気づかなかったのがおかしいほどに……ザリーデハルトという男は凝縮された魔の力を宿していた。男を中心に広がり重々しく伸し掛かる力の圧で、少しばかり息が苦しい。

 それ以上の力を持つはずのジュンペイに対してはその見抜く力……というより、警戒心が強化されたような感覚が発揮されないのは、ジュンペイが魔族でなく特異な魔物だからだろうか。

 

 ともかく、男の脅威度だけは嫌でも肌で感じとってしまった。

 

「実際に統率しているわけではないが、魔王数人分の力を持つことから畏敬の念と共に他の魔王からそう称されている。僕も見るのは初めてだが」

「す、数人分」

 

 ユリアはかつてルクスエグマの聖女として戦った、魔王ゲーテザハルを思い出す。あれを普通の魔王の基準とするならば、いかに魔族相手に特化したユリアの力でもザリーデハルトに抗う事は出来ないだろう。

 何しろ聖女ユリアの補助を得て、大国ルクスエグマの……思い出したくもないが、実力だけならば極上の猛者たちが集まって、ようやく一人倒せたのだ。

 

 それが数人分とは。気さくな振る舞いが逆に不気味で恐ろしい。

 

「それが目の前にいるだなんて悪夢ですね。……情けない。私、さっき一言だって間に入っていけませんでした。リアトリスさんはあんなに堂々としていたのに」

「正確に脅威を感じ取っているということだ。情けなく思うことは無い。それにリアトリスの場合は……ふむ。いや、これに関しては後で本人に言おう」

「?」

 

 言葉は少ないが落ち着いたアリアデスの声に、ユリアは少し気分を持ち直す。

 ……深く息を吸い背筋をのばして、腹に力を込めた。

 

(しっかりなさい、城ケ崎優梨愛。私はこの世界に居る限り、一番に信じるものを決めたもの。依存するだけじゃないわ!)

 

 かつて流されるままに呑まれ、翻弄された異世界の少女。しかし今彼女が踏み出している一歩一歩は全て、彼女自身が選んだものだ。

 差し出された手を掴んだのも今度は確かに自分の選択。それに恥じない自分であるためにと、ぐっと拳を握って顔を上げた。

 

「ジュンペイくんに、負けていられませんものね」

 

 少しばかり強がりを含んだ笑顔を浮かべ、少女は歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 ラルとラドに案内された先は歓楽街を抜けた一角。彼らは立ち並ぶ建物に入るでもなく、少し外れた薄暗がりを行く。

 導かれたのは石橋から流れ落ちる温泉滝の裏。そこには崖の下部にぽっかりと口を開けている入り口が存在した。

 中に入ればもとは坑道だったという先ほどのラドの説明通り、複雑に道が入り組んでいる。案内されたおかげで迷う事はないが、これは確かに観光客には不向きな場所だ。いたるところに扉のついた道をくねくねと進み、階段も随分と上らされた。

 そしてようやくたどり着いた店らしき場所は、扉に色硝子がふんだんに使われた独特の外装。

 扉を押し開けて中に入れば外からでもわずかに感じられた、食欲をそそる料理の香りと客の賑わいが押し寄せてくる。ずいぶん繁盛しているようだ。

 

「こちら、地元民のが多いんだけどね。僕らとしちゃあ、一番のおすすめ店だよ!」

 

 胸を張って店を紹介するラドに、リアトリスは少々眉尻を下げて申し出た。

 

「ごめんなさい。少し内々の話になるから人に話を聞かれないような席だと嬉しいのだけど……そういうのって、頼める?」

「あ、はいはい。了解ですよぅ。なら店主にお願いしてみますね」

「俺達もそこらで酒でも飲みながら待機してるから、どうぞごゆっくり~」

「悪いわね」

 

 案内人の心遣いをありがたく受け取る。少しすると色香漂う女性が出てきて、ニコリと笑って奥の席へ案内をしてくれた。効けば彼女が店主だという。

 料理についてはエニルターシェが小袋を店主に差し出して「この額でおすすめの料理と酒、酒以外の飲み物を人数分」と妙に慣れた様子で注文をしていた。

 

「ふんっ。迷惑料として奢られてあげるわ」

「私の歓待を素直に受け取ってくれるのは嬉しいが、迷惑料は酷いのではないかな? まだ何もしていないのに。差し向けると言った刺客は、結果的に君たちの助けとなっているようだし。むしろ感謝してほしいかな」

 

 ちろりとアリアデスを見るエニルターシェ。この男の「お願い」でリアトリス達を襲撃した老魔術師は、ひとつため息をつくのみで傍観に徹している。

 

「あんたと連れの存在そのものが迷惑なのよ自覚なさいよ」

「言うなぁ、お前の嫁さん。俺けっこう凄い奴なんだが、だいぶ雑に扱われたぞ」

「…………」

 

 つんつんとした態度のリアトリスと、むすっと黙りこくるジュンペイ。警戒心増し増しの夫婦を、赤髪と黒髪の男二人は面白そうに眺めている。その様子から「方向性は違うが似た者同士」という感想を抱いたのは、少し遠巻きに見ているユリアとオヌマだ。ちなみにこの両名の距離感は開いたまま。お互いリアトリスの村で少し顔を見た程度で言葉もかわしていない。加えてユリアの男嫌いを思えば当然である。

 その似た者同士の視線をうけてますますリアトリス、ジュンペイ夫妻の態度が尖るが……いざ案内された席を目にすると、二人はぱっと顔を輝かせた。

 

「わぁ! いい眺めねぇ」

「そっか、ここってさっき見上げてた崖の中腹なんだ……」

「緊張してるのかしてないのか分からないなぁ、お前ら」

「ぐ……」

「う……」

 

 思わずはしゃいでしまった事を恥じるリアトリスとジュンペイ。こちらはこちらで似た者同士だ。

 

 天井からつるされていた幾枚もの天幕を抜けると、その先は歓楽街の明かりと喧騒を眼下に望める特等席だった。

 床から伸びる大きな長方形の穴がぽっかり開いていて、涼やかな夜風が吹き込んでいる。しかしその風が強すぎたり寒すぎるということもないので、なにかしら細工が施されているのかもしれない。

 艶やかな石のテーブルの背は低く、籐で編まれた背もたれ付きの長椅子にはたっぷりとクッションが敷き詰められていた。

 どうやら背もたれに身を預けながら、足を延ばして座れる仕様のようだ。

 

 席に座ればさっそくとばかりに料理と陶器の瓶が二本運ばれてくる。給仕によれば瓶の中身は果実酒と茶とのことだ。

 

(い、いくら出したのかしら)

 

 その迅速な対応にどうも最近金に困ってばかりだったからか、エニルターシェが店主に渡した袋の中身が気になるリアトリスである。

 が、そんな場合ではないと首を横にふった。

 目の前に居るのは格上の"敵"である。誘いに乗って猶予を設けたはいいが、今のところまったくいい案は浮かばない。

 

 だがこのままでもいられないと、リアトリスは直球に聞いてみることにした。

 この辺りがリアトリスが散々腹芸が出来ないとオヌマなどに言われれている理由であるが、それは本人も理解している。変に引き延ばして自体が悪化こそすれど、良くなることは無いだろう。

 

「それで? こんな寛いじゃってるけど、あんた達はこの後私たちをどうしたいわけよ。事を構える気はないって言うけれど、声をかけてきたって事は用があるんでしょう」

 

 椅子に腰かけ腕を組むと、正面を見据えて問うリアトリス。対面に座ったザリーデハルトが喉の奥で笑った。

 

「お、それ自分で切り込んでくるのか」

「生殺しみたいな状態は嫌いなの」

 

 腹が減っては何とやら、とばかりにしっかりと運ばれてきた料理を口に押し込みながら、リアトリスは目の前の相手から視線を外さず言い切る。内心この肉美味いな、などと考えているのは内緒である。

 

「ふむ……どうしたい、か。いざ聞かれると少し困るな。なぁ、エニ」

「はぁ?」

 

 だが相手側の反応はどうも煮え切らない。不満たらたらの顔でリアトリスがテーブルに頬杖をついて睨む。どう考えても格下の態度ではないが、敵と認識している相手のため威嚇しているようだ。

 

「う~ん。強いて言うなら、夫婦仲を見物しに?」

「はあぁ~?」

 

 煮え切らないどころか「馬鹿にしているのか」と問いたい返答である。こちらはいつ襲われるかと内心戦々恐々としているだけに、リアトリスの機嫌はますます下降する。態度はどう見ても戦々恐々などという殊勝なものではないが。

 だが相手はその様子さえ楽しんでいる風で、態度も口調もあくまで鷹揚。それだけに自分達の焦りが際立つようで気に入らない。

 同じ席にこそついたものの、アリアデス、ユリア、オヌマの三人は口を開かず"見"の体勢に入っていた。

 

「言った通り、この腐敗公に戦いを仕掛ける気はない。分身相手ならどう考えても俺が勝つからな。……にしても、遠隔操作出来る分身か。それも力が弱いとはいえ長期間維持できるってのは、素直に凄いな。腐敗公殿は素の強さはもちろん、魔術にも優れてるってわけか。恐れ入るね」

「これはリアトリスの魔術だよ。凄いのは俺じゃなくて、俺の嫁。魔術の先生なんだ」

 

 魔皇の賞賛に対し、ジュンペイはすかさず否定する。それに対しザリーデハルトは意外そうに眼を見開いた。

 

「あ? そうなのか?」

「オヌマには聞いていたが、素晴らしいね。リアトリスは戦闘と同じくらい魔術開発も得意だったが、魔力の消耗が激しい腐朽の大地で新しい魔術を開発したと知った時は驚いたよ。ふふっ、ザリーデハルト殿。腐敗公の可愛らしい姿も、私のリアトリスが施した魔術だよ」

「「誰がお前のだ誰が!!」」

「はは、息が合ってるな。へぇ……そうか。嫁先生ってわけだな」

 

 二人してエニルターシェへ噛みつく様子を興味深そうに観察すると、ザリーデハルトは瓶ごと酒をあおり喉を湿らせた。

 

「美味いな、これ。……話は戻るが。俺達は純粋な見物人だ」

「接触してきたくせに傍観者を気取る気?」

「おいおい、何かされて困るのはそっちだろ? わざわざ煽るなよ。短気だし不器用だなぁ、お前」

「ぐっ」

 

 初対面の魔王にまで短気を指摘され、言葉に詰まるリアトリス。屈辱である。

 

「世界の存続がかかってるとくれば、人間と協力してでも腐敗公は倒さなくちゃならねぇ……と思うのが普通。いいこと教えてやるが、実際もう国は連携して動き出しているぞ。腐朽の大地とその分身体ちゃん。それぞれを倒す方向性で部隊が組まれ始めている。先日、魔族と人間が協力できる実績も出来たことだしな」

 

 ザリーデハルトのもたらした具体的な情報にリアトリスの眉根が寄る。魔皇は気にせず言葉を続けた。

 

「分身体を狙う方としちゃ生け捕りが最良だろうな? 意識の繋がってる分身から本体を討つすべを探るには」

「…………」

「腐敗公分身体の情報はすでに共有されている。正確な絵姿が無くても、そのちゃちな変装程度じゃいずれたどり着かれるだろう。そんな中で俺たちが何百年も勝てず、恐れてきた腐敗公殿がどう立ち回るのか。こんなもん見学して楽しまねぇのはもったいないだろ!」

 

 あまりにもあけすけな言いざまに、リアトリスもジュンペイも言葉を失う。見たところ含むものはなさそうだが、鵜呑みにするにはひどく雑な理由だ。

 そんな中、ザリーデハルトを補足するように口を開いたのはエニルターシェである。

 

「彼の言う事は本当だよ。なにしろ私が遊び仲間にさそった相手だからね」

「妙に説得力あるのが嫌だわ」

「ふふっ、そうかい? いやぁ、彼に声をかけてよかったよ。世界を天秤にかけてまでの娯楽に乗ってくれる相手はそう居ない」

 

 エニルターシェはそこで言葉を区切り、新たに運ばれてきた料理を優雅に口に運ぶ。聞いている側としてはもどかしいが、空腹を刺激される料理を前にリアトリス達もしっかり食べているのでお互い様だ。

 この場で緊張し料理に手を付けていないのはオヌマくらいだったりする。彼は隅の方に控えつつ、どこかぐったりした様子で場を見守っていた。

 

「ザリーデハルト殿は人間、魔族を合わせた中でも個人戦力では最強の部類。そんな彼が分身体であるジュンペイ殿をどうにかするのは簡単だろうが、それではつまらないだろう? だから他の魔王や人族が彼に助けを乞う前に私が遊び仲間に引き入れたのさ。つまり私は君たちにとって恩人といえるのではないかな」

「それもあるだろうが、お前はそっちが建前だろ」

「?」

「すっとぼけるなよ、王子サマ。今ならもうわかってるって」

 

 ザリーデハルトはうっそりと笑むエニルターシェの首を太い腕で引き寄せると、人差し指で示す。

 

「こいつ、明日世界が終わるなら何したい? って質問に対して「好物を腹いっぱい」って言うような奴だぜ。実際に聞いたことは無いが」

「そんなに食い意地は張っていないよ。けど、そうだね。量はいらないから極上を味わいたいと思っているかな」

「それが食い意地だってんだよ。それでもって、その極上が俺ってわけさ。こいつが俺に声をかけた理由なんてそんなもん。笑えるだろ?」

 

 自分本位極まりない。

 リアトリスは自分の事を棚に上げて、目の前の男二人を半眼で睨む。

 

「呆れた……。悪趣味もそこまでいけば大したものよ」

「君からそう言ってもらえるのは嬉しいね」

「うっさいわ。……けど魔皇ともあろう者が、自分をご馳走扱いされて納得してるってわけ?」

「楽しませてくれりゃあ腕一本くらいやってもいいさ。というか、前払いでやった」

「は!?」

「見ての通りもう戻ってるけどな」

「素晴らしかったよ! 是非他の部位も食べてみたいね」

 

 ドン引きである。

 リアトリスは恍惚とした表情を浮かべるエニルターシェに、かつて魔族の肉を食えと笑顔で差し出された時のことを思い出す。そこで蓄積していたものが溢れてぶん殴ることになったのだが、あの時正しく抱くべき感情は怒りでなく今のような気持だったのだろう。そう、今さらながら理解した。

 価値観の根本が違う相手に抱く怒りのなんと無駄な事か。

 「うわっ」と言って引くべきだったのだ。

 

 せっかくの料理を前に失せた食欲を空しく思いつつ、リアトリスは気分を変えるべく爽やかな風味の茶を豪快に煽った。

 

「この貪欲さ笑っちまうぜ。……それで、俺達の目的は話したぞ。満足か?」

「素直に納得できないんだけど……」

「わがままな奴だな。あ、そうそう」

 

 

 

 ザリーデハルトはなんでもないように、人差し指を立てついっと大窓の外を見る。そして遮るものがなく風が吹き込んでくるそこへ……指先から蛍火のように淡い光をひとつ放った。

 光はあっという間に天へと駆け上がり宵闇に吸い込まれて消える。そしてすぐ次の瞬間。

 

 昼間のように大地を照らす閃光が、夜の天幕を引き裂き空を蹂躙した。

 

「なっ!!」

 

 閃光は瞬く間に数多の流星へと姿を変え放射状に天を駆ける。すわ火山の噴火か大災害かという光景に人々が動揺する前に、それは美しい奇跡へと姿を変えたのだ。

 だがリアトリスとアリアデスは、そこに込められた意味を正しく読み取っていた。

 

「信号の魔弾か。あれほどの規模は初めて見るが」

 

 アリアデスがその術の効果を見抜く。ただでさえ目立つ光だが、そこには見る者が見ればわかる具体的な情報が詰め込まれていた。流星となり今頃世界中の空を駆けているそれは、見たものに情報を与えているだろう。

 そう。ザリーデハルトが放った光は他者へ何かを伝えるためのもの。そして今この場で男が誰に何を伝えるのかと考えてみれば、選択肢はそう多くない。

 

 腐敗公はここにいるぞ。そう伝えたのだ。

 

「やってくれる」

 

 舌打ちとともにリアトリスがザリーデハルトを睨むが、件の魔王は悪びれた容姿もなくテーブルに頬杖をついて笑みを浮かべている。

 

「俺自身は手を出さない。けど、何もしないとは言ってないだろ? もう一度言うが大抵の奴らは三年で世界が終わると言われたら必死さ。その必死な連中をどうやって退けるか、是非見せてもらいたいね」

 

 にやにやと嗤うザリーデハルトに歯ぎしりしつつ、せっかく到着した温泉郷も味わう猶予は少ないなとリアトリスは頭の中で予定をくみ立て直す。

 そしてひとつ頷くと、ジュンペイの手を取った。

 

「行きましょ」

「逃げるのか? はは! せっかく素晴らしい観光地にたどり着いたってのに可哀想に」

「元凶がしゃあしゃあとうっさいわ!! というか、逃げないわよ」

「ん?」

「今すぐ動こうが結果は大して変わらない。なら今日はいい宿のふかふかの寝具でゆっっっっくり休むわ。逃げるよりまず体力回復した方が効率的」

「いくら効率的でもこの状況じゃ休まらないんじゃねーの?」

「余計なお世話よ。じゃ、私たちはお暇させてもらうわ。あなたたちはせいぜい料理を堪能してくるのね」

 

 言って、バサッと髪をかきあげ外套を翻すとリアトリスはずんずんと出口へ向かう。

 

「あれ、もう話はいいのかい?」

 

 外の光景に気づいているのかいないのか。入り口近くで飄々と話しかけてきた案内人を一瞥すると、リアトリスはすぐさま要求する。

 

 

「あんたが案内できる中で一番いい宿紹介してちょうだい!」

「お、景気がいいねぇ! いいよ。お任せあれ」

「ふむ。……使う金額は僕への借金だと忘れていないね?」

「わ、分かってます!」

「ならいいが」

 

 しっかりとアリアデスに釘を刺されつつリアトリスはジュンペイとユリアを見る。

 

「……ということで今日は普通に休もうと思うんだけど、いい?」

 

 強引に決定した割にはどこか自信なさそうに問うてくるリアトリスに、ジュンペイとユリアは顔を見合せた。

 

「俺はいいよ。ここまでずっと考えて引っ張ってきてくれたし、疲れただろ。猶予があるなら休むべきだ」

「そうですよぅ。もしすぐに逃げる必要あるなら、あなたはそうしているはずでしょうし。私たちの負担を考えてということならお気になさらず。むしろ色々と決定権を委ねて楽させてもらってる側ですから、休んで貰えるならそっちの方が嬉しいです!」

「あんた達、いい子ね……。あの頭沸いた連中に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」

「あ、その言い回しこちらにもあるんですねぇ」

 

 ユリアはやっとリアトリスに意識を向けて貰えたのが嬉しいのか、横を陣取って腕をからめる。それを見たジュンペイもまた、負けじと反対側の腕に抱きついた。

 

「とにかく。ここに来た目的を果たせないまま逃げる訳にも行かないしね。今日を休んだら、あとは巻いてくわ。幸いとっかかりはもうすぐ側にいる訳だし」

 

 言いつつ案内人のラドとラルを見る。意味深に見られて首を傾げる亜人兄妹にリアトリスは頭を下げた。

 

 

 

「お願い。明日、あなた達の集落に案内して欲しいの」

 

 

 

 

 

 

 

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