腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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55話 亜人集落

 リアトリス達が戻る少し前。

 

 

 亜人の集落へ到着したジュンペイ、ユリア、アリアデスは一番奥の建物に案内された。

 他の家屋もそうだが、茶色い土で組まれた壁には鮮やかな染料で模様が描かれている。それを「美術館みたい」と称したのはユリアだ。

 

「何度か温泉郷に来たことはあるが、僕も亜人の集落は初めてだな。あの模様にはなにか意味がこめられていたりするのかい? 魔術文字とは違うようだが」

「魔除けだとか昔語りをもとにしたものですねぇ」

「ほう……興味深い。人口はいかほどかな」

「えーとですね。わたしとにい様を含めて三十人くらいですよぅ」

「三十ですか。思っていたより少ないですね……?」

 

 といっても、普通の集落の人数が分からないユリアとしては、それが本当に少ないのかはよくは分かっていない。相槌代わりに素直な感想を述べただけだ。

 

「わたし達は子供を残せないので。たま~に親たちがよそ様でこさえた子供を連れてきて、人口が増える感じですからねー」

 

 さらっと述べられた事実にジュンペイとユリアが目を見開く。そこにアリアデスが補足をした。

 

「亜人は一世代限りの種族なのだよ。ドラゴンの強い力を受け継ぎ長命だが、同種間でも他種族と交わっても子供は残せない」

「そんなことが……。あの、なんだかすいません」

「あはは! 謝られるようなことじゃないですよぅ。そういう種族ってだけなんですし。恋が出来ないわけでもなし!」

 

 気まずく感じたユリアが思わず謝ると、ラルはからからと笑って流す。本当に気にしていないようで、彼女はそのまま案内をした建物についての説明を述べた。

 

「ここは村で一番長生きしている、わたしたちの長が住む家でして。わたしはじじ様って呼んでます。お世話する人もよく出入りするし、催しや集会もここでやるから広いんですよ」

「じゃあここで……」

「そう! ぜひぜひ、歌を披露しちゃってください!」

 

 ぱあっと笑みを浮かべひとつ跳ねたラルが、そのままくるくる回って着地した。楽しみな様子を全身で表現されて、自信がないわけでないのに少々しり込みするジュンペイである。思っていたより期待がでかい。

 

「じじ様~。例の人たち連れてきましたー!」

 

 ラルが元気な声で呼びかけながら中に入っていくと、ざわざわと複数の人の気配がする。部屋の入り口と思しき垂れ下がった分厚い布を持ち上げると、金緑色の瞳が一斉にジュンペイを見た。その迫力に思わず一歩さがる。

 

「おお、よくいらした。みなも楽しみにしていてな。歓迎の準備はやや間に合わなんだが、よかったらもてなされてくれんかね」

 

 集まっていた亜人らの注目に怖気づくジュンペイに朗らかに声をかけてきたのは、若者が多い中で唯一年配と称せる年齢の男性。アリアデスほどではないが、老いてなお矍鑠(かくしゃく)としている。声もよぼつくことなく明朗だ。

 彼は自らの名をメヌドと名乗った。

 

「は、はい、よろしくお願いします……!」

 

 緊張した面持ちで答えれば、その場に集まりなにやら準備をしていた亜人たちが一斉に話しかけてくる。

 

「あなたが歌を歌ってくれるの? わぁ、かっわいい!」

「な! これは歓迎のしがいもあるってもんだぜ!」

「普段人こないもんね~、ここ。まあ来られても困っちゃうけど、まったく来なくてもつまんないっていうか」

「おいおい、わがままを言うな。お客人。なにもない集落だが、歓迎するぞ! いやはや、実は私も年甲斐もなく楽しみにしていてね!」

「よく旅してるラドやラルも知らない歌ってんだからすごいよね! 僕もたのしみ!」

「あたしも! あたしも!」

「お姉ちゃんもかわいいねぇ」

「二人とも黒髪だけど姉妹なの?」

「わわわっ!? いや、俺とユリアは別に姉妹じゃなくて……」

「お嬢ちゃん、自分のこと俺って言うのか? わはは! それもまた可愛らしい!」

 

 挨拶をしながらぎくしゃくしていると、亜人たちが我も我もと話しかけてくる。どうやらここの住民たちはみなラドとラルように非常に人懐っこいらしい。それとも珍しい客人に気分が高揚しているのだろうか。少し離れた場所にあるからかもう少し閉鎖的な空間を想像していただけに、少し意外だ。

 ジュンペイが人に埋もれて抜け出せなくなりそうだと見ると、ユリアがすかさず「せっかくなので専用の服に着替えたいんです。どこかお部屋を貸していただけますか?」と申し出た。それは快く受け入れられ、別室へと案内される。

 着替えの手伝いを申し出られたが、それは丁重に断った。

 

 やっと人の視線から解放されてジュンペイが一息つく。

 

「はぁ……。びっくりした」

「すっごく期待されてますねぇ」

「プレッシャーかけんなよ」

「そんなつもりじゃないですってば。さ、着替えますよ。ばんざ~いしてください」

「自分で脱げるし!」

 

 服を脱がせるところから世話を焼く気らしいユリアに顔を赤くして吠えると、ジュンペイは少々疲れた様子で服を脱ぎ始めた。

 

「な、なあ。やっぱり色々聞くのは歌った後の方がいいよな?」

「ですね~。そっちの方が聞きやすいです。あまり早く済ませるのもあれですし、せっかく歓迎の準備もしてくれているんです。ここは前半と後半で分けましょう」

 

 着替えたジュンペイの顔に化粧を施し、髪飾りを使って華やかに髪の毛を結いなおしているユリアは手を動かしながら頷く。

 

「分ける?」

「本来お礼をすべき相手の一人、ラドさんがまだ帰ってきていないでしょう? だから先に皆さんにお聞かせしてから、あとは彼が返ってきてからってことにして一度歓待をお受けするんです。その席でさりげな~く情報収集しましょう」

「な、なるほど!」

「んもう。しっかりしてくださいよ~? そんな様子でよくリアトリスさんに頼ってくれなんて言えましたね~」

「うっ」

「こらこら。真に受けない! ちょっとからかっただけですよ。君がこういうの慣れないの知ってますもん。だからジュンペイくんは、お歌をがんばってください」

 

 ユリアはにっこり笑う。

 

「とびっきり可愛くなってね」

 

 ジュンペイは分かってはいたものの、顔をひくつかせた。

 

 

 

 

 その後着飾られたジュンペイは緊張の中、亜人たちの前に現れた。

 愛らしく美しいその装いに、男女両方から感嘆のため息が零れている。種族関係なく見惚れられるとは本当に見た目は飛び切りに良いな、とジュンペイは複雑な面持ちで自らの外見の良さを自覚する。正体は誰かと話す事すら出来なかった世界の災厄……醜悪な魔物だというのに。

 

 ぺこりと頭を下げたジュンペイは、無意識に胸の前で手を組む。現在の核たる心臓もどきの鼓動を感じながら……ひとつひとつ、言葉を異世界の調べにのせはじめた。

 それは亜人たちの心を見事に掴んだようで誰もが聞き入るが……途中から以前興行を行った町とは様相が異なり始めた。早くも曲調を覚えたのか、何人かが思い思いに楽器を取り出して即興で範奏をつけはじめたのである。これにはジュンペイもユリアも驚いた。

 

 ラルもまたその一人で、木で出来た棒を二本。曲に合わせて小気味よく打ち鳴らし、ジュンペイの前に躍り出て見事な舞いを踊り始めた。

 それは歌い手であるジュンペイの意識を散漫にすることなく気分を高めていく。

 舞いは実に優美で美しく、それでいて身体能力を活かした凄まじい躍動感。

 

(た、楽しい。お祭りみたいだ)

 

 明るい曲調の歌に更に弾みがつくのを感じながら、ジュンペイはそんなことを考える。そしてふと、無意識下でまた体験したことのないものの単語を使っていることに気が付いた。

 

 祭り。そんなもの、当然知らない。

 だというのに耳の奥に祭囃子が聞こえてくる。

 

(祭囃子って、なんだっけ)

 

 ぽつりと心に落とした疑問に波紋が広がり、心が震えた。それは昨晩の記憶の泡より強いもの。

 それは新たな記憶を呼び起こす。

 

 

 

『今日は特別だよ』

 

 

 誰かの声が秘め事のようにささやいた。

 

 

『よかったね、許可もらえて』

『うん!』

 

(!)

 

 声に受けごたえをしたのは誰だ。

 

(くらくらする)

 

 いざなう。いざなわれていく。記憶の底へ。

 

 歌の高ぶりと楽器の調べ、優雅な舞いが一体となってある種の儀式めいた空間となっている。周りの者は純粋に楽しんでいるだけだが、ジュンペイの意識だけがふわふわと浮いていた。

 体は歌を見事に紡いでいるし気持ちもこもっているが、ジュンペイの意識がもうひとつそれを見降ろしているような感覚。

 今まで朧気だったそれが形を持ち始めた。

 

 

 

 白い天井。

 

 心配そうな顔。

 

 水の入った袋が吊るされていて管が伸びている。

 

 細くて白い枝のような腕。

 

 

 

「!!」

 

 そこで大きな銅鑼のような音が響き、ジュンペイの意識は一気に現実へと引き戻された。だが今思い出したものは記憶から消えることなく、確かにつかみ取った感覚がある。

 背中をひとつ、汗が流れた。

 

「おいおい、さすがに音がデカいぞ! 嬢ちゃんが驚いちまっただろ」

「ごめんごめん」

 

 目の前では今の大きな音を奏でたらしい打楽器と、その奏者が申し訳なさそうにジュンペイに頭を下げていた。

 

「あ、気にしないで。……その、みんな色々演奏してくれて楽しかった」

「そっか! そりゃよかった!」

 

 ジュンペイの言葉に嬉しそうにする亜人たちに自然と笑顔になる。リアトリスが心配だし緊張もしていたのに、今は高揚感で体がぽかぽか温かい。

 

「ふふ。そろそろ休憩してはどうだね?」

「……あ。そ、そうですね」

「素晴らしい歌をまだまだ聞きたいからね。疲れてしまっては、それもできないだろう。続きはラドが帰ってきてからにしよう」

 

 うまい具合に乗せてもらったというか乗せられたというか。思ったより長い間歌っていたようで、最初に前半と後半で分けようと言っていたユリアすら時間を忘れていたようだ。

 二人して長老メヌドの言葉に慌てて頷く。

 

 

 そしていよいよ情報収集をするぞ! と意気込んだ時であった。

 

 

「おや、噂をすれば。どうやら帰ってきたようだね」

 

 長老がそんなことを言うものだから、空気を吸いがてら外へラドを迎えに出たジュンペイ。

 だがそこに居たのはラドでなく、思っていたよりずっと早く再会した自分の嫁と……自分たちが目的とし、探し求めていたドラゴン。

 その後ドラゴンの正体をユリアと共に聞かされて、というか実際に目にして「と、灯台下暗し?」と二人で顔を見合わせた。

 

 

 

 そして一通り驚き終わったころ。……様子を見ていた長老が、笑みを深めながら声をかけてきた。

 

 

「して、お客人。ドラゴンになにをお求めかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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