腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】 作:丸焼きどらごん
アリアデスはゆったりとした面持ちの老ドラゴン、メヌドをしばし観察する。表面上は落ち着いているようだが、アリアデスの眼にはひどく緊張しているように見えた。
服の上からでもその動作で筋肉の張り方、強張りを見抜き判断する。おそらくこの場ではアリアデスにしか出来ない芸当だろう。リアトリスはアリアデスにしてみればまだまだ観察眼は粗雑。気づけまい。
逆に相手が有している情報で緊張してしまっている。それも無理はない事だが、これはまだまだ鍛えなければならぬようだなと嘆息した。
……その機会があれば、だが。
少なくともアリアデスは、その機会がある未来を願っている。
老ドラゴンの緊張も無理はない。腐敗公とは本来、ドラゴンとて緊張せずに相対するなど不可能な相手。それでも迎え入れたのは、おそらく好奇心が勝ったか。
憶測ではあるが、あながち間違ってはいないだろう。ドラゴンとはそういう生き物だ。
アリアデスも弟子が連れて来た相手でなければ、初対面時、腐敗公ジュンペイを前に緊張を強いられただろう。……だが己の課す修行をやり遂げ若くして宮廷魔術師となったリアトリスを、呆れる割合の方が多いもののアリアデスは信用している。
その信用している部分というのが、利己的なくせに根が庶民で分不相応の大望など抱かず、才能に起因する察知能力、本能ともいえるそれで己にとって本当に危険な物には手を出さないだろう……という、本人が聞けば不満げな顔をしそうなものだ。最終的に王子をぶん殴り処刑台送りにはなったが、王宮という伏魔殿ではその本能でもって最も湿った部分は上手く回避していたように思える。不器用さと天秤にかければ生きやすさはとんとんだが、なかなか出来る事でもない。
アリアデスにしてみればそういった人間だからこそ、安心して家名及び新たな名前、己の技術を授けられたのだが。
才能がありそれを自分で信じて疑わず、かといって途中で満足せず己を高めることに積極的。根は意外と真面目でよく慢心はすれど傲慢にはなりそうでならない……それがリアトリス・サリアフェンデという人間だ。
弟子試験を勝ち抜いてきた事を抜きにしても、そんなリアトリスだからこそアリアデスは弟子として育てた。そこには確かな"信"が存在する。
なればこそ、弟子が一年見極め信頼したジュンペイを受け入れ、こうして今も見守るにとどめている。
もちろんあらかじめ予告してあるように「生かしたまま世界を保つことが不可能」と判断した場合は、己の命を賭してもジュンペイの魂を刈り取るつもりだ。腐敗公の人格がいくら好ましく、アリアデスにとっての孫弟子であろうとそこを曲げる気はない。
これは現在その在り方を許容し、見守っているアリアデスの責任でもある。
そして生き残れる未来を願えど、別れの時は遠からず来るものと思っていたが……。
しかし、どうだろうか。
解決への糸口となる情報の収集などリアトリスは軽く口にしていたが、確率は雲をつかむに等しい。だというのに彼女らはこの短期間で目的のドラゴンへとたどり着いた。
それも長老級。……大当たりも良いところだ。
これは元から住んでいたから会えただろう、ということではない。きっかけが無ければ老ドラゴンは自らの正体を明かさなかったはずである。
この手合いの雰囲気は、隠居した者が持ちうるもの。集落を尋ねたところで名乗ることは無かったはずだ。
だがまず先んじて彼女たちはもう一体のドラゴンと出会っている。その彼を引き寄せたのは歌。歌をもたらしたのはリアトリスとジュンペイが助けた異世界の聖女。更には巡り巡って、アリアデスも知らないドラゴンの歴史、異世界と通ずる縁が語られようとしている。
運もあるだろうが、これらはリアトリス達の行動から成り立っている。アリアデスにしてみれば無鉄砲極まりない動きの数々だが、結果的にそれが流れともいうべきものを引き寄せているのだ。
これが消極的に縮こまっていれば、なすすべなくより大きな流れに押し流されるだけだっただろう。
……それこそ、彼女らが相手取っているのは流れどころかそれを内包する"世界"なのだから。
が、魔術師とは世界を流れる魔力の支流を読み取り選択、引き寄せてこそ一流。
その支流の根源にたとえ世界樹があったとしても、もしそれすら上回るのだとしたら……これほど愉快なこともない。
(なれば、僕は今しばし見ていよう、どこまで賑やかに生き抜いてくれるのか)
殿下、あなたもそういったものが見たくて魔王まで巻き込んだのでしょう? とアリアデスはどこぞで見ていると思われる自国の王子に心の中で問いかけた。
魔族があれだけ派手に温泉郷を訪れたのだ。気配は窺えないが、動いたリアトリス達の様子を魔王の力を借りてどこぞから見ているに違いない。
(のぞき見のために魔王を巻き込むとは贅沢なお方だ)
エニルターシェが魔王ザリーデハルトを"遊び相手"に引き込んだ目的は、他勢力が個人戦力で腐敗公に対しうる可能性が最も高いザリーデハルトの協力を得て、容易く分身であるジュンペイを制圧してはつまらないから。そしてもし世界が消えてしまうなら、その前に自分の好物を堪能したいから。……とは昨日の対談で本人と魔王それぞれから語られた内容ではあるが、その実エニルターシェの念望はもっと単純だ。
本人も魔王も口にしていたが「見物」こそが単純かつ最大の目的。
エニルターシェは立場や性格はどうあれ魔術師でもない普通の人間。どんなに金を使おうが、リアトリス達の同行を追う事は容易ではない。それも部下の使い魔伝えの記録で知るなどでなく、生で見るとなればなおさら。
困難を前に走り回る自分のお気に入りと、世界最強の魔物。エニルターシェに必要だったのは、その一挙手一投足を見逃さないために協力してくれる、同じくこの余興を楽しんでくれる相手だ。
その相手に魔王、しかも魔皇とまで呼ばれる者を引き込むことを贅沢と言わずしてなんと言おうか。そこへ至るためには相応の危険もあったはずだが、結果的にしっかり取り込んでいるあたり大したものだし度胸もある。この辺はアリアデスも素直に賞賛するところだ。
エニルターシェ・デルテ・アルガサルティス。狂人ではあるが、あれも正しく人生を楽しむために生きている。
この辺は筋肉を鍛えぬき、魔術師としてひとつの在り方へ昇華させることに美学を見出すアリアデスとも共通するところだ。嫌がるだろうが、リアトリスとも似ている。
どう盗み見て、あるいは盗み聞いてるかは分からない。
だがドラゴンが種族の歴史を語る場面など滅多にないのだ。
それを共有できる相手がいるならば、機会があれば世界の深淵について語りたいものだと……そんなことを考えながら、アリアデスは老ドラゴンの語りに耳を傾けるのだった。
「理を外れている、とお考えの我々ドラゴン種とはいったいなにか。お求めの話はそれでよいかね?」
「ええ」
「では素晴らしい歌へのお礼とわしの好奇心を先に満たして頂いた対価に、語りましょう。大したことの無い話ではありますが」
メヌドの言葉に頷けば、彼は茶で口を湿らせると語り始める。
「わしらドラゴンはな、単純にこの世界の生き物ではないのだよ。この世界に住んでこそいるが、属してはいない。"ドラゴン"という種族名も、もともといた世界の言葉ですじゃ」
この世界でない場所。そういった概念は異世界から召喚されたユリアが居るため納得できた。リアトリスとしてはいずれ自ら観測して、ユリアが帰還するための術を作る予定でいる。
だが現時点ではほぼほぼ未知の領域だ。メヌドが言う別の世界が、ユリアと同じ世界だとも限らない。
そんな場合でもないのだが、神妙な面持ちをしつつもリアトリスは自らの好奇心がうずくのを感じていた。これも魔術師としてのリアトリスの
「僕らが別世界の出だってのは、けっこう前の世代の話だから馴染みは無いけど昔話としては聞かされてきたよ。それは他のドラゴンや亜人たちも同じだと思う。馴染みが無くても当たり前……みたいな? 別世界ってものを説明するのがまず難しいから、普通は他種族に話す事なんてないけどね」
「いつか大々的なお引越しというか、帰還? があるかもしれないよ~って聞かされて育ってきましたねぇ。家屋の模様にある昔語りも、その辺の伝承が多く記されてますぅ」
ラドとラルも自分の知る知識で捕捉をしてくれるが、その中でまた首を傾げるような内容が出てきた。「お引越し」もしくは「帰還」とは、どういうことだろうか。
ともかくその態度にはやはりジュンペイを忌む様なものは見受けられず、今話してくれている内容がその辺の理由に関わっていそうだ。
「ここと別の世界……話しっぷりからすると、星幽界ではないのよね? 異世界ってことは……ユリアと同じ世界から?」
「おそろいだね、ユリアちゃん!」
「気安くちゃん付けするなっていいましたよね」
「すみません」
すかさず切り捨てるユリアにラドが長身をすぼめて小さくする。
ドラゴンとしての雄々しい特徴を備える姿であまりにしおらしい態度なので、それ以上はユリアも矛を収めた。
「……まあいいです。好きに呼んでください」
「本当!?」
「調子にはのらないでくださいよ! こほん。あと、今のお話ですけど。別の世界といってもそれが一つとは限りませんよね? 私の住んでいた世界にドラゴンなんていませんでした」
言いながらも、ユリアは空想にふけるのが好きな少女だった。今でこそ稀有な体験こそが日常と化しているが、この世界へ来る前のユリアならば自分の世界にもドラゴンがいたのかも! と瞳を輝かせていただろう。
そんなユリアの心を見透かしたわけでもないだろうが、ラドが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「知らなかっただけかもよ? というかさ、僕らの祖先がこちらに来てしまったから、ユリアちゃんの世界からいなくなってしまったとか。そういう可能性もあるんじゃないかなぁ」
「それは……」
ラドの言葉にぐっと押し黙るが、そのあたりの問答は正解を知る者などこの場に居ないため無意味。
ユリアは「なくはない、くらいの気持ちで受け止めておきます」と言うにとどめ、メヌドに視線で話の続きを促した。
「現在この世界には転生の機会が訪れているのだと……そういった話でしたな。そして腐敗公が正しく機能せねば、転生叶わず内包する生命ごと消えてしまう、と」
「……うん」
沈痛な面持ちで頷くジュンペイを見ながらも、メヌドは自らも確認するように言葉を続ける。
「ふむふむ、なるほど。我らドラゴンはおそらく、その世界転生の際に巻き込まれた存在なのでしょうな。以前のね」
「それってどういう……」
「なに。わしが父より伝え聞いていた話に、現在の状況を当てはめただけですじゃよ。腐敗公が異界の魂を持つ者であると知らなければ、この推測にも行きつきませんでしたが」
メヌドは心なしか興奮しているようで、わずかに身を乗り出す。それは話を聞いているラドとラルも同じだ。
「じじ様、その推測って? わたしも気になる!」
「僕も僕も」
「待て待て。ええとじゃな……」
あくまで本当に推測だが、とメヌドは前置くも瞳の光はどこか確信めいたものを宿している。おそらく、彼の中で何かが繋がり納得したのだろう。
「えー、ごほん。……わしが聞いた話によると、ドラゴンは別の世界からこの世界に引き込まれ、そのまま閉じ込められてしまったのだという」
「閉じ込められた……ですか?」
「ああ。なんでも一族丸ごと移動してしまったそうだ。そしてそのまま帰れなくなった。……世界間を移動する方法を知っていたにも関わらずな」
「それはまた、大変だったわね。というか、今の言いっぷりだと世界ってものは国のようにたくさんあるってこと? で、ドラゴンはもともとそれを行き来する方法を持っていたと」
「うむうむ、そういうことじゃ。ドラゴンの翼は本来世界をも渡りうる。実際に行ったことは無いが、本能に刻まれているらしくてな。その時が来れば出来るだろうと、そう教わってきたよ」
あまり馴染みのない概念に加えて次々と新情報を述べられて、気分的にはそれこそ物語を聞いているようだ。が、彼らにとってはそれが歴史なのだろう。つまり事実。
リアトリスはひとつひとつ整理して、己の頭に収めていった。
「まずドラゴン自らの移動方法でなく、別々に存在する世界が繋がり一種族まるまるが移動してしまうような大々的なほころびが出来ることなど実に稀有。奇怪極まりない。だが世界そのものの転生などと聞けば、なるほどそれかと思い至る。ふふ。実のところ年甲斐もなく、推測を交え語っている今が楽しいのですよ。昔語りをするだけのつもりが、申し訳ない」
「いいえ。そういった情報こそたくさんほしいんだもの。私だって魔術師として楽しいし、とっても助かるわ!」
「それはよかった」
メヌドはそこにきて少し肩を下げる。それは気を落としたというより、肩の力が抜けたと称するにふさわしいものだった。その場で気づけたのはアリアデスのみである。
「これはもしかすると、なのですが。……転生の際に必要なものを別の世界から取り込むのが、今我らが生きている世界の生態なのかもしれませんな」
「せ、生態?」
「ほっほ。戯れに世界をひとつの生き物に例えてみたのですよ。神やら上位存在などで言い表すより、身近に感じるでしょう」
メヌドは言うと、手元の茶に一滴なにやら小瓶に入っていた液体を垂らす。すると緑色だった茶が瞬く間に黄色に染まった。
「これは温泉郷特産の火山帯でも育つ茶葉でしてな。こうしてモデレの果汁を垂らすと色と風味が変わる。よければ飲んでみてくだされ」
話の途中に珍しい茶を進められて、これは休憩を挟もうというのか? と感じるもそれは前振りだったようだ。
「我らの場合は違うが、一般的に生物は同じ血が交わり続けるとよくないことが起きる。それを防ぐための手段として、転生の際に別世界の生き物を必要とするのではないか。……なんての」
「!」
メヌドの言葉にジュンペイがが目を見開く。
「以前はドラゴンが。今回は異世界の魂が腐敗公という転生の要となる器に。そう考えると腐敗公に縁も感じようというもの」
ずずっと茶をすするメヌドであるが、ジュンペイはどくどくと中核たる心臓もどきが鼓動を刻むのを感じた。音はまるで耳元で響いているようで、落ち着かない。
そんなジュンペイの手をリアトリスが握るが、ジュンペイはひと呼吸すると「大丈夫」と笑ってみせた。
「我らの場合は違う、と申しましたな。ドラゴンは他の種族に比べ長命だが、今や同族も減り人間との間に出来た子供らは子孫を残せぬ。このままならゆるやかに滅びていくでしょう」
「子孫を残せない……。考えてみればそれも生命の特性としては歪なものだったわね。それもこの世界のものでない、という証明か」
「左様。まあ自分が楽しんで生きられたなら、それで満足というのが最近のドラゴンの考えなのだが。わしら、長生きじゃし」
「へぇ。お気の毒とも思うけれど、その考え方は好きだわ。人生楽しめてなんぼよね」
「ははっ。ありがとう。……しかしじゃな。もっと前の世代はそのことに危機感を覚えていたようで、どうにか帰還する方策を探していた。その折になにやら世界をつなぐ術を生み出したとも聞くが、それも人一人を通すほころびを作るので精いっぱいだったようで。人族に適当な理由をつけて、なんとか発展させてくれと放り投げたとも聞いておる」
その言葉にぴくりと反応して「まさか……」とつぶやいたユリアだったが、首を振って口を噤む。
「ドラゴンは滅ぶ前に自分たちの世界に帰りたかったのね。それでいつか訪れる機会に備えるため、伝承をつなげてきたと」
「ああ。そして今回の世界転生。……機会があるとすれば、ここしかあるまいな」
メヌドはそう言うと、歯を見せて少年のような笑みを浮かべた。
「ま、そんなわけでの。正しく世界転生が行われるならそれもよし。行われず世界が消えるなら我らを閉じ込めていた蓋が消え去るわけだからそれもよし。解放されたなら、自らの翼で亜人の子らを連れて世界を渡るのみよ。……といってもの。これは祖先の悲願であって、今のドラゴンやこの世界で生まれた亜人にとってはそもそも帰ることすらどちらでも良いわけじゃ。この世界の大事を我らにはあまり関係ない、とラドが称したのはそういうことなのだよ。なにか参考になったかね? お嬢さん」
「なったような、ならなかったような……いや、待って。なんというか、整理が出来ていないの」
語るだけ語ってざっくりまとめた長老にリアトリスは今聞いた話を己の中で反芻する。
外来の種族と世界との関わりという規模の大きな話だが、要はこの世界の営みに巻き込まれたけどもう一度それがあれば自分たちはもとの世界に帰れるらしいよ! というわけだ。そこにリアトリスが知りたかったような情報は含まれているだろうか。
「あ、そいえば。生命樹の種とかって持ってません?」
考えながらも、はたとそういえばこれについての返答を聞いていなかったとリアトリスが尋ねる。その調子があまりに軽く、古代文明の希少品について聞くような調子でなかったものだからかメヌドは一瞬虚をつかれたような顔になる。
「いや、残念ながら。存在は知っとるが、少なくともわしはもっとらんよ」
「ドラゴンは宝集めが好きだから……ってことで尋ねたんだろうけど、僕らそれぞれお宝の定義が違うからね。好みはそれぞれ。人と同じ! 一般的に宝と称されるものを好むドラゴンが多いのも事実だけど。ちなみにじじ様の宝物は女性の下着だよ」
「ラド!?」
突然の暴露に泰然としていたメヌドが途端に焦り始め、ついでに各方面からじっとりとした視線が突き刺さる。
「ち、ちが! いやそのだな。あくまで昔の妻などにもらった合法的なものであって……」
「ああ、形見なんですね。俺もお嫁さんたちが溶け切っちゃうまで身に着けてたもの全部が大事に思えてたからわかるな……」
「…………」
腐敗公ジュンペイにまさかの理解を示され、それはそれでどう反応してよいか分からぬメヌドである。
「……こほん。ラドよ、お前はどうなんじゃ?」
「僕も持ってないなぁ。そもそも僕はどこかに何かをためこむ
申し訳なさそうに眉尻を下げるラドに、リアトリスは落胆を覚えながらも首を振る。
「希少品だもの。むしろ存在を知っていただけでも驚きだし、そこまで期待してなかったわ」
もし彼らが持っていたとして差し出せる対価もない。こちらはあくまで「あわよくば」の範囲内でしかないのだ。
ともあれ、情報を得ることが出来た今……目的は達した。
活かせるかどうかはリアトリス次第である。
(世界の転生、外来種、ほころび、世界の生態)
考えながらも次に脳裏をかすめるのは生命樹の種を次にどこへ探し求めるかだが……ふと。自分が何かを見落としていないか、という事に気が付いた。
(私はジュンペイの魂を刈り取れだなんていう命令を取り消させるために、世界樹に意識をつなげて文句を叩き込みたい。そのための方法に世界樹の力を削りだした生命樹。私が持っていた生命樹の種はすでに使用済み。人工物である種の使用は一度のみ可能。けどそれを介して私は一年生き延びるための栄養をあの腐朽の大地から得ていた。新たに使用するのは不可能だとしても上掛けの魔術で触媒にすることは可能。この温泉郷は星幽界との境が薄い。それはもしかして異世界の出身であるドラゴンが長く住んでいたから? だとすれば同じく異世界の魂を持つジュンペイ……腐敗公が長年住んできた腐朽の大地も条件は同じ。そもそもあの大地の下はどうなっている? 私は栄養を得ていたのは本当に全てが溶けこんだ汚泥からだった? …………)
それは今朝、新たな魔術を生み出した時に似た感覚。
自分の中に集めていた材料が、きっかけを伴って組みあがり、形になっていく。
リアトリスは腕組みをしてうんうんと唸り始める。その様子にジュンペイとユリアが心配そうに様子を窺っていたが……突然、リアトリスは顔をあげた。
「……よし! 試してみたくなったことがあるわ。ジュンペイ、ユリア!」
リアトリスは腰に片手を当て胸を張り、ぐっともう片方の拳を握りこむ。
「腐朽の大地へ戻るわよ!」
舞台は再び、始まりの地へ。