腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】 作:丸焼きどらごん
59話 ドラゴン特急
「んー! いい眺めだわぁ!」
雲を見下ろし頬に風を受ける体験を、二度目となるリアトリスは存分に楽しんでいた。自分の腰に左右からぎゅっと抱き着いている少女二人も、余裕の心でもって受け止めている。
ぎしぎしと何かが軋む音がするのは、気のせいだろう。
心なしかあばらが痛む気がしないでもないが、気のせいだろう。
「た、た、た、高い! ひぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「地面が、地面があんな下……」
ガタガタと震えるジュンペイとユリアはよほど余裕が無いのか、リアトリスに力いっぱい抱き着いてくる。
怖いなら目を瞑ればいいのにと思うものの、恐怖とは「見えなくなる」ことでより増す場合もある。もしくは怖いものほど見てしまう心理。リアトリスにとって上空を移動する景色は素晴らしいものだが、この二人にはそれを味わうほどの余裕はないのだろう。生物として本来到達することの無い高さは、世界最強の魔物にすら恐怖を味合わせるらしい。
師であるアリアデスは流石というか、どこかに掴るどころか座りすらしていない。腕を組みつつ自らの体幹だけで不安定な足場に立っていた。油断すれば真っ逆さまに落ちてしまうだろうに、そこに恐怖心はひとかけらも感じ取れない。まさに泰然自若といった様子で、リアトリスは己に最も足りていないものを見せつけられている気分だった。
「けどそれはそれとしてどうやって立ってんのよ」と、リアトリスは恐ろしいものを見る目で師を眺める。気持ち悪いくらいに垂直に立って微動だにしない。
(ま、まあいっか……)
考えてもまだまだ自分には師の肉体領域には踏み込めないなと諦めると(出来れば踏み込みたくないと思っているが)首を緩く振って、自分たちを乗せて雄大な空を飛翔している生き物に話しかけた。
「ラド! 送ってもらえて助かるわ。ダメもとでお願いしてみるものね」
『いいよぉ! 僕も腐敗公のご自宅や成長した生命樹には興味あるしね~』
咆哮に似た重低音の鳴き声に重なるのは、気さくな青年の声。
リアトリス達は現在、新緑の鱗を持つドラゴン……ラドの背に乗り、腐朽の大地を目指していた。
亜人集落にて老ドラゴン、メヌドから話を聞き終わったリアトリスは、突然腐朽の大地への帰還を決めた。しかも、なんとその往路をラドにお願いしたのである。
翼があるならよければ送ってくれないか……と。
ラドは言われた直後こそ驚いたような顔をしていたが、頼んだリアトリスが拍子抜けするくらいあっさりと了承してみせた。
本当に? 本当に大丈夫? さすがに自分でも図々しいとは思ってるんだけど、と何度もリアトリスが確認したが、ラドは『腐朽の大地に興味あるし、なにより好感度稼ぎしたいから! 好きな子を乗せて空飛ぶの楽しいだろうしね~』と、ユリアを見ながらバチンっと星が飛び出そうな勢いで片目を閉じ、いい笑顔で言ってのけられてしまった。
どうやら彼は大人しくこそしているが、ユリアを諦めたわけではないらしい。娘であるラルから突き刺さる視線もなんのその、である。
ユリアは眉根を寄せたが、リアトリスのためになるのなら……と共に頭を下げてくれた。リアトリスとしてはその好意に頭が上がらぬ思いである。
ともかくそんなわけで、急遽。
腐朽の大地へ向けてのドラゴン特急に乗ることと相成ったわけだ。
空を飛べるドラゴンのラドにお願いをしたのには二つ理由がある。
魔王ザリーデハルトの話によれば、腐敗公討伐のための軍備は整えられつつあるのだとか。
さすがに世界の三分の一を占める腐朽の大地の淵を満遍なく埋める包囲網は難しいだろうが、それでも。人族、魔族両方を有する、世界各国から集まった精鋭が甘いものであるとも考えにくい。
再度腐朽の大地へ入ろうとするならば、不測の事態などいくらでも予想できた。
……となれば、それらを完全にかいくぐり腐朽の大地へ入る手段として空路は非常に魅力的。なにより早い。
現在空を飛ぶ際に受ける風の強さや冷たさ、空気の薄さなどを軽減する結界こそ張ってあるが、思い切り飛ばしてほしい、というリアトリスの要望に応えたラドはかなりの速度で飛んでいる。あの巨大なアグニアグリ大山脈もすでに後方へと消え去り、ぐんぐんと過ぎていく地上の景色は壮観だ。
もしユリアに余裕があれば「まっすぐに進むジェットコースターに連続で乗っている気分」だと述べただろう。……といっても、リアトリスにじぇっとこーすたーなるものは分からないのだが。
これは彼の好意に甘えるだけでなく、礼は再度何らかの形でせねばなるまいなと思うリアトリスである。ラドは物に執着する性質ではないと言っていたから、さて何をあげればよいのやら……と迷ってしまうのだが。
(う~ん。にしても、翼のある生物やっぱり羨ましいわ。今度、ダメもとでシンシアに使い魔の作り方教えてもらおうかしら。ど~しても使い魔生成ばっかりは昔から苦手なのよねぇ……。それによしんば空飛べる子を作れても、この速度を体感したらどうあっても物足りない気がする)
顎に指をあてて唸るリアトリスだったが、そんな彼女に真下から声がかけられる。
「り、リアトリス。腐朽の大地へ戻る理由、もう一度聞いていい?」
「わ、わたしも聞きたいデス……」
どうも怖さを紛らわせたいのか、ジュンペイとユリアは会話を求めているようだ。
リアトリスはひとつ頷くと、自らも確認するように数時間前を思い出すのだった。
「腐朽の大地へ?」
「ええ」
目を見開くジュンペイにリアトリスはこくこく頷いて、ぴっと人差し指を立ててみせる。
「簡潔に、まず戻る最大の理由を述べるわね? ……あそこには生命樹とジュンペイ本体という魔力の塊があるからよ」
「え、なんだ。生命樹あるんじゃない。というか、本体? なに、このジュンペイちゃんだけじゃないの腐敗公って」
リアトリスの言葉の中身に反応したのはラドで、探し求める希少品の名が出てきたからか意外そうな声を出す。
「あるにはあるけど、使用前の種の状態ではないのよ。もう使用済み。成長させてしまったわ」
「あれって成長させると使えなくなるの?」
「ええ。使用用途はその特異性を生かした、腐朽の大地での足場よ」
「足場!? あの腐朽の大地に足場とかあるの!? へえ~!!」
「ふふふん、すごいでしょ。史上初よ! 私が! 私が育てました! その足場を。しかもそこで一年過ごしたわ!」
「腐朽の大地で一年も!? リアトリスちゃんってすごいんだねぇ!」
「ふふふふふ……」
気持ちよく驚いてくれる上に手放しに誉めるラドにリアトリスは気分を良くする。
しかし彼の娘のラルはと言えば、疑問の方が勝っているようだ。ふわりとした髪を揺らし首を傾げる。
「腐朽の大地に一年……。そういえばジュンペイちゃんが腐敗公だってことは、じじ様が言うのだし納得しましたけど。……そうなるとリアトリスさんとユリアさんってなんで腐敗公さんと旅を? どういった知り合いなんですか?」
ラルの質問に真っ先に胸を張って答えたのはジュンペイだ。
「リアトリスは俺のお嫁さん」
「まあ!」
その返答になにやらラルが頬を染めてリアトリスとジュンペイを交互に見ると「まあまあまあ!」といたく興奮しながら同じ言葉を繰り返している。なにやら彼女の琴線にふれたらしい。
「こうして俺が外の世界をこれ以上溶かさないで歩けてるのも……リアトリスのおかげなんだ」
「へぇえ~。えーと、つまり腐敗公の花嫁ってこと? 生贄? はあぁ~。すごい。よく生き延び……ああ。そっか。腐朽の大地に足場を作ったんだったね。うんうん。……って、ちょっと待って待って。あのさ、もしかしてユリアちゃんも……」
「大丈夫。ユリアも花嫁だったけど、離婚済み。俺のお嫁さんはリアトリスだけだから」
「な~んだ、よかったー!」
ジュンペイの言葉にほっと胸を撫でおろすラドだったが、その安心感を恋する相手が直々に叩き落とす。
「訂正しておくと私はリアトリスさんの愛人候補むしろ本妻狙いなのでそのへん覚えておいてください」
「ええ!?」
「ユリア待てよ本妻狙いっての今初めてきいたぞ!」
「ふーんだ。ジュンペイくんが情けなかったらまだまだその可能性あるんですからね~。よーく覚えておいてください。リアトリスさんも覚悟していてくださいよ!」
「あ、あはは……」
ラドに負けないほどの、ユリアの世界でウインクと呼ばれているそれでリアトリスに主張するユリアに先ほどまで意気揚々と自慢していたリアトリスも曖昧な笑みを返すしかない。
……と、そこで控えめな声がかけられた。
「……話を戻してもらっても、よいかの?」
きゃいきゃいと盛り上がり始めた若人たちを見かねて、メヌドが声をかけてきたのだ。リアトリス達の後ろでは、アリアデスが少々頬を染めながら頭を下げていた。「お恥ずかしい」と小さな声を添えて。メヌドもまた「いえいえ、こちらこそ」と頭を下げた。
そんな年長者同士の「うちの子が申し訳ない」合戦を察して、リアトリスが気まずそうに咳払いをして仕切りなおす。
「えっと……それで、足場ね。足場。ついでだから授業がてら生命樹についても説明しましょうか。よろしくて? ジュンペイ」
「はい、先生!」
「よろしい!」
茶目っ気を含ませて言うリアトリスにジュンペイも元気な声で返事でもって返す。
久しぶりの先生と生徒らしいやりとりが、妙に嬉しく感じられたのだ。
「生命樹とは……」
リアトリスがどうして生命樹を腐朽の大地での足場にしたのかと言えば、外装はともかくその中身である性質が世界樹と同じものだからである。
その性質とは、星幽界と現実世界の狭間に位置し、決して触れられず……魔力を受けて育つこと。転じて、"魔力の流れの上に位置する"というもの。そんな世界樹と同じ性質をもつ生命樹には、世界中を巡る魔力の支流そのものを呼び寄せる力があるのだ。
魔術師は用途に応じて適切な魔力の支流、属性を選択し呼び寄せてこそ一流とされるが……なんと、生命樹があれば様々な力が労せずしてひとところに集められる。
魔術が苦手なものにとってそれは大きなことだし、更にそれを一流が使ったならその効果はすさまじい。
そんな超絶便利道具こそ、生命樹である。
古代文明の叡智は接触叶わなかった星幽界最大の魔力事象……世界樹からその力を引き出すことに成功し、現界物質と呼ばれる外装を付与することで、こちら側の人間が使用できるようにし生命樹としたのだ。
外装部分はあくまでこちらの世界のもの。リアトリスが自分たちに施すものと同じ加護の結界を張らなければ、腐朽の大地では腐り溶けてしまうだろう。そうなれば留める枷を無くした生命樹に封じられた世界樹の力の一端は、霧散して世界へ還元されてしまう。……だが外装さえ残っていれば、力は残されたまま。
魔力がすぐに枯渇してしまう特異な場所でも、自ら栄養となる魔力を支流ごと引き寄せて、枯れることなく自立してあの大地で存在できるのだ。
……と、そんな生命樹の説明を話し終わったところでジュンペイはしっかりメモをとったあと、おずおずと口を挟んだ。
「それで、腐朽の大地へ戻ってリアトリスは何がしたいの?」
「だいじょぶだいじょぶ。それも今から話すから」
軽い調子のリアトリスに少々の不安を覚えながらも、ジュンペイは自分のお嫁さんが腐朽の大地に対して「戻る」と表現した事にほんのりと喜びを感じていた。
全てのものを溶かしつくし大地や海すら侵す呪われた大地。魔術師にとっては生命線である魔力がすぐさま消費されてしまう最悪の場所。
しかし間違いなく、ジュンペイとリアトリスが出会い、夫婦……そして先生と教え子になった、馴れ初めと思い出の地でもあるのだ。
全てはあそこから始まった。
リアトリスと出会ってから一年と少し。ジュンペイが腐敗公としてこの世界に現れてからの期間を思えば塵に等しいほどの短い時間。しかし、それが。今こそが。一番長くて、幸せな時間。
一度、分身体が消え本体に戻ってしまったジュンペイを、リアトリスはちゃんと迎えに来てくれた。そして今度は共に戻ろうと、帰ろうと言ってくれている。それが嬉しい。
たとえリアトリスにとってよくない場所であっても、自然と口にしてくれたことがジュンペイにとっては幸福であった。
……そんな繊細な旦那様の心の機微を感じ取れていないのか、リアトリスは自慢げに胸を張る。
「生命樹の再利用を目論んでいるわ!」
「え? でも一度種から成長させたら使えないって……」
「そう、そうなのよ。でもね。私、生き残るために必死だったのはいえ生命樹の二次使用を可能にしていたのよ! すでに! この一年間で! いや、本当になんで気づかなかったのかしらねぇ~。まあ天才といっても少しくらい欠点無いと不公平だものね。むしろこういうところが愛嬌ってものよ。完璧すぎる人間なんてつまらないもの~」
「かん……ぺき……? ……。お前は欠点だらけだが?」
「ごめんなさい調子に乗りました。なので心の底から不思議そうに言うのやめてください師匠」
調子に乗りに乗り始めていたリアトリスだったが、師からの評価にスンッと真顔になった。少々心が痛い。
「ふむ。二次使用か。……それは一年も腐朽の大地に居たにも関わらず、お前が痩せこけていなかったことに関係あるかい?」
「ええ! そうですそうです。そうか、師匠にはお話していませんでしたね」
オヌマにはさんざん愚痴ったが、そういえば屋敷が吹き飛んだごたごたがあったので全てを話す前にうやむやになっていたのだったと思い至る。……それが無かったとしても「人もろもろも溶け込んでる腐朽の大地の汚泥から栄養取ってたの? マジで?」とオヌマにドン引きされていたので話したかどうかは分からないが。
「生命樹を介して腐朽の大地の汚泥から栄養素だけ抜き出し、濾過して摂取していました。けど今思い出すと、少し変なんですよね」
「変とは? さすがの僕も腐朽の大地に足を踏み入れたことは無いから、お前の話を聞くしかないのだが」
「こうして安心して話せる相手が居るだけでありがたいです。なにか気づいたことがあれば補足をお願いします、師匠」
アリアデスが頷くと、リアトリスは部屋の中をぐるぐる歩きながら話を続けた。
「一度、ジュンペイが私のためにって住処を整えてくれようとしたんですよ。ただの穴でしたけど」
「うっ」
ジュンペイがずんっと気分を落ち込ませた。。リアトリスに自分が精一杯整えた住処を「ただの穴ぁ!!」と叫ばれた一年前を思い出したのだろう。今にして思えば自分でも「あれはない」と思うだけに、それを言われると辛いのである。
「その時、腐朽の大地の汚泥の下を垣間見ました。……侵食し続けたにも関わらず、大地そのものに溶けたようなあとはありませんでしたわ」
「ほう」
「そもそも腐敗公の役割とは、旧世界を新世界転生のための栄養に還元する事でしたよね? そして腐敗公の体にそれは蓄積されている、と。でもその体の定義が動く汚泥のごとき本体だけでなく、腐敗公が溶かしてきたもの全てだとするなら?」
「リアトリスは、腐朽の大地と呼ばれる場所全てが腐敗公の体だと。そう言いたいのかい?」
「え……そうなの?」
「ジュンペイちゃん、自分の事なのに分からないの?」
「う、うん」
当の腐敗公本人が困惑しているのでラルが尋ねるが、ジュンペイとしては生まれた時から自分という存在が何なのか知らなかったのだ。これこれこうだよ、と言われてしまえば「そうなのかー」と頷いてしまいそうなほど知らない。
「明確な根拠まではありませんけど、あれだけ広い大地のどこに居ても捧げられた花嫁を感知できるってんですもの。自分の体に触られたからわかる、とか考えたら馬鹿みたいな感知範囲も納得かなって」
「な、なるほど?」
「ジュンペイくん。自分の事なんだからほいほい人の考え受け入れないで、もう少し考えてから納得したらどうですか? それもリアトリスさんの判断材料になるんですよ?」
「ぐっ」
納得したらしたらで今度はユリアから鋭いツッコミが入った。手厳しい。
「……師匠は転生のための期限は三年と申されましたけど、まずその世界転生が一気にぱぱっと行われるものなのか私たちは知りません。長命種のドラゴンの長老級すら実際には目にしていないものだから、知りようもないのですが。そこでこれはメヌド様の先ほどのお話のように推測でしかないのですが、私はこう思うのです。腐朽の大地の下で、すでに転生が始まっているのでは? と」
「え!」
「……続けなさい」
「徐々に新たな大地が作られていて、私が見た汚泥の下の大地がそれ。腐敗公が溶かした旧世界の栄養を吸収して、世界の三分の一。すでに新世界へと転生している」
びしっと地面を指差しリアトリスが断言する。その内容に誰もが目を見開くが、リアトリスはそのままにやりと笑った。
「だからこそ! ……おそらくこの世界で、今! 最も星幽界……及び世界樹の存在が近しい場所は腐朽の大地だわ。転生を行う要が、狭間に位置する世界樹ならば! でもって、あつらえ向きにそこには生命樹がある。私が知らないうちに新世界の栄養をかすめとるため使っていた生命樹が!」
ぐっと拳をにぎったリアトリスが意気揚々と叫ぶ。
「あわよくば、そこから世界樹へ意識を直通よ!」
あわよくば、といったところにその自信に見合う根拠があるのかないのか分からないリアトリスらしさを感じジュンペイは苦笑する。……そしてチラと隣で「さっすがリアトリスさん!」とやんややんや賞賛しているユリアを見てから頷く。
「可能性があるなら、やらなきゃな。――――のためにも」
その声はあまりにも小さく誰にも聞かれることはなかったが、ジュンペイはぐっと前に一歩踏み出すとリアトリスのように拳を握った。
「わかった! 行こう、腐朽の大地へ! このままこそこそ隠れて逃げながらどうこうするより、可能性があるならそれを片っ端から! 全部やろう! 駄目だったら、また次を試せばいい!」
「お、いい勢いじゃないの旦那様!」
ジュンペイの勢いが気に入ったのかリアトリスが飛び切りの笑顔を浮かべる。そんな彼女らの間には悲壮感などなく、ただただ先へ進む意志しか見受けられない。
「あなたの覚悟も受け取ってる。でも私の隣に居るのなら、目指す先は周りの奴らをぎゃふんと言わせる幸せ未来! そっちの覚悟もよろしくだわ!」
「おう!」
「つかみ取るわよ! でもって、全部まるっと収めてまたいろいろ観光しましょ。この温泉郷だって、まだまだ遊び足りないもの!」
「ああ!」
「よっしいい返事!」
ぱぁんと片手同士と打ち合わせて小気味よい音を響かせると、そこにユリアが「私も! 私もいれてください!」と突っ込んでいった。
リアトリス達の発言を、世界の危機だと駆けまわっている者達が聞けば「なんと身勝手な」と憤慨するだろう。世界全部に対して、たった一つ。魂を捧げればすべてが解決するのにどうしてそうも傲慢で居られるのだと。
しかしリアトリスとしてはそれに対して、「全て丸く収めればそれが最良でしょ! 妥協するほど謙虚じゃないわ」と笑顔で返す。
「なんだか賑やかな人たちだねぇ。僕、もうちょっと見ていたくなっちゃった」
それを楽しそうに眺めていたラドが、リアトリスの「腐朽の大地まで送って!」発言に頷くのは……このすぐ後の事である。