腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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62話 それぞれの行進

 昼間でも薄暗い腐朽の大地。

 時刻はすでに夕刻に近づいてきたため余計に暗く感じるが、現在その場所では様々な魔術光やそれに照らされた武器、防具などが閃き、暗い土地にわずかばかりの明かりと喧騒を与えていた。

 

 

「っ、こいつ……速い!」

「魔術師の方は無視しろ! 肩に乗る腐敗公のみを落とすのだ!」

 

 駆ける中で耳がいくつかの声を拾うが、たいていが混ざり合ってリアトリスの耳には音として届く。聞こえたとしても気にかけている余裕はないのだが。

 途中炎で編まれた網がリアトリスを捕らえようとするが、そこにいくつもの触手が伸び網の穴一点へと入り込む。そして……放射状に開いた。すると瞬く間に網は炎、魔力もろとも霧散し消失する。

 よってリアトリスの行く手を遮るものはない。

 

 それを成したモノは大きさこそ違うが、これまで災厄の象徴とされてきた流動体の魔物……腐敗公。

 彼は嫁を守れたことに、それが笑みだと気づくものはいなかったが『ふふん』と自慢げに笑ってみせた。

 

 自分の体もなかなかのものだ、と。

 

「腐敗公自身の魔力耐性か……!」

「邪魔よ!」

「ぐっ!!」

 

 ジュンペイの触手に慄いていた魔術師を蹴倒しながらリアトリスは進む。

 

 現在彼女が対峙しているのは人と魔族が混ざった大規模の軍であるが、混ざった……といっても本当に二種族が入り乱れているわけではない。それぞれ編成された軍が並んでいる。

 魔将として戦ってきたリアトリスの目から見ても精鋭揃いだが……しかし。全てを馬鹿真面目に相手してやる気など無いし、協力体制をとれるようになったからといってそれは意識の話。

 量で押す傾向にある人族と、個で押す傾向にある魔族。それが噛み合うにはまだまだ時間がかかるだろう。そこの隙間を突くのが、リアトリスとジュンペイの活路だ。

 

「ジュンペイ! 右右左右左下!」

『わかった!!』

 

 移動と突進力に全魔力を注いでいるリアトリスは方向のみを見極め、叫ぶように指示を出す。するとリアトリスの肩、首、後頭部にまとわりつくようにくっついている、魔物姿になったジュンペイが触手を伸ばして迫りくる攻撃を武器ごと溶かし薙ぎ払った。

 単純にこれの繰り返しであるが、リアトリスがどんどん進んでいくため相手側は情報を共有する前に二人と遭遇し、あしらわれ、その背中を見送ることとなる。

 

 身軽で少人数だから大人数の相手を翻弄しやすい。

 ……事実を並べてみれば、なるほどと頷く者もいるだろう。だが実際にこの光景を前にすれば「馬鹿な」と言う者がほとんどのはずだ。

 

 肩に腐敗公を乗せているとはいえ、単身。……武装し敵意を向けてくる数千の相手へつっこむなど、正気の沙汰ではない。

 しかもこれは先方だ。リアトリスは知らないが、後続として腐朽の大地に向かっている軍が合流すればその数はさらに膨れ上がる。急ごしらえで温泉郷にやってきたアッセフェルト達とは違うのだ。

 まず間違いなく、常人ならばその光景だけで身動き一つできなくなる。飲み込まれ、すりつぶされることなど誰の目にも明らかなのだから。

 

 だがリアトリスをはっきり目で捉えることに成功した者は、武器を向けながらもその表情に戦慄する。腐敗公でなく、たった一人の魔術師相手にだ。

 

「笑ってやがる……」

「あらやだ、私に見惚れているのかしら? ごめんなさいね。既婚者なの!」

 

 腐敗公の触手が攻撃を防いでるとはいえ、それも万全ではない。体のそこかしこに細かいながら傷を作り、しかしリアトリスは笑っていた。闘争心がむき出しになった獣のような笑顔のため、とても見惚れられるような可愛いそれではないのだが。現にその顔で話しかけられた者は一瞬すくみ、その間にジュンペイの触手でぶちのめされ汚泥の上に転がることとなった。

 本人にその気がなくとも、威嚇としては完璧な作用である。

 

 

 

 が。……この場にはそんな笑顔を好む、もの好きが二人ほど居た。

 

 

 

「うんうん、頑張っているねリアトリス。私の可愛い魔術師」

「それ、お前のじゃない! って突っ込んでもらうためにわざと言ってないか?」

「それも否めないけど、本心ですよ?」

「さよかい」

 

 軍勢の統率された編成を歪めながら進む一本線を見下ろしながら、脚を組んで悦に入るのはエニルターシェ。脚を組んで座るにあたって利用しているのが、八枚翼の羽ばたきで空中に留まり胡坐を組んだ魔王の脚というのだから、贅沢かつ怖いもの知らずである。

 合流したザリーデハルト付きの魔族が「こいつマジか」という顔でエニルターシェを見ているが、本人はそんな視線なんのそのだ。

 

 ちなみにザリーデハルトがジュンペイに溶かされた部分はまだ完治しておらず、ぐずぐずとした肉片を晒しているため先ほどからエニルターシェの熱い視線を集めている。少しでも油断したら指ですくってぺろりと食われてしまいそうだ。

 さすがにそんなことをすればザリーデハルトはともかく側近が黙っていないので、謙虚に視線を送り臭いを嗅ぐだけに留めているようだが。

 

「それにしても戦況の見極めが恐ろしく早いな。綻んだ隙間を的確に抜けていきやがる」

「そうだろう! リアトリスには多くの戦場を経験してもらったからね。私も連れて行った甲斐があるというものだよ」

「ご自慢ってわけだ。うっきうきに話すじゃねーの。……こりゃあしみったれた顔は早々に拝めそうにないな?」

「だから言ったじゃないか。簡単に折れるような子ではないよと。むしろ追い詰めれば追いめるほど、反動でいい爆発力を出してくれる。私はそれを見るのが好きなんだ。ふふふふふ」

「エニって俺より性格悪いなぁ」

「魔王閣下直々の賛辞、光栄です」

「耳の穴詰まってんのかお前。褒めてはねぇよ」

 

 リアトリスの苦労などなんのその。観戦としゃれ込んでいる二人を見れば、リアトリスの血管は引きちぎれるだろう。すでにいくつか切れている状態かもしれないが、その血が沸騰し口から火を噴くなんてこともやってのけるかもしれない。

 

「にしても、流石ではあるが甘いぜ。今んとこ誰も殺してない」

「いや、それはただの結果だろう。この軍は一人一人が精鋭。そう簡単にやられる人材ではないし、効率重視で進めばその相手に止めを刺している暇も無いさ」

「はぁん、なるほどね。けどまあ……こっちのが面白くはあるよな。退けたとはいえ数が減ってるわけで無し。あとからまた追われる。どこまでもつかな」

 

 どこから取り出したのか、温泉郷名物肉まんじゅう、ドルダムに噛り付きながら愉快そうにザリーデハルトが戦場を一望する。

 

 今のところ勢いで突っ切っているが、それが少しでも弱まればすぐさま呑まれるだろう。

 リアトリスは天才的な魔術師であるが、人間である。現在この大地で急激な魔力消費はおきないにしろ、体力も魔力もそう長くはもつまい。

 これは個としての戦闘における強さというよりも、持久力の問題だ。

 

「私としては走り切ってくれることを期待するね」

「でもそしたら、腐敗公本体にこいつら蹴散らされるのを見るだけだろ」

「ザリーデハルト殿は、この軍勢でも腐敗公には足りないと?」

「分かり切ってること聞くなよ。少なくとも本体を相手にするなら、最低限魔王全員出張って来いって話だな。魔術師一人と分身に翻弄されてる連中が勝てる相手じゃないさ」

 

 ザリーデハルトにとっては眼下の軍など子供の遊びに等しい。腐敗公本体にとってはなおさらだろう。

 それでも魔術師一人と腐敗公といえど分身には過剰だが……。

 

「しかしザリーデハルト殿。彼女らがただ身を守るためだけに、本体と合流するとも思えないのですよ。これは半ば私の面白勘なのですが」

「面白勘ってなんだよ」

「こうしたらもっと面白くなるのではないかな? という事に関して働く勘ですよ。貴方の所を訪れた時もそうでしたね。……というわけで」

 

 エニルターシェは悪戯っぽく笑い、口元に人差し指をよせる。

 

「彼女たちが無事これを抜けられたら……なにをするか、あとは見届けてみませんか?」

「この程度ならどうにかするだろうって思ってる言いっぷりだな」

「ははは」

 

 明確に答えず笑ってみせるエニルターシェに、ザリーデハルトは嘆息する。しかしその口端は持ち上がっていた。

 

 

「じゃあその場合は。消えるも残るも一人と一体にかかっている、この世界を賭けた大博打。せいぜい見物させてもらおうかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はやく、はやく見つけてください。お願いですから、りあとりすさんと、じゅんぺいくんを!」

『う、うう~ん。そうしてあげたいのはやまやまなんだけど……』

 

 背中を弱い力でぺちぺちと叩きながら訴えてくるユリアの声は弱弱しく、見なくとも泣いていることが分かった。

 

 魔王ザリーデハルトがリアトリスとジュンペイを連れ去ったあと、ユリアは魔王へ向けた鋭い声の勢いはどこへやら。崩れ落ち、それを支えるアリアデスの腕の中で半ば恐慌状態に陥った。少し落ち着いてからは、こうしてラドにリアトリス達を探してくれと幼子のように訴えるばかりである。

 

 ラドとしては先ほどの魔王の発言などより、こちらの方が気になっている。

 何といったってほぼ一目ぼれに近い形で好きになった女の子だ。その相手が泣いているなら、気にしない方が無理というもの。

 ……もしあの魔王が本当にラドと魔族の女性との間に出来ていた子供でも、あれだけ立派に成長しているし認知しろ! なんて話ではないだろう。相手もこちらにさして興味はなさそうなのだ。戯れにそれを口にしたのは、リアトリスとジュンペイを連れ去る際に邪魔をされたくなかったからだろうか。

 ともかく言われた通り温泉郷へこのまま帰る気など無いし、変に気にすることもあるまい。

 

 そんな事より今はユリアだ。出来るなら役立って少しでも好感度を稼ぎたいところなのだが、ラドとしては転移した相手を探す方法など持ち合わせていない。

 

『どこへ行ったかなんてわからないし、闇雲に探してもねぇ……う~ん』

「……おそらく腐朽の大地方面ではあるだろう。魔王は準備が出来た、と言っていたからな」

 

 唸るラドの背で口を開いたのは老魔術師、アリアデスだ。

 

「ありあですさま……」

「だが、あそこは広い。それに僕も足を踏み入れたことの無い領域だ。……その内か、外か。どこに移動したのかもわからない」

「それで……いいです! というか、そうだ。そうですよ! リアトリスさん達なら、きっと目的地である生命樹にたどり着います。私達は先にそこへ行って待っていればいいんです!」

『ユリアちゃん、場所分かるの?』

「う……」

 

 希望を掴んだようにぱっと表情を明るくしたユリアだったが、ラドの言問いかけに肩を落とす。ジュンペイもリアトリスもいない今、それは少し難しかった。

 

「……生命樹ほどの存在感があるならば、近づけばわかるだろう」

「! 本当ですか!」

「ああ。それにあの大地で生命樹の光は目立つ。近くまで行きさえすれば、空から視認も可能だ」

『そうなの? ならこのまま行こうか』

「…………! ありがとうございます」

 

 心からの礼だった。

 

 アリアデスとラド。二人としては無理に腐朽の大地へ行くこと無く、このまま離れてもなんら問題はないのだ。だというのにユリアの要望に応えて、無事かもわならないリアトリスとジュンペイの元へ行こうとしてくれている。

 

 

 アリアデスにとって二人は弟子でも、手助けはせず見守るにとどめる存在。連れ去られても積極的に魔王の手から取り戻す事などしないだろう。

 ラドに至っては深いかかわりもなく、ただ興味をもった相手……という程度。ユリアには恋という好意を向けてるようだがそれも魔王と対する懸念がある今、付き合ってくれる材料になりうるのかは分からなかった。

 

 

 ……そんな二人が協力してくれるほど、それほどに今の自分は無様なさまを晒したのだろうか。と、そこに思い至ったユリアの頬がかっと熱くなった。恥ずかしい。

 

 

 ユリアは実のところ、リアトリス達と離れて自分がここまで動揺するとは予想外だった。

 状況を俯瞰的に捉えて、空気を読んで、笑顔で可愛く強かに、それでいて飄々と。それが今の自分だとユリアは思っていたのだ。……だがそうあれたのは、近くに手を差し伸べてくれたリアトリスと、もとの世界で仲の良かった従姉弟に似たジュンペイがいたからにすぎない。……その従姉弟とは、ユリアがこちらへ来る前に永い別離をしてしまったのだけれど。

 

 側に居させてほしい好きな人に、自分を慕ってくれた従姉弟に似た頼りない子に。頼られたい。見栄を張りたい。

 そんな気持ちがユリアの根底を支えていた。

 

 召喚した馬鹿どもに騙された自分はもういない。リアトリスの隣に相応しい人間になるのだと意気込んで……その実、本当に芯の部分では弱かったのだと思い知った。拠り所を失えばこんなにも脆い。

 …………弱いというより、寂しいのだ。この誰も頼れる相手のいない世界で、唯一の居場所がリアトリスとジュンペイのそばだった。

 それは温泉宿で二人と出会ってから初めてひとりきりになった時、自覚したことではないか。何を今さら。

 

(ああ、情けないな。弱いなぁ、私。リアトリスさんの隣に立てるようになりたいって思いながら、やっぱり縋ってるだけだったのかな。離れてしまった今、すごく不安。二人の心配をするより、自分が感じる寂しさでうろたえてるんじゃない。もう、もう! かっこわるい)

 

 後ろ向きに考えるだけ時間の無駄よと、心の中でもう一人の自分が鼓舞するもそう簡単な話でもない。このままではうまく合流できたとして、今後自分はリアトリス達の側に居ていいのかも分からなくなる。

 もちろん一緒に居たいし、リアトリスもジュンペイも受け入れてくれるだろう。

 

 だが、自分で自分が許せないのだ。温泉郷でも、今も。

 魔王相手に動くことのできなかった自分が!

 

 何が聖女だ。外付けで用意された虚構の称号でも、ユリアにはそれにふさわしい力が備わっている。

 ならばたとえ敵わなくとも、あの魔王相手に一発叩き込んでやればよかったのだ。だというのに自分は大事な人たちが連れていかれるのをむざむざ見送っただけ。何も出来ていない。

 

(ああ、情けない情けない情けない!!)

 

 止めたはずの涙がじわっと浮かんでくるし嗚咽も収まらない。アリアデスは静かに見守るのみで、それがユリアにとってはありがたいと同時に気まずかった。なんとも身勝手な感想である。

 

 自分は今、誰に何をしてほしいのだろう。

 

『ユリアちゃん、ユリアちゃん』

「……なんですか」

 

 歯を食いしばって嗚咽をこらえていると、ラドが声をかけてきた。

 

『ちょっと提案というか、お誘いというか?』

「なんなんですか早く言ってください」

 

 せっかく良くしてくれている相手だ。それはユリアもわかっているし、出来ればこんな態度はとりたくない。しかし自分に恋情らしきものを向けてくる異性など余計に信じられないのも事実。

 

 信じられない。

 

 それが「男嫌い」という形で表に出ていることを、ユリアはとっくに自覚している。

 どうせ裏切られるなら、性別というカテゴリで区切って全部嫌ってしまえばいい。そんな雑な考え方だ。アリアデスのような年長者は問題ないが、若い男ともなればどうも身構える。

 

(あ、でもこの方も年齢だけならアリアデス様以上か……)

 

 ぼんやり考えながら泣きはらした目で緑色の鱗を見る。

 かつては空想していたファンタジー世界でドラゴンの背中に乗って空を飛んでいる。だというのに隣に慣れた体温がないだけでこんなにも空しい。

 

『こんな時に言うのもなんだけどさ。世界が生まれ変わるにしろ、消えるにしろ。その時が来たら多分僕らはもとの世界に旅立つんだと思う。……よかったら、その時一緒に来ないかい?』

「…………え?」

『君も僕らと同じ外来種でしょ? ならどうかなって』

 

 世界を渡るという話のわりにデートに誘うみたいな気安さだな、とユリアは言われた事を考える。

 

 ラド達ドラゴンが戻る世界が、果たしてユリアの世界と同じかと考えると可能性は低い。だとしてもこのままこの世界に居ても、今後ますます情けない自分を自覚するだけかもしれない。

 自分などいなくとも、リアトリスとジュンペイならうまくやるだろう。リアトリスはもちろん、ジュンペイも頼もしく成長してきている。心さえ育てば、あとは無敵の腐敗公。今の問題を解決出来たら、幸せな未来などいくらでもつかみ取れるだろう。

 もともとユリアは絶対に必要というわけでなく、好意で仲間に加えてもらった身だ。

 

「……………」

 

 そこまで考えて、ユリアはバチリと紫電のように弾けては滾り始めた心の底を感じとる。

 

 

 

「……嫌です」

 

 ぽつりと一言。

 

「嫌です!!!!」

 

 続いて大きな声で。

 

「私は、私はリアトリスさんやジュンペイくんと一緒に居たいです!」

 

 叫んだのは隠しようもない本音だった。

 

 

 

 弾けた紫電は反発心。この誘いに乗るのもいいかもなと考えた瞬間、弱っていた心の中でそれが息を吹き返した。

 

 確かに自分が情けないのは事実だ。しかしジュンペイを散々焚きつけてきた自分が、このまま別の場所に逃げてしまってはその情けなさは倍ドンで足りない。おそらく一生後悔することになる。

 もし帰れるとするなら、それはユリアがこの世界で信じると自分で決めたリアトリスがその術を開発してくれた時だけ。

 稀有な機会ではあるのだろう。しかしそれに容易に乗るようでは、ユリアは絶対リアトリスに誇れる自分になれはしない。

 

 そんなのは嫌だった。

 

『そっか』

 

 叫んだユリアに対しラドは気を悪くする風でもなく、ただそう返す。そのことにはたと我に返ったユリアはしばし考え込み……おずおずと問うた。

 

「あの、もしかして。元気づけようとしてくれました?」

『ん? なんのことかな。僕は仲間とはぐれて心細くなってるユリアちゃんの心に付けこもうとした、わる~いドラゴンだよ』

「自分でそういうあたり、逆に見え透いていますね。……怒らせて元気づけるのは、あまりスマートとはいえませんが。でも的確なあたり、人の本質を見抜く目には長けているようです。伊達に長く生きてないってことですか」

 

 そこまで話してから、つらつらとひねくれた言い方で返してしまう自分に気付いてユリアは咳払いする。……そう。自分は結構、ひねくれものなのだ。

 

 そんなひねくれた心をなだめ……しばらく間をおいてから。

 自分などよりよほど飄々としたドラゴンに、少々照れた様子で告げた。

 

 

「ありがとう、ラドさん」

『……! 名前、呼んでくれたねー!』

「だからって調子には乗らないでくださいよ」

 

 少々ほだされはした。だがしっかり釘をさすことも忘れずに、ユリアは遠くを見る。

 そこには黒くよどむ大地が徐々に姿を現し始めていた。

 

 

 

「待っていてくださいね、リアトリスさん。ジュンペイくん。ユリア・ジョウガサキ……参ります!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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