腐敗公の嫁先生~人外夫をうっかりTSさせまして~【完結】   作:丸焼きどらごん

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8話 嫁先生と腐敗公の一年間 ★

 紆余曲折のような、特にそうでもないような。そんな経緯をたどってリアトリスが腐敗公の花嫁兼先生になってから一年が経つ。

 

 リアトリスは当初、腐朽の大地で長く過ごすつもりは無かった。いくら簡単にジュンペイから魔力の補給が出来るといっても、精神的にもたないと思ったからだ。

 全てを腐らせ朽ちさせる毒の満ちた大地に、頼れる足場は一本の樹のみ。感覚が麻痺してきたとしても、大地に満ちた汚泥とジュンペイ本体である目玉ヘドロから発せられる腐臭はすさまじく、とても長い間我慢できるとは思えなかった。

 そして何より、腐朽の大地にはリアトリスが食べられるものが何もない。

 緊急処置としてどうにか栄養源を摂取する方法は思いついたが、ずっとそれを続けるのはごめんだった。主に精神的な面で。

 

 だからこそリアトリスは早々に新しい魔術を開発し、ジュンペイを本体含めて安全に移動させ腐朽の大地を脱するつもりだった。

 ちなみにこの場合の安全とは、周囲にとっての安全である。

 連れ出したはいいが、その結果腐朽の大地が広がってしまったらリアトリスは人類の怨敵となってしまう。せっかく幸せ楽々生活を手に入れるため苦労しているのに、わざわざ恨みを買うなど馬鹿らしい。

 

 そんなわけで目的とする魔術の開発さえできたら、ジュンペイが魔術の基礎を覚え次第すぐに場所を移す気でいた。

 ………………しかし結果として、その機会は現在まで巡ってこなかったのである。

 

 それが何故かといえば。

 

「いや~、この子ったら魔力量は多いくせに、魔術の才能全くないのよ。ドベという言葉が相応しいわ。もうドベッドベね」

「うぐっ」

 

 リアトリスの言葉にジュンペイは胸のあたりを押さえながら、何かつっかえたような声を出す。それを不憫に思ったのか、オヌマがジュンペイを気遣うように横目で見た。

 オヌマという男、何だかんだでジュンペイの可愛い見た目にほだされている。その生い立ちをざっくり聞いたから、というのもあるかもしれないが。

 

「ドベッドベってお前……。もっと言い方無いのかよ」

「だって本当の事だもの。というか無駄な知識はあるくせにこの子ったら文字も読めないし、教える事は魔術以外にもたくさんあったわぁ~」

「いや、それは仕方がないんじゃないか? 今までずっと誰かと交流することが出来なかったんだろ。むしろ言葉を話せるだけ凄いと思うが」

「まあ、それはそうね。けど効率よく勉強するには文字の習得は必要じゃない? だから魔術の基礎を教え込んで、文字も教えて……って、色々とやってたの。そしたら気づけば一年だわ。もう、文化的な生活を忘れそうだったわよ」

 

 いつの間にか目の前に出されていたハーブ入りのレモン水。そのグラスに口をつけながら、リアトリスは深くため息をつく。

 そして気まずそうに身を縮こませていたジュンペイは、おずおずといった様子で口を開いた。

 

「……俺は、リアトリスだけ先に外に出たらって提案したよ。そして定期的に戻って来て、色々教えてくれたらいいって。だってリアトリスは、先生である前に俺の大事なお嫁さんだから……。戻ってくるって約束さえしてくれたら、俺はそれでよかったんだ。一緒に居てくれるのはそりゃあ嬉しかったけど、でも、それでリアトリスの体調が崩れたり、もしかしたら、し、死んじゃったり……! そんな、悪影響が出るのは嫌だったから……」

 

 その可能性を想像したのか、ジュンペイの顔色は心なしか蒼く声は震えている。

 それに対してオヌマは感動したように両手を体の前で組みながら言った。

 

「ジュンペイちゃん……! なんて健気なんだ……!ちょ、おま、リアトリス! この子、お前にはもったいないくらい優しい、いい旦那様じゃねーか! もうちょっとこう、傷つけないように言葉選んでやれよ!」

「そ、そんなこと言われなくても分かってる! そうよ、この子は私にはもったいないくらいのいい子よ! ジュンペイは最強に可愛くて純粋素直で最高に愛しい私の娘だわ! でも言葉を選ぶにしたって、これくらいで傷つくような弱い子になってほしくないのよ!」

「だからちょっと待ってよリアトリス! 今、オヌマはいい旦那様って言ったじゃないか!! なんでリアトリスは頑なにそれを娘に変換するの!? それが一番傷つくよ! あとオヌマお前、ちゃん付けで呼ぶんじゃねぇ!! 溶かすぞ!!」

「あ、ごめんやっぱりあんま優しくなかった。お前やっぱリアトリスの娘だわ。腐らせたり溶かしたりしないでくださいお願いします腐敗公様」

「だからー! 娘じゃない!!」

 

 必死の形相で主張するジュンペイを見て、リアトリスとオヌマは顔を見合わせる。

 二人は頷きあうと何事も無かったかのように、脱線しかけていた話題を元に戻した。

 

「あのね、私はあんたの先生になるって約束したでしょ? それに私が何とかするから一緒に外に出て修業しようって、そう言ったのも私。あんたが基礎を身につけるまでは腐朽の大地を出ないって言ったのも私。なら、出る時は二人一緒が当たり前よ。だからそのことは気にするなって、前から言ってるじゃない。現に私はぴんぴんとして健康体で、ここに居るわけだし」

「へえ、お前は絶対先生って柄じゃねぇと思ってたけど、結構責任感もって教えてたんだな」

 

 先ほどと様子を一変させて神妙な顔でそんな事を言う二人に、ジュンペイは思わず頭を抱えた。

 

「二人とも何事もなく戻したね!? 俺の叫びはちゃんと心に届いてますか!? ……ああ、もういいよ。リアトリスはそういう人だよ……。あとオヌマのことも、俺ちょっとわかってきた……」

「お、そりゃどうも。俺の事を知ってくれて嬉しいぜ!」

 

 へらっと笑顔を浮かべるオヌマに、もう言い返す気力もないのかジュンペイは椅子の背もたれに体重を預けて天井を仰いだ。そして少々落ち着きを取り戻すと、再び口を開く。

 

「でもさ……。俺のせいで、リアトリスはこの一年不自由を強いられたんだよね。それについては、やっぱりごめん」

「その気持ちだけ受け取っておくわ。でもいいの! この話は何度か繰り返したけど、もうこれで最後ね。はい、終わり!」

「お前、気遣いも強引っつーか力任せっつーか雑っつーか……。よく腹芸必須な宮廷魔術師務めてたよな」

「むしろそれがちゃんと出来ていたら、私は今ごろ宮廷魔術師長だったわ。ただの宮廷魔術師じゃなくってね」

「あ、出来てない自覚はあったんだな」

 

 両肘をついて組んだ手に顔をのせ、ニヤニヤと笑うオヌマ。そんな彼をリアトリスはじろりと睨む。

 

「うるっさい。……で、話し戻るけどさ。とにかくジュンペイが最低限魔術を覚えられるまで、ずっと腐朽の大地に居たわけよ。でもそうなると、臭いとかは我慢すればいいにしても問題は食べ物。で、考えたの。どうやって生命活動に必要な栄養を摂取できるかって」

「……あのさ。さっきから何気に気になってたんだけど、お前が使った魔道具ってもしかして……」

「ああ、それね。生命樹の種よ」

「やっぱりか! お前マジかよ! いつ見つけたんだ!? 使っちまいやがって、勿体ねぇ!!」

「いいでしょ、私の物を私が使ったって! それに使わなきゃ今頃私は腐って溶けた人肉よ!!」

「そうだけどさぁあ……! うわー……うわー……。マジかー……」

 

 二人の話の内容が気になったのか、ジュンペイが会話に入ってくる。

 

「ねえ、それってリアトリスが住んでた樹の事? あれって、何か特別なものだったのか」

「特別も特別だぜ。あのな、ジュンペイ。ある場所に星幽界から流れ込んでくる魔力で育つ樹があるんだよ。目で見る事は出来るが、けして俺達には触れないそれは世界樹って呼ばれてる。で、俺達が生まれるずっとずっと前……古代文明って呼ばれている時代の賢者たちが、その世界樹から力を削り出す術を編み出した。その術で俺達にも触れるように、使えるように実体化されたものが、生命樹の種ってわけ」

「へぇ……?」

「用途は色々あるが……。まあ理解できないにしても、すげー貴重で便利なモンだって覚えておけば間違いないぜ」

「ふーん。でも、なんで世界樹から削り出したのに、名前が生命樹の種なんだ?」

「お、いいねぇ。疑問を抱くことはいいことだ。それはな、世界樹の種と呼ばれるもんはまた別にあるからだよ。……で、だ。とにかくリアトリスが持ってた方でも、本当に貴重なもんなんだわ。なにしろもう失われちまった技術だからよ。今あるのは遺跡とかから発掘され現物のみ。超超、貴重品だぜ」

「おお~」

 

 新たに知った知識に、ジュンペイは半ば癖で指先を動かす。

 すると指先が描いた軌跡は文字となり、輝きを帯びて宙に留まる。そしてジュンペイが本を閉じるような動作を行うと、その文字はわずかな燐光を振りまいてから消えていった。

 それを見たオヌマは懐かしそうに目を細める。

 

「お、すげーじゃん。魔力による筆記と記録は習得してるのか。それ魔術学校だと高学年で習う奴でさ、結構試験で落ちる奴多いんだぜ。ドベって言われてる割りに優秀じゃん。リアトリスが求める水準が高すぎるんじゃね?」

「! そ、そうなんだ。ふ、ふ~ん」

「しょうがないでしょ? 腐朽の大地じゃ筆記用具なんてなかったんだもの。文字も教えないといけなかったし、一番最初に覚えさせたわ。才能はさっき言った通りあまり無かったけど……この子、文字はどうしてもちゃんと覚えたかったらしくてね。特に気合の入れようが違ったみたい。これに関しては、まあ優秀だと及第点をあげてもいいかしら」

「!! そ、そうかな~? いやー、まだまだだよ」

 

 まだまだ、などと言いつつまんざらでもなさそうなジュンペイの様子に、オヌマとリアトリスは生暖かい視線を送った。本人は隠しているつもりのようだが、赤くなった耳とゆるんだ頬が嬉しさを物語っている。

 しかしそれを指摘するのは少々可愛そうなので、リアトリスはオヌマに腐朽の大地での一年を語る作業にもどった。

 よく脱線するが、もとはオヌマにこの一年どうやって腐朽の大地で過ごしてきたのか……という話だったのだ。

 ちなみにジュンペイとの出会いから今の関係に至るまでの経緯も、だいたい説明済みである。

 

「それでさ、筆記用具以前に腐朽の大地には私の食べるもんが無かったわけよ。だから結局どうしたかって、成長させた生命樹の葉っぱとか皮を削って食べてたの。まったく不便よね。せめて実の一つもつけてくれりゃいいのに、人工物だけあって自力で子孫を増やそうって気合も何もあったもんじゃない。白く輝くばっかりで、実どころか花も咲かせないんだから」

「いやお前、生命樹に食用性を求めてんじゃねぇよ。……で?」

 

 オヌマが促すと、リアトリスはどこか得意げな笑顔を浮かべた。が、その後話された事実にオヌマは顔を引きつらせる。

 

「そうそう、でさ。流石に生命樹とはいえ皮と葉っぱだけじゃ、体力もろもろがもたないじゃない? でもよく考えたら、腐朽の大地の泥ってみんな生き物とか植物が腐って溶けて混ざったものだと気づいたの。つまり栄養たっぷり!」

「おい待てや。お前まさかとは思うが、人間とかも普通に溶けてるあの泥食ったの!?」

「失礼ね、流石に泥は食べないわよ。生命樹に栄養だけ吸わせて、ろ過して摂取したわ。そのお陰でこの通り私は元気いっぱい。どうよ、凄くない? 生命樹を使ったとはいえ、栄養分だけ取り出して摂取できる術を生み出したのよ! ふっふん。自分の才能が恐ろしいわね。さっすが私! 天才!」

「自分に酔ってるところ悪いけどよ、お前それでいいの!? あ、あれだぞ? ある意味、人を食べたって事だぞ?」

「はあ~? 溶けて混ざってるのにそんなもん今さらよ、今さら。あんた変なところでお坊ちゃんっつーか、細かい事気にするわよね。ヒトモドキチョウチンアンコウ食べるようなもんじゃないの」

 

 オヌマには目の前の女ほど魔術の才能は無い。しかし常識は自分の方が確実に上だと自負している。ゆえに、全力でつっこんだ。

 

「全然、細かく無ェから!! あと、ヒトモドキチョウチンアンコウは例に入れるな。あれは人食ってれば食ってるほど卵の旨味が増すからなんかこう、いいんだよ。珍味だし」

 

 ちなみに常識とは、時と場合とお国柄によってそれぞれである。

 

「ええ、何よそれ! 差別よ差別!」

「うっせぇ! ああ、いいよもう。疲れるから、もうこの話は終わりな!」

「なによ。あんたが聞いてきたから、この一年の生活の事話してあげてたんじゃないー」

 

 首を左右に振って手をひらひら振るオヌマに、リアトリスは不満そうに眉根を寄せる。どうやら新しく開発した術を褒めたたえてほしかったようだ。

 

「……まあ、いいわ。それで、どこまで話したっけ?」

「あー……。まあ、ざっくりと全体的な話は聞いたな。あ、そういえば肝心な事聞いてなかった」

「何?」

「いや、お前よく腐敗公の完璧な人化を成功させたなと思って。腐朽の大地を広げない状態で腐敗公がここに居るって、さっきの術とは比べ物にならないほどの快挙だぞ?」

「あ、それなんだけど……結局無理だったの。それもあるから、早くジュンペイの修業を進めたいのよね」

 

 その言葉にオヌマは首を傾げた。

 

「え? でも現にこうしてジュンペイはここにいるじゃねーか。その、なんだ? ヒトモドキチョウチンアンコウみたいな本体と疑似餌を繋ぐ紐も無いみたいだし……。本体込みで人化に成功させたんじゃねぇの?」

「おい、疑似餌って言うのやめろよ。なんか気分悪い」

「あっはは、悪い悪い」

 

 ジュンペイはオヌマに不満の声をあげつつも、ため息と共にひとつの事実を提示する。

 

「……俺の本体は、まだ腐朽の大地に居るよ」

「……うん?」

「ふっふっふ。驚きなさいオヌマ! この私、リアトリス・サリアフェンデが腐朽の大地で開発した魔術はさっきのだけじゃないのよ! よかったら実演を交えて説明しましょうか!?」

「え、なんか嫌な予感するから遠慮し」

「しょうがないわね、そんなに見たいなら見せてあげるわよ!」

「いや最後まで聞けよ」

 

 オヌマの返答など耳に入っていないのか、リアトリスはおもむろに立ち上がると左手を前に突き出す。そして……。

 

 

 自分の手首を風の魔術で切り落とした。

 

 

「おおお!? ちょ、おま、おい!」

 

 頭の何処かで「今日は手首に厳しい日なのだろうか」と冷静に考えつつも慌てるオヌマであったが、驚くのはまだ早かったようだ。

 自分の手首を切り落としたにもかかわらず、余裕の表情のリアトリス。彼女は口の端を釣り上げ、目を三日月形に細めるたいへん悪辣で意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 それに対し嫌な予感を覚えたオヌマだったが、すぐに予感は現実へと変わる。

 

 カサッと……音がした。

 

「!?」

 

 何かが動いた。

 

 そしてまたカサカサッっと、音がした。

 

「!!?」

 

 その何かは、オヌマの周囲を這いまわっている。その音が気になりつつも、オヌマの視線は固定されて動かない、動けない。

 切り落とされ肉の断面と白い骨が覗くリアトリスの手首。どういうわけか血は流れていないが、オヌマは生々しいそれから目が離せなかったのだ。

 しかしすぐに下を見るべきだったと、オヌマは後悔する。

 

 何かが動く音が止まった。

 

 次いでオヌマの足からふくらはぎ、膝裏、太ももの裏を抜けて、腰、背中、肩甲骨と"ナニカ"が一気に這い上がる!!

 

 オヌマは何者かの手によって無遠慮に頬を押された。

 嫌すぎる予感にオヌマは最初それを見るのを拒否していたが、つい好奇心に負けて見てしまう。

 

 

 

 オヌマの頬を押していたのは、切り落とされたリアトリスの左手だった。

 

 

 

「あんぎゃあああああああああ!?」

 

 オヌマの悲鳴に、リアトリスは心底楽しそうに笑う。

 少なくとも食事をご馳走してもらった者の態度ではない。

 

「ほーっほほほほほほほほほほ! どうよ、どうよこれ!? 体から部位を切り離して動かす術よ! 凄いでしょ!」

「テんメェ!! おぞましい術作ってんじゃねぇよ!!」

 

 リアトリスの白い手に顔を突かれたオヌマは全身にびっしり鳥肌をうかべながら、それを掴んで勢いよく本体に投げ返した。難なく受け取ったリアトリスは、何事も無かったかのように手首から先をくっつけ元に戻す。

 

「ま、つまりこういうことね! ジュンペイの本体は今も腐朽の大地。この子はその本体から切り離された分体ってわけよ! 今の私の手みたいに!」

「分かったけど分かりたくねぇよ!」

 

 頭を抱えるオヌマが哀れになったのか、ジュンペイがリアトリスの説明を少々引き継ぐ。

 

「リアトリスが言うように、今の俺は本当の姿から切り離された分身体だ。目を瞑って集中すれば本体の俺に意識を戻して動かすこともできるけど、基本的に意識はこっちの分身体に移ってる。でもこの体にも時間制限があるから、何日かに一度は元の自分のところに戻らないといけない。じゃないとこの分身体は消えて、意識は元の俺に戻る」

 

 そう。つまりジュンペイの本来の体は、未だに腐朽の大地という場所に縛られたままなのだ。

 

「ほ、ほほ~う。そりゃあ、なかなか愉快な術じゃねーか……!」

「愉快と言ってもこの子みたいに特殊な体で、馬鹿みたいに大きな魔力が無いと危険だけどね。私でも切り離した部分を遠くにやったり、時間が経ち過ぎるとその部分は壊死するだろうし。でもジュンペイを修業のために外に連れ出すなら、今はこれで十分。いずれは本人に人化の術を完璧に習得させるわ。ま、この術自体はもっと詳しく研究して実験するつもりだけど」

「実験ってお前……。まさかそいつ連れて、宮廷魔術師に戻ろうってんじゃないよな?」

「まさか! 馬鹿言わないで。確かに今まで使ってた実験室や蓄えてきた財産は惜しいけど、人を生贄にしくさった馬鹿共のところに戻るわけないでしょ? 第一、あの王子に仕えるのはもうごめんだわ」

 

 吐き捨てるように述べたリアトリスに、オヌマは何となく聞きかじった王子についての噂を思い出す。

 しかしそれを聞いて愚痴が始まってしまっても面倒なため、とりあえずそのことに関して今は触れないことにした。

 

 

 そして一通り情報が出そろったところで、オヌマはリアトリスとジュンペイを交互に見る。

 

「それで? 一応事情は分かったけどよ、お前らこの後どうすんの?」

 

 リアトリスとジュンペイは顔を見合わせてからオヌマを見ると、それぞれ堂々と主張した。

 

「もちろん、身なりを整えてから修業旅行よ! ってことでオヌマごめん。絶対に後で返すから、お金貸してちょうだい!」

「新婚旅行に決まってる! なんたって俺達、新婚だからな! 修業も大事だけど、お嫁さんのためにはこういう行事は大事にしないと!」

 

 リアトリスとジュンペイは、再度顔を見合わせた。

 

 

「え?」

「え?」

 

 

 

 微妙に主張が食い違ったリアトリスとジュンペイの新婚旅行兼修業旅行は、まだまだ始まったばかりである。

 

 

 

 




挿絵もどき

【挿絵表示】

文の完成前にざっくり描いていたので、本文とちょっと違う感じです。

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