艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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のんびり更新予定
もう片方の連載もありますしね。

気楽に見ていって下さいな。


第1章 メンテ技師編
第1話


??「ふぅ、これで終わりかな」

 

 

工廠で作業を終えた男がつぶやく。

 

 

??「午前の仕事が早く終わったし、ちょっと早いけど飯にするか……」

 

 

そう言って伸びをすると、今まで使っていた工具を定位置に片付け、

目の前の大きな機械を、邪魔にならないよう脇によける。

 

 

…ここは呉第一鎮守府と呼ばれる施設。

海軍の国防拠点である。

 

そこで彼は技術屋として働いている。

 

 

 

 

今からおよそ10年前、何の前触れもなく、世界中に2種類の生命体が出現した。

 

 

人類の天敵・深海棲艦

 

そして

 

人類最後の希望・艦娘

 

 

示し合わせたかのように同時に出現したそれらは、

人類にとって、種の存続に関わるほどの存在だった。

 

 

「深海棲艦」と呼ばれる生物は、世界中の海に出現。

 

生物と機械を混ぜ合わせたようなカラダを持ち、

そのカラダの各所からは、様々な生体兵器を発射することができる。

 

しかしそれだけならば、人類の天敵、などという仰々しい呼び名はつかなかった。

 

 

なぜそのように呼ばれているか?

 

それは深海棲艦たちが持つ性質が原因だ。

 

奴らは何故か人に攻撃を加える。

いや、何故か人に「だけ」攻撃を加える。

 

それはまさしく恨み、執念と言った言葉がピッタリで、

海に出ている船は軍艦から釣り船まで、執拗に、無差別に、攻撃された。

 

そして最も厄介な点が、

深海棲艦は人類の持つ兵器では傷つけられない、ということだ。

 

竹槍からステルス戦闘機まで、人類が「武器」と認識するものでは、

深海棲艦には傷一つ付けられないことが分かった。

 

 

世界中で一斉に連絡が途絶える船舶。

各国海軍の相次ぐ敗北。

築き上げられ続ける犠牲者の山、山、山。

 

たった1か月、その短期間で、

世界の海は人類の立ち入れない領域となったのだ。

 

完全にシーレーンは分断され、

生活を輸入に頼っていた国の多くは大混乱に陥った。

 

深海棲艦による直接被害、

食糧供給不足による飢餓、

生活への不安からの犯罪の急増、

悲観的になった者たちの相次ぐ自殺、

反政府組織、テロリストの台頭

 

etc,etc,,,

 

世界の総人口は70億人から一気に50億人まで減少した。

 

……たった一か月で。

 

ありきたりな終末論ではなく、本当の終末が来たのだと、

ほとんどの人類が絶望に身を任せていた。

 

 

…しかし、人類にまだ希望は残っていた。

 

 

その絶望に覆われる世界に、新たな生命体が出現した。

 

それが「艦娘」と呼ばれる存在である。

 

深海棲艦とは違い、その姿は人間の女性とほとんど変わらないものだった。

 

しかし見た目以外は人類と大きく違い、

 

その華奢なカラダのどこから来るのだという、常識はずれのパワー。

背負っている、軍艦の一部を模した機械(艤装と呼んでいる)ここから発射される武器。

そして、食事以外に燃料や弾薬(と呼ばれる物質)の補給が必要という特性。

 

まさに戦うための存在、と言ってもよい特徴を持っていた。

 

そしてその特徴は深海棲艦に対して遺憾なく発揮された。

 

人類の武器ではかすり傷一つ付けられなかった深海棲艦に、

なんと艦娘の兵装による攻撃は、効果があったのだ。

 

しかも彼女たちは人類に対して、不自然なほど好意的で

自発的に人類を守るように行動してくれたのだ。

 

 

これには当然世界中が湧いた。

 

 

人類が希望を取り戻していく中、

日本に初めて出現した艦娘は、世界中の他の国にも出現するようになった。

 

そして当然、世界中の国で、

艦娘を戦力の中核とした組織が作られるようになった。

 

その中でも日本は、彼女たちを集めた基地を、「鎮守府」とし、

深海棲艦に対する前線基地とした。

 

 

そうしてギリギリのところで人類は衰退を免れ、

深海棲艦出現以前の文化レベルを、なんとかキープできているのである。

 

 

 

 

??「今日の日替わり定食は何だっけ……覚えてる?」

 

(わかんない)

 

??「だよなー」

 

 

彼の名前は鯉住龍太(こいずみりゅうた)。

ここ、呉第一鎮守府で働く技術屋だ。

 

技術班の主な仕事は艦娘の艤装のメンテナンス。

 

毎日出撃なり遠征なりで、艦娘たちは海に出る。

当然その分艤装もメンテナンスが必要、というわけだ。

 

艦娘の数は、概ねどこの鎮守府でも十人は越えるため、

1人で全員分のメンテナンスをするわけではない。

受け持ちは、大体1人のメンテ要員に対して、艦娘6人といったところだ。

 

呉第一鎮守府でも基本的な体制はそれに沿っている。

 

鯉住が担当するのは駆逐艦。神風型・初春型と呼ばれる艦娘の担当だ。

 

その燃費の良さから、遠征によく駆り出される駆逐艦だけに、

毎日のメンテナンスはなかなか大変である。

しかも駆逐艦は装甲が薄いため、艤装は他の艦種よりも壊れやすい。

 

だから技術班の間では、最もメンテが忙しいのは駆逐艦、なんて言われている。

 

それを鯉住は6人分と言わず、なんと9人分を一人でみているのだ。

 

鯉住は手際よく仕事できる人間だが、

それだけでは駆逐艦9隻もの艤装など、一人でメンテすることはできない。

 

それではなんで鯉住はそんな大量の仕事をさばけるのか?

 

その秘密は鯉住をサポートしてくれる存在がいるからなのだ。

 

 

鯉住「今日は何食べる?」

 

(からあげ)

 

鯉住「あ、いいなそれ。俺もそれにしよう」

 

先輩「お、鯉住はまたひとりごとか。妖精さんと話してんのか?」

 

鯉住「あ、先輩も午前の仕事終わったんすか?そうっすよー」

 

先輩「オレには見えんけど仲いいよな。お前ら。

今日は軽巡の皆さんはみんな哨戒だったから、俺は午前中暇だったんだよ」

 

鯉住「へぇ、哨戒っすか。軽巡が遠征出てないって珍しいっすね」

 

先輩「午前はな。午後からは遠征行くってよ。

軽巡の嬢ちゃんたちが休んでる間に、艤装のメンテしないといけないからな。

早く昼飯食おうってこった。

お前の担当の駆逐艦の嬢ちゃんたちも午後から遠征だろ?」

 

鯉住「そう言えばそうでしたね。スケジュールでは初春型の皆さんは遠征でした」

 

クイクイ

 

鯉住「あ、悪い悪い。

スイマセン先輩。妖精さんが早く飯食いたいって」

 

先輩「お、そうか。引き留めて悪かったな」

 

鯉住「いえいえ」

 

(はらへった)

 

鯉住「いつもより早いんだから急かすなよ」

 

 

鯉住には仕事を手伝ってくれる小人、通称「妖精さん」がいる。

それが鯉住が人よりも多くの仕事ができる理由だ。

 

 

 

 

妖精さんは、艦娘と同時に世界中に出現した存在だ。

 

各国の伝承で、フェアリーだとか、ゴブリンだとか、小人だとか、

色々と似たようなお話はある。

この妖精さんも似たような存在なのかもしれない。

 

艦娘いわく、

艤装をうまく動かしてくれているだとか、

新兵装の開発を手伝ってくれるだとか、

新たな艦娘を生み出す建造を取り仕切っているだとか、

艦娘とはきってもきれない存在のようだ。

 

ここまで重要な役割がある妖精さんなのに、

何故そんなふわっとしたことしかわかってないのか。

 

それは彼女たちは気の向いたことしか主張しないから。

 

そして、ほとんどの人は妖精さんの事は見えないし、

もし見えたとしても、意思疎通ができることはめったにないからだ。

 

各地の鎮守府のトップは「提督」と呼ばれているが、

提督になれる重要な条件の一つに、

この妖精さんが見え、嫌われていないか、というものがある。

 

艦娘に関係した施設のことごとくで、妖精さんの協力が不可欠。

妖精さんと仲が悪くないか、というのは、間が抜けた話のようで死活問題なのだ。

 

 

 

 

…そんな現状なのだが、鯉住にはなぜか、多くの妖精が懐いている。

 

 

鯉住の最初の妖精さんとの出会いは、仕事場だった。

艤装のメンテを始めようとしたら、艤装からひょこっと出てきたのだ。

 

当時のやり取りは、こんな感じ。

 

 

 

 

鯉住「さあ、今日も仕事しますかね~」

 

ポロッ

 

鯉住「な、なんだ……!?」

 

艤装からなんか出てきたっ!?

 

(……)

 

鯉住「……えーと」

 

なんかちっこいのが艤装から出てきた。

何?部品なの?ネジかなんかなの?

落ち着け、そんなわけないだろ。

どうみても生きものじゃないか。こんな生きものしらんけど。

もしかして幻覚?

 

(いつもどうも)

 

鯉住「アッハイ」

 

そんなご挨拶されても、俺の知り合いには人間しかいないよ。

あ、あとペットの福ちゃん(ミドリフグ)もいた。

ちがうそうじゃない。そういう問題じゃない。

日本語喋った。どういうことだ。

 

(てつだうよ)

 

鯉住「アッハイ」

 

おかしいぞ。幻覚が話しかけてきている。

俺やっぱり疲れてんのかな。いや、疲れてるはずないだろ。

最近は大規模作戦もないから、ホワイト企業もビックリの超余裕シフトだ。

一日平均睡眠時間は8時間。毎日定時帰宅。

こんなんで疲れなんかたまるわけないだろ!いい加減にしろ!

 

……いかんいかん、セルフ突っ込みを入れている場合ではない。

落ち着け。クールになれ。ビークール。

ここはこの謎のちっこいのは何なのか確かめなければ。

 

鯉住「は、はじめまして……」

 

(しごとしないの?)

 

鯉住「あ、スイマセン……」

 

なんか注意された。

ここは職場で、目の前には仕事があって、今は始業時間を過ぎている。

だからこのちっこいのの言うことは正しく、

立ったまま固まっている俺はさぼっていることになる。ごめんなさい。

イヤ落ち着け。ちがうそうじゃない。

 

鯉住「えーと……キミは何なのかな……?」

 

(しごとしようよ)

 

鯉住「……はい」

 

押し切られた。

未知との遭遇ってのは、えてしてこんなもんなのかもしれない。

俺は現実逃避もかねて、このちっこいのを助手に、日常業務に励むこととした。

 

鯉住「えーと、レンチは……」

 

(はい)

 

鯉住「あっ、どうも」

 

 

鯉住「これと同型のネジ持ってこないとな……」

 

(はい)

 

鯉住「あっ、どうも」

 

 

鯉住「……さて、次はこの艤装か」

 

(やっといた)

 

鯉住「あっ、どうも」

 

 

すっげえ手際いい。

 

このちっこいの、俺より優秀なんじゃないの?

必要だと思ったものをすぐに持ってきてくれるし。自分でもメンテしちゃうし。

ていうかなんか、何もないところから部品を生み出してるように見える。

おやおや?やっぱり俺の目はおかしいのかな?

ファンタジーじゃあるまいし、そんな魔法みたいなこと出来ないでしょ。

これはあれだ、手品だよ。うん。芸達者なおちびさんね。

 

ガララッ

 

俺が放心しながら作業してると、勢いよく工廠のドアが開く。

 

??「おっはよー!!いい朝ね!!」

 

鯉住「……朝風さん?」

 

朝風「やっほー、鯉住さん!朝から全開でいくわよー!!

私の艤装メンテ終わってる?」

 

鯉住「……終わってます」

 

朝風「どれどれ……うん、いい仕事ね!!さっすが鯉住さん!

私達5人分終わるのにどれくらいかかりそうかしら?」

 

鯉住「ええと……もう終わってます……」

 

朝風「……へ?」

 

鯉住「イヤなんか……すいません……」

 

朝風「謝ることじゃないでしょ!すごいじゃない!どんな魔法使ったの!?」

 

鯉住「俺は普通にやっただけで……魔法を使ったわけじゃないっていうか……

魔法を使ったのは俺じゃないっていうか……」

 

朝風「もう、なんなのよ!ハッキリしないわねぇ!」

 

鯉住「……なんかこのちっこいのが助けてくれました」

 

(ちっこいのいうな)

 

鯉住「あっ、すいません」

 

朝風「え……妖精さん……?鯉住さん、見えるの?」

 

鯉住「え……朝風さんにも見えるの?ていうか、妖精さんって言うの?」

 

朝風「うん。私達艦娘のパートナーよ」

 

鯉住「……そうなの?」

 

(そうなの)

 

鯉住「そうなんだ……」

 

朝風「えと、もしかしなくても鯉住さん、今妖精さんと話してた?」

 

鯉住「……え?そうだけど……このちっこいのが話すの聞こえたでしょ?」

 

(ちっこいのいうなこのやろう)

 

鯉住「あ、ゴメンて!痛い!レンチは武器じゃありません!振り回さないの!」

 

朝風「し、信じられないわ……提督に報告よッ!!」

 

ダダダッ!!

 

鯉住「あっ!待って朝風さんっ!!……行っちゃったよ」

 

(きんきゅうじたい)

 

鯉住「ホントだよ……もう……」

 

 

この後はなんやかんやで大変だった。

 

「妖精と話せる技術班がいる」という話は風のように早く広がり、

技術班の仲間のみならず、他の班のメンバー、艦娘の皆さん、

最終的には提督にまで質問攻めにされた。

 

その際に、

妖精と話せるから「フェアリー鯉住」だとか、

明石顔負けの仕事ペースが出せるから「アカシック鯉住」だとか、

不名誉な二つ名がいくつかついた。

嫌がらせの類でないことを心から願っている。

 

その後もコンタクトをとれる妖精の数はどんどん増えていき、

現在は技術班でも一番の働き頭として活躍しているというわけだ。

 

 

 

 

鯉住「唐揚げ何個欲しい?」

 

(2こでいいです)

 

(わたしは3こほしいです)

 

(1こでいいよ)

 

鯉住「うおっ!!急に出てくるなよっ!!」

 

(さぷらいず)

 

(からあげときいて)

 

鯉住「……まあいいか。3人分くらいなら出してやるよ」

 

(ひゅーっ!)

 

(つかれたからだにはからあげ)

 

(さすがこいずみのあにき)

 

鯉住「誰が兄貴だよ。まあうまいもん食って、午後からもしっかり働こうな」

 

(……)

 

(……)

 

(……)

 

鯉住「何で黙るのかな?ん?」

 

 

話しているうちに食堂に着いた。

俺は唐揚げ定食で、妖精さん達に唐揚げ6個だな。

そう考えながら食券を手に入れる。

 

すると後ろから声が聞こえた。

 

 

??「鯉住君、ちょっといいかね?」

 

鯉住「へ?」

 

 

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには初老の男が座っていた。

輝くほど白い軍服、胸には立派な勲章がいくつも。

 

ここ、呉第一鎮守府の提督。

 

鼎(かなえ)大将だ。

 

 




圧倒的な身分の違いに、鯉住は耐えられることができるのか!?

次回「鯉住死す」!

お楽しみに!

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