艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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この世界にはそんなに鎮守府はありません。
各鎮守府(呉とか横須賀とか)に、5~10拠点くらいです。
ちなみに呉は第1鎮守府から第10鎮守府まであります。
艦娘数がそこまで多くないので、鎮守府数を多くしすぎても運営できないのが主な理由です。
あと単純に提督数も少ないです。妖精と仲が悪くない人間はほどほどいますが、人間的に指導者適性があるか怪しい人も多いので。

※しばらく何話かは対話メインになりますので、お話がほぼ動きません。気長にお付き合いいただけると助かります。ごめんなさい!許して!


第10話

今俺は会議室の前にいる。

なぜこんなところでうろうろしているのかというと、

この扉の奥に、今日一日お世話になる人たちが待ち構えているからだ。

そして何故すぐにノックして入室しないかというと、心の準備に時間がかかっているからだ。

 

(はやくはいるです)

 

(ていとくとしてのさいしょのいっぽ)

 

(はりーはりーはりー)

 

やめて急かさないで。マジで今余裕ないから。

 

だって中にいるのは、呉第1鎮守府の大将と、その教え子の現役提督3名。

たかが技術屋が面会するには、身分違いもいいところなんだもの。聞く人が聞けば、技術屋が見初められたシンデレラストーリー的なものに聞こえるかもしれない。だとしても、本人が望んでいない以上、良い出来事ではないのである。

 

「うう……気が重い……」

 

中に聞こえないように弱音を吐く。いくら大人になっても、こういう場面では緊張してしまう。心臓がバクバク言っているのがよくわかる。

入るべきか入らざるべきか。いや、入るしかないんだけども。

 

どうにも踏ん切りがつかず、扉の前でうろうろする。今の俺、まるで動物園の熊みたいだな、なんて現実逃避をしてみるも、現実は変わらず。覚悟は決まらず。

 

「えと……そこのあなた、何をしてらっしゃるの?」

 

「んおっ……!」

 

ひとりで悶々としていると、声をかけられた。ビビった。

 

彼女は神風型駆逐艦5番艦『旗風』。神風姉妹の末っ子だ。

他の姉妹と違って、淡い黄色の羽織をかけている。とてもおしとやかだ。

末っ子だからか自信なさげで、ちょっとおどおどとした話し方をする。

その髪型は春風さんと同じで、クルクルとまいている。お姉さんと仲良しなのだろうか?微笑ましい。

 

「あっ……すいません。いきなり話しかけて驚かせてしまって……」

 

「い、いえ。こちらこそすいません。どう見ても不審者でしたから」

 

「え、と、鯉住さん、一体提督室の前で何を……?」

 

「あのですね。今日は面談なんですけど、どうにも覚悟が決まらなくって……」

 

苦笑いしながら、頬をポリポリとかく。

大の大人が緊張してうろうろしてるところなんて見られたら、やっぱり恥ずかしいのだ。

 

「え……?面談……?一体どちらさまと……?」

 

「あのですね、面談相手というのがですね、大将と、その教え子3名らしいんですよ……全員提督ってことで、どうにも顔を合わせるのに踏ん切りがつかなくって……」

 

「え……!うそ……!あ、あの御三方がいらっしゃってるの……!?」

 

旗風さんが急に動揺し始めた。

え?なに?大将の教え子ってそんな大物なの?

 

「えと……旗風さんはご存じなんですか?大将の教え子の皆さん」

 

「ご存じなんてものじゃありません……!海軍では知らない人のほうが少ない方たちです……!

5年前の本土大襲撃で、被害を最小限に食い止めた立役者。旗風たちも演習でよくお世話になっています……!

そんな生きる伝説とも呼べる方たちが一堂に会するなんて、滅多にないことですよ……!」

 

例の3人について、旗風さんらしからぬテンションの高さで説明してくれた。

ああ、そんなにすごい方たちなのね。それが3人。胃が痛い。聞かなきゃよかった。

 

「そ、それはすごいですね……」

 

「それはもう。旗風もご一緒してお話をお聞きしたいくらい……

……しかしなぜ鯉住さんは面談など……?提督としての着任地相談ですか……?」

 

「あ?ん?……いや、あの……ま、まあいいです……」

 

やっぱり俺、彼女たちの中ではもう提督なのね……

突っ込む余裕は今の自分にはないので、流すことにした。

 

「今日はなんというか、俺の疑問に皆さんが答えてくれるようで……

大将いわく、俺が提督の実情を色々知れば、考えが変わるだろうっていうことです。

だから今日は大将含めた4人で俺の疑問に答えてくださるとか……」

 

「す、すごい……!鯉住さん、それはすごいことですよ……!

日本海軍でも上から数えた方が早い皆様に質問したい放題なんて……!!

こんな機会、いくら大金を積んでも得られません……!」

 

「は、はぁ……」

 

「ああ……羨ましいです……」

 

そんな目で見ないで下さい……

こちらとしてはそんなにウキウキしちゃう出来事じゃないんです……

 

 

ガチャン!!

 

 

「そう!旗風君の言う通り!」

 

「キャッ!!」

 

「どわあっ!!」

 

いきなり会議室のドアが開き、大将が大声の台詞と共に飛び出してきた。

これには旗風さんも俺もビックリ。バアァーーーン!!という効果音が聞こえるような登場の仕方だ。

 

「た、た、大将、いきなり大声出さないで下さいよ!ただでさえ緊張してるんですから、心臓に悪いじゃないですか!」

 

「だってさっきから扉の前で話してるんだもん。もどかしいじゃろ。まだ9時前だけど、もう入ってきなさい」

 

「は、はひぃ……びっくりしましたぁ……」

 

口から心臓が飛び出るかと思った……。旗風さんも驚きすぎて腰が抜けたようだ。

 

「あ、旗風君、今日非番じゃろ?暇なら一緒に来る?」

 

「は、はへ?……い、いいんですか?」

 

急な大将の申し出に、旗風さんは目を丸くして驚く。

 

「なんか鯉住君緊張してるし、一緒に質問できる仲間がいたほうがいいじゃろ。まあ旗風君がよければなんじゃけど」

 

「も、もちろんですっ!旗風にも参加させてくださいっ!」

 

「うむうむ。感心じゃの」

 

「というわけで、そんな感じでよいかな?鯉住君」

 

「あ……はい。こちらとしても助かります」

 

これは渡りに船だ。1対4と2対4では全くプレッシャーが違う。それに旗風さんのように、一緒に緊張してくれる仲間がいると、こちらの緊張が和らぐ。

旗風さんには感謝しないとな……

 

「それでは二人とも、入ってきなさい。わしらはもう準備できとるからの」

 

「は、はいっ!旗風、抜錨しますっ!」

 

「はい。今日はよろしくお願いします」

 

 

・・・

 

 

「「失礼します」」

 

「うむ。そこにかけたまえ」

 

会議室に入ると、部屋の中央には大きな長机が設置してあり、大将は窓側の上座に、俺と旗風さんは入り口側の下座に座る。

 

部屋の中にはすでに、例の大将の教え子3人がスタンバイしており、

右手の席には、女性と男性が一人づつ。左手の席には男性が一人座っている。

 

……確かに3人からはオーラみたいなのを感じる。特に左手の男性からは、近寄りがたい威圧感みたいのが出ている気がする。流石、旗風さんがあれだけすごいと言っていた人たちだ。

 

「さて、よく来たの。二人とも。それじゃ楽しい楽しい質問タイムを始めようかの」

 

いつもの軽い調子でこちらに話しかける大将。こちらの緊張をほぐそうとしてくれているのだろうか?いいところあるじゃないか。流石大規模鎮守府をまとめる長ってところか。

 

「まあ今日は同窓会 兼 新提督着任(予定)祝いみたいなもんじゃ。楽しんでいこう」

 

そういうと鼎大将は、ニヤニヤしながらフッフッフと笑う。

あぁ、これは自分が楽しみたいだけだわ。悪い意味でいつも通りだわ。

 

俺が大将のいつも通りっぷりに呆れていると、隣に座る旗風さんが立ち上がる。

 

「あ、あの……神風型駆逐艦5番艦、旗風です。

本日は鼎司令のご厚意で、同席させていただくことになりました……!

よ、よろしくお願いします……!」

 

ガチガチに緊張しながらも、挨拶をする旗風さん。

いかんいかん。目の前の皆さんは、わざわざ俺のために来て下さったんだ。

ちゃんと俺も挨拶しなければ、礼儀知らずだし、失礼にあたる。

 

「えと、この鎮守府の技術班で駆逐艦対象の艤装メンテナンス技師として働かせていただいております。鯉住龍太と言います。

本日はお忙しいところ来ていただいてありがとうございます。よろしくお願いします」

 

旗風さんと2人で起立しながら礼をする。なにごとも始めが肝心だ。

 

 

「はいは~い。そんな固くならなくてもいいわよ~。

私は横須賀第3鎮守府提督の一ノ瀬聡美(いちのせさとみ)。よろしくね」

 

右側に座っていた女性が、手をひらひらさせながら挨拶を返してくれた。

ロングの黒髪に端正な顔立ち。控えめに言っても美人な部類だ。身長も高く、女優さんと言われたら信じてしまう。

こちらの緊張を見て気を使ってくれたのだろうか、こちらに笑顔を向けてくれている。優しい。綺麗。惚れそう。

あとあれだ。立派なものをお持ちだ。見てしまうのは男だから仕方ない。どうしようもない。惚れそう。

 

 

「フム。自分は加二倉剛史(かにくらつよし)。佐世保第4鎮守府で提督をしている」

 

一ノ瀬さんの挨拶が終わると、左側に座っている男性が口を開く。

こちらの方も高身長。なおかつ服の上からでもわかる筋肉量。髪は後ろで束ねるポニースタイル。声は低く、眼力もすごい。その顔立ちは、肉体に見合う武骨さだ。戦国時代の剣豪といったイメージ。

この人、k-1に出られるくらい強いんじゃないだろうか?滅茶苦茶迫力がある。夜の街道で出会ったら、間違いなく命の危険を感じる部類の人だろう。オーラだけでKOされそう。

 

 

「今日はよろしくね。よくわかんないことも多いだろうから、何でも聞いていいよ。

あ、僕はトラック第5泊地の三鷹優祐(みたかゆうすけ)だよ」

 

最期に自己紹介してくれたのは、一ノ瀬さんの隣に座る男性だ。

特徴的な顔立ちをしているわけでもなく、身長も体つきも普通。髪は短髪で清潔感があり、草食系という印象を受ける。ただしその辺にいる若者とは一味違った雰囲気があり、その表情はとても柔らかく、相手に安心感と信頼感を与えることうけあいだ。

今まで俺は、提督といえば誰もが戦略、戦術に秀でたエリートだと考えていた。だから優男風の三鷹さんが提督というのは、正直言って意外だ。もちろんいい意味で。ちょっと親近感を感じる。

 

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

そう言って再度頭を下げる。

会議室に入るまでは、緊張でガチガチだったが、いつの間にか気持ちが軽くなっていた。

どうやら意識しすぎだったみたいだな。一安心。

 

「み、皆さん、一堂に会されるなんて珍しいですね……!

今日はこんな素晴らしい機会に立ち会えて、旗風、光栄です……!」

 

「そんな緊張しないでいいわよ?私達も楽しみにしてきたんだから」

 

「そうだよ旗風ちゃん。さっき先生も言ってたけど、僕たち同窓会気分で来たんだからさ。

リラックスリラックス」

 

「は、はい……!ありがとうございます……!」

 

「そうだな。変に気負う必要は無い。

気になることがあれば遠慮なく聞くとよい。戦闘で分からないことがあれば自分が答えよう」

 

「ありがとうございます……!恐縮です……!」

 

旗風さんがすごい嬉しそう。やっぱりついてきてもらってよかった。

自分にすべての視線が集中していたら、こう冷静ではいられなかっただろう。

 

 

・・・

 

 

「さっそく打ち解けてもらったようで何よりじゃ。それじゃ質問タイムといこうかの。

鯉住君。なんか聞きたいことある?」

 

大将が俺に話を振ってきた。話の振り方がとっても雑なのは気になるが、会話の流れを作ってもらえるのはありがたい。

 

「そうですね、色々と考えてきましたので」

 

「へぇ、感心感心。準備してきたんだ。真面目なんだね」

 

「いえいえ。そんなことないですよ。準備は当たり前です。

折角集まっていただいたのに、こちらが何もしてないじゃあ、失礼ですからね」

 

「その心がけや良し。礼儀を重んじるのは基本にして必須だからな」

 

「ありがとうございます」

 

褒められた。なんだか嬉しい。

 

 

 

「それで私達に何を聞こうとしてたの?大体のことになら答えるわよ?」

 

「ああ、ええと、それじゃ一番気になっていることから……

皆さんはなんで提督になろうと思ってんですか?

危険な仕事だと思いますし、よっぽどの覚悟があったんだと思うんですが……」

 

提督業は、多数の艦娘をまとめあげる大変な仕事だ。さらに鎮守府の場所によっては、深海棲艦襲来の危険と隣り合わせ。心休まらない仕事でもある。

数ある生き方の中から提督業を選ぶということは、相当の覚悟があったに違いない。

 

「え?なんか楽しそうだったからね」

 

「え?」

 

なにそれ。俺が思ってたのと違う。

 

「いやだって、艦娘のみんなをうまく運用して、深海棲艦の艦隊と戦うのよ?

そんなの楽しいに決まってるじゃない」

 

「えーと……なんかこう、使命感とかは……」

 

「そんなものなくても大丈夫よ!

結局やることは変わらないんだから、楽しまなきゃ損じゃない」

 

一ノ瀬さんは楽しそうにケラケラ笑っている。かわいい。結婚したい。

……いやいや、そうじゃなくて。

 

「提督ってもっとこう……護国のため、とかそういう感じじゃないんですか?」

 

「んーん。大本営所属の軍人にはそういうやつ多いけど、提督はそうでもないわよ?」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「そうそう。そんなお堅い奴、妖精さんに好かれないもの」

 

……ああ、なるほど。そう言われてみればその通りだ。

あいつらがそんなお堅い人間についていくなんて、全く想像できない。

 

今の会話を聞いていた三鷹さんが口を開く。

 

「そうだね。例外は加二倉さんくらいかな?」

 

「うむ。確かに自分と同じような性質の提督は少ないな」

 

「基本的には、艦娘のみんなのメンタルケアの方が重要だったりするからね。

あんまり頭の固い人間じゃ、艦娘が気疲れしちゃって逆に務まらないよ」

 

「……そうなのか?自分の部下は文句も言わず、よく働いてくれているが」

 

「それは提督がキミだからだよ」

 

「……? どういうことだ?三鷹。貴様の言うことがよくわからないのだが」

 

「あんまり気にしないでいいよ。加二倉さん。

とにかく普通は、志がどうとかより、艦娘と妖精に好かれることの方が大事かな」

 

「はぁ……なんだか意外です」

 

なんかいろいろ悩んでたのがバカみたいだ。

 

「鯉住君だったよね?キミは真面目だから、そう考えちゃうのかもね」

 

そういうと三鷹さんはニコリと微笑む。

や、やばい……男なのに癒される……この笑顔は女性がほっとかないぞ……

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

「それでは次は自分だな。何故提督になったかという質問だったか」

 

「あ、はい!よろしくお願いします」

 

「うむ。自分が提督業を選んだ理由はな、不埒な輩を処分するためだ」

 

「……ん?」

 

えーと、聞き間違いかな?今不穏なワードが聞こえた気がするんだけど……

 

「選ばれた提督といえど、不埒なことを考える輩もいる。

そういった輩は国の害なれど、益になることは永劫ない。そういった輩を掃除するのに、この立場が最も都合がよかったのだ」

 

手を前で組み、ニヤリと笑う加二倉さん。

これは何人か殺めたことのある笑みだ。間違いない。俺の直感がそういってる。

 

「あっはい……」

 

怖い。とにかく怖い。見た目も相まって迫力5割増しである。

この人もしかして本当に戦国時代からタイムスリップしてきたんじゃないだろうか?

 

「元々自分は憲兵だったのだが、組織の末端ではできることが少ないのだ。一定の裁量ある提督という立場であれば、色々と融通が利く」

 

「え……加二倉さんは元々憲兵だったんですか……?」

 

「うむ。憲兵時代に先生に相談したところ、だったら提督の方がよい、と助言をいただいてな。それが自分が提督になった直接の理由だ」

 

「そ、そうなんですか……なんだかすごい話ですね……」

 

不埒な輩を処分ってどういうことなの?

憲兵から提督ってなれるもんなの?

色々とわからないが、この人に逆らってはいけないことだけはよくわかった。

 

狼狽えている俺を見かねて、三鷹さんが助け舟を出してくれる。

 

「ああ、不思議だよね。憲兵から提督なんてさ。普通は提督養成学校を出ないといけないもんね」

 

「そ、そうですよ。俺が知ってる話だと、それが提督になる方法だって……」

 

「普通はそうなんだよね。だけど例外があってさ。

大将以上の立場の人間の推薦があれば、それをすっ飛ばして提督になれちゃうの」

 

「ええ!?そんなの初めて聞きましたよ!?

このままなし崩しに提督になったら、まず俺も大本営の養成学校に行くと思ってました」

 

「あはは。ないない。

そういうのが必要ない人しか推薦されることはないし、最低限の教育は推薦した人がすることになってるしね」

 

これはなかなかショッキング。

何故かといえば、俺が提督やりたくない理由の一つに、もう一度学校に通わないといけないから、というものがあったからだ。

別に学校が嫌というわけではないのだが、そこで学んでいる時間があったら、少しでも今戦っている皆さんを助けたい、と思っていた。

 

「ええと……でも俺はそんな知識無いですよ?」

 

「まだ提督やるって決めたわけじゃないんでしょ?だったらそりゃそうだよ」

 

「ああ……そうですね……すいません変なこと言って。

色々衝撃的で頭がまとまってないんです……」

 

「いいよいいよ。気にしないで。それじゃ先輩の意見を聞いてみたらどうかな?

というわけで一ノ瀬さん、抜擢された後のこと、話してあげたら?」

 

「え?まさか一ノ瀬さんも?」

 

ポカンとした表情で三鷹さんから一ノ瀬さんに視線を移す。

するとニッコリ笑って話してくれた。

 

「実は私も抜擢組なのよね~。というかこの3人はみんな抜粋組。

ちなみに私、元々は将棋の棋士よ?」

 

「しょ、将棋!?」

 

あまりにも意外な発言。これには俺もビックリ。

 

「将棋といってもネット対戦がメインだったけどね。一時期はネット上の大会で優勝したりもしてたのよ?」

 

「そ、それはすごいですね……」

 

「でもそれだけじゃ面白くなくなってきちゃってね。元々私アウトドア派だし。だから先生に頼んで提督になったってわけ」

 

「は、はぁ……」

 

「まあ私は戦術とか戦略とかは、将棋でなんとなくわかってたから、先生に教わることはあんまりなかったなぁ。どっちかって言うと艦娘と妖精さんとの付き合い方を学ぶのに時間がかかったわ」

 

「一ノ瀬さんなら明るくて人当たりがいいですし、全然問題ない気もしますけど……」

 

「あら。そんなこと言ってくれるの?ありがとう。お姉さん嬉しくなっちゃうわ♪」

 

「お姉さんという年でもなかろうに」

 

「加二倉君は黙ってるように」

 

「むう……」

 

あの鬼が人間に化けてるような加二倉さんが押されている。

一ノ瀬さんいくつなんだろう?と、ちょっと思ったが、それは聞いてはいけないと理解した。

 

「まあそれはどうでもいいの。おいておきましょう。

……鯉住君、艦娘も妖精さんも、自分の意思があるのはわかってるわよね?」

 

「ええ、もちろんです」

 

「相手にも気持ちがある以上、実際に触れあってみないと、お互いを分かり合うことなんてできないわよね?」

 

「……確かに」

 

「だから全然艦娘とつながりのなかった私は、一番そこに時間をかけたの。だいたい半年くらいかなあ。当然その間に他の勉強もしてたけどね」

 

「なるほど」

 

「ま、キミの場合はずっとここで働いてたんだから、それは必要ないんじゃないかしら?」

 

「そうかもしれません。教えていただいてありがとうございます」

 

「いいのよ~」

 

なるほどなあ。確かに一芸に特化した人材を育てるには、個別指導が一番効果的だ。

そういう人間が大勢と一緒の教育を受けても、どこかでひずみが出てくるだろう。学校のいじめなんかはまさにその典型だ。それを考えると、実力も経験も確かな人間が尖った人材を抜粋し、個性を伸ばすよう育てる、という制度は理にかなったもののように思える。

 

 

「さて、それじゃ最後は僕の番かな?といっても2人よりもインパクトはないよ?それでも聞くかい?」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「わかった。僕は実はね、一度養成学校を退学になってるんだ」

 

「ええ!?」

 

一番そういうのとは縁遠そうな三鷹さんが、退学とは……十分インパクトあるじゃないか。

一体何があったのだろうか?

 

「元々提督になろうと思ったのはね、ホントなんとなくだったんだよ」

 

「な、なんとなく?」

 

「そう。なんとなく。妖精さんが見えたら提督になる資格があるっていうじゃない?

だったら僕にも見えたし、やってみようかな、って」

 

「そ、そんなテキトーな……」

 

「今考えたらホントに阿呆だったと思うよ?でも当時はよくわかんなかったんだよね。

『なれるんだったらなってみよう』ってさ」

 

うーん。何とも軽い動機。……でも俺にはよくわかるなぁ。

5年前のあの事件がなければ、俺も三鷹さんと似たような動機で、道を選んでいたかもしれない。

大体の学生ってのは、社会の事がよくわからない。だから卒業して就職、なんて言われても、自分の事のように感じ取れない。事実自分の先輩方の就職動機は、給料、立地、安定感、くらいのもんだった覚えがある。

 

「それは……俺にもわかります」

 

「お、わかってくれる?学生なんてそんなもんだよね」

 

「そうなんですよね。

自分にだけ妖精さんが見えたんなら、選ばれし者気分になるのはよくわかります」

 

「あー、そうそう!まさにそれ!いやあ、わかってるねぇ、鯉住君」

 

「恐縮です」

 

その会話を隣で聞いていた旗風さんを見ると、苦笑いしている。

部下の目線で見たら、こんなテキトーな気持ちで指揮をされてはたまったものではないだろう。

 

「あ、この話題大丈夫ですか?旗風さん。聞いていていい気分じゃないですよね?」

 

「あ……その、大丈夫です。確かにそのような動機で提督を目指す方も多いと聞きますが、三鷹司令や鯉住さんはしっかりした方たちだと知っておりますので……」

 

「ハハハ……若気の至りってやつさ。でもま、ちゃんと報いは受けたから、許してほしいな」

 

「報い……あ、もしかして退学って……」

 

「そそ。気軽な気持ちで提督やろうと思っただけあってさ、厳しい訓練と相部屋生活に耐えられなかったんだよね。それでやめちゃった」

 

「あらー……」

 

「僕が言えることじゃないんだけどさ。

提督って1人部屋あるのに学校は共同部屋って意味わからなくない?別に部屋が余ってないわけでもないのに。

それに提督って基本インドア仕事でしょ?なんで運動能力テストに合格しないと進級できないのさ?意味わからなくない?」

 

「うーん……確かにそうですが、何か意味があるんじゃ……」

 

「いやー、ないない。訓練学校のカリキュラム作ったのって、軍の上層部だよ?

現場の人間の意見なんて耳をかさないような連中なんだ。あれは提督を養成するための学校じゃなくて、海軍士官を養成するための学校だね」

 

「ハハ……なかなか過激な事をいいますね……大丈夫なんですか?」

 

大将の前でこんなこと言って大丈夫なんだろうか?他人事とはいえ、ハラハラしてきたぞ……

聞く人が聞けば不敬罪的な理由で、かなり重い罰を受けそうな意見だ……

 

「あらあら。三鷹君はこの話題になるといつもこんな調子なのよね~」

 

「口は禍の元だぞ。そろそろやめておけ」

 

「……そうだね。ゴメンよ、熱くなっちゃって」

 

「あ、いえ、聞いたのは俺ですから。気にしてないですし」

 

「そうか。キミはいい奴だね」

 

「そんなことないですよ。

それで、どうして退学したのにまた提督やろうと思ったんですか?」

 

「あ、そうそう、その話だったね。

結局そういう無駄な事やらされるのが嫌で退学しちゃったんだけどさ、その直前に養成学校の食堂で鼎先生と話したんだよね。そしたら先生は僕の意見、しっかり聞いてくれてさ。嬉しかったんだ。その縁で退学してから、先生の抜擢枠に入れてもらったんだよ。

だから僕が提督やってる理由は、拾ってくれた先生への恩返しかな」

 

「恩返し、ですか」

 

「そう。大したことない動機だと思われるかもだけど、僕にとっては大きいことなんだよね」

 

やっぱりこの人と俺は、ちょっと似てるな。

 

「それは……よくわかります。俺も今の仕事を選んだのは、恩返しをしたかったからなので」

 

「え?そうなの?それじゃ、キミと僕は似たタイプなのかもね。あとでキミのその話、聞きたいな」

 

「あ、それ私も気になるわ」

 

「待て。まずは彼の疑問を解消するべきだ。こちらからの質問は、その後でもよかろう」

 

「む、それもそうね」

 

「今日一日時間があるんだし、時間を気にすることはないでしょ。気長に行こうよ。

旗風ちゃんもいつでも聞きたいこと聞いていいからね?」

 

「は、はい……!ありがとうございます……!」

 

「ははは……」

 

うーん。提督って一口に言っても、色々いるんだなぁ……

ここに来る前の俺じゃ想像もできなかったよ。先入観って怖い。まぁこの3人のアクが強すぎる気がしないでもないけど。

せっかくのチャンスなんだから、まだまだ色々聞きたいことがあるし、どんどん聞いちゃおう。

……それにしてもこの場を整えてくれた大将には感謝しないとな。普段はあんなだけど、おかげで俺の偏見もなくなったし。

 

そういえば大将静かだな……?いつもならうるさいくらい話しかけてくるのに……

 

 

「……zzz」

 

 

オイィ……なんでホストが寝てるんですかねぇ……?

やっぱなし。感謝の言葉とかなし。俺の気持ちを返してください。

 

 

 

知らず知らずのうちに、提督着任へのハードルが下げられていることに気が付いていない鯉住くん。

このままずるずると、なし崩し的に提督になってしまうのだろうか!?




あまりにもキャラが濃い、鼎大将の教え子3人にたじたじの鯉住くん!
果たして提督への勧誘を断り続け、無事に元の職場へ戻ることができるのか!?

次回「定時までには帰れるさ」!

お楽しみに!
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