艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

102 / 185
三隈の私服グラすごくいいですね。
なんか強者感あります。もしくは寂寥感。

いとしさと切なさと心強さを感じます。




第102話

 

 

 

昨夜の歓迎飲み会から一晩明け、現在は翌日の正午。

 

鯉住君は現在、この鎮守府所属艦である重巡洋艦『那智改二』と一緒に、演習場の全景が見られる高台、そこにある原っぱに座っている。

 

 

「大丈夫かなぁ……」

 

「問題ないだろう。

なにせ天龍の奴は、この那智が対空を鍛えたのだ」

 

「いやだって……

いくら天龍龍田のふたりで戦うといっても、相手はあのレ級ですよ……?」

 

「だからこそ問題ないと言っている。

我が鎮守府において、レ級が一番の弱者というのは貴様も知っているだろう?」

 

「知ってますが……他がおかしいだけじゃないですか……」

 

「酷い言われようだな」

 

「那智さんなら自覚あるでしょう……?」

 

「まぁそうだが」

 

 

不安そうな鯉住君の目線の先、1㎞程離れた海上演習場では、100mほどの距離を空けて、天龍龍田姉妹とレ級flagshipが向かい合っている。

 

何故このような状況になっているか?

それはつい先ほど、天龍龍田が神通に叩き起こされ、

 

 

「今からあなた達にはレ級と演習をしてもらいます。

応急修理要員はナシ。沈んだらもう浮き上がれませんので、努々油断することがないように」

 

 

という無慈悲な一言とともに連行されていったと言えば、よくわかるだろう。

 

 

……つまりは今目の前で起こっている事態は、昨日から続く鍛え直しの延長線にして延長戦であり、演習の皮を被った文字通りの『デスマッチ』というワケだ。

 

一番の常識人である那智が異議を唱えなかったあたり、本当に大丈夫なのだろう。

しかしそれでも鯉住君としては、部下の生命の危機を今から見届けることになるわけで……安心しろというのは無理な話だ。

 

 

「今からでもやめさせることは……」

 

「無理だ。あの神通だぞ?私でも止められん」

 

「うぐぐ……」

 

「まぁ聞け。あのふたりは神通の奴の教え子でもある。

研修内容は、この那智が何度もストップをかけるほど、出鱈目なものだったのだが……

見事それを必死になって乗り越えた実績が、ふたりにはある。

信じて見届けてやれ」

 

「そうは言いましても……」

 

「レ級には応急修理要員を装備させているあたり、神通の奴もふたりの勝利を確信しているようだしな。

ま、おおかた『これほどのハンデで万が一負けることがあるようなら、本当に沈んでしまって構わない』などと思っているのだろう」

 

「全然安心できない……

確かに神通さんなら言いそう……」

 

 

ハラハラしっぱなしの鯉住君であるが、こうなってしまえば、最早どうしようもない。

 

そもそも加二倉提督含め、他のメンバーが止めに入らないあたり、本当に大丈夫ということだろう……多分。

もし本当にふたりがピンチになってしまったら、流石に助け艦を出してくれるだろう……多分……

 

そんな感じで無理やり自分を納得させていると、随分離れた距離だというのに、演習場から声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「ギャハハハハッ!!

ココガァ!地獄ノ一丁目エェェッ!!オォオ帰リナサイマセエエッッ!!」

 

「レ級お前うるせえッ!!

ゼッテー沈めてやるからな!俺達も必死なんだ!悪く思うんじゃねぇぞッ!」

 

「出来ルト思ッテゴザイマス!?

ヤーイ!オ前ノ母チャン、ふぁりさい派アァァッ!!」

 

「俺達に母ちゃんはいねえよ!」

 

 

 

 

 

これから沈めあいを始めるというのに、賑やかなことだ。

 

余裕がありそうに見える天龍と龍田。まだ気持ちにゆとりがある証拠だろう。

とはいえ、ふたりの纏う空気は張りつめたものであり、臨戦態勢をとっていることもわかる。

 

 

「……那智さん。

ふたりの研修って、もしかして毎回このくらいムチャなことしてたんですか……?」

 

「この程度なら私は止めに入らん」

 

「ということは……」

 

「この程度序の口ということだ」

 

「ふたりとも……どんなことやらされてたの……?

ホントに頑張ったんだなぁ……」

 

 

本人たちからの報告書と簡単な説明で、研修内容については大まかに把握できている。

とはいえやはり、書面と口頭ではインパクトが違う。

 

例えば龍田の研修報告書面で

『3日間の教導艦(駆逐艦・早霜)同伴でのレベル1特務海域への出撃』

となっている部分がある。

 

これををわかりやすく説明すると、

『爆雷だけを積んだ状態で、3日間不眠不休ぶっ続けで、1-5で潜水艦を殲滅し続ける(早霜はもしもの時の保険と補給サポートのみ)』

ということだったりする。

 

書面だとインパクトが薄れるというのは、どこでも同じなのだ。

 

それに加えて……

ふたりのトラウマを刺激しないように、との配慮から、鯉住君はふたりに詳細な口頭説明を求めなかったので、詳しい研修内容を実は把握できてなかったりする。

 

 

「レベル6海域に保護者同伴で単独出撃くらいなら、日常的に行っていたな。

その中でも私が一番おかしいと思ったのは、ふたりの卒業試験だ。

よくもまぁ、あんな無茶ぶりを達成できたものだよ」

 

「天龍は赤城さんの艦載機全機撃墜、龍田は潜水艦密集地帯の海図作成でしたよね……?

確かによく達成できたなぁ、と思います。特に天龍は」

 

「うむ。ふたりとも尋常でない精神力だったな。

何度轟沈しても心折れずに目標に向かっていく姿は、私ですら感心するほどだったぞ」

 

「えっ……何度も轟沈……?」

 

「そうだとも。日に3回は沈んでいたな。思い出すだけで懐かしい。

ここに居る応急修理要員を全員動員する必要が出たので、その期間は演習を中止していたほどだ。

1週間ほど不眠不休で続けていたから、その間他のメンバーは随分と暇していたな」

 

「う、うわぁ……」

 

 

思っていたよりも数十倍はハードな内容だった。

どうやら最終試験は技能を見るというよりは、どれだけかかっても、何度沈んでも、目標を達成しきるという精神力を試されるものだった様子。

 

 

「気絶したまま運び込まれ、高速修復材をぶっかけられ、そのままノータイムで出撃だ。それを1週間。よくもまぁ心が保ったものだよ。

ふたりとも貴様との約束を心の支えにしていたようだぞ?

白目を剥きながら、うわごとのように『提督のため……提督のため……』と呟いていた」

 

「ううっ……!罪悪感がっ……!!」

 

「ははっ。結果オーライだろう。

それだけ慕われているのだから、あのふたりをうまく使ってやれ」

 

「使うって言うとちょっとアレですが……

なんとかふたりの頑張りに応えられるようにしますよ……」

 

 

鯉住君が知られざる真実を那智から暴露されている間に、演習(デスマッチ)の開始時刻となったようだ。

 

1kmも離れているというのに、とんでもなく空気が張り詰めているのがわかる。

こちらにまで刺すような殺気が伝わってくる。

 

 

「……!!」

 

「ふむ。なかなかの殺気だな。

ここを離れて精神が軟弱になってしまったかと懸念していたが、杞憂だったようだ」

 

「……ふたりとも、沈まないでくれよ……!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「ギャハハハハッ!!死合開始イィィッ!

沈メ沈メエエッッ!!」

 

 

バシュシュシュウッ!!

 

 

試合開始時刻になったと同時に、もう待ちきれないといった様子でレ級が突撃。

 

しかも魚雷をあらゆる方向に大量に発射しながらである。

さらにその魚雷というのが特殊で……

 

 

「踊レェ!オ前ラアァッッ!!

れっつだんすとぅぎゃざあアアァァッ!!」

 

 

キキーッ!!

 

 

なんとレ級の魚雷には意思があるのだ。

というわけでレ級の魚雷は、完全自動追尾性能を持っている。

 

あらゆる方向に打ち出した魚雷達は、それぞれの方向から天龍と龍田に襲い掛かる!

このレ級は、たった一体で全方位攻撃ができるインチキ性能を持っているのだ。

 

 

「相変わらず嘘くせぇ攻撃だな!」

 

「天龍ちゃんはレ級本体をお願い~」

 

 

パラララッ!!

 

 

ドドドオオゥンッ!!

 

 

龍田は装備した機銃で、丁寧に迫りくる魚雷を処理。

 

機銃や主砲で魚雷を無力化するためには、的確に信管を撃ち抜く必要がある。

本来そんな技術は神業だが、ここでは当然そんな常識通用しない。

必須科目であり、龍田もそれくらいなら取得している。

 

見事に処理されていく魚雷群。

 

 

……しかしレ級もここでの常識が染みついているため、その程度なら想定内。

ふたりが魚雷に気をとられている隙に、本体自ら突撃していく。

 

 

「ギャハハハハッ!!あん・どゅー・とろわァッ!!

へびーナあーむデ乾坤一擲イイイッッ!!」

 

「応ッ!来いやぁッ!!」

 

 

ズドオオンッ!!

 

 

ガギィンッ!!

 

 

レ級は2mはあろうかという尻尾艤装を、天龍に叩き付ける。

天龍はそれを艤装の長剣を使って受け止める。

 

響く激しい金属音。

尻尾艤装は柔軟性があり生体のように見えるが、硬度は鋼鉄クラスなようだ。

 

 

「手ガ塞ガッテ大ちゃんすッ!!

ワタクシカラノがいだんすッ!!飛行機ハァ!強インダゾオオッ!!」

 

 

バシュシュッ!!

 

 

対空が得意な天龍の動きを封じているレ級は、ここぞとばかりに尻尾艤装の口から艦載機を射出。

空母系の深海棲艦には及ばないが、かなりの数の艦載機が空へと放たれる。

 

魚雷や尻尾と同様、艦載機も意思を持った自律起動タイプである。

空に飛び立った艦載機群は、魚雷同様様々な方向からふたりへと攻撃を開始する。

 

 

「舐めないでほしいわぁ。

天龍ちゃんほどじゃないけど、この程度なら捌けるよ」

 

 

パラララッ

 

 

ボボウゥンッ!

 

 

しかしこの猛攻を龍田が防ぎ……

 

 

「テメエみたいなひとり艦隊と長期戦するつもりはねぇ!オラアッ!!」

 

 

ドゴォッ!

 

 

「ウゲエェッ!痛イノオッ!折レチャウウウッ!!」

 

 

天龍はレ級の尻尾を受け止めたまま、ヤクザキックをレ級の膝下に食らわせる。

脛の骨が折れるかというほどの衝撃に、たまらずレ級は後ずさる。

 

 

「ウオラァッ!」

 

「キシシシッ!!……オゲエエェッ!!」

 

 

……ボボボオォンッ!!

 

 

超至近距離から、天龍の主砲である15.2cm連装砲改2門が火を噴く。

それに対してレ級は大きく開いた口から16inch3連装砲を1門だけ吐きだし、これに応戦。

 

圧倒的な火力を持つ戦艦主砲ではあるが、天龍の砲撃の狙いどころが良かったため、これは相殺となった。

 

 

「……チッ!やっぱりこの程度じゃ無理か!」

 

「ギャハハハハッ!!タッノシイィ~~~ッッ!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「おぉ……!すごい……!

本当にあのふたり、レ級に対して優勢だ……!」

 

「だから言っただろう。

いくら神通の奴でも、教え子を無為に沈めたりはせん」

 

「そりゃそうですが……

本当にあのふたり、ここまで強くなってたんだなぁ……」

 

「なんだ。貴様、奴らの実力を見るのは初めてか?」

 

「彼女たちが本気出してるところ見るのは初めてですね。

それほどの相手なんて、そんじょそこらには居ませんから」

 

「成程な。神通が鍛え直しするといっていたのは、そのあたりが原因か。

腕が鈍っていないか危惧してのことだな」

 

 

鯉住君は未だに不安で仕方ないものの、演習開始前よりは安心している。

規格外なレ級にあそこまで優勢でいられるとは、思っていなかったのだ。

 

よく考えれば天龍は、神通が仕留めそこなうほどの実力者であるアークロイヤルに認められたのだから、それくらいの実力はあってもおかしくはない。

しかしレ級がトラウマとなっている鯉住君に、そんな冷静な判断は出来るはずもなかったのだ。

 

 

ふたりの実力を確かめ、ようやく落ち着いてきた鯉住君だったが、そんな観客席に乱入者が。

 

 

「……あー!居たー!」

 

「……へ?」

 

「龍ちゃーんっ!」

 

 

ドゴオッ!

 

 

「ゲフウッ!?」

 

 

突撃してきたのは清霜だった。

不意打ちでのダイビング抱き着きに、鯉住君は吹っ飛ばされる。

 

 

「痛つつ……清霜ちゃん……もっと落ち着いて……」

 

「今日のお仕事終わったから来たよー!

清霜も一緒に観戦する―!」

 

「お仕事って……」

 

「今日のお仕事は晩ごはんづくりだよー!

五月雨が何度も塩と砂糖間違えるから、遅くなっちゃった!」

 

「そ、そうですか……」

 

 

軽く地面に頭を打ったので、ちょっとだけできたコブをさすりながら、あぐらをかいて座りなおす鯉住君。

 

するとなんと、座りなおした鯉住君の足の上に、清霜が元気よく座ってきた。

完全に椅子にされてしまった形となる。

 

 

「き、清霜ちゃん……

あんまり男の人とくっつくのはよくないから、ひとりで座ろうね……」

 

「えー?やだー!」

 

「ハハハ!貴様、本当に懐かれているな!

幼女趣味があると聞いていたが、その性癖も満たすことができて一石二鳥だな!」

 

「そんな趣味無いですからね!?

全部誤解ですから!誰から聞いたんですかそれ!?」

 

「川内」

 

「あんの夜戦忍者ァァーーー!!」

 

「呼んだ?」

 

「呼んでないっ!急に出てこないでって何度言わせるのぉ!?」

 

「そんなつれないこといわず……」

 

「早霜さんも同じですからね!?

ビックリするからやめてちょうだいっ!」

 

 

 

・・・

 

 

 

……観客席は随分とカオスになってきたが、演習は佳境を迎えている。

 

現在、天龍龍田は共に中破。

レ級の猛攻に晒されて中破で済んでいるのは流石である。

 

対してレ級は天龍の袈裟斬りをモロに受け、大破している。

 

 

「ギ……ギヒヒイッ……!

黒イ血液ィッ……!!気ン持チイイヒヒヒッッ……!!

……ガハッ!!」

 

「ハァ……ハァ……

もう終わりねぇ……天龍ちゃん、お願いしてい~ぃ?」

 

「オウ……!……うおりゃあッ!!」

 

 

ズバアァンッ!!

 

 

「ゲバァァッ!!!

……楽シカッタヨォ……!サイッコオォ~~~……」

 

 

ブクブクブク……

 

 

天龍はレ級を一刀両断。レ級轟沈。これにて決着となった。

 

天龍龍田の勝利。

当初の予定通りの勝利とはいえ、命がかかった戦いであったため、ふたりとも随分と憔悴している。

 

 

「ハァ……ハァ……しんどかったぜ……」

 

「ゼェ……ゼェ……

でもこれで……神通教官にお仕置きされずに済むね~……」

 

「オウ……教官を怒らせるのは、沈むより怖えぇからな……」

 

「よかったわぁ……本当に……」

 

 

ホッと胸をなでおろすふたり。

自分が沈むことよりも、教官のお仕置きを恐れているあたり、ふたりがどれだけ神通を恐れているのかがわかるだろう。

 

 

……そんな中、レ級が沈んだあたりの海中から光が立ち上る。

 

 

「……おっ。応急修理要員発動か」

 

「今更だけど、深海棲艦にも効果あるんだね~」

 

 

応急修理要員発動の光をぼんやりと眺めるふたり。

 

応急修理要員はレア中のレア艤装なので、この光景を見れば神秘的だとか奇麗だとかそういった感想が出るのが普通だ。

しかしこの鎮守府では、目の前の光景は毎日見る光景なので、ふたりには特に何の感慨もない模様。

 

 

 

ピカーッ!

 

 

シュウウウゥ……

 

 

 

「おう、復活した……か……?」

 

「戦闘はここまで。

もう襲ってきちゃダメ……よぉ……?」

 

 

ふたりの目の前には、レ級が復活して……いなかった。

 

深海棲艦特有の青白い肌や、真っ黒なフード、身長よりも大きい尻尾艤装の姿はどこにもなく……

 

 

 

 

 

「あ~!楽しかったっぽい―!」

 

 

 

 

 

「お、おま……レ級お前……!」

 

「あらぁ……このパターンって……」

 

 

天龍龍田の目の前に復活したのは、薄桃色の髪をした艦娘だった。

 

 

「レ級お前……転化したのか!」

 

 




この世界では艦娘には人権がありません。

人権が発生すると法律で色々大変なことになっちゃうのと、艦娘が顕れて10年しか経っておらず、現状に法律が追っついてないのが原因です。

人権があれば「艦娘兵器派」は「艦娘兵士派」になってただろうなぁ。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。