艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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レ級の練度……約200相当(佐世保第4鎮守府で最弱)

天龍の練度……185
龍田の練度……180


練度だけ見れば天龍龍田ともにレ級に食らいつける程度なので、2対1なら余裕なように見えます。

しかし相手は数多くの提督を苦しめるインチキ戦艦。
2対1でようやく優勢が取れるくらいなのです。

まだまだふたりは艦種の壁を取っ払える実力ではないみたいですね。



参考比較データ


ここの那智改二(下から2番目)……練度220(特殊対空性能アリ)

ここの早霜改(下から3番目)……練度225(第6感による特殊スキル多数所持)

他の鎮守府(中、大規模)の第1艦隊旗艦クラス……練度80~85周辺



※注意

お話の途中で堅苦しいところがありますので、めんどくなったら飛ばしちゃってください。
直ぐ後に鯉住君にあらすじを話してもらいますから、そうしてもらっても大丈夫です。




第103話

デスマッチ演習が終わり、レ級の身に変化が。

不測の事態なため、情報のすり合わせが必要だろうということで、全員揃って会議室へと集合することとなった。

 

 

全員というのは本当に全員で……

 

あまりのカルチャーショックから部屋で寝込んでいた夕張、

あれからぶっ続けで深海棲艦をなぎ倒し続け、ついさっき帰ってきた武蔵、

この鬼ヶ島の提督であり、元憲兵隊部隊長でもある加二倉提督、

憲兵隊見習いである工廠班のメンバー全員、

本日演習予定だった面々と……

 

鎮守府に居るメンバーが勢ぞろいとなったわけだ。

 

 

転化そのものが超希少事例ではあるのだが、鬼級でも姫級でもないただの戦艦が転化したというのは、その希少事例の中でも初めてのこと。

やはりどのような変化があったのか気になるというのは、誰しもが同じなのだろう。

 

そんな状況で周囲の注目を浴びている元レ級は、いつも通りニコニコしながら、座っているパイプ椅子を後ろにギィギィ傾けて遊んでいる。

 

 

「さぁて、そんじゃレ級。

姿も変わったんやし、改めて自己紹介しとき」

 

「わかりましたっぽい!龍驤さん!」

 

龍驤の呼び掛けに応え、元レ級はガタッと椅子をならしながら、元気よく立ち上がる。

そして、誰に向けるでもない敬礼をビシッとつくりながら口を開く。

 

 

 

 

 

「レ級改め、駆逐艦『夕張』よっ!

みんなよろしくっぽい!」

 

 

 

「それ私ィ!」

 

 

傷心の夕張にまさかの飛び火である。

ツッコミを入れる元気くらいなら出たようだ。

 

 

「それじゃあねぇ、駆逐艦『夕雲』よっ!」

 

「あはは!それ私と早霜の姉ちゃんでしょ!夕立でしょ!夕立ー!」

 

「そんなちょっとの区別、つかないっぽい!」

 

「艦娘になっても変わんないねー!あははー!」

 

「ウケるっぽいー!」

 

 

ゲラゲラ笑う清霜と元レ級の夕立。

転化したおかげか、言語体系は以前よりもだいぶ人類寄りになったが、マイペースでハイテンションな性格は据え置きなようだ。

 

そんな夕立の様子を見て、それぞれは思い思いに会話を繰り広げている。

 

 

 

・・・

 

 

 

「加二倉さん……

これってかなり一大事じゃないですか……?

数少ない転化体がさらに増えただけでなく、戦艦が駆逐艦になったなんて……」

 

「そうだな。貴様の言う通り。

アテにできる戦力が増加したと、先生に一報入れねばなるまい」

 

「あ、そしたら私がひとっ走りしてこようか?」

 

「いや、少し成り行きを待て、川内よ。

伝達はレ級の性能考査を終えてからで良いだろう。

戦力がレ級の時より落ちていては、艦隊に組み込むのは厳しいからな」

 

「んー、それもそっか。了解」

 

「……? ねぇ、師匠……」

 

 

できるだけ話に関わらないようにしていた夕張が、鯉住君に耳打ちしてきた。

今のやり取りで気になったことがあるようだ。

 

 

「ひとっ走りって、川内さん、本当に走るつもりなんですか……?

佐世保から呉ってかなり距離がありますけど……」

 

「んー?気になっちゃう?夕張ちゃん」

 

 

かなりボリュームを下げた耳打ちにもかかわらず、情報収集能力がカンストしてる川内には聞き取られていた模様。

 

予想外だったのでビクッとなる夕張。

 

 

「!? はっ、はい……」

 

「流石に本当に走ると体力の無駄だからねー。

電車とか連絡船とかトラックとか経由で移動するんだよ」

 

「ト、トラック……?」

 

「うん。死角に張り付いてこっそりとね」

 

「普通に無賃乗車じゃないですか……

そんなことするなら切符買って普通に乗ってけばいいのに……」

 

「私ってば、顔バレNGだから」

 

「なに那珂さんみたいなこと言ってるんですか……」

 

「ちゃんと理由あるってば。ね?提督」

 

「川内は優秀な諜報能力を持っているが、顔が良すぎるのが唯一にして最大の欠点だ。

特徴ある顔をしているというだけで、人の記憶に残ってしまう」

 

「やだもー!そんな面と向かって美少女だなんて!提督やらしー!」

 

 

バンッバンッ!

 

 

「「 あぁ……そっすか…… 」」

 

 

 

・・・

 

 

 

ニッコニコしながら加二倉提督の背中をバンバンする川内を見て、鯉住君と夕張はげんなりである。

 

その隣では、赤城、五月雨、龍驤の3名が、レ級について話している。

 

 

「よかったですね、五月雨さん。

元々レ級だったとはいえ、あなたにお姉さんができて」

 

「うーん……赤城さんの言う通り、嬉しいと言えば嬉しいんですけど……

レ級のイメージが強すぎて、姉さんって感じがあまりしないんです」

 

「あら、そういうものなんですか。

確かにレ級が加賀さんになっていたとしたら、私もそんな気分になっていたかもしれませんね」

 

「ウチには姉妹艦娘おらんからな~。

どっちにしろ、ようわからんわ」

 

「龍驤さんはそうですよね。

ところでレ級についてどう見ます?」

 

「どうて?」

 

「いえ、私は別に転化したこと自体はどうとも思いませんが、鎮守府の一員として何か変化あるかな、と思いまして」

 

「別にないんちゃうん?

なんや話してる感じやと別に性格も変わっとらんようやし、清の字ともいつも通りやしな」

 

「ですよね!私もそう思います!

レ級ちゃんはレ級ちゃんですよね!

あ、でも私と同じ駆逐艦になっちゃったんだし、演習での戦い方は変わるのかなぁ?」

 

「そんなん気にするほどやないって。

艦載機飛ばせなくなるくらいで、他はいつも通りやろ。

もし全方位攻撃する相手が演習で欲しかったら、瑞穂に頼めばええしな」

 

「五月雨さんだと瑞穂さんの相手は少し厳しいのでは?」

 

「沈む前提で突撃すればええやん。な、五月雨?」

 

「うー……あまり私、沈むのは好きじゃないなぁ……」

 

「毎日沈んでるんやし、いい加減慣れとるやろ?」

 

「慣れてますけど……あの感覚、好きにはなれないですぅ……」

 

 

レ級が転化したこと自体は、3人にとっては別にどうでもいいことらしい。

おそらく歴史上初の出来事だということはわかっているのだろうが、それよりもレ級の戦闘力の変化に興味津々なようだ。

 

 

 

・・・

 

 

 

普通の人が聞いたら耳を疑う会話だが、ここではそれが普通である。

その証拠に、こちらでも同じような話をしている。

 

 

「うーん……レ級が転化してしまったでありますか……

自分にとってはすこーし不都合でありますなぁ」

 

「わたしは くちくかんなかまができて うれしいですよ……?

あきつまるさんは なにがきがかりなんですか……?」

 

「艦娘姿になってしまっては、サバゲーの的役にできないでありますよ。

深海棲艦の姿をしていたからこそ、獣狩りといった雰囲気が出せたというのに……」

 

「たしかにそれでは おもしろくないですね……」

 

「なに、あきつ丸よ。それは要らぬ心配だろう」

 

「武蔵殿。その心は?」

 

「転化体ということは、深海棲艦の姿に戻れるということなのだろう?

だったら都度都度、元の姿に戻せばよいではないか」

 

「おー!流石でありますな!それなら問題解決であります!」

 

「じんつうさん……

てんかたいは ほんとうにすがたをかえられるのですか……?」

 

「ええ。本当ですよ。お見せしマショウ……」

 

 

ズオッ……!

 

 

神通のカラダから黒い煙が吹きあがり、姿がみるみるうちに軽巡棲姫へと変わっていく。

ついでに物凄いプレッシャーが周囲に漂う。

 

 

「ホラ、コンナ風ニ」

 

「わぁすごい それならあきつまるさんも あんしんですね……」

 

「グッドでありますな!」

 

「デハ元ニ戻リマすね」

 

 

ピカーッ!

 

 

シュウウゥ……

 

 

光と共に神通の姿が艦娘へと戻る。

それと同時に迸っていたプレッシャーもひっこむ。

 

 

「神通ちゃん自分で光れるのっ!?知らなかったっ!

今度那珂ちゃんのライブでバックライト係やってよっ!

光源がない屋外でもイルミネーション演出ができるかもっ!キャハッ☆」

 

「今の光は色や光量を調節できないので、それはちょっと無理ですね」

 

「えー!練習すれば何とかなるんじゃないのー?」

 

「そう言われましても……」

 

 

ここのメンツは特に気にしていないのだが、さっき垂れ流しにされていたプレッシャーは、並の艦娘なら気絶不可避級のシロモノだった。

全員強すぎるため完全にスルーされているあたり、流石としか言いようがない。

 

 

「教官怖ぇよ……そういうことするのやめてくれよ……」

 

「無理……あんなの無理ぃ……」

 

 

教え子ふたりはそういうわけにもいかず、半泣きでハイライトオフになっちゃっている。

さっき頑張ってきたばかりのふたりに安息が訪れるのは、まだまだ先のようだ。

 

 

 

・・・

 

 

 

「やれやれ……こんな異常事態だというのに、全員のんきなものだ……

普通はもっと狼狽えるなりするはずなのだが……」

 

「あらぁ……那智さん、いいじゃないですか。

艦隊に組み込める戦力が増えたのですし、細かいことは気にしないでも」

 

「瑞穂よ……

恐らく世界初の出来事を、些事扱いというのはどうなのだ……

姉さんからも何か言ってやってくれないか」

 

「そうですよ瑞穂。

戦艦が駆逐艦へと変化したのです。

これが一大事でなくて、何が一大事だと言うのですか」

 

「そうだとも。姉さんの言う通りだ。

今回の新たなケースをしっかり研究すれば、未だに知られざる部分ばかりである奴ら……深海棲艦の正体が明らかになるかもしれんのだぞ?

貴様も転化体であるならば、深海棲艦の正体が気になるだろう?」

 

「そんなことおっしゃいましても……

私はそのようなお話にも、自分の正体にも、まるで興味がありませんので……

色々苦労して正体を知るよりも、全員沈めてしまう方が早いし楽しいでしょう?」

 

「貴様は本当にブレないな……」

 

 

キョトンとした顔をしている瑞穂に対して、那智は呆れてため息を吐く。

 

ここのメンバーは全員大概だが、その中においても瑞穂は尖っている方だ。

優雅で上品な振る舞いとは裏腹に、超がつくほどの好戦的な性格。

昔ヤンチャしてた那智ですらドン引きするレベルである。

 

そんなやりとりをしているふたりであるが、妙高がその会話を遮る。

何か言いたいことがあるようだ。

 

 

「いえ、重要なのは那智の言うようなことではなく。

……戦艦が駆逐艦になったということは、燃費がめざましく向上するということです。

元レ級の夕立が戦闘で使えるレベルでしたら、エンゲル係数的にも消費資材的にも、随分上向きになるということ!

バランスシートと家計簿をつけるのが、今から楽しみで仕方ないわ!」

 

「姉さん……そんな庶民的な……

いや……姉さんに話を振った私が悪かったのだ……ハァ……」

 

 

ガックリと肩を落とす那智。

相談する相手を完全に間違っていた。

 

ここの妙高は命を懸けているレベルで節約第一なのだ。

彼女の辞書には無駄弾とか浪費とかいう言葉はない。

 

 

「……今日もまた鯉住の奴に、愚痴でも聞いてもらうか……」

 

 

 

・・・

 

 

 

各々好き勝手言いたい放題言っているが、結局のところこれからやるべきことは、元レ級である夕立の戦力確認である。そういうことで意見が一致した。

 

そこで手っ取り早い確認法として、いつもの感覚をよく知る清霜がチカラ試し相手として選ばれた。

 

 

「よっし!それじゃいくよレ級!……じゃなかった!夕立!」

 

「やりたい放題やってやるっぽいー!」

 

 

ダダダダダッ!!

 

 

元気よく退室していくふたり。

 

 

「ハァ……なんかすごく疲れました……」

 

「貴様は心配性すぎるのだ。

大概のことはどうとでもなるのだから、大きく構えていればよい」

 

「加二倉さんは圧倒的強者だから、そんな意見が出るんですよ……

部下の轟沈の危機を目の前にして冷静でいられるほど、肝は座ってません……」

 

「問題ありませんよ、龍太さん。

ふたりの実力も、レ級の実力も、十分把握していますから」

 

「神通さんはそう言いますが……ハァ……

まぁ、とにかく無事に済んでよかったです」

 

 

レ級の戦闘結果待ちという状態ではあるが、ようやく一段落付いた形である。

多少気を抜きつつ、加二倉提督と話を進める鯉住君。

 

 

「それにしても、深海棲艦にも応急修理要員って効果あるんですね。

初めて知りましたよ」

 

「ここではレ級は毎日戦闘しているからな。

基本的に装備させることにしている」

 

「はー……そうなんですか。

しかしどうやってそれを知ったんですか?」

 

「試しに装備させてみて沈めてみたら、効果があったのだ」

 

「うわぁ……それって、人体実験的な……

効果が無かったらどうしてたんですか……?」

 

「そうなればまた鹵獲してくればいいだろう」

 

「ひええ……」

 

 

どうやら応急修理要員が効果あるかどうか、ぶっつけ本番で実験したということらしい。

確かに敵として毎日沈めている相手だが、ある程度苦労して捕まえてきた個体にその仕打ち。

無慈悲過ぎはしないだろうか……?

 

レ級にトラウマを抱える鯉住君ではあるが、そんな扱いを受けていたと聞いては、いくらなんでも同情してしまう。

 

 

「レ級も大変だったんだなぁ……

いくら実力ある深海棲艦は沈んでも復活するからって、そんな生きるか死ぬかの無茶をさせられてたなんて……」

 

 

 

 

 

ピィンッ……!!

 

 

 

 

 

鯉住君が何気なく漏らした言葉。

それに佐世保第4鎮守府のメンバーが、ひとり残らず鋭く反応した。

さっきまでのゆるゆるな空気が、一気に張り詰めた。

 

あまりの急変に面喰う鯉住君一行。

 

 

「えっ……ちょ……」

 

「龍ちゃん、今なんて言った?」

 

「ど、どうしたんですか……!?皆さん、川内さん……!?

なんかすごく雰囲気が怖いですけども……!?」

 

「いいから。もう一度言って」

 

「は、はい……

『強い深海棲艦は沈んでも復活するとはいえ、随分無茶させられてたんだな』と……」

 

「それ、どこで知ったの?」

 

「前ウチに来た、凄く強い深海棲艦から……」

 

「ククク……!出所も問題なし、か……!!

流石は鯉住殿だな!我らの鎮守府にとって、決定的な情報だ……!!」

 

「ちょっと武蔵さん怖いですよ!?

ていうかそんなの、みんな知ってるんじゃないんですか……?

神通さんも瑞穂さんも、元深海棲艦なんだし……」

 

「フフフ……私達は今まで、沈んだことはありませんの。

だからそんなこと知りませんでしたわ。

そう……つまり今まで沈めてきたアレもコレも、もう一度沈められるかもしれないんですね……ウフフ……」

 

「沈んだ者のことなど、気に掛ける必要はありませんので」

 

「そ、そうでしたか……おふたりらしいご意見ありがとうございます……

いやしかし、何故この情報がそこまで重要なんですか……?

知ったところで活用できるものでもない気がしますし……」

 

「何言ってんのさ。値千金だよ」

 

「そう。この情報は貴様しか知らないはずだ。

誰も知らない情報だからこそ、それを有効活用できるというもの。

そしてその性質上、自分含め佐世保鎮守府所属の提督には、決定打となるものなのだ」

 

「クハハハッ!良い!良いぞッ!

この武蔵が教えてやろうッ!我らが何をしようとしているかッ!

その情報で動きがどう変わるのかッ!!」

 

「えと……なんか物騒なことになる気がするので、結構で……」

 

「遠慮することはないぞッ!!

いいか、まずはこの佐世保鎮守府が、本当はどういう役割を担っているかだが!!」

 

「やめてって言ってるのに……」

 

 

 

・・・

 

 

 

なんかよくわかんないうちに始まってしまった武蔵の説明によると……

 

 

本来の佐世保鎮守府は、対深海棲艦の組織としてよりも、対外国向け防衛拠点としての役割の方が比重が大きい場所らしい。

それは古代から続く伝統であり、天孫降臨の遥か前から続く習わしなのだとか。

 

まぁ、要するに、この日本という国において、九州は圧倒的に外国から攻められやすい位置にあるということだ。

 

全体を見れば中規模であり、最前線とは程遠い佐世保鎮守府。

それにも関わらず、トップに大将(鮎飛大将)が据えられている理由も、このバトルマニアたちが巣くう人外魔境鎮守府(佐世保第4鎮守府)が設置されている理由も、対外国防衛を円滑に進めるためなのだとか。

 

実績も非公開なものがいくつもあるらしく、一例を出すと、ここの龍驤が大陸間弾道ミサイルを何発か撃墜していたりとかするらしい。

 

 

 

そういった場所なので、佐世保鎮守府の外国の動きに対しての感度は、日本のどの組織よりも高い。

 

当然欧州の話も耳に入っており、鮎飛大将の判断で秘密裏に欧州に派遣されている諜報員により、実情がかなり切迫していることが伝えられている。

 

EU各国では現在大きな混乱が起こっており……

海軍・艦娘への不満からのデモ、富裕層の内陸部への逃走、慢性的な食糧不足、インフラ不足によるゴーストタウン化、スラムの激増、犯罪の常態化などなど……

諜報員たちですら『何とかできないか』と言ってくるほどの地獄絵図と化しているとのこと。

 

 

 

あくまでこれは鮎飛大将個人が取得している情報なので、大本営には実情を伝えてはいない。

いち大将による重要な情報の秘匿とも言える、組織としてはよろしくない状態だが、理由はちゃんとある。

 

 

 

日本は日本で安定しているように見える半面、潜在的な危機に直面しており……

 

5年前の本土大襲撃以降、非常に安定した海域維持ができているのだが、それが原因で厭戦ムードが高まっていること。

 

深海棲艦出現初期の惨劇を知る、当時海上自衛隊所属だった提督と、

5年前の本土大襲撃という激戦を最前線で経験した提督、

そしてそのどちらも知らない提督。

大まかに分けてこの3パターンで、国防と艦娘運用の意識に大きな隔たりがあるということ。

 

つまり今の日本海軍は、一枚岩など夢のまた夢という状況なのだ。

 

鮎飛大将が大本営に重要情報開示を渋っているのもこれが原因で、信頼できるもの以外を議論に参加させたくないということ。

 

だから今の佐世保鎮守府をひとことで言い表すと、

『日本海軍内の独立自治区画』みたいなことになっているのだ。

 

 

 

そういうことで、欧州に救援を送るというのは、欧州の悲惨な実情を知る佐世保鎮守府の総意としては大賛成。

しかし仮想敵国である欧州国家を助けることは、軒先貸して母屋を取られることにも繋がりかねない。

 

 

 

……重要な条件が一つ足りないのだ。

 

 

 

救援に成功し、深海棲艦の圧力が弱まり、ある程度チカラを取り戻したEU諸国が、古代バイキングから続く悪習……帝国主義に再度目覚めた時に備えなければならない。

 

その首にリードをつけておける、なんらかの要素が足りない。

 

 

これが現在、佐世保鎮守府全体で抱えているジレンマだったりする。

欧州に救援を出したいが、出せない。そんな状態。

 

 

しかしその問題は、先ほど鯉住君がポロっとこぼした情報で、完全に解決した。

 

 

 

・・・

 

 

 

「ええと……つまり……

救援を送るのはいいけど、それが原因で欧州の各国がチカラをつけすぎるのは困る。

だからそうなった時に牽制できるような何かが欲しい、と……」

 

「うむ。そういうことだ。

やはり鯉住は優秀だな。飲み込みが早い」

 

「恐縮です……

そしてその問題は、深海棲艦のボスクラスは復活するということが分かったことで、解決した、と……」

 

「うむ。欧州のボス深海棲艦がいくらでも復活するのならば、沈めてしまっても構わない。

もし奴らを沈めてEU各国がおとなしくしているのならば、それで良し。

これまで通りの外交を続ければよいだろう。

もし奴らを沈めたことでEU各国が暴走すれば、それもまた良し。

復活した深海棲艦に再度蹂躙され、再度我々にすがりつき、返しきれないほどの借りをこちらに作ることとなるだろう」

 

「あいつらが復活するのを知ってるのが、私達だけってのがポイントだよね!

やっぱり重要な情報は秘匿するに限るわー」

 

「フフフ……これで歯ごたえのある相手を蹂躙できますわね……

欧州は日本とは比較にならないほどの激戦区と聞きます。

……毎日毎日、歯向かう気概のある相手を叩き潰せるなんて……素敵……」

 

「そうですね。カラダが火照ってきてしまいます」

 

「つ・ま・りっ・☆

那珂ちゃんのヨーロッパデビューってこと!?

どうしようっ!那珂ちゃん日本でトップアイドルになる前に、ヨーロッパで人気者になっちゃうっ!

ねぇどうしようプロデューサー!今から英語勉強した方がいいかなっ!?」

 

「だからプロデューサーって呼ぶのやめて下さい……

……しかし加二倉さん、どうするんですか?

佐世保鎮守府の大将にも、大本営にも、欧州救援に参加することを伝えなきゃいけないじゃないですか。

深海棲艦復活の情報は秘匿するんですよね?

今の話抜きで、各方面を納得なんてさせられないと思うんですけど……」

 

「なに、問題ない。

貴様ら、全員でジャンケンしろ。6名だ」

 

 

「「「 あっ……(察し 」」」

 

 

なぜそこでジャンケンなのか。

ここの実情を知る鯉住君、天龍、龍田は何かを察したようだ。

ちなみに夕張は例によって意識をどこかに飛ばしている。

 

 

 

……ここでのジャンケンが意味するところは、立候補者が多すぎる場合の出撃メンバー選出。

 

つまりは、加二倉提督は、今からジャンケンで勝ち抜いたメンバーを引き連れて、勝手に欧州へと向かうつもりだということ。

 

なんかもう色々すっ飛ばしたりガン無視したりしているが、この阿修羅たちのやろうとしてることなんて、やめさせられないし止められない。

 

色々と諦めて、気炎を上げてジャンケンをする面々を眺める鯉住君たちなのであった。

 

 




夕立(元レ級)の中での各メンバーの立ち位置


ボス: 加二倉提督

絶対服従: 龍驤・武蔵・神通・瑞穂・妙高

怒らせてはいけない: 赤城・あきつ丸・川内・那珂

遊び相手: 清霜・早霜・五月雨・那智・天龍・龍田・鯉住君


この魔境で無差別に喧嘩を吹っ掛けると、沈むよりひどい結末を迎えることになります。
それを身をもって学ばされた結果、このようなチカラ関係が骨の髄まで刻みこまれることになったようです。

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