艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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前書きはちょっとした心の機微の話です。若干真面目なので読まなくてもいいです。



 彼が一番大事にしている『相手、特に艦娘への献身』。これが一方向でなく双方向になったとき、全ては変わります。
 一方的な自己犠牲や、思い込みによる保護などは、自分勝手な自己満足でしかありません。ですが、相手も同じように、こちらに尽くしてくれ、さらにそれを受け入れることができた時……

 ……その時初めて、その行いは、真実の、何物にも勝る絆となります。

 足柄さんが前に言っていた与えることと受けとることの話や、彼女たちを籠の鳥扱いしたことで機嫌を損ねてしまったことについては、その辺が原因です。彼と艦娘たちは、似た者同士だからこそ、その行いが許せなかったんでしょうね。

 身勝手な押し付けが、賢者の贈り物に変わるのは、その時です。彼はそれに気づくことができるのでしょうか?





第116話

 あれから鯉住君は夕張を彼女の部屋のベッドに移し、「明後日デートしましょう」といった内容の書置きを残し、自身も自室で床に就いた。

 

 夕張のことは考えなければいけないが……提督として、任された空母ふたりに対する責任は果たさなければならない。明日はそのあたりを大和としっかり詰めることになっているのだ。

 こんな浮ついた気分を引きずっていて、心ここにあらずで話し合いをしていいはずもない。

 

 そういうことで、できるだけ気持ちを切り替えられるように、普段は飲まない野菜ジュースを一杯飲んでから寝ることにした。糖分が入ればぐっすり寝られるだろうという考えだ。

 

 実際その通りで、風呂でさっぱりした後ベッドに入り込むと、疲れがドッと出たのもあって、1分もすれば夢の中へと入りこんでしまった。

 

 明日はしっかりと仕事しよう……

 

 

 

・・・

 

 

 

翌日の朝、ロビーにて

 

 

 

・・・

 

 

 

「えーと……」

 

「さ、行きましょうか! 龍太さん!」

 

「その、なんて言いますか……随分とラフな格好ですね」

 

「うふふ! 普段着ることがないので、こういう機会でもないと押し入れから出さないんですよ!

どうですか? 似合ってますか?」

 

「え、ええ。すごく似合っています。とてもお奇麗ですよ」

 

「ホントですか!? うふふ、ありがとうございます!」

 

 

 本日は大和との研修内容相談ということで、半分お仕事のようなもの。なので鯉住君は割としっかりした服装でやってきた。具体的には白のワイシャツにグレーのジャケット、黒のチノパンと革靴といったいでたち。大本営の貸衣装屋で調達してきたものだ。

 

 しかし大和は彼のように仕事着という風ではなく、完全に私服である。ニット調で大き目サイズなブラウンの上着に、ひざ下あたりまでのタイトなライトグレーのチノパン、そしてホワイトのスニーカー。桜の花が彩られたシュシュがオシャレ感をアップさせている。

 

 ……どうもこれでは、ミスマッチ感が半端ない。ということで、鯉住君はジャケットを脱いでいくことにした。少しでもお堅い感じを無くさないと、周りから変なものを見る目で見られてしまう。

 

 

「そ、それじゃ出かけましょうか。

確か日本海軍御用達の、情報漏えい防止に努めてくれるお店があるんでしたよね?」

 

「はい! あそこでしたら、漏れてはいけない話でもすることができます!

こうやってお友達と街までお出かけするのって、私、憧れてたんですよ!」

 

「そ、そうなんですね……

俺も大和さんに楽しんでもらえるよう、頑張ります」

 

「もう! そんなに気を遣っていただかなくても大丈夫ですってば!」

 

 

 ウッキウキの大和を見て、なんだか肩透かしな気分になる鯉住君。

 今から行くのはVIP御用達のお店。それはもう格式高い感じなのだろう。そう思ったからこそ、彼はできるだけしっかりしてるように見える範囲で、カジュアルな服装をしてきたのだ。

 ……それだというのに、大和のこのテンションに、完全に私服といってよいファッション。なんだか違和感を感じつつも、彼女の先導で、店まで歩いていくことにした。

 

 

 

・・・

 

 

移動中

 

 

・・・

 

 

 

「ここです! 到着しました!」

 

「うそぉ……」

 

 

 大本営から徒歩15分。ちょっとした世間話をしながら歩いてきたのだが、見えてきた建物に、鯉住君はあっけにとられてしまった。

 

 

「こ、ここが、本当に、VIP御用達のお店なんですか……?

どう見ても海辺のおしゃれなカフェにしか見えませんが」

 

「ハイ! あえてオシャレなつくりにして目立たなくすることで、マスコミの目を逃れるのが目的だそうです!

それじゃ、入りましょうか!」

 

「あ、ちょ、手を引っ張らないでください!!」

 

 

 テンションアゲアゲな大和に引っ張られながら入店。大和が海軍証を見せると、店員さんは心得たもので、特別席まで案内してくれた。

 特別席は2階の海が見える席で、一面の東京湾が望める、すごく良いロケーションだった。盗聴対策として結構厚いガラスが張られていたので、海岸に打ち寄せる波の音などは聞こえなかったが。

 

 

「さ、それではまずは注文をしてしまいましょう!

龍太さんは何か食べたいもの、ありますか?」

 

「えーと、そうですね。では軽くサンドイッチのセットと紅茶でも頼みましょうか」

 

「あ、それよさそうですね! 私も同じものを頼もうっと!」

 

「わかりました。それでは店員さんに注文とってもらいましょう」

 

 

 

・・・

 

 

 

 そんな感じで大分ラフに話を始めたのだが、ふたりの気の抜けた様子とは裏腹に、会話内容は一般の提督からすると耳を疑うものばかりだった。

 

 なにせその内容というのは……

 

 

 

・研修生空母ふたりに転化体のことを話してよいか

 

・主導教官となるふたりは英国海軍を壊滅させた当事者だと話しても大丈夫か

 

・欧州の二つ名個体と(たぶん)サシで戦うつもりである佐世保第4鎮守府の面々の、プロフィール紹介(主に戦闘力)をしてもよいか

 

・研修生ふたりの艤装を勝手にカスタマイズしちゃってもよいか

 

 

 

 などなど……秘匿情報のオンパレードで、普通の人からすれば正気を疑われるような内容ばかりだったのだ。

 いい加減ふたりともそういうのに慣れちゃったので、世間話をするような感覚で談笑している。

 

 

 

「……それでは、こちらが気を遣って何か隠す必要は、基本的にはない、と」

 

「はい。瑞鶴は誰よりも向上心と使命感にあふれている子ですし、葛城も瑞鶴を追いかけているだけあり、彼女に倣って柔軟に物事を受け止められる子です。

どれだけ想定外な事態が起こっても、対処できるだけの強さがありますから」

 

「そうですか。ふたりを随分信頼しているんですね」

 

「それはもう。瑞鶴本人も言っていましたが、いずれ彼女は加賀をも越え、大本営の顔となる実力を持っていると考えています。だからこそ、できる限り、思いつく限りのことをして、彼女たちを鍛え上げてやってください」

 

「大和さんにそこまで信頼されているとは……

……わかりました。かなり肉体的にも精神的にも厳しいことになると思いますが、ウチのふたりにも手を抜かずに相手するように伝えますね」

 

「それで大丈夫。ふたりのこと、よろしくお願いしますね」

 

「はい。こちらこそ、誠心誠意向き合わせていただきます」

 

 

 

 これで一旦話に区切りがついた。

 

 本当にあの自由人な転化体ふたりにやりたい放題やらせてしまっていいのか、という懸念もあるが、そこはなんとか自分が舵取りするように努めれば、なんとかなるだろう。

 こんな極東にまでその名を響かせる二つ名個体と戦うんだから、ある程度のリスクは負ってもらわなければならない。実戦で命を落とすよりは、ずっとマシだ。

 

 

 ……鯉住君がそんなことを考えていると、大和のほうから話を振ってきた。

 

 

「では、龍太さん。今日しておくべきお仕事も終わったところで……私のほうから少しお話が」

 

「大和さんから? あぁ、今日のこれからの予定についてですか?

大和さんの行きたいところに、お付き合いさせていただきますよ?」

 

「いえ、それもそうですが、その前に」

 

「?」

 

「……昨日の晩にあったことについて」

 

「あっ(察し)」

 

 

 

 ヤバい……! すっかり忘れてた……わけじゃないけど、大和さんとの話に集中してて、意識から抜けてた!

 そもそも大本営のあんだけ人通りが多いところでやらかしといて、大和さんの耳に入ってないわけがなかった!

 

 なんかもう色々と俺のプライドとか尊厳とかが粉砕されて、思い出すだけで変な笑いが出ちゃうけど……それ以上に大本営でそんな騒ぎ起こして、叱られないはずがなかったんだ!

 

 

 

 昨日の惨劇を思い出しつつ、あえてこの防音空間でその話題を出してきた理由を察しつつ、鯉住君はプルプル震えている。

 

 ……しかし大和の口からは、彼が思っていたことと、少し違った内容が飛び出してきた。

 

 

 

「甘味処の間宮さんから話は聞きましたよ?

伊良湖の着任を断ったとか」

 

「あっ……そっちかぁ」

 

「? 何か言いました?」

 

「い、いいえ! 何でもないです!

……ええと、確かに伊良湖さんの申し出はお断りしましたけど、それがどうかしましたか?」

 

「その理由がちょっと気になったんですけど、龍太さんの鎮守府って、現在15名所属でしたよね?」

 

「ええ。俺含めればそうなってます」

 

「ここに瑞鶴と葛城が加われば、17名。

そうなるともう、中規模鎮守府と言っても問題ない人数となります。

それくらいになると、持ち回り制の給食係制度ではなかなか厳しくなってくるので、給糧艦が居たほうがいいと思うのですが……

本当になんとかなってるんですか? ほかの鎮守府に気を遣って、無理しちゃったりしてません?」

 

 

 大和の指摘は尤もで、給糧艦がいないとなれば、普通は日替わり調理担当制度をとるもの。本職でない艦娘が10名を越えるメンバーのご飯を作るというのは、なかなかに難題といえるだろう。大食漢である大型艦が所属しているとなれば、なおさらである。

 

 しかしそれは一般的な話。マスクデータといってもよい足柄と秋津洲の料理スキルがあれば、10人でも20人でも、その程度の人数分の炊き出しなら、お茶の子さいさいなのだ。

 

 

「あぁ、大丈夫です。足柄さんと秋津洲の料理の腕は、本当にすごいですから」

 

「いやいや、いくら何でも17名ですよ?

しかも正規空母が4隻。私もよく食べるのでわかりますけど、とんでもない量になっちゃうんじゃないですか?」

 

「あー……普通だったらそうなんですが、なんて言おうかな……

……あ、そうだ。以前ウチに元帥と第1艦隊の皆さんを連れていらっしゃったときのこと、覚えていますか?」

 

「ええ」

 

「あの時こちらで、バイキング形式の料理をお出しさせていただきましたよね?」

 

「そうでしたね。どの料理もすごくおいしかったです」

 

「実はあれ、主に足柄さんが作ったんですよ」

 

「……え?」

 

「全部うちの部下がこしらえたものです」

 

「い、いやいや……え? 本当ですか……?」

 

「はい」

 

「てっきりそちら所属の足柄は、会場の用意と料理の外注を担当していたのだと……」

 

 

 大和はてっきり、あの料理は地元の弁当屋とか仕出し屋とかに注文をしたものだと思っていた。そうだとしても、急な話であそこまで豪華な食事を用意できるとは……と感心していた。

 

 しかし実際は完全に自給自足で作ったものだったということ。これには大和もびっくり。

 あんなハイクオリティで大量の料理、給糧艦でもなければ用意するなんてできない。まさか一般所属の艦娘2名で、あれだけのものを用意したとは……

 

 

「まぁ、そういうことで、ウチの台所事情はかなりの余裕があるということです。日々の給糧について……報告書にそういう記載箇所がないので、表ざたにはならないと思いますが、他の鎮守府では料理に関して困っているところも多いんじゃないでしょうか?

優秀な給糧艦の皆さんには、そういった場所で活躍していただきたいと思っていまして」

 

「そ、そうだったんですね……やっぱり龍太さんのところは色々とおかしいわ……」

 

「そ、そうなんでしょうか……?」

 

 

 イレギュラーの塊のような鎮守府と化しているラバウル第10基地なのだが、トップである鯉住君には、その実感がないようだ。

 本人としては無難に仕事をし、降りかかるトラブルを捌いていっただけなので、ピンとこないのは仕方ない面もある。対処の方針としては普通だったが、トラブル自体が意味不明なものばかりだった、というだけの話だ。

 

 

「龍太さんの言うことはその通りなんだけど……個人的には伊良湖のお願いを聞いてやってほしかったな、って思います。

今朝がた間宮に連れられて、半泣きの伊良湖が直談判に来たんだけど……見ていてかわいそうになっちゃったので……」

 

「そ、そんなことが……」

 

「龍太さんは功績に対して褒賞がおざなりになってるんだから、給糧艦の赴任くらいだったら、問題なく承認するのに……」

 

「ダメですよ、『給糧艦の赴任くらい』なんて言っちゃ。

おいしいご飯は一番大きなモチベーションのひとつですし、艦隊の実力を支える土台になるところです。足柄さんと秋津洲の料理を食べている俺が言うんだから、間違いないですよ。

給糧艦の皆さんは、俺からしたら、主力艦隊メンバーと同じくらい重要な方々なんです」

 

「……ハァ」

 

「え!? な、なんでそんな「やれやれ」みたいな顔してるんですか!?」

 

「なんでもないです。

普段主張しない間宮や伊良湖が、あそこまで無理を通そうとした理由がよく分かっただけです」

 

「???」

 

 

 

 鯉住君は知らないことだが、日本海軍という組織において、給糧艦の立ち位置はとっても低い。わかりやすく言うと、一般企業における掃除のおばさんみたいな扱いだ。

 

 給糧艦は戦闘に出られないし、料理自体は人間でもできる。つまり、給糧艦の替えは人間で効く。それが給糧艦の地位がすごく低い理由である。実際に給糧艦未着任の鎮守府では、人間の料理人が活躍しているところは多い。

 

 

 しかしながら、事の本質はそういうことではない。

 実は給糧艦の真価は、料理がうまいことではないのだ。

 

 彼女たちの真の能力は、艦隊メンバーのコンディションを料理でコントロールできるところと、それを可能にする視野の広さ、そして本人でも気づかない不調を見抜く細やかさ。

 それは目に見えづらい要素なので、目を向けようと思わない限り『人間で代替できる、優秀な料理人』の域を出ないのだ。

 

 大和のような実力も立場もある者でさえも、そのことは何となくでしか理解できていない。給糧艦は働きに対して、正しく評価されていないのでは? というくらいの認識しかない。

 コンディショニングは本当に重要なことなのだが、数値に出せない項目なので、どうしても組織として重要視ができない一面がある。

 

 

 ……そういう実情があるので、給糧艦の2隻はすごく寂しいのだ。するべき仕事はしっかりしているものの、本当に気を遣っていることが評価されることは稀なのだ。

 

 鯉住君の書籍に書いてあった内容は、その真の働きについてクリティカルヒットするものだった。「給糧は艦隊の要」とまで書いてあった。そんなこと書かれて喜ぶなというほうが無理というものだ。

 

 

 

 大和もなんとなくではあるが、給糧艦たちの訴えと、鯉住君の給糧艦に対する評価の高さを受けて、そこまで彼女たちが彼に執着する理由がしっくりきたようだ。あとは間宮と伊良湖の態度から察した女のカン。

 

 

「ホントに龍太さんは……指輪を贈った相手がいるというのに……ハァ……」

 

「え!? な、なんで急に指輪の話が!?」

 

「なんでもないです。ええ、なんでもないですとも」

 

「そ、そうですか……?

ま、まぁ、そういうことで、給糧艦の異動先は別の鎮守府にしてあげてください」

 

「わかりました……ですが、一応言っておかなければいけないことがあります」

 

「? なんですか?」

 

「給糧艦・間宮の諜報能力はとんでもなく高いです」

 

「……? それがいったいどうしたんでしょうか……?」

 

「そして、彼女たちは独自のネットワークを持っており、もっと言えば、龍太さんのところへの着任をまだあきらめていません」

 

「ええと……?」

 

「つまり、隙あらば、どんな手を使っても、異動を具申してくる可能性が高いということです」

 

「……はぁ」

 

「わかってませんね? 間宮たちが本気になったら、誰も彼女たちを止められないですからね?」

 

「い、いやいや、そんな大げさな……」

 

「変なところ(女性関係)で龍太さんは楽観的なんだから……

ともかく、できたら給糧艦の受け入れ態勢を作っておいてください。

いつその時が来るかわかりませんので」

 

「は、はぁ……」

 

 

 ピンと来てない鯉住君に、ため息をつく大和。なんでこの人は、自分に対する好意をまっすぐ受け止めようとしないんだろうか……? なんて思っている。

 

 実は彼は昨日の『夕張愛を叫ぶ事件』を受けて、ケッコン艦に対しては真摯に向き合うことを決めたため、ちょっと状況は変わっていたりする。それでも給糧艦や大和に対する態度は据え置きなので、大和がそれを感じることはないだろうが。

 

 

「ま、まぁその辺は、その時になったらなんとかしますよ。

最悪……というか、万が一、もしもの事態になっても、もうひとりメンバーが増えるくらいなら問題ありませんし、」

 

「ハァ……よろしくお願いしますね? 私、言いましたからね?」

 

「そんな念入りに釘を刺さなくても……」

 

 

 

・・・

 

 

 なんだか予想外な話が展開されてしまったが、今度こそ無事にお仕事の話を終えることができた。時間は早いが、ある程度お腹も膨れたので、鯉住君は店を出ようと提案することにした。

 

 

「さて、それじゃ話も済んだところで、街のほうまで出かけましょうか。

あまり長居してもお店に悪いですしね」

 

「そうですね。そろそろ店を出ましょう」

 

「では、お会計を……」

 

 

 ガタッと席を立つ鯉住君。だが……

 

 

「……と、言いたいところですが。

席を立っていただいたところ悪いのですが、もう一度座りなおしてください。龍太さん」

 

「え? 何を言って……」

 

「いいから。座りなおしてください。

昨日の晩の出来事……もうひとつありますよね?」

 

「アッ」

 

 

 

 大和はニコニコしているが、目が笑っていない。なんか大和の後ろに毘沙門天が見えるほど、すごいオーラが出ている。

 

 まったく逆らう気も起きず、鯉住君はおとなしく着席する。

 

 

 

「あの……」

 

「私が言いたいこと、わかるわよね?」

 

「アッハイ……」

 

「大丈夫。ここは防音環境がしっかりしていますから」

 

「いったい何が大丈夫なんでしょうか……?」

 

「しっかり答えてもらいますよ?

何故あんな公衆の面前で破廉恥な真似をしたのか。目撃者から聞いた話がどこまで真実なのか。そして……夕張さんとその後どうしたのか」

 

「ひえっ……」

 

「さぁ、しっかり答えてくださいね……? ウソをついても、わかるんですからね……?」

 

「ハイ……ワカリマシタ……」

 

 

 このあとメチャクチャ尋問された。

 大和はどうにも友人が公序良俗に著しく反する行いをしたことが許せなかったらしく、笑っているのに笑っていない状態で、鯉住君に問い質し続けていた。

 

 なんとかあれ以上は大本営という場にふさわしくない行動をしてないと信じてもらえたのだが、その必死の説得により、彼の精神はゴリゴリ削られていったそうな。

 

 

 




 夕張は目を覚ました後、昨日の大失態のあまりの恥ずかしさと、彼からの書置きを読んだ嬉しさが抑えきれなかったことで、小一時間ベッドの中で悶絶したようです。そのあとは予定通り空母ふたりと楽しんできました。買い物したり、おいしいもの食べたり。

 提督からの手紙それ自体は公開しませんでしたが、デートすることになったというのは伝えたようで、それを聞いた空母ふたりは、随分とテンションが上がっていたとか。
 そのおかげでふたりの力添えを得ることができ、コーディネートを兼ねてデート用の服の買い物に付き合ってもらったそうです。

 今までぞんざいに扱われることも多かった夕張なので、応援してくれる友達ができてよかったですね。





以下、読まなくてもいいやつです。たぶん読んでて恥ずかしいので。










 鯉住君が残した書置きの中身



 夕張へ


 昨日はキミに恥をかかせてしまって、済まなかった。疲れや酔いがあったとはいえ、あんなになるまで追い詰めてしまって。

 確かにキミが言うとおり、俺もキミが隣にいるのが当たり前になりすぎて、いつしか雑な扱いをするようになってしまっていたと思う。
 思い返してみないとそんなことにも気づかない辺り、自分のことながら、全くなっていないと痛感したよ。
 
 こんな女心が分からない俺だってのに、キミは嬉しいことに、愛してると言ってくれた。いや、もっと前から言ってくれてはいたのに、俺は無意識に気づかないようにしていたんだろうね。

 俺は今まで艦娘、ましてや部下であるキミと、そういった関係になることはご法度だと決めていた。それは身分が違うんじゃないかって。立場が違うんじゃないかって。俺ひとりの欲で、大きなもののために命を張るキミたちを、縛ることになるんじゃないかって。

 でも……キミは俺にまっすぐな気持ちを向けてくれた。しっかり、言葉に出して。
 その気持ちに俺は、応えなきゃいけないと思った。いや、応えたいと思うようになった。

 ……だから、もうやめにしようと思う。自分のこだわりでキミたちとの距離を置くことは。思い込みや常識で、キミたちのことを曇った目で見ることは。
 すごく待たせてしまったけど、これからはキミたちと、本当の意味で真摯に向き合っていくつもりだ。

 今までが今までだけに、すぐには変われないかもしれないし、考えることも多いと思う。接し方の変化に戸惑うこともあると思う。
 だけど、必ず、キミたちの想いは受け取っていく。約束する。

 こんな俺だけど、改めてよろしく頼む。
 だから、お互いに体が空いている明後日、デートして欲しい。

 ……いや、俺とデートしてください。キミが許してくれるのなら。
 
 もしオーケーだってことなら、明後日の朝、俺の部屋の扉をノックしてほしい。キミの心がどうかはわからないけど、俺は待っているよ。

 それでは。空母ふたりとの外出、存分に楽しんできてね。


 鯉住龍太
 

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